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「理想」を語るだけではイノベーションは生まれない

NPOに求められる「強い組織基盤」の実現に向けて

[松田悠介]特定非営利活動法人Teach for Japan 代表理事

私達の使命は、新しいスキルを身につけた教員を送り込むことによって、今の日本の教育現場を変えていくことです。これは極論ですが、私たちTFJは必ずしも「継続」を目標にはしていません。

民間企業の場合は、戦うべき市場がなくなれば新しい市場を探し、新しいサービスを創出します。常に危機感を持って市場と向き合いながら、顧客、従業員、株主といったステークホルダーの利益を追求している。これは民間企業としては正しい姿勢です。ところが私達NPOの場合は、課題が明確にあり、その課題を解決するために設立されたわけですから、それが解決されれば、存続する意味もなくなります。いうなれば、医師などのように「自分の仕事をなくす」のが私達の仕事。前回の記事で述べた問題が解決され、私達が考える理想的な教育環境が実現されたら、喜んで解散しようと思っています。

活動には資金が必要ですが、これについては、寄付文化が根づいていない日本では、正直なかなか難しいところです。ただ、「寄付文化が根づいているアメリカではNPOは成功するが、日本では無理」といった論調を見かけますが、私はこれには反対です。「文化がない→だから無理」では、思考停止ですから。寄付文化がない日本に寄付文化をどうやって根づかせるか。これは現在のNPOの経営者の使命なのではないかと思っています。というのも、よく考えてみると、日本には日本なりの寄付文化があるのです。それをいかにNPO支援に結びつけ、いわばアメリカ並にしていくのかは、経営者の手腕次第なのだと思います。

アメリカの寄付文化と日本の寄付文化

アメリカに寄付文化が根付いているとよく言われるのには、次の3つの理由があると思います。

まず1つに、フィランソロピー(企業・個人による社会貢献活動)の考え方が浸透していること。キリスト教が社会の基盤にあるアメリカには、人々がコミュニティを作り、助け合う文化があります。2つ目は、税制。アメリカ人は綺麗事だけで寄付しているわけではありません。特定のNPOに寄付するとその寄付金が課税対象から控除される仕組みがあるのです。会計年度末になると寄付金の量が一気に増えることを見ても、それは明らかです。そして3つ目に、組織基盤の強さが挙げられます。アメリカのNPOはガバナンスも会計も、IRレポートに至るまで、いずれも上場企業に劣らないクオリティで公開します。そのようにしっかりした組織には当然、優秀な人材も集まりますし、組織基盤が強固になる。そうなれば寄付金も集まりやすくなるわけです。

では、日本の場合はどうかというと、1つ目に関しては、お布施の文化や「向こう三軒両隣」など、日本にも古くから同じような考え方はありました。東日本大震災の際にも多額の募金が集まりましたし、多くの人々がボランティアとして活動しました。日本人もすでに助け合いの気質は十分持っています。2つ目の税制に関しては、環境が改善されました。これまでは寄付金控除を受けられる寄付先として認められる「認定NPO」の数は100団体くらいしかありませんでしたが、2013年4月にNPO法が改正されたことで制度が緩和され、認定NPOはこれからもっと増える見込みです。

私たちの課題は3つ目、組織基盤の強化です。日本の場合、NPOの多くは地域活動の延長線にあります。狭い範囲での活動が少しずつ大きくなって「じゃあ組織化しましょうか」という話になるわけです。こういう経緯のせいもあって、ビジネスマインドを強く持ったNPO経営者の数が少ないのが現実です。そうなると魅力的な人材も集まらず、組織は一向に強くなりません。そのような組織に寄付しようとはなかなか思えない人も多くいるはずです。この点をクリアするのが私の役割です。単純計算ですが、月々1000円を寄付してくださる方が1万人いれば、毎年1億2000万円の運営資金が確保できることになります。NPOでも組織基盤さえしっかりすれば、私はそれが十分可能だと信じています。

Teach for Japanでは、教師派遣、学習支援を軸に教師の指導力と社会人基礎力を向上させる活動を行っている。Teach for JapanのモデルとなったTeach for Americaは、2010年度に全米文科系学生就職先人気ランキングでGoogle、Appleなどを抑えて1位を獲得したこともある。
http://teachforjapan.org

オフィスの壁には、TFJ設立から3年間にやるべきことをまとめたスケジュールが貼られている。3カ月ごとにタームを区切ってタスクを細分化。ビビッドな色を用いて視覚的に把握しやすいようにしている。ミッションの緊急性が共有されていることがわかる。

「多様な価値観×緊急性の高さ」で
イノベーションは生まれる

では、強い組織にするにはどうすべきか。やはり、まずは人材だと思います。強い組織、強いチームを作ることのできる人材を集めたい。強い個が集まって強い組織を形成し、そうした組織でこそイノベーションは生まれます。私は、イノベーションは「多様な価値観×緊急性の高さ」で生み出されるものだと思っていますので、この観点で組織の強化を進めていきます。

よく組織には多様性が必要だと言いますが、その時、外から見えるメンバーのバックグラウンドやスキルのみならず、その人の価値観そのものにも注目することが大切です。TFJの掲げるミッションへの共感と、このミッションを達成するんだという強い気持ちがあれば、どうアプローチをするのかという点で、個人の価値観はバラバラでいいと思います。むしろ、バラバラで多様なほうが望ましいくらいです。

価値観が違う「ムカつき」は成長のチャンス

私がアメリカ留学時に驚いたのが、ハーバード大学では、多様性のあるクラスを意図的に設計することでした。このクラスにはアジア人が何人、うち日本人が何人、と枠を設けて入学させるのです。国籍や人種のみならず、これまで何を学んできたかということも選別の対象になります。同期入学の仲間の中には、ゴールドマン・サックス出身者もいましたし、アクセンチュア出身者もいました。教員志望者もいれば政治家志望の者もいました。ハーバード大学では、こうして意図的にバラバラの価値観を持つ学生を集めて、イノベーションが生まれやすい土壌を育もうとしているのです。

この点、日本の民間企業の多くでは、採用の時点で「社風に合っているかどうか」を重視していることと思います。しかし、それではそもそも価値観の近い人材しか集まらないため、多様性が乏しくなってしまいます。イノベーションが生まれにくい環境を自ら作りながら、「イノベーションが必要だ」と悩んでいるわけです。私の組織では、あえて自分とは価値観の違う人材を獲得するくらいの意識で採用活動をすることが大切だと思っています。

「相手と価値観が違う」と感じた瞬間、人にはさまざまな思いが生じると思います。この人は自分と合わない、話し方が気に入らない、話す内容が鼻につく、しぐさや服の好みも嫌いになってくる……。いわば相手に「ムカつく」わけです。普段の生活であれば、「ムカつく」と思った時点で心のシャッターを閉じて関係を絶てばそれで済みますが、仕事でイノベーションを起こしたいと思うなら、むしろ「ムカつく」と思うその瞬間を好きになることが大切だと思います。降りてきた心のシャッターを止め、強引にでも開けて相手をもっと見るのです。「なぜこの人はそんな考え方を持っているのだろう」と問い、あえて居心地の悪い環境に身を置くことで発見できることはたくさんあります。それが成長につながるのです。個人でも組織でも、「リスクを取る」ことの本質は、この「ムカつき」と向き合うことにあると、私は思います。

私自身、IT、ゲームなど、業界にこだわらず、いろんな方々と意識的にお付き合いするようにしています。それによって、自分の属するNPO系、教育系では当たり前の考えが“常識”ではないことに気づき、自身の経営方針を問い直すきっかけにすることができます。情報の発信も心がけていて、TwitterやFacebookで自分が今、何を考えているのか、なるべく発信するようにしています。情報は発信する人のところに集まってくるものですからね。最近はとある教育サービスについてSNSで意見を述べたところ、それに対して多くの意見が集まり、その教育サービスの運営サイドの方とお会いできる機会をいただきました。

日本の現場が苦手なシミュレーション志向

イノベーションのために必要な要素としてもう1つ掲げた「緊急性の高さ」ですが、これを正しく体感するには、まず問題をできるだけリアルに認識することが重要です。何かについて問題意識を抱くだけでは足りません。その問題がどのくらいのスピードで進んでいて、どのくらい深刻なのかを認識するのです。

そのためには、その問題がそのまま続くとどうなるかをシミュレーションしてみるといいでしょう。例えば高齢化の問題があります。日本は2060年に人口の40%が65歳以上になると言われていますが、高齢化は世界の潮流。その5年後、10年後には他の国々にも超高齢化社会はやってきます。この問題をグローバルに捉えると、「では、日本は世界に対して何ができるのか」となります。世界に先んじて超高齢化社会を経験するのですから、これから介護産業をもっと発展させ、その技術を世界に売るという考え方もありますね。日本の自動車産業やIT産業が世界トップクラスにまで成長し、市場を広げたように。

ただ単に「高齢化社会が来るよね」、「少子化が進むとマズいよね」と言って「どうしよう」と話し合うだけでは、理想論が語られるだけで、有効な打開策は生まれません。10年後にこうなる、ならば1年後にはここまで、半年後にはここまで、1カ月後にはここまでやっていないといけない、というようにシミュレーションすることで、「いまやるべきこと」が明確になっていきます。日本には、このようにシミュレーションを重ねて戦略を練り、望ましくない事態を予防するというproactiveなメンタリティがアメリカに比べると、ビジネスの分野でも弱いと感じています。問題が起きてから事後的に対処するというreactiveな性格が強いのです。

ここで述べた「多様な価値観」、「緊急性の高さ」といったキーワードは、私達TFJのみならず、あらゆる組織で求められるものではないでしょうか。組織のイノベーションを実現するには、この2つの重要性をしっかり理解している人材が必要だと思います。

理想は、会社で働き始める前、学校教育の中でしっかりと子ども達にそうしたことを伝えること。イノベーションの創出をリードできる若い人材を社会に送り出す支援ができる教育現場を作りたい。それが私たちの課題です。

WEB限定コンテンツ
(2013.9.20 渋谷区のオフィスにて取材)

松田悠介(まつだ・ゆうすけ)

Teach for Japan代表理事。2006年に日本大学文理学部体育学科卒業後、体育科教諭として中学校に勤務。その後、千葉県市川市の教育委員会勤務を経てハーバード教育大学院修士課程を修了。卒業後は外資系コンサルティングファーム、PricewaterhouseCoopersで人材戦略に従事し、2010年7月に退職。同年9月にTeach for Japanを設立し、現在に至る。著書に『グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」』(ダイヤモンド社)。

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