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日本企業が「新しいこと」に挑戦できない理由とは?

イノベーションを育むハイブリッド・マネジメント

[濱口秀司]Ziba戦略ディレクター

大企業においてイノベーションがなぜ難しいのか。あらゆる経営者がその必要性を認識しているにも関わらず、自社のビジネスを革新する動きはなかなか生まれてこないものです。

私は米国ポートランドにあるデザインコンサル会社「ジバ」で戦略ディレクターを務めています。その業務がら、大企業の悩みやジレンマによく直面します。資金力もリソースもネットワークも潤沢な大企業で、なぜイノベーションが生まれにくいのか。今からその理由を解説します。でもその前に「イノベーションとは何か」について整理しましょう。

そもそも「イノベーション」とはどんなものか?

イノベーションとはビジネスに革新をもたらすものだ、とよく言われます。その厳密な定義は何でしょうか。面白いもので、例えば、ここに偉い学者を5人連れてきたら、5人ともイノベーションについての異なる定義を口にします。「継続的何とかをするための新しい何とか」であるとか、「技術的有意に基づく……」とか、難しいことをおっしゃるのです。

この「イノベーション」という言葉の定義は曖昧で、定義者の立場や研究内容、実績によって異なったものになります。語るコンテキスト(文脈)に差があるため、定義を明確にしにくい。しかし、ビジネスの現場で、誰かが持ち込んできたアイデアについて、「それがイノベーションであるか?」という判別は簡単にできるのです。

具体的に次の3つの条件を満たすものならば、イノベーションである、と言えるでしょう。

一つめは、something new。それが「見たことも聞いたこともない新しいもの」であること。例えば、私がポケットから何かを取り出して「こういうものなんだけど」と言って見せたとき、周囲の人が「あ、それ、聞いたことある」「何かの本に載っていた」と反応するものだとしたら、それはイノベーションではありません。耳にした瞬間、「えっ? えっ?」と戸惑うものでなければいけない。これが第一の条件です。

二つめは、doable。それが「実行可能なもの」であること。例えば、私が胸ポケットからペンを取り出して、このペンをこう組み立てて、今から月まで到達しましょう、と言ったとします。たしかに「うわっ、聞いたことない」という反応が返ってきますが、実行不可能です。ビジネスに与えられた時間の中で、それはとても達成できない。もし2万年与えられたとすれば、できるかもしれないですが、今すぐはできません。だとすればそれは夢物語です。事業計画の上で実行可能でなければならない。これが第二の条件です。

イノベーションは常に「議論を呼ぶ」ものである

三つめは、controversial。三つの条件のうちこれがもっとも重要で、それが「議論を呼ぶもの」であること。そのアイデアを見たときに、みんなが「おーっ」とポジティブに反応して全員が賛成というならば、残念ながらイノベーションではない。逆に、みんながネガティブに反応して、一斉に反対を唱えるものもイノベーションではない。すなわち、アイデアが新しくなればなるほど(ちょっとした新しさはイノベーションではないので)、私たちが無意識に縛られている考え方(=認知バイアス)から外れていきます。

例えばペンにしても、普通はこのサイズだと認識しているところに、「そうじゃなくて、こんなに小さいです」と10分の1のものを見せれば、「えっ、何それ?」となる。認知バイアスから外れることが絶対に必要なのです。そして認知バイアスから外れたものを見ると、人間は合意できない。

何が起きるか分からないから、「それ、売れるんですか」と経営者が質問したときに、売れると言う人もいるし、売れないと言う人も出てくる。それこそが不確実性の証です。このように「いいも悪いも判断できず、議論が起きること」。それが第三の条件です。

Ziba(ジバ)は米国ポートランドに本拠を置くデザインコンサルティング会社。プロダクトデザインだけでなく、ブランド戦略からイノベーション、思考・発想の仕組みまで総合的なソリューションを提供する。
http://www.ziba.com

→WORKSIGHTの記事はこちらから

合議制によるマネジメントは
社員のアイデアを潰す

ここまでの説明でお気づきになったでしょう。イノベーションに対して大企業が抱える問題の一つは、「人はイノベーティブなものには簡単に合意できない」ことから生じるジレンマです。

一般に、大企業には二つの運営方法があります。合議制とカリスマ制。前者は全員一致をみて決議するやり方、後者はスティーブ・ジョブズのような人物が独断的に決議していくやり方。比率からいえば、全世界の企業の多くが合議制で、日本はとくにその傾向が強い。

たとえ社長であっても合理的に話をしなければいけないし、そのうえでみんなが納得しなければならない。ですから、すごく新しいアイデアが持ち込まれたとき、社長はやりたいと思っても、ほかの役員が合意しないので具体的に動けない、ということがよく起きる。合議制である限り、イノベーションは起こりづらいのです。

ロジックとカオスのハイブリッド人材が理想だが……

ごく簡単にいえば、これを回避するには、合議制からカリスマ制に切り替えればいい。スティーブ・ジョブズのようなカリスマに会社を引っ張ってもらえば、あらゆることがスピーディに決まるでしょう。でも、カリスマは滅多に出てきません。そうした人物を見つけて、経営を託せた場合はラッキーですが、現実的には、別のやり方を探す必要があります。

合議制とカリスマ制の二択とは異なる、新しいやり方に注目しています。一見、合議制でありながら、よく分からない不確実性に直面したときは、賛否両論を超えて実行を検討できるという手法です。まだ、あまり成功例はないのですが、大きな可能性を秘めた第三の選択肢です。

この第三の選択肢を理解するためには、ある前提を知っておかなければなりません。それは「イノベーションの善し悪しをジャッジするには高度な判断力が必要」ということ。つまり、人間のクリエイティビティが極限の状態に達していないと、見誤ってしまうものです。カリスマならば一人の人間で可能なことかもしれませんが、カリスマ不在の多くの組織では、この状態を意図的に作り出すことが不可欠です。

組織内に擬似的なハイブリッド状態を作る

一人のときでも、集団でいるときでも、人間がイノベーティブなものを生み出せる瞬間には共通のモードがあります。一言でいえば、左脳的なロジックと右脳的なカオスのちょうど中間にある状態。

グループワークを例にとれば、「きっちりディスカッションしましょう。今から一人1分間ずつ喋ってください。ポイントは三つでまとめること。要点は黒板に書きましょう」というきっちりモードと、なんとなくメンバーが集まって終わりの時間もテーマも決めずに笑い話をしているぐだぐだモードがあったとしたら、クリエイティビティーが高いのは、その真ん中のあたり。求められているのはハイブリッドなモードです。

しかし残念ながら、デフォルトでバランスよく、ロジカルで、でもちょっと適当という人は本当に少ない。人口分布を見ても、そこに位置する人間はごく少数。何となくロジカルに考える人と、何となく適当に考えたい人が大部分なのです。

そして、これが下図のような典型的な人口分布である限り、大企業の中もこの二つのグループに分かれます。この真ん中のスイートスポット、イノベーションを生める人が少ないことは、大企業で合意形成が難しい構造的な理由です。

社内のイノベーションを育む
第三のマネジメント手法

単純に言えば、ハイブリッドなモードの社員が少ないのなら、そうした人を増やせばいい、ということですが、そもそもの絶対数が少ないわけですから難しい。解決策としては、集団の力で、擬似的にハイブリッドなモードを作り出せばいいわけです。

ロジックとカオスの両極でいえば、カオスの側からアイデアが生まれたり、見つけられたりします。カオスタイプの人が「こんなのどうだろう」と思いつく瞬間にチャンスがあります。ロジックタイプの人が既存のフレームワークから考えるよりも、認知バイアスを超えるには直感が有利に働きます。

そこからが重要です。合議制の大企業において、経営判断する人間はロジックの側から多く抜擢されています。そして、ロジックの人とカオスの人では、使う言語がそもそも違うので、話がかみ合わない。カオスの人が「こんな感じで面白いんだ」と言っても、ロジックの人は「それはコストがいくら掛かってどのくらい儲かるのか?」と聞いてくる。ここで橋渡しできないのために、せっかくのアイデアが活かされないのです。

リスク管理、投資戦略などの経営手法を学んでおく

イノベーションである確率が高い、不確実性が高いアイデアを前にして、議論が平行線になっているとき、意思決定者(経営者)はどうするか。定量的な実証を要求するロジック側の人間に対してどうやって通していくか。合議制でもなくカリスマ制でもない、第三のマネジメントのポイントはここにあります。

まず一つめは、経営者はロジックとカオスの言語が異なることを正しく理解したうえで、すごくイノベーティブなものは数量的に判断できないし、議論が紛糾するものだと腹をくくること。その前提で何らかの方法で決めていくしかない。よく分からないけれど、事業のポートフォリオ上、やってみようという発想です。そうしたハンドリングを経営手法として学んでいくことが大切です。

二つめは、それを実行することになれば、カオスのざっくりとしたやり方だけではいけない。大きな火傷をしてはならないから、例えばリスクマネジメントも必要だし、いきなり大きなものを投資する判断は難しいので、小さく始める方法もある。さらに、途中でダメになったときに逃げるスキームも不可欠。それは経営手法でロジカルにやるべきことであり、そういうスキームをちゃんと入れて実現していくことが重要です。

賛否両論の不確実な状態でもしっかりとドライブする

三つめは、経営者はコミュニケーション方法を学ぶことです。新しいアイデアを提議してきた若者がいたら、それに対して数字でつぶしたりしない。「それが起きたら業界の不確実性は上がるんですか」と聞く。「従来のスコープはどう定義されていて、この新しい発想はスコープをどう変えるのか?」とか、そういう確認をする方法もあります。

「目的レベルが上がる」「スコープが大きくなる」「従来と違うスコープを定義する」など、切り口が鋭いものであれば、それを役員会で発表したとき、賛否両論の真っ二つに割れる。経営者としては、「これはいいサインだ」とわかる。あとは、この不確実なものをどうドライブして事業企画にしくかを考えていく。これは意思決定のプロセスとしてきちんと構築していけばなんとかなります。

イノベーションを目指す大企業にとって、合議制の壁は大きく立ちはだかりますが、だからといって、カリスマの登場を待つこともまた、難しい。そうしたなかで、イノベーションを起こしていくには、ハイブリッドな意思決定のモードをいかに社内に構築していくしかありません。

しかし、このことに気づいた日本企業から先に、ブレイクスルーをしていけるはずです。不確実性のマネジメントこそが、成長戦略に行き詰まる多くの日本企業が採るべき選択です。

WEB限定コンテンツ
(2012.7.27 渋谷ヒカリエ8階にて取材/取材協力: Creative Lounge MOV)

2012年8月24日、近未来の働き方と学び方をテーマにした研究機関「WORKSIGHT LAB」が開設されたのに伴って濱口秀司氏の特別講演が渋谷ヒカリエで行われた。
→WORKSIGHT LAB.についてはこちらから

濱口秀司(はまぐち・ひでし)

大阪府生まれ。京都大学卒業後、松下電工に入社。研究開発や戦略投資案件の意思決定分析担当などを経て、1998年に米国のデザインコンサルティング会社Zibaに参画。USBフラッシュメモリなど様々なコンセプト作りをリード。パナソニック電工米国研究所の上席副社長や、米国のベンチャー企業LUNARR社COOなどを歴任。2009年Zibaにリジョインし、現職。ドイツRedDotデザイン賞審査員。

 

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