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ABWを徹底的に研究、導入し、
満足度の高いオフィスを実現

オーストラリア発、グローバル総合不動産グループ

[Goodman]Sydney, Australia

  • 最小限の空間計画によって設計された従来型のオフィス
  • オフィス拡張を機にABWを導入
  • ワーカーの満足度が向上し、より創造的で効率的な仕事場に

ABW(Activity Based Working)——。オフィスに限らず自由に場所を選択し働くことによってよりクリエイティブな成果を促す仕組みであり、ABWの考え方をオフィス設計に取り入れる企業は多い。シドニーに本拠地を置き、世界各地で事業を展開する総合物流不動産グループのグッドマンも、その一つだ。

約4年前のこと。グッドマンのオフィスは、事業の成長やスタッフの増員に伴ってレイアウトを随時変更する、いわゆる従来型のオフィスだった。その結果、スタッフの人数に対してミーティング・ルームやブレイクアウト・スペースが足りないという無計画で非効率的なオフィス・レイアウトになっていた。

オフィスのリニューアルを決意したCEOのグレゴリー・グッドマン氏は、不足している設備を導入するだけでなく、将来的な事業の成長を見据え、快適かつ柔軟性のあるオフィス空間造りを目指すことに。

ところが、上がってきた図面は、またしてもワーカーそれぞれに一つのデスクが与えられた、従来型のオフィス・レイアウトだった。しかもその提案には、将来的な事業の拡大、スタッフ間のコラボレーション、様々な作業に対応できる空間の柔軟性が見られなかった。

ABWによる変化に対応できるかどうかが問題だった

グッドマン氏のビジョンを実現させるためには、何か斬新な解決策が必要だった。そこで彼らが注目したのが、働き方や仕事内容に合わせて仕事場を選べるABW。「当時、多くの大企業がABWを取り入れ始めていました。そこで私たちはそういった企業を訪問し、ABWに対する理解を深めると共に、オフィスの考え方として当社にふさわしいかどうかを研究しました」と商業開発部門のゼネラル・マネージャーを務めるデビッド・ウィルソン氏(以下、デビッド氏)は振り返る。

しかし問題があった。ABWの導入に成功した企業はグーグルやアクセンチュアなど、広大なフロア面積を有する大企業ばかり。翻ってグッドマンの新オフィスは約2500㎡の予定だった。このような規模でのABWの導入は、前例がない。しかも、ABWによって、ワーカーの働き方は大きく変わることになる。「ABWでは、その日の仕事によってオフィス内から最適な仕事場を選べるわけです。一人一つのデスクを持っていた状況から、誰一人として自分のデスクを持たない状況への変化に対応できるかどうかも大きな課題でした」とデビッド氏は言う。

シドニーオフィスのレセプション。

創業:1995年
運用資産:303億豪ドル(2015)
従業員数:グローバル/約1100人(2015) シドニー/220人
http://goodman.com


商業開発部門のゼネラル・マネージャー、デビッド/ウィルソン氏。

  • 階段を上ったところには“電話ボックス”やコラボレーション・デスクがあり、オープンスペースが広がる。

  • オフィス内に設けられたセミクローズドの会議室。

  • キッチンスペース。ワーカー専用のコーヒーマシンもここに置いてある。ちなみにグッドマンでは、オフィスのデスクでの食事は禁止されている。キッチンで食事をとることで、社員同士の交流が生まれる。

  • 階段付近のオープンスペースには、10名ほどで使えるミーティングエリアがある。

ワーカー全体の93%が
「新しいオフィスを誇りに思う」と回答

ここに、オフィスリニューアル後の2011年11月にワーカーから集めたアンケート結果がある。「現在のオフィスのほうがやる気が上がるか」に対し、「強く賛成」が33%、「賛成」は46%。「ワークスペースの変化によって仕事がより楽しめるようになったか」に対し、「強く賛成」が36%、「賛成」は43%。そして「新しいオフィスを誇りに思うか」に対し、「強く賛成」が40%、「賛成」は53%。結果的にオフィスリニューアルは大成功を収めたというわけだ。

懸念されていたデスク割り当て問題も難なくクリアしていた。「オフィス拡張当時、ワーカー180名に対して120台のデスクを用意しました。つまり、従業員の60%分です」(デビッド氏)。オフィススペースの使用率を調べたところ、最も使用率が高い時で80%、最も低い時は40%、週の平均が60%だったのだと言う。もしワーカー全員が出社したとしても、ベンチやミーティングルームがあるため、どこかしらに全員が座れるスペースは確保できていた。デスクの数を減らし、オープンスペースやオフィス家具の配置が異なるエリアを増やす――それがワーカーに快く受け入れらたことが、アンケートによって証明された。

現在のオフィスは大きく2つのゾーンに分かれており、片方が企業グループのグローバル事業に関わるフロア、もう片方がオーストラリア国内の事業に関わるフロアとなっている。従来はバラバラに仕事をしていたが、最近では、この2つのゾーンがコラボレートし始めているそうだ。「国内事業に携わるワーカーは、グローバル事業、例えば日本事業の状況についてよく知りません。しかし、ABWのお陰で、ワーカーはグッドマンの海外各地での事業展開を知る機会が増えました。ノートパソコン、ビデオ会議、スカイプやWi-Fiなど、あらゆるIT機器、AV機器が用意されているので、こうしたコラボレーションが生まれるのです」(デビッド氏)。

綿密なチェンジ・マネジメントがABW導入の鍵だった

もちろん、今回のリニューアルの成功の裏には綿密なチェンジ・マネジメントが功を奏していたことにも触れなくてはならない。スペースに限りがあった以前のオフィスでは、デスク周りやキャビネットに保管されていた膨大な紙の資料が悩みの種だった。デビッド氏は言う。「ABWへの移行を決定した時、ワーカーには『所有物はロッカーに入るくらいの箱に収まるように』と伝えました。引っ越しの前にオフィス全体で紙の使い方を分析して見直し、移転先ではスキャニング、オンライン・ストレージ、外部の書類保管庫などを利用して紙の使用量を最低限に抑えることにしました」。

実際、優れたワイヤレス環境が整備されたことでワーカーのモバイル化が進み、会議の際は紙のノートではなく、ノートパソコンを持参するようになった。液晶ディスプレイやスクリーンに資料を映し、その場で修正を行い、その修正が元のドキュメントに反映される、といったことが可能になっている。社内の紙の消費量は従来より60%も削減された。環境への影響も考えると、これは大きな成果だ。

ABWは働き方を変え、チームのコミュニケーションの方法も変えた

一人ひとりがデスクを与えられ、マネージャーが全体を展望できるオフィスから、毎日各自が自分の仕事場を選べるオフィスへ移行することは、マネージャーにとっては、部下がどこで何をしているか見えなくなるということでもある。毎日どこでどう仕事をこなすかを決める自由は、社員にとって励みであり、責任でもあった。自分にとって働きやすいだけでなく、チームのためになるような働き方が期待され、その結果、社員同士のコミュニケーションの促進、コラボレーションの創出、エンゲージメントの強化をもたらした。

また、こうした働き方の変化は、ABW環境のもとで柔軟かつ自律的に働ける質の高い人材を引きつけ、離職率の低下にもつながったという。シドニー・オフィスでのABW導入の成功に続いて、同社は顧客により近づくべく郊外にサテライトオフィスも設置した。さらに自由度が高く働きがいのある、現代的な働き方を模索している。

「私にだって専用のオフィスは用意されていないんですよ(笑)」と笑うグループCEOのグッドマン氏。オフィスがリニューアルして以来、上級幹部をはじめ、マネージャーから一般のワーカーまで新しい働き方にすっかり順応したという。今ではボード・メンバーをはじめ、マネージャー、一般ワーカーすべてが、リニューアル後のオフィスではフラットな関係で働けている。ABWがグッドマンにもたらした一番の成果は、きっと、この点にあるのだろう。

コンサルティング(ワークスタイル):Veldhoen + Company
インテリア設計:自社、Bates Smart
建築設計:Bates Smart


オフィススペース。一日の終わりにそれぞれが自分の荷物を片付けるため、オフィス内は常に整理整頓が保たれている


会議室には、ヒスイやターコイズ、エメラルドなど、コーポレートカラーであるグリーンにちなんだ宝石名がつけられている。

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