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人と空間のデザインで、まちの可能性は広がる

企業はシビックプライド醸成の重要な担い手

[伊藤香織]東京理科大学 教授、シビックプライド研究会 代表

シビックプライドは市民の誇りを持って地域を良くしていこうとする当事者意識や自負心であり、これからの自治体運営では重要なファクターとなるでしょう。

まちのことは行政に任せっきりではなく、自分もまちを作っている一員なのだと想像してみましょう。地域の課題を指摘して解決を望む声をあげることはもちろん重要ですが、行政に一方的に苦情を言うだけの人が増えると、行政は萎縮してますます創造性が失われていきます。

自治体の財政状況が厳しさを増す中で、課題を前にして自分なら何ができるか、解決するためには何が必要かを考える想像力を市民1人ひとりが持つことが、まちを動かす力になっていくでしょう。自分の生活が良くなることとまちが良くなることは実は一緒。それを全ての住民が考えていけるようになるためにシビックプライドは大きな役割を果たすと思います。

住みたいまちの妄想から始まった「まちぐるみ旅館」

面白い事例に、香川県高松市の「仏生山(ぶっしょうざん)温泉・まちぐるみ旅館」があります。仏生山温泉の設計・運営を手がける建築家の岡昇平さんがこのことを言い始めた動機は、自分が楽しくし生活したいからだそうです。

岡さんはまち全体を旅館に見立てる「まちぐるみ旅館」構想を掲げています。お風呂は仏生山温泉に入り、食事は近所の食堂やカフェでいただき、寝泊りは温泉近くの宿泊スペースを利用するという具合です。それをずっと言い続けていたら、移住してきた人が雑貨屋を始めたり、洋服屋さんがおいしいパンを焼き始めたりして、妄想が実体化してきたと(笑)。

岡さんの場合、自分がそういうまちに住みたいという願望が原動力です。しかし、行政に「商店街振興をしてください」と要望するのとは違う方法を採りました。自分なりのビジョンを示すことで、結果的に地域を動かしていける仲間を増やしていったのです。

岡さんは構想力に優れた建築家なのでこういうことができました。誰もが同じやり方はできないかもしれませんが、それぞれが自分なりの方法でやってみれば良いのです。居心地がよくないなら、自分なら何ができるかを考えてみる。毎日道を掃き掃除するとか、お店の前に椅子を出してみるとか、ささやかなことから始めればいいですし、自分の仕事や趣味を通して得意なことから考えてみればいいのです。シビックプライドを持っていると、そのアイデアが湧いてきやすいし、それは自分の誇りとして返ってくるのだと思います。

アートは誰にとっても「分からない」、だから人をつなぐ

シビックプライドは市民のマインドから生まれるものなので、自治体が一方的に強要することはできません。また、市民の中で自発的にシビックプライドが芽生えたとしても、場合によっては当事者間で利害が相反して鋭い対立になるかもしれない。そういう場合は行政や第三者が介入して合意形成が必要になるかもしれません。

市民の共感を高めつつ利害をあおらないということでは、アートは役立つテーマでしょう。アート・ディレクターの芹沢高志さんに話を伺ったとき、各地でアートプロジェクトが立ち上がってアーティストが呼ばれたりするのは、「アートが誰にとっても等しく『分からないもの』であるからだ」とおっしゃっていたのが印象的でした。

例えば道路を造ろうとなると激しい議論になりますが、アートは一般の住民にとっても、お店を開いている人にとっても、政治家にとっても同じように「分からないもの」であり、だからこそみんなをつなぎ合わせることができるのではないかということです。

また、芹沢さんは「アーティストというのは感度の高いラジオみたいなものだ」ともおっしゃっていました。地域の良い面も悪い面も、住民が見過ごしているようなところを増幅して作品に仕上げる。ある意味、問題起こし屋なんですね。問題解決屋じゃなくて(笑)。でもそういう視点があればこそ、新しいものが見出されることもあるということです。


東京理科大学 伊藤香織・都市計画研究室では、デザインを通して都市のあり方を提案。自分たち自身が積極的にまちに出て都市の可能性を引き出していく。
シビックプライド研究会ではシビックプライドとコミュニケーション・デザインについて国内外の事例を研究するとともに、日本の自治体などへの提案や調査も行っている。
http://www.rs.noda.tus.ac.jp/~i-lab/


仏生山温泉のウェブサイト。
http://busshozan.com/

企業の従業員は地域としても資産。
協働でシビックプライドを高めていく

シビックプライドを育むにあたっては、地域の企業も大きな役割を果たします。地域は産業がないと成り立ちません。税金を納めることで地域の財政を支えているし、働く場所を提供することで雇用も生み出します。地域の価値づけの担い手でもあるわけです。

特に、働き方や生き方、住まい方の柔軟性が増している昨今では、いい働き方ができるところに人が集まってくる傾向があります。ですから企業には目先の利益だけでなく、従業員の働き方と住まい方の関係をどうとらえるか、そのあたりも視野に入れてほしいですね。

住宅はもちろんのこと、例えばお昼ご飯を食べる場所もそう。街に出て周辺の飲食店を利用してくれたほうがいいこともあるでしょうし、昼時にわっと人が繰り出されると困るところもあるでしょう。周辺地域の状況次第では、例えば自社ビルの1階をオープンカフェにして、地域の人も利用できれば街全体が潤うことになるかもしれません。

人の動きをデザインして外部との交流を図る

人が大勢いることは企業にとっても資産ですが、地域にとっても資産なんです。従業員が日々仕事だけに終始するのではなく、何かしらの形で地域との関わり方ができるような仕立てがあるといいですね。そういう意味で、人の動きをどうデザインして、外部とどのように交流させるかという点は工夫の余地があると思います。

もう1つ、空間の使い方もいろいろ考えられるでしょう。例えば長野県諏訪市の「片倉館」は、国指定重要文化財の西洋建築と日帰り温泉が楽しめる施設です。ここはかつて製糸業で栄えた片倉財閥が、地域住民に厚生と社交の場を供するために建設したものです。今では遠方からも見学者が訪れるなど諏訪の名所の1つとなりました。

食堂や商店だけでなく、建物自体が空間の価値を作ることも可能であること、また民間と地域が協同することでシビックプライドを高めていることを示す事例だと思います。

公共空間を自分なりに使いこなしていく

いろいろお話ししてきましたけど、では自分はシビックプライドをもって何かやっているのか、というところで、最後に自分の活動に触れたいと思います。

私は「東京ピクニッククラブ」というアーティストやデザイナーのグループを共同主宰しています。国内外のいろいろな都市で公共空間の創造的な利活用を促すプロジェクトを行っていますが、自分たち自身も東京のあちこちでピクニックをしています。これは、東京の公共空間を私たち住民にとってもっと身近で使いこなせる場所にするための活動です。公園だけでなく、例えば公開空地などでもピクニックをしてみることで、その場所の魅力を見出したり、逆に不自由さに気付いたりします。

こういう活動を通して公共空間とは何か、誰のために、どんな目的のためにあるのかということを問うていきたいですね。やってることはピクニックなんですけどね(笑)。

1人ひとりがまちの空間を自分なりに使いこなしていく姿勢を持つと、自ずとまちは変わっていきます。かといって、どこでも身勝手に使えるかというとそれも違う。市民の権利と責任は表裏一体であり、何かしたい時には自分でも責任を持たなければいけません。シビックプライドを考えることはパブリックのあり方を考えることでもあるのだと思います。

WEB限定コンテンツ
(2016.6.28 千葉県野田市の東京理科大学 野田キャンパスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri

片倉館のウェブサイト。
http://www.katakurakan.or.jp/


東京ピクニッククラブのウェブサイト。都市居住者の基本的権利として「ピクニック・ライト」を主張し,社交の場としての都市の緑地や共有スペースの利用可能性を追求する。 http://www.picnicclub.org

伊藤香織(いとう・かおり)

1971年東京都生まれ。東京大学大学院修了、博士(工学)。東京大学空間情報科学研究センター助手などを経て、東京理科大学教授。専門は、都市空間デザイン/空間情報科学。著書に『シビックプライド――都市のコミュニケーションをデザインする』『シビックプライド2【国内編】――都市と市民のかかわりをデザインする』(監修、宣伝会議)、『まち建築:まちを生かす36のモノづくりコトづくり』(共著、彰国社)など。まちの活性化・都市デザイン競技で国土交通大臣賞(2012年)などを受賞。2002年より東京ピクニッククラブを共同主宰し、公共空間がもっと創造的に使いこなされるためのプロジェクトを国内外の都市で開催。2014年にグッドデザイン賞受賞。

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