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複眼思考で顧客企業内のギャップを埋める

施設戦略の策定に必要な要素とは

[川原秀仁]株式会社山下ピー・エム・コンサルタンツ 代表取締役社長

山下ピー・エム・コンサルタンツ(以下、山下PMC)は、施設を確かな経営資源とすべくCM(コンストラクションマネジメント)事業を展開しています。

施設建設を検討している事業主は、その施設を通して何を実現しようとしているのか。それを事業戦略にひもづいた施設戦略として明確化し、設計・施工へと導くのです。

事業への思いや施設への期待は経営者や現業の方々の間で食い違うことがありますし、また発注者である事業主と受注者である設計・施工側の利益についても相反する面があります。そこで経営も建築も知り尽くした我々が間に入って、施設戦略の全体最適に向けてサポートしていくわけです。

本部ビル改修プロジェクトを通して自らの強みを再認識

では、どのように施設戦略を立て、それを形にしていくのか。当社の事業推進本部長の木下雅幸と実現した事例を交えながら具体的に説明しましょう。

組織の優れたブランド力を建物として体現し、ブランディングやマーケティングにつなげた例として、一般財団法人ボーケン品質評価機構(以下、ボーケン)の東京本部ビル改修プロジェクトが挙げられます。

エントランスホールのデザインを検討にあたって、自分たちの強みや個性をより強調したいという意見が出されました。そこで、繊維関係の品質検査機関という事業の取り組みそのものを施設で表現すべく、「布をイメージさせるメッシュ膜材を天井に利用するのも面白いかもしれません」とお伝えしたんです。

こちらからの発言や問いかけは非常に気を遣うところで、お客様から提案を求められればもちろんそうしますが、要求されていないのに一方的に提案すると先方のアイデアや思いをゆがめてしまうことがあります。このときはボーケン内で方向性を決めかねているような雰囲気があったので、メッシュ膜材も選択肢にあり得ることをさらりと示したわけです。

すると、それがぴたりとボーケンさんの意向にはまったんですね。霧の中にはっきりした道筋が見えた感じで、「そうだ、自分たちが求めていたのはこれだったんだ」という具合に議論がまとまっていき、色合いなどはみなさんで協議して決められました。

メッシュ膜材は建築材料としてそれほど実績があるわけでなく、我々としてもある種のチャレンジではありましたが、結果的に布の柔らかさ、しなやかさに包まれるような素晴らしい空間になって喜ばれています。

外部から見た強みをクライアントに伝えることで、自社の社会的価値を再発見する、ボーケンのようなこうしたケースは決して珍しくありません。東京本部ビルというシンボリックな建造物のデザインを通じて、自分たちが事業を通して何を社会に提供しているのか、他にない強みは何かという自らのアイデンティティを再認識し、それを強みとしてより際立たせることができた。マーケティング機能の強化やブランディングの向上まで実現した事例と思います。

施工側の自由裁量の度合いをコントロールする

発注者である事業主の満足はもちろん、受注者である設計・施工側にやりがいや手応えを提供することもまた我々の任務です。それにより設計・施工側の意欲、知見、ノウハウを引き出すことができ、結果的に高品質、低コスト、短工期での建設が可能となるからです。その手法として性能発注* があることは前編で説明した通りです。

自動車部品製造を手掛けるA社の案件では、開発から生産までの一連のバリューチェーンを研究する施設の建設プロジェクトでCM業務を担当しました。

A社では新築棟と改修棟を全体で一体化したい、また短工期でスピーディーな建設を実現したいという意向をお持ちでした。となると、全体を物理的に建造物でつなぐのが得策と思われ、当社からは各棟をつなぐ大階段のイメージをパース(完成予想図)を交えて提案。基本的に了承をいただきました。

施工側への発注内容において抽象度のバリエーションをコントロールできるのが性能発注の利点ですが、施工側にどこまでを枠として設定し、どこからを自由裁量とするかの線引きは微妙で、ここはプロジェクトごとに考え抜かなければならないところです。その難しさがあるからこそ我々山下PMCの存在意義が出てくるわけです。

設計・施工側にパースまで見せることは設計の自由度を狭めることになりますが、このプロジェクトではあえて手の内を見せ工期短縮を図りました。一方で構造や基礎の工法など技術面での裁量を大きくし、独自性を発揮してもらったのです。

通りいっぺんの発注書では技術者は動かない

設計者・施工者は金銭的な報酬だけで動くのではありません。プロ意識やプライドをくすぐることも極めて重要なファクターだと考えています。それにはお客様のビジョンを明確化したい、技術的にチャレンジしがいがあるといったプロジェクト自体の面白さを我々が伝えていかなければなりません。口頭で言うだけでなく、それを発注書の中にちりばめていくのです。

単に工場を造ります、研究所を造りますと書いてあるだけではつまらない。通りいっぺんの発注書ではないものをプロジェクトごとにカスタマイズして設計・施工側に提示すると、職能的に本気でやるし、いいものを自分でも造りだしたいので本当に一生懸命取り組んでくれます。技術的にちょっと難しい課題であっても意欲的につかみに来てくれます。

A社のプロジェクトでは、設計・施工側の提案を元にプランを再構築し、最終的には階段の位置や形に多少の変化は生じたものの、基本コンセプトを実現する施設ができました。設計者の工夫で当初の大階段のアイデアはふくらみました。光あふれる大階段、上った先の屋上のガーデンテラスと、さらなる立体的なつながりが提案され、お客様からのより高い評価につながりました。

工期はお客様の希望通りで、しかも設計・施工側の能力を引き出してプラスアルファの価値をもたらすことができたわけです。できあがりのユニークさ、美しさから見学者も増え、特に得意先の方々が足を運んでくれるといううれしい効果がもたらされています。国内外の開発・生産・販売のリーダーが集まる施設ででもあり、イノベーションやマーケティング、ブランディングにも寄与する一大拠点となりました。


株式会社山下ピー・エム・コンサルタンツでは、新規事業や保有施設の問題を事業主目線で解決するコンストラクションマネジメント業務を展開している。1997年設立。社員数100名(2016年2月現在)。
http://www.ypmc.co.jp/

一般財団法人ボーケン品質評価機構は、繊維を中心とした試験・研究を行う日本を代表する中立かつ公正な総合的試験機関。1948年設立。
http://www.boken.or.jp/


ボーケンのエントランスホール。天井からメッシュ膜材を吊り下げている。(写真提供:山下PMC)

* 性能発注
発注時に性能を示し、施工側の自由裁量度を高めながら建設コストや工期を早期に把握する手法。

本当の課題は工場の刷新でなく
差別化の源泉となるコア技術の継承

施設戦略の検討を通して事業戦略の再検討を図り、結果として主力製品の製造を外部委託するという大胆な改革を断行した企業もあります。製造業のB社です。

きっかけは社内で工場の建て替え計画が持ち上がったことでした。しかし経営層の一部が「本当に建て替えは必要なのか」と違和感を抱いて、我々にCM業務を依頼されたのです。

経営層や現業の方々のディスカッションを何度も重ねたところ、工場の建て替え計画の裏に隠れた本当のニーズ、もっと言えば会社として目指す将来像が見えてきました。いま本当に取り組むべきは工場の単純な刷新ではない。差別化の源泉となるコア技術の継承だということに気づいたんです。それにより事業戦略と施設戦略の主眼が本業の現状維持から、将来の布石となる新ビジネスの創造へとシフトしました。

それ以降、自社のコア技術は何か、それを次代へ受け継ぐには何をどうすればいいのか、必要とされる施設は何なのかといったことをテーマに我々をファシリテーターとして徹底した話し合いが行われ、最終的に要るもの、要らないものを明確化して施設戦略に反映したのです。工場を建て直して3万平米くらいの施設を造るという当初の計画は大きく覆り、1万平米規模の研究開発施設の建設へと様変わりしました。

現在の主力製品の生産はコア技術ではないので、思い切って受託生産にスイッチするという大きな決断が下されました。そして、規模の見直しから生み出した資金の一部を活用して人を育て、コア技術を継承する実験生産のミニライン、外部の産官学のネットワークのメンバーが気楽に集い情報のハブとなるスペース、さらにともに研究するスペースなどを設けました。これらを通して全く新しいイノベーティブな製品開発を加速する、これまでにない施設の姿を導き出しました。

この間、我々は聞き役に回るだけでなく、10年を超える長期プロジェクトを成功させるため、市況の変化などが起きた際にもこのプロジェクトが経営上の大きなリスクとならないように、いつ、どこで生産ラインを止めたらどんな課題が発生するかも細かく分析して、意思決定の参考にしていただきました。状況やフェーズに応じた課題を見える化したわけです。

CM業務では複眼的な思考が欠かせません。地道で泥臭い検討を抜きにしては経営者にウンと言っていただくことはできませんし、将来に渡る事業継続を見据える経営層と日々の業務という短期目標を追求する現業の意識のギャップを埋めることもできません。全社的な合意形成を経たうえで、事業戦略、そして施設戦略を固めなければ、いずれどこかでひずみが生じて組織内に軋轢を生みかねません。

このケースで、技術の継承に取り組むべきだとか工場用地に3万平米も要らないといった答えは結局お客様自らが持っていたんですね。我々はそれを引き出しただけ。でも腰を据えてお客様と対峙したことで、それを引き出すことができたのだと思っています。

想像力と創造力で事業主の希望を建築に置き換える

経営トップの意向が極めて明確だったのが、ある地銀本店の新築プロジェクトです。頭取が「敷地の一角に神社をつくろう」とユニークな提案をされ、最初は行員のみなさんも目が点でした。「頭取は何を言っているのか」という白けたムードが漂っていたんです。

でもこちらが興味を持っていろいろ聞くと、決して宗教施設を造りたいわけではない。縁起のいい地名を武器に人が集まるような仕掛けを施して、地域経済を活性化したいというのが頭取の真意と分かりました。

その思いをすくいあげて企画にまとめたところ、頭取は「そう、そういうことがしたかった」、行員のみなさんは「それなら違和感がない」ということで企画が固まりました。いまは設計フェーズに入っていますが、うまく進行しています。

突飛な発想も否定することなく耳を傾けて、どうしたら面白く変えられるか、実際的な価値を付与できるかを考える、そういう姿勢の重要さを示した事例だと思います。木下は「ひらがなの『そうぞう力』が大事」と後進に説いています。想像力と創造力の両方を使って建築に置き換えるわけで、これも我々が常に心得ておかねばならないことと言えるでしょう。

いろいろ事例をご紹介してきましたが、施設戦略の策定では事業における施設の目的を絞り込み、建築の言語に落とし込むまでが極めて重要です。

お客様との密なコミュニケーションを通して、ある程度イメージを提示したとしてもそれは模範解答に過ぎないかもしれず、そこからデザインや実際の建築物として本当に昇華するのは設計者であり施工者です。彼らが気持ちよく仕事できるようにバトンを渡し、そして最後までプロジェクトの成功のために支援する。それが我々の使命なのです。

WEB限定コンテンツ
(2015.12.4 中央区の山下ピー・エム・コンサルタンツ オフィスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Tomoyo Yamazaki

川原秀仁(かわはら・ひでひと)

株式会社山下ピー・エム・コンサルタンツ代表取締役社長。1960年佐賀県生まれ。大学卒業後、農用地開発/整備公団、JICA等を経て、山下設計に入社。1999年より山下ピー・エム・コンサルタンツの創業メンバーとして参画し、国内のCM(コンストラクションマネジメント)技術の礎を築く。メガプロジェクトを中心に代表的CMプロジェクトに従事し、近年は事業創造や事業戦略策定の支援、CRE/PRE戦略を群単位で解決する業務など、幅広い領域の総合マネジメント業務を展開している。‎

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