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社員の主体性とモチベーションを 引き出す仕掛けとは?

年間1200の新規事業プランが生まれる巨大ベンチャー

[曽山哲人]株式会社サイバーエージェント取締役人事本部長

サイバーエージェントは「21世紀を代表する会社を創る」を目指し、インターネットの分野で新規事業を続々と立ち上げています。実施すべき新規事業のプランがあれば、スピーディーに着手するのが当社の方針。

たとえば「My365」という、スマートフォンアプリケーションを運営する会社は、内定者4人(つまり学生)に5000万円の資本金を出し、「やってみて」と始めてもらったもの。彼らが開発した、「毎日1枚だけ写真を残せる」という画期的アプリケーションはヒット商品となり、5カ月で100万ダウンロードを記録しました。

伸びない事業に優秀な人材を放置しない

常にチャレンジ、常に成長、は当社の企業理念の一つ。期待値の大きい人材はどんどん抜擢し、若手であっても子会社の経営を任せてしまいます。現在、新卒採用で子会社の経営陣に抜擢された事例は34人。20代で経営陣に入り、成功も失敗も味わうのは、ものすごい成長機会です。

新規事業を次々に立ち上げれば、うまくいかない事例も出てきます。撤退しなければならない事業をいつまでも残し、そこに優秀な人材を張り付かせるのは経営判断の誤りです。

潔く撤退するかわりに、そこで頑張ったメンバーは伸びる事業に配置します。「優秀な人材に伸びる事業を」が弊社の人材戦略。挑戦した結果の敗者にはセカンドチャンスを与えるべきだというのが私たちの考えです。

アメブロやアメーバピグが大きく牽引するインターネット・メディア企業。1999年の創立以来、着実な成長を遂げている。
http://www.cyberagent.co.jp/

人は論理で動くのではない
感情が動けば自然と動く

社員が1000人を越えたころから、周囲からは「もう大企業ですね」と言われるようになりましたが、私たちは自らをベンチャー企業と定義しています。人数の大小ではありません。私たちは、挑戦し続ける会社だからです。

いわゆる大きな企業とベンチャー企業の違いの一つは、スピード。決断やプランの実行が速いことは小さなベンチャー企業のメリットです。私たちが大きなベンチャー企業であるなら、小さなベンチャー企業よりも、さらにスピーディーでなければ絶対に勝てない。

だから、スピードへのこだわりは強くあります。小さいベンチャー企業よりも、速いベンチャー企業である。それが私たちの競争力なんです。そのために工夫していることがいくつかあります。

全社員参加可能な事業プランコンテスト「ジギョつく」

まず、当社には事業プランコンテストが複数あります。その一つが「ジギョつく(事業をつくろうの略)」。内定者から幹部まで全社員が参加できるコンテストで、グランプリには100万円が贈呈されます。

書類審査の通過者が、社長を含めた役員全員へのプレゼンへと進みます。プレゼンが終わった直後に役員全員で議論し、すぐに優勝者を決めます。書類選考からグランプリ発表までわずか2~3週間です。

「ジギョつく」はこれまで年に2回行われ、年間1200案くらいの事業プランが出ます。でも最初はなかなか応募が増えなかったんですよ。第1回はたったの14件。その後もなかなか増えなかったのですが、11回目でぐんと増えて100件を越えました。このとき何をしたかというと、「ジギョつく」の担当が「ジギョつく出してください」と社員に言って回ったんですね。それだけで数が増えた。

「価値のある人材かも」と思ってもらう

これで分かったんです。人は論理では動かない。感情が動いたときに動くんだって。「人事が声をかけてくれるってことは、自分はその価値のある人材なんだ」「出せば何か得をするのかも……」。こういう感情が芽生えたからこそ応募が増えたんですね。

実際、「ジギョつく」に何度も応募した人が、抜擢される事例が増えてきて(これは意図したものではないのですが)、今では「事業をやりたい」という意思表示の場になっています。

「ジギョつく」では、応募者へのフィードバックに力を入れていることもポイントです。何がよくて何が悪かったのか、落ちた人にきちんと説明する。これは社員にとって貴重な学びの機会です。また、社内で一番ホットな人材を講師にすえ、「ジギョつく」に応募するための授業も行っています。この授業に出ると、じゃ1回僕も出してみようかな、という気持ちになるようです。

経営陣によるメンバー指名制コンテスト「あした会議」

事業プランコンテストには、「あした会議」という、経営陣による新規事業バトルもあります。1泊2日の合宿形式で行われる会議で、役員がトーナメント形式で事業プランを競い合います。1位から最下位までの順位を、役員の名前つきで社内外に公開するという会議です。

この会議の面白いところは、役員1人につき4人まで社員をアレンジしてチームを組むことが出来るという点です。事前に、役員会でドラフト会議を行い指名番号順にチームを組みたい社員を指名します。このため、役員はみんな、どこの部署の誰が優秀か、という情報に敏感です。社員にも「あした会議に引っ張られることこそ誇り」というムードが漂っています。

さらに、「あした会議」では事業案とセットで人事案も出すのがルール。 だから役員は日頃からよく社員を飲みに誘ったり、人事と接触したり、情報収集に余念がありません。全役員が会社全体へと目線を広げるいい機会になっています。

「あした会議」で出た事業案も、その場で決議が出ます。20案決議されて、2カ月後に4つの会社ができた例もあります。人事案もその場で決まります。役員のチームメンバーとして同行した社員が、「僕がこれやります」と言い出すこともあります。そうやって新卒6年目くらいで子会社の社長になって、そこで実績をあげて、本体の経営陣に抜擢されていくのです。

ベンチャースピリットを忘れない雑居ビルオフィス

いま、社員だけでも毎月50人近くが入社しています。業務委託や外部のパートナー企業の人たちも含めると、毎月100人くらいが入社します。オフィスのレイアウト変更も頻繁で、年に30~60回は変更しています。だからオフィスはシンプルに、作り込みすぎないようにしています。

特に、新規事業のオフィスは、意図的に中型、小型のビルを選ぶようにしています。最初にお伝えした「My365」の立ち上げオフィスは、サイバーエージェントの会議室。狭い部屋で4人がギュウギュウになって仕事をしていました。大きな空間に入るとどうしても、気持ちにゆとりができてしまう。それは新規事業にとってマイナスです。

社員からも「雑居ビルのようなところに入るとガゼン燃えます」という声をよく聞きます。事業の成長フェーズに合わせて、オフィスのグレードもあがっていく。そんな成長体験をみんなに体感してもらいたいと思っています。

「ジギョつく」で大量にアイデアが生まれ、人材が発掘され、「あした会議」で融合されて新規事業が生まれる。事業と人材がたくさん生まれるエコシステムが、社内でできつつあるのが心強いですね。

WEB限定コンテンツ
(2012.3.30 渋谷区道玄坂の同社オフィスにて取材)

新規事業プランコンテスト「ジギョつく」の様子。幹部や社員を前に、新規事業のプレゼンを行う。「大型の買収よりも、小さく生んで大きく育てる事業戦略」、「人材の採用、育成、社内の活性化を強化」といった経営方針を具現化する制度の一つだ。

コンテストやポスターの掲示といったかたちで、日々の業務でも頻繁にフィードバックが行われている。写真はエレベータホールに貼られたポスター。こうした事業部のポスターは自分たちで作成する。

渋谷区道玄坂にあるサイバーエージェントビル。同ビルには主力事業のアメーバ関連事業部が入っている。

曽山哲人(そやま・てつひと)

1974年神奈川県生まれ。上智大学文学部英文学科卒業後、伊勢丹を経て、99年サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業本部統括、人事本部人事本部長を歴任後、2005年に人事本部人事本部長に就任。08年より現職。著書に『サイバーエージェント流成長するしかけ』(日本実業出版社)など。
http://www.cyberagent.co.jp/

 

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