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デジタル時代のフロンティアを探求する
バルセロナの独立系建築大学

[IAAC]Barcelona, Spain

スペインはカタルーニャ州、バルセロナにあるIAAC(Institute for Advanced Architecture of Catalonia/カタルーニャ先進建築大学院大学)。「来るデジタル時代においてIoTをはじめとする新しいテクノロジーがどのように建築やデザインの見方を変えるのか」という命題のもとに18年前に設立された小さな独立系大学である。この思想、考え方を強く打ち出した大学として世界中から注目される存在だ。

現在、生徒は世界60カ国以上から集まった約170人。生徒は5つのマスター・プログラムと1つのポストグラデュエート・プログラム(学部と大学院の間の準修士)に分かれて少人数で教育を受ける。IAACのプログラムの発展を目指したリサーチの領域で生徒とともにプロジェクトを進めることもある。「私たちにはチェンジメーカーを育てるという目標があります。生徒が卒業していくその時代で実際にチェンジを起こせる人材を」と語るのはIAACでアカデミック・コーディネーターを務めるマルコ・イングラシア氏だ。

他方でIAACは、トップダウン型のスマートシティから市民主導のボトムアップ型都市であるファブシティ(Fab City)への進化を強く推進するファブラボ・バルセロナの重要な拠点でもある。Learning by doingをモットーにしたファブラボのデジタル・ファブリケーションはIAACで学ぶ全ての生徒にとっての基礎的なインフラでもあるというわけだ。


IAACメイン校舎の外観。キャンバスはポブレノ(2カ所)とバルダウラにある。
https://iaac.net/

  • ポブレノ・キャンパスのメイン校舎は、もともとは陶芸製品を生産する工場だった建物。内部にはさまざまな研究室が並ぶ。

  • 校舎の中央にはオープンスペースがあり、イベントの開催、生徒の作品展示など多目的に利用される。

  • 生徒が使うファブスペース。この校舎はラボ兼ワークショップエリアであり、授業も行われる。ファブリケーションとアカデミアを分断させない環境だ。

  • 生徒たちの作品。生物からヒントを得たバイオミミクリーやパラメータを活用したジェネラティブデザインをテーマにしたものが多い。

  • ファブラボ・バルセロナのマネジメント・オフィス。

  • ファブラボ・バルセロナのファブスペースの一部。

  • ファブラボ・バルセロナのディレクターを務めるトマス・ディアス氏。IAACでは評議員会に名を連ね、マスター・プログラムの1つ、MDEF(Master in Design for Emergent Futures)のディレクターも兼任する人物だ。ボトムアップ型の新しい都市像「Fab City」を提言するビジョナリーでもある。

60カ国以上から集まった生徒たちが
6つのプログラムに分かれて建築を学ぶ

6つのプログラムについて紹介しよう。まずはIAACの中で最も古いMAA(Master in Advanced Architecture)だ。Advanced Architectureとはすなわち、「先進的な建築」。テクノロジーがデザインの手法をどのように変えていくかを理解しながら、従来とは異なるアプローチで建築を捉えることを目指す。全プログラムの中で最も多い約70人の生徒が所属している。

2つ目はMaCT(Master in City and Technology)。新しいテクノロジーが私たちの生活をどのように変えるか、都市をどのように変えるかを学ぶ。「ビッグデータ分析や新たなインターアクション技術まで、さまざまなリサーチ・センターと協業しています」(同氏)。バルセロナ全体を大きなラボと捉えてスーパーブロックのようなさまざまなプロジェクトを市役所と共同で進めており、市役所のシンクタンク的な役割も果たしているそうだ。

3つ目はMRAC(Master in Robots and Advanced Construction)。ロボットだけでなく、先進センサーやスキャナーなども扱う。同氏の言う「ロボットの役割とは何か。デザイナーの役割とは何か。デザイナーはこうした新しいツールと何ができるのか」を徹底的に考えさせる。

4つ目にMDEF (Master in Design for Emergent Futures)はモノのデザインから、インターベンション(介入)のデザインへのシフトを考えている。AI、ブロックチェーン、合成化学、デジタルファブリケーションといったテクノロジーの収斂を、構造的かつアクティビストなデザイナーと共に、現実世界に小さなインターベンションをデザインすることで、我々の時代の壮大なスケールの問題(Wicked problems)を一変させる。つまり、不確かな未来に推論的なナラティブを生み出すことを目的としている、5つ目に、IAACが森林の中に構えるバイダウラ・キャンパスで展開される、自然資源を活かした建築設計を学ぶMAEB(Master in Advanced Ecological Buildings)。そして6つ目が、建築の分野において3Dプリンターの用途を探るポストグラデュエート・プログラム、OTF(Postgraduate in 3D Printing Architecture)。ロボティック・アームを用いて実際に建物を3Dプリントするなどのプロジェクトを通じて新たな建築システムを探っている。


IAAC
アカデミック・コーディネーター
マルコ・イングラシア氏

  • アトリエ棟も、もとは工場だった建物だ。地上階はファブリケーションエリアになっており、ここでは授業が行われていた。

  • 同じくアトリエ棟の地上階には、マテリアル・ラボも。グラフェンなど最新のマテリアルに触れることができる。

  • アトリエ棟1階、生徒たちの作業スペース。

  • 同じく1階の作業スペース。オープンスペースになっており、ニーズによってレイアウトが変えられるようになっている。

Leaning by doingとエキスパートの
コラボレーション

これらのプログラムに共通する特徴、つまりIAACを定義づける特徴、それを同氏は「Learning by doingとエキスパートとのコラボレーション」だと言う。生徒は新たなテクノロジーを学び、既存の建築デザインをどのようにして変えていくかを考える。そして同時に、さまざまな分野のエキスパートとのコラボレーションを推進していくのだ。「建築家は全ての知識を持っているわけではありません。私たちの教育モデルでは、常に生徒たちに違った分野のエキスパートたちと会話をすることを強く奨めています」(同氏)。こうすることで新たなデザイン手法を育て、建築の新たなアプローチを切り開いていくことができるのだ。

建築を専門に学ぶ大学としてIAACは、やはり特殊なポジションを取っている。同氏曰く、IAACは「イノベーションを起こすことで建築というものを抜本的な変化を見る学校」なのだ。生徒は建築のバックグラウンドを持って入学してくる者がほとんどであり、これはIAACで学ぶ際の大切な基礎になっているという。「バルセロナにある学校は素晴らしいところが多いです。伝統的な手法を好む学校もありますし、IAACは新しい手法、新しいイノベーションにフォーカスした学校だということです」(同氏)。これも「チェンジメーカーを育成したい」という目的に沿ったものだ。

設立から18年を迎え、IAACは次なる段階を見据えている。「成長し続けていくこと、さまざまな問題に立ち向かっていくこと、新たなデザインのあり方の可能性を探し続けること、です」(同氏)。2018年度に新しく立ち上げたMDEF、MAEB、MRACの3つのプログラムを経てIAACは、これまでほかのプログラムになかったトピックを打ち出すことができた。同氏は続ける。「さまざまなリサーチ・センターとコラボレーションすることで、私たちはリサーチ・センター兼教育センターとして新たなトピックを強調し、それに対してプロジェクトを起こし続けていきます」。

text: Yuki Miyamoto
photo: Rikiya Nakamura

WEB限定コンテンツ
(2019.5 バルセロナにて取材)



自然公園に囲まれたバルダウラ・キャンパスに建てられたグリーン・ファブラボ。自然資源や森林と直接関わることを目的にした施設だ。自然と建築の共存について研究・実践を行っている。

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