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シブヤ大学の人脈とノウハウを企業や地域活性化に役立てる

地域密着型の"学びの場"を提供するNPO

[左京泰明]特定非営利活動法人 シブヤ大学学長

シブヤ大学は、渋谷の街をキャンパスにして生涯学習を推進する特定非営利活動法人です。毎月、渋谷で活躍するユニークな人を講師に招いて授業を行う。それが活動の主軸です。ゼミ形式の授業もあれば、エコツーリズム型のツアーもあります。また、授業を通して出会った人たち同士がサークルをつくることもあり、その活動支援もしています。

2006年の開校以来、参加者数は年々増えています。現在、学生登録している方が大体1万4000人。メーリングリストで情報を受け取っている方が2万人くらいいます。設立当初は、区役所と連携した生涯学習事業が多かったため、渋谷区役所の中に事務所を構えていました。しかし、2010年3月7日に現在の場所――神宮前のオフィスに移転しました。ここ数年で、さまざまな企業やNPOとの仕事が増えてきたからです。

たとえば、2011年10月に開催した「恵比寿文化祭」がその一例です。「恵比寿文化祭」は、恵比寿ガーデンプレイスさんが主催のイベント。僕たちは企画協力というかたちで参加しました。恵比寿という街はもともと工業地帯で、開発がそれほど進んでいませんでした。そこへ最新の商業施設がポンとできた。率直に言うと、恵比寿における立ち位置は、少し微妙な感じでした。

ガーデンプレイスさんもそれを課題に感じていて、地域やコミュニティとの関係構築に注力しようとしていたのです。そこでシブヤ大学のほうで、地域の人たちを中心にしたイベントを提案しました。地域の人に「楽しんでもらう」のではなく、「参加してもらう」イベントです。たとえば、地元の小学校の合唱団、あるいはおじいちゃん・おばあちゃんのハーモニカクラブによる演奏会、男性だけの手芸部による作品展など……。

結果、集客的には前年と同レベル。そして前年と違ったのは、地域の方に喜んでもらえたことでした。なかには「設立から30年経つけれど、初めてイベントに呼んでもらえた」という吹奏楽団もありました。当日、楽団設立時のOBの方が来てくださって、目を細めて演奏を聞いているのを見たとき、僕たちも本当に嬉しくなりました。

企業の課題解決から地域活性化まで、さらに踏み込んだ活動へ

渋谷や恵比寿はファッションや飲食をはじめとして、人気が高い街です。しかし近年は、単なる地域的優位性だけでは集客を確保できなくなっています。単発の商業イベントを開いても、思ったほどの効果が得られないこともあります。そういう流れの中で、多くの企業が「いかに地域と調和しながらブランドを確立し、全体を活性化させていくか」という課題を抱えています。

そのなかで、シブヤ大学が持つ人脈やノウハウを活かせるのではないか。具体的には、シブヤ大学が主体となって企業の課題解決や地域活性化に積極的に踏み込み、戦略を立てる。昨年あたりから、こうした活動が徐々に増えてきました。

同時に、僕たちもちょうどファンドレイジングを見直す時期にあたりました。シブヤ大学の収入は、企業、一般市民、行政からの3つに分類できます。ところが不況や震災などの影響で、企業からの仕事が大きく減ってきていました。これまでは、企業からの収入が一定割合を占めていて、本来NPOのベーシックな収入であるはずの寄付やサポーターによる会費が少なかったのです。そのために、地域の主体となっている方々との関係性をより深めていく必要がありました。

シブヤ大学は、生涯学習を推進する特定非営利活動法人だ。渋谷区全体をキャンパスととらえ、国連大学や表参道ヒルズ、明治神宮といった施設と連携しながら、授業を行う。内容によっては「教える人」が「教わる人」も変わるなど、役割や立場を定めず、自由に”学べる”のが特徴だ。
http://www.shibuya-univ.net/

エコツーリズム
自然環境や歴史、遺産などを体験・学習しながら、その地域の環境や文化の保全について考える観光のあり方。

恵比寿文化祭2011の様子。恵比寿ガーデンプレイスが主催した”文化祭”で、企画の一部をシブヤ大学が担当。トークショーや男性だけで結成した「押忍! 手芸部」の作品展など、子どもからお年寄りまで楽しめるイベントを多数主催した。
写真提供:シブヤ大学、©佐藤隆俊

誰もが気軽に意見を言える
フラットな組織をつくる

発足当初に比べると、シブヤ大学の活動範囲は、年々大きくなってきています。それに合わせて、様々な人の協力を得られるようになってきました。今、一番気をつけているのは、「誰でも気軽に意見できる環境」を確保すること。関わる人が増えて組織が大きくなると、どうしても “意見の重み”に差が出てきます。今日初めて来ましたという人と、毎日ここにいますという人では、後者の意見が強くなります。意見の善し悪しではなく、誰が発言したかで判断されてしまうわけです。でも、それだと絶対にうまくいかない。

そこには、一つ原体験があります。大学時代のラグビー部での経験です。体育会のラグビー部というと、とてもヒエラルキーがしっかりとしているイメージがありますよね。でも僕がいたクラブは、「一度グラウンドに出たら、敬語を使ってはいけない」という方針でした。チームにとっていいアイデアは、新入生だろうが積極的に発信しろ、相手が上級生だろうが、キャプテンだろうが気にするな、と教えられたのです。みんながフラットに意見を出し合って、チームの最終目標――試合に勝って優勝すること――を実現するために、全員の力を合わせる。それが何よりも大事だ、と。そのために上級生に遠慮をしてはいけないし、下級生を萎縮させてもいけないわけです。

生涯学習の企画にせよ、地域活性化のイベントにせよ、協力してくれる人の思いは一つです。「より良い授業にしたい」「この街をもっと良い街にしたい」。そのための意見は、年齢や性別、参加期間、職業的背景、あるいは社会的地位で差別されてはいけないのです。だから、僕はいつも場のファシリテーターとして、自由に意見を言えるフラットな環境をつくることを心掛けています。

つながりを広げることで、新たな可能性が見えてくる

これからの時代、リーダーシップよりも関係性のほうが大事になってきます。今は、事務局を中心として多くの人たちを巻き込もうとしている状態ですが、ゆくゆくはもっと縦・横・ナナメでつながってほしい。シブヤ大学には、学生のインターンもいれば70代のスタッフもいます。個々人は背景も違うし、価値観もバラバラ。組織に属した人もいれば、フリーランスの人もいる。その中で多様な関係性が生まれていけば、可能性も広がっていくはずです。

そのつながりを強化していくには、やはりどんどん新しい取り組みを始めなければなりません。ここでも、ヒントは地域のなかに飛び込んで、多様な課題にぶつかってみることにあると考えています。今年スタートする渋谷区の防犯・防災対策の新しいアプローチがその一例です。通常、行政が防犯のための講習会を行う場合、古くからの町会、商店会、自治会の役員さんたちが参加するというのが基本。ですが、渋谷で一番多い住民は20代、30代で、しかも圧倒的にマンション在住者が多い。そうすると町会などに入っていないので、情報が住民までたどりつかないのです。

また、渋谷区の人口は20万人くらいですが、毎年約2万人が入ってきて、約2万人出ていきます。人口の流動性も非常に高いのです。そういう地域で、防犯・防災対策の基盤となるような1つの関係性をどう作っていくか。それは誰もやったことがないテーマだと思います。要は都市におけるコミュニティの在り方を考え直そうということです。

こういった活動は、いわゆるPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)といわれる分野です。官と民がパートナーを組んで事業を行うという官民協力の形態は、欧米では普通に見られますが、日本では未開拓な分野です。ネーミング・ライツなどいくつかの手法として日本でも導入されてきてはいますが、本当に行政と民間とが連携して卓越した成果を上げたプロジェクトがあるかというとまだまだではないでしょうか。

シブヤ大学は、そういった位置づけとしても、これからどんどん成長して成果を出していきたい。「新しいことに挑戦する」「目的のために、みんながフラットに意見を言える」「価値観や職業、社会的地位を超えて、つながりをつくる」「こうした活動のなかから、新しい”学び”を得る」。それがシブヤ大学の原点であり、最大の魅力だと思っています。

WEB限定コンテンツ
(2011.12.22 神宮前の同社オフィスにて取材)

「We love 恵比寿音楽祭」の様子。プロのミュージシャンから合唱団、ハーモニカクラブまで、恵比寿にゆかりのある人たちが音楽を披露した。
写真提供:シブヤ大学、©佐藤隆俊

手前のパンフレットは「シブヤこどもフェスティバル2011」のもの。普段は大人が多い渋谷公園通りを”こどものまち”にするという試みで、地元の商店会と連携して行ったイベントだ。

左京泰明(さきょう・やすあき)

シブヤ大学学長。1979年福岡県出身。早稲田大学でラグビーに所属、4年次にはキャプテンを務め、全国大会準優勝を果たす。卒業後、住友商事株式会社に入社。2005年に同社退社後、特定非営利活動法人グリーンバードを経て、2006年9月、特定非営利活動法人シブヤ大学を設立、現在に至る。著書に『シブヤ大学の教科書』(シブヤ大学編、講談社)、『働かないひと。』(弘文堂)がある。 http://www.shibuya-univ.net/

 

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