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OJTが機能しづらくなった今こそ採用の見直しと強化を

期待と能力基準の明確化が採用変革のカギ

[服部泰宏]神戸大学大学院 経営学研究科 准教授

日本企業における人材採用の課題は2つの側面があります。必要な人を必要な数採れないという「量」の問題と、ビジネスパーソンに求められる能力が高度化する中で、見合ったレベルの人材が採用できないという「質」の問題です。

私が提唱する採用学は科学的な観点から日本の採用活動を捉え直すものですが、基本的には「質」を問うもので、ほしい人材をどう社内に取り入れて戦力化していくかというところが焦点になります。

停滞感を打破するには採用に新しい視点が求められる

採用の「質」を担保するには、求職者の選抜という入口の段階でよい人を確保するか、あるいは入社後に社内でOJTなどを通じて人材を育成することが必要です。

もちろん両者は車の両輪のようなもので、相互が高いレベルで連携できれば望ましいのですが、実際のところ前者の方、望ましい人材を取り込むことはなかなか難しいのが実情です。人材に求める要件が具体化できていないため選抜の基準がはっきりしない、自社の魅力をうまく伝える方法が見出せない、売り手市場が続いていることなど、さまざまな要素が関係しますが、これまでは育成がうまく行っていたので、選抜の問題を抜本的に解決しなくても組織は機能してきました。高度成長期から少なくとも10~20年前までは現場に余裕があったので、大卒程度の学歴の人を採っておけば先輩や上司が指導して一人前に育てることができたのです。

しかし、最近はこの育成の仕組みがうまく働かないケースが目立ちます。企業の業績が落ち込んで人員が削減され、現場に人を育てる余裕がなくなってきたことに加え、ビジネスの複雑化に伴って業務遂行力だけでなく自ら課題を設定して解決できる力が求められるようにもなりました。そうした能力がOJTでは培いにくいことも影響していると思われます。

別の言い方をすれば、成熟フェーズに入り停滞感を抱える企業が増えたということになりますが、現状を打破するには採用に新しい視点が求められます。今まで何となく大卒の人とか、ある程度知識がありそうだという人を採っていたけれども、これからはそうした曖昧で漠然とした採用では組織を成長させることができません。多くの企業で、人材に求める要件を見直し、詳細に詰めていく必要があると思います。

期待と能力基準の曖昧さが採用側の過熱をもたらす

採用の質を取り巻く課題を整理すると、大きく次の4点に集約できると思います。

1つ目は、企業と求職者の間の相互期待が曖昧なままになっていること。これにより、フィーリングのような採用担当者の漠然としたフィルタが入り込む余地が生じてしまうのです。

2つ目は、選抜段階における能力の評価基準が、曖昧で不透明になっていること。

3つ目は、その結果、採用活動が過熱化して候補者を大量に募ると同時に、エントリーシートの精査や絞り込みに時間もコストもかかってしまうこと。

4つ目は、企業の採用活動の過熱化に呼応して、求職者、特に学生の就職活動も過熱化していることです。期待と能力基準の曖昧さが採用側の過熱をもたらし、それが求職側の過熱化につながるという増幅が繰り返されていると考えられます。

side01神戸大学大学院 経営学研究科は、経営学分野でグローバルに活躍する研究者を育てるPh.D.コース、企業の経営リーダーを育てるMBAコース、将来の経済界を担う人材を育てる学部の3つで構成されている。
http://www.b.kobe-u.ac.jp/

企業が人材に求める能力は「コミュニケーション能力」「主体性」「チャレンジ精神」「協調性」「誠実性」といった具合に曖昧で、しかも多くの企業で似通っています。となると、こうした要素を分かりやすく持っている学生に内定が集中することになる。例えば、地頭はいいけれどもコミュニケーションは苦手というような偏った特性を持つ学生は浮かばれないことになってしまうわけです。

しかし、本当にA社とB社で同じ人が活躍するのでしょうか。企業の人事データ分析で、入社時の特性と、入社3年後くらいに活躍する人の特性を比較すると、両者が相関していない企業がほとんどなんですね。つまり、採用では有名大学を出ている人をメインターゲットにしていたけれども、社内で活躍する人はそうした大学の出身者ばかりでないとか、あるいは面接で最高評価を付けた人が3年後の上司評価では芳しくなかったということです。

多様な人材を確保して組織を強くすることに企業が開眼

なぜこういうことが起きるのかといえば、採用時に見るポイントが間違っていたのではないかという「What」の問題と、客観的な指標で能力を推し量る定量評価でなく、面接官の経験値や直感、好み、相性なども含んだ定性評価に起因する、いわば「How」の問題が絡み合っていると考えられます。

偏差値の高い大学の出身者が必ずしも優秀であるとは限らないし、そもそも優秀さにはさまざまなタイプがあります。多様な人材を確保して組織を強くすることの重要性に企業が気づき始めたわけです。そこでSPIテストや面接といった型通りの選抜方法だけでなく、例えばゲームを使った試験や一芸採用といったユニークな手法を用いて、それまで求めていた人とは違うタイプの人材を取り込むようになった。そういう動きが出始めたのが2014~2016年という印象です。

学生側も普通の採用では面白くないと思い始めている節があります。独自の採用スタイルを持つ企業は個性的に映りますし、面接をするにしても、そこでどんな能力を測ろうとしているのかを打ち出していかなければ学生を振り向かせることができません。

さまざまな能力の人材を採用してビジネスの突破口を開きたい企業と、ユニークな特性や才能を認めてもらいたい学生。それぞれの思いが合致して新しい形の採用が生まれていると感じますし、そうした企業側の工夫が採用の課題を解決する1つの手立てになっているのです。

現場の温度感やニーズに人事担当者がもっと近づいていく

とはいえ、やみくもに新しさを追求しても意味がありません。まず重要なことは、人材に求める能力、資質を要素分解してできるだけ具体化することです。

多くの企業では、例えば営業職ならコミュニケーション力が必要だろうとか、研究開発職なら学位がある人がいいという具合に、職種と人材要件を1対1の関係でとらえる傾向があります。しかし、一概に営業職といっても個人を相手にするのか、法人を相手にするのか、法人相手でも企業か官公庁かなど多様なレイヤーがあるわけです。研究開発でも誰に向けたどんな商品を手掛けるかによって求められる能力は変わります。となると、現場を知る人でなければ人材要件を固めることはできないということになります。

ではどうするか。対策は2つ考えられます。1つは、人事採用担当者に現場をくぐってきた人をアサインすることです。現場を熟知していて、こういう人は伸びるという勘所のある人が人事担当になるわけです。もう1つは採用のチームの中に現場が入っていくパターンです。採用担当者になるわけではないけれども、現場の人も一緒にどんな人がほしいかを議論するのです。

いずれにせよ、現場の温度感やニーズに人事担当者がもっと近づいていくことが求められています。現場を巻き込むのは難しいという声も聞きますが、その場合は経営層が採用にコミットしていく姿勢が問われます。

特にノルマ達成に四苦八苦しているような現場からすると、利益に直結しない人事や採用に関わっている暇はないと考えがちです。そこはやはりトップダウンで協力体制を築かなければいけない。採用をうまくチェンジできた会社の多くは経営者がコミットしています。あるいは、採用担当者が経営者に説明して味方につけている。これは成功の共通要素という気がします。

まだまだ日本企業の場合は入口で優れた人材を採ることよりも、入ってから染め上げていく旧態型の育成モデルをイメージする経営者が多い気がします。しかしそれがうまく行かなくなり、現場は疲弊しています。戦力となる人材が来ていないという現状の理解がもう少しあるといいのかもしれません。

(服部氏の著書『採用学』(新潮選書)p.81、図2-4を元に作成)

服部氏の著書『採用学』(新潮選書)では、採用を科学的な手法で分析し、問題点や解決策を具体的に提示。各社の採用の取り組み事例も豊富に紹介している。日本の人事部HRアワード2016 書籍部門最優秀賞受賞。

採用代行会社を活用して負荷を軽減。
求職者とじっくり向き合う活動は自前で行う

先ほど企業の採用活動も学生の就職活動も過熱化していると申し上げましたが、この状況が採用活動の負荷を大きくしている事実も見過ごせません。特に大企業の場合、採用担当者は大量に送られてくるエントリーシートや履歴書のチェックに膨大な時間をかけています。例えばエントリーシートが1万人分来て、それを500人に絞り込むとなると、9500人を落とすためには大変な時間がかかるわけです。

従って、選考のどのフェーズに時間やコストを割くかを考え、場合によっては新しいツールや施策を導入することも検討すべきでしょう。まずは説明会やウェブページで自社が本当に求めるのはどういう人かをしっかり訴えることが重要です。ドワンゴは新卒採用の求職者に受験料金* を求めていますが、このように入口のハードルを上げる施策も考えられます。

ソフトバンクのように書類選考に人工知能を活用するケースもあります。過去のデータからふるいにかける要素を抽出して自動的に選別し、落とされた候補者の書類を採用担当者が確認するということで、作業量は大幅に圧縮できているそうです。そこで生まれた時間を絞り込んだ候補者の吟味に充てられるので、丁寧に求職者と向き合うことができるわけですね。

こうした負荷軽減策を講じると採用担当者の疲労度が下がります。大量の書類を延々とふるい落としていくよりも、求職者一人ひとりと向き合う方が意味を感じられるからです。業務時間は同じでも仕事の充実感が違うんですね。

採用を代行する会社を活用するのも一手です。ただその場合も、絞り込んだ求職者とじっくり向き合うような活動は自社で行うべきでしょう。採用を代行してもらうことで社内にノウハウが蓄積しにくくなる可能性もあります。外部の力を得て特定の機能を満たすことは時代の流れですけれども、残すべきものと残さなくていいものをしっかり切り分ける必要があると思います。

混成チームで社内事情への配慮と新しさの追求を両立

外部と連携した採用活動については、アメリカが先を行っているかもしれません。研究の一環で海外の組織をヒアリングしているのですが、例えば世界銀行では多様なキャリアの持ち主からなる採用の混成チームを作っています。生え抜きで長く働いている人と、民間企業なども渡り歩いてきた人が一緒になって、採用や人事に取り組むのです。

内部に長くいる人は組織の事情や歴史、現場のニーズを理解したうえで採用を考え、他方、外部でキャリアを積んできた人は他の業界や組織の利点を提供してくれます。社内事情や歴史を踏まえた選抜をすると同時に新しさもキャッチする、うまい仕組みといえるでしょう。

日本では生え抜きの人が採用や人事を担当することが多く、しかもローテーションで異動も頻繁にあるため、どちらも担保できていない状態です。だからこそ外部の代行業者に頼むことも増えるのでしょうが、やり方次第で得られるもの、蓄積できるものが違ってくることは意識してほしいと思います。

ちなみに世界銀行も外部の業者は使うんですが、テクニカルなサポートや最先端の情報の提供、単純作業の代行など、部分的な切り分けに留まります。業者に全面的に依存するのではなく、組織の内部を知る人、外部を知る人、業者という三角形の関係でバランスを取ることが1つのお手本になるかもしれません。

ネガティブと思われた要素を逆手に取って採用の売り文句に

地方の企業や中小・ベンチャー企業では、大企業とはまた違う課題を抱えています。その最たるものは求職者に名前を知ってもらうことでしょう。ポイントは言葉のセンスやアピールの切り口を磨くことだと思います。

これに成功している事例として三幸製菓が挙げられます。新潟にあるおせんべい会社で、求職者のエントリー数が少ないことが悩みでしたが、採用活動を工夫することで増加に転じました。

同社では「新潟にある」「おせんべいを作っている」といった要素は採用で有利にならないと考えてきたそうです。負け組の意識があったわけですね。しかし、新潟で働きたい人は世の中に一定数いますし、おせんべいが好きな人も少なからずいます。

10数名採りたいという企業が日本のほとんどだと思いますが、それなら候補者が1万人いなくてもいいんです。そこで三幸製菓は多様な選考方法を用意し、その中におせんべいへの想いを問う「おせんべい採用」や、新潟という地域への興味・愛着を評価する「新潟採用」を盛り込みました。ネガティブと思われた要素を逆手に取って採用の売り文句に使い、ターゲットとなる層への訴求力を高めてマッチングの精度を向上させたのです。

採用の売りになるものは社内で意外と気づいていないこともあれば、マイナスと考えていたものがプラスになることもあります。そうした発想の転換が求められますし、そこに知名度のない企業が注目してもらう1つの方策があると考えられます。

“遊びと採用の接近”で求職者の本音を探る

しかしながら、注目を集めたいからといって、実態とかけ離れた耳障りのいいことを掲げるのは避けるべきです。ないものをあると言ったり、あるものをないと言ったりすることはリアリティショック** や早期離職を誘発し、決してプラスになりません。

学生も多くの企業と接していますから、説明会で美辞麗句ばかりが並ぶことには飽き飽きしてしまいます。むしろフランクに自社の課題や悩みをストレートに言ってくれる方が、高感度や信頼度が増すというデータもあります。

では、学生側の本音を引き出すにはどうすればいいか。打ち手の1つが選考方法を変えていくことで、例えば脱出ゲームで行動力や思考力を試したり、あるいは遊びやお酒も入る座談会を設けたりする企業が出てきました。

面接ではついかしこまって建前を述べがちですが、砕けた雰囲気では本音が出ます。どんな人間性なのか、どんな話し方をするのかという素の部分を見たいのであれば、そういう場面でやりとりをするのは合理的です。いわば“遊びと採用の接近”ですが、これも最近の採用のトレンドといえます。

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(2018.2.15 横浜市の横浜国立大学キャンパスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Kazuhiro Shiraishi

* 2018年度の受験料金は3,000円。東京、神奈川、埼玉、千葉に在住する応募者が対象。

服部氏がヒアリングした地方の中小企業では、後継者となる現社長の息子が現場で働いている。世襲制とネガティブに見るのではなく、若い次期社長と一緒に働ける環境があるとアピールした結果、学生の応募者が増え、採用に成功したという。これも発想の転換が功を奏した事例だ。

** 入社前の期待と入社後の現実のギャップが働き手にもたらす衝撃。

服部泰宏(はっとり・やすひろ)

1980年、神奈川県生まれ。神戸大学大学院 経営学研究科 准教授。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、滋賀大学経済学部専任講師、准教授、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授を経て、2018年4月より現職。日本企業の組織と個人の関わりあいや、経営学的な知識の普及の研究等に従事。2013年以降は特に「採用学」の確立に向けた研究・活動に力をそそぐ。主な著書に『日本企業の心理的契約―組織と従業員の見えざる約束』(白桃書房)がある。2010年に第26回組織学会高宮賞、2014年に人材育成学会論文賞を受賞。

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