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労働運動は社会運動との連携で進化する

労働法の役割は、変化に対応できるようサポートすること

[水町勇一郎]東京大学 社会科学研究所 教授

働き方改革が、日本型雇用の特徴である終身雇用と年功序列にメスを入れていることを前回話しましたが、もう1つの特徴である企業内労働組合もいままさに変化を迫られています。

伝統的な労働運動は、工場や職場に集まって働く集団的労働を前提としていました。働く時間も場所も賃金体系もほぼ同じで、仕事の内容も大体同じ。要は利益を同じくしている仲間同士で団結してストライキすることで会社と闘うという戦略を採っていたわけです。

ところが近年ではデジタル化が進み、一か所に集まる必要も、同じ時間に業務を開始する必要もなくなってきました。コミュニケーションにしても、大勢が会議で顔を突き合わせて意思決定するのでなく、出たアイデアをどう決裁して実務で回していくかという効率性を重視するシステムになってきています。


東京大学 社会科学研究所は法学・政治学・経済学・社会学の4分野にまたがる総合的な社会科学の研究所。1946年8月に設立された。https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/

利益の異なる人々が共闘して自分たちの価値を高め合う

要は、ダイバーシティとケイパビリティですね。一人ひとりがどういう個性や能力を持ち、どんな価値を生み出せるかが相対的に重視されていくことになるでしょう。働き方も、週3日勤務の人もいてもいいかもしれないし、他の会社の仕事と兼業する人もいるかもしれない。多様な人が能力を持ち合って、仕事や成果を組み合わせていくという流れになっていくと思われます。

そうなったとき、能力が高くて交渉力もあって、一対一で会社と交渉できる人はいいけれども、そういう人はごく一部です。アメリカでは巨額のギャランティを得るプロスポーツ選手や芸能人でも労働組合に入っていることが多い。やはり対会社とのコミュニケーションの母体を作って交渉をしていくわけです。

それを労働組合と呼ぶか、アソシエーションと呼ぶか、あるいは従業員代表と呼ぶかはいろいろありますが、いずれにしろ個人対企業や個人対国だけではなく、中間的な組織の中で調整したり意見をすり合わせたりしてコミュニケーションを取っていくということの重要性は、恐らく変わらないのではないかと思います。

企業別労働組合のように、同じ価値観、同じ状況にある人が集まって、自分たちの利益を守るために活動するのではなく、いろいろな利益を持った人が、他の人と違うことを意識しながら、話し合いで自分たちの価値を高め合う、自分たちの価値や利益を守るために話し合う。そんな中間組織が求められるようになるのではないでしょうか。

アメリカの労働組合では市民運動と結びつくケースが増加

多様な価値観をまとめつつ、全体として1つの方向に向かって正義を実現していくとなれば、市民生活や地域の共同体とつながることも労働運動の1つの選択肢となるでしょう。

従業員の価値観や利益状況が多様化し、組合の組織率は減少傾向にあります。管理職ユニオンなど組合自体が多様化していることもある中で、ストライキで組織的な圧力をかけることが難しくなっています。

しかし、状況を変えるためには会社に掛け合えるようなパワーを持たなければならない。そこで例えばアメリカの労働組合では市民運動と結びつくケースが増えてきました。例えば革新派の地方議会の議員を増やして、その組合運動なり市民運動なりを支持してくれる人たちによって条例を作っていくわけです。

例えば、草の根でリビングウェイジ・キャンペーン* を盛り上げて、これに共鳴する人を増やして州の最低賃金を上げる、キャンペーンに賛同する市民の支持を受けながら団体交渉するといった具合です。実際、この運動を受けて最低賃金を引き上げた州や企業もあります。こうした動きが拡大すれば、消費者運動にもつながっていくでしょう。フェアトレードはその一端です。

* リビングウェイジ・キャンペーン
労働者が最低限の生活を営むのに必要な賃金水準を求める運動。

これからの組合運動は、消費者運動や環境運動とも連携

こうした労働運動が現れていることの裏を返せば、自社の正社員からなる組合員だけの組織として、その利益を守るという企業別組合運動の社会的な説得力がなくなってきているということでもあります。自分の会社の組合員のためだけに活動しても、他の人には興味を持ってもらえないし、横につながっていかないということです。

そういう意味で日本の組合も、我が社の正社員のための組合ではなく、我が社と関係ない人たちの共感も得る努力が必要となるでしょう。これからの組合運動は消費者運動でもあり、環境運動でもあり、市民運動でもあるかもしれないということを意識していかないといけない。

ゆるやかにニーズを共有する人たちとタッグを組んで、個別の要素を柔軟に結びつけながら、広く連携していく。そういう形に生まれ変わることも、労働運動の1つの方法論であると思います。

米仏ではテレワークに揺り戻しの動き。
職場で対面し、働き手の孤立を防ぐ

コロナ禍は私たちの働き方を大きく変えています。その1つがテレワークの進展です。

いままでは出社してタイムカードを押したら、その瞬間から働いているものとされてきたけれども、実際はそうとも限らないですよね。成果の評価にしても、上司が四六時中、部下の働きぶりを監督してきたわけでもない。

テレワークは、そうやってあいまいな形で機能していた職場の関係性や評価のあり方を見直すいいチャンスになり得ます。いままでよりもかえって密に連絡を取り合うようになったりするかもしれないし、より効率的な仕事の仕方が見つかるかもしれません。

もっといえば、テレワークだけで十分かというと、そうではないということも世界的な傾向から見えてきています。テレワークを長期間実践している企業ほど、週4~5日のテレワークは多すぎる、ベストなバランスはテレワークが週1~3日で、残りの日は会社に来ることが望ましいといわれます。個人主義色の強いフランスでもアメリカでも、そういう揺り戻しがある。働き手の孤立を防ぐために、コミュニケーションをじかに取ることが重要だということが再認識されています。

生産性に敏感になるほど、対面とテレワークのバランスを重視

欧米の企業がなぜ働き手の孤立を防ぐかといえば、生産性を向上させたいからです。

海外の企業は、職務を明確に定義して、それに沿った成果を挙げてもらうことで従業員を評価しています。働き手が孤立すると集中力やモチベーションが落ちて、成果が挙がらない。ことによると解雇も検討しなければならなくなります。生産性に敏感になればなるほど、対面とテレワークのバランスを重視することになるわけです。

日本でそこまでの議論ができているかというと疑問ですね。働く環境を精査することなくやってきたので、アイランド型のデスク配置がいいといわれればそうするし、テレワークもテレワークで意外とできるよねと、完全在宅勤務に移行している企業もあります。でも、長く続けてみるとうまく回っていかないかもしれません。

出社して対面コミュニケーションを取ることの意味と、テレワークで自律性に任せてやってもらうことの意味をまずはしっかりと確認して、両方をうまく組み合わせることが、働く人にとっても快適で、会社としても生産性が上がるやり方だと思います。コロナがもたらした混乱は、生産性を意識しながら働き方を見直すきっかけになるのではないでしょうか。

デジタル化に対応できるかが試金石となる

コロナ危機は日本のデジタル化の遅れを浮き彫りにしました。デジタル化にしっかり対応できている企業はレジリエンス** を持ってコロナにもうまく立ち向かえていますが、デジタル化に対応できていないところはやはりコロナのダメージが大きい。家庭ではテレワークの基盤が脆弱でしたし、教育現場もITを使った自宅学習ができずに混乱したりと、世界的に見て日本のデジタル環境の貧弱さは否めません。

となると、デジタル化に対応できるかが、今後の生産性向上や社会変革、働き方改革を推進するうえで1つの試金石となると思います。

第2次産業革命、第3次産業革命に対応した従来のルールや働き方を、デジタル化という第4次産業革命に向けてうまく更新できるか。その中で鍵となるのはデジタル人材の育成・確保でしょう。

** レジリエンス
強靭性、危機対応能力。

デジタル化で必要とされる能力や技術が変わる

一方で、デジタル化が進むと、機械にできないことに価値が生じます。例えば人間の独創性や発想力、快適なデジタル化のための環境整備、異なるソフト同士を組み合わせてシナジーを生み出すといった部分は人間が主導する必要があるでしょう。また、接客やセラピー、リラクゼーションのような分野でも人間に対応してほしいと思う人が少なくないはずです。

デジタル化に対応する中で、必要とされる能力や技術が変わってくるのかもしれません。そこを見極めて対応できた企業が成長し、生き残ることになるでしょうし、対応していかないところは淘汰されていく。

大きな船でも順調に航行を続けられるかどうかは分かりません。あるいは自分で船を造るという道だってある。それは学生にも伝えていることですし、いま働いている人にも意識しておいてほしいことです。

社会の実態に丁寧に向き合っていく姿勢が法に求められる

不透明さを増す時代、労働法の役割は大きく2つあると私は思っています。1つは働く人が理不尽に解雇・失業することなく、組織間を移動できるようにしてあげること。もう1つは、デジタル能力なり人間的な能力なり、必要と思う力をしっかり培える訓練ができるような支援をすることです。

要は変化に対応できるようなサポートをするということなんですが、人によってはこれは企業がやるべき事柄ではないかと言われるかもしれません。でも、市場のメカニズムに基づいた会社のお膳立てでは、こういう取り組みは必ずしもうまく回らないということは、これまでの歴史が教えてくれています。

働いている一人ひとりの現状もビジョンもニーズも違うわけです。正社員として就職するというだけでなく、起業することもあるかもしれないし、最初からフリーランスとして働くこともあるかもしれない。

能力の差で貧富の格差が生じる可能性もあるでしょう。ずば抜けた能力を持った人はものすごく稼ぐけれども、そうでもない人や、あるいは教育の機会に恵まれずに専門性が養えなかったという人は最低賃金さえもらえず、困窮するかもしれない。むしろ後者の方が数としては増える可能性が高いかもしれません。

変化の早い時代、人も会社も、生き残るにはその変化に早く対応する必要があります。法律はそのサポート役として、時には法律自体も変化を遂げながら、社会の実態に丁寧に向き合っていく。そういう姿勢が求められていると思います。

WEB限定コンテンツ
(2020.8.7 文京区の東京大学 社会科学研究所にて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Rikiya Nakamura

水町勇一郎(みずまち・ゆういちろう)

東京大学社会科学研究所教授。1967年佐賀県生まれ。1990年東京大学法学部卒業。2010年4月より現職。専攻は労働法学。主著に『集団の再生―アメリカ労働法制の歴史と理論』『「同一労働同一賃金」のすべて 新版』『労働法 第8版』(以上、有斐閣)、『労働法入門 新版』(岩波新書)、『詳解 労働法』(東京大学出版会)ほか。

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