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二子玉川という地域に根ざしたバウンダリーオフィスの実験場

組織の枠を越えた共創空間という考え方

[カタリストBA]世田谷区, 東京, 日本

1社単独でイノベーションを起こしていくことに限界を感じる企業は多い。市場のニーズがどんどん多様化・複合化していくなか、自社のリソースだけでそれに応えることは容易ではない。むしろ課題ベースで、社外のさまざまな組織や個人とつながり、イノベーションのヒントを模索する動きが主流になりつつある。これがいわゆるオープンイノベーションの考え方だ。

とくに地域活性や都市開発など、多くのステークホルダーを巻き込んで行う領域ではその傾向が顕著である。大資本を持つ一企業がマスタープランを描き切れる時代ではなくなった。分野や業種を超えて才能同士が連携できなければ、インパクトのある事業は起こせない。

オープンイノベーションを実現するための拠点

IT 技術の発達により、時間と場所を越えたクラウド上でコミュニケーションが可能になったとはいえ、知恵と知恵を集めて、コラボレーションしていくには十分ではない。その協業のプロセスはまだまだ発展途上の段階にある。とくに高度なイノベーションを要求するプロジェクトにあっては、リアルの空間での情報共有や議論が不可欠だという指摘も多い。

だが、多くの企業ではセキュリティ上の制約から、社外とのリアルな接点を持ちづらい状態だ。もちろん、フォーマルな会議を通しての合意形成は可能だが、そこでは誰もが腰を据えて主体性を発揮できなくなるリスクもある。

そうした中で注目されてきたのが、バウンダリーオフィスと呼ばれる中間的な共創空間だ。個別企業の会議室ではなく、また単なる貸しオフィスでもない。特定のタグで結ばれたステークホルダー同士が自由に出入りできて、そこで交流したり、協働できる新しいオフィス。2011年4月に二子玉川ライズ・オフィスにオープンした「カタリストBA」は、日本におけるバウンダリーオフィスの実験場といえる。

分野や業種を越えた才能が協働できる場を作る

今、まさに再開発が進む二子玉川は、「新しい働き方/暮らし方を発信し、持続的に成長する都市」=クリエイティブシティのモデル地区として多くの企業から注目されている。約80社(2012年8月現在)の企業が集まって作られた「クリエイティブ・シティ・コンソーシアム」は、二子玉川で新しい協働の可能性を探っている。

興味深いのはこの約80社がそのネットワークのみで閉じず、二子玉川というタグで結ばれた多くの組織や個人に、対話・協働の可能性を広くもちかけている点だ。多様化・複合化する課題に挑むには、企業連合の組織力をもってしても足りないという問題意識がある。実際、カタリストBAはコンソーシアムのメンバーに限らず、広く地域企業やフリーランス、住民や学生などが気軽に立ち寄れる場になっている。

もちろん、単に出入り自由な空間であるだけではない。全会員の交流会(クリエイティブミーティング)や、クリエイターを含めた創発促進のための交流会(オープンラボ)、会員企業や社会起業家、有識者によるさまざまな勉強会やワークショップなど、「知の交差点」としての役割を担うための制度インフラが揃っている。

二子玉川は東京・世田谷区に位置する、東急田園都市線・大井町線の「二子玉川駅」を中心とするエリア。
渋谷まで電車で10分の好立地。
http://catalyst-ba.com

バウンダリーオフィス
組織の境界線上に設けられた、組織の枠を越えた活動のためのオフィス空間のこと。物理的にも中間的な場所に置かれる。

常時そこに集まる「住人」を介して
クリエイターを巻き込んでいく

バウンダリーオフィスは空間インフラとしても高度な機能を備えているのが特徴だ。このカタリストBAは駅から直結するオフィス棟の中に416.61m²(126.02坪)の広さを持つ施設。「スタジオ」「コネクティブキッチン」「ツールラボ」「アウトドアサロン」「コラボレーションオフィス」の5つのセクションからなる。

「スタジオ」は最大100人規模のセミナーやワークショップを行える360度の円形スペース。施設の中央にあり、ここでの知的活動が周りを囲む4つのセクションに刺激を与える。「コネクティブキッチン」はエントランス近くにある文字通りの”キッチン”スペース。デジタルサイネージやコミュニティLANを置くなど、軽食をとりながら自然な交流ができる。

「ツールラボ」はカタリストBAの会員が研究開発中の機材や商品を持ち込み、他の会員や地域住民に触ってもらいながら商品開発のアイデアを練るスペース。「アウトドアサロン」は室内に作られた自然景観スペース。窓の外にみえる多摩川の風景を楽しみながら、会員同士がリラックスした雰囲気で語り合うことができる。

ここにはライブラリーやバーの機能もある。「コラボレーションオフィス」は会員制のシェアオフィス。ブースタイプ、シェアタイプ、ノンレジデンスの3種類がある。フリーランスや小規模企業が日常的にここで仕事をしている。

入り口にある「ハニタッチサイネージ」。ICカードをタッチすることで手軽にカタリストBAとつながることができる。

  • 360度スタジオ。カタリストBAの中心にある円形スペースで、日常的なミーティングからセッション、グループワークまで多目的に使える。

  • コネクティブキッチン。エントランス近くにある空間で、大きなキッチンテーブルを囲みカジュアルにコミュニケーションをとることができる。

  • ツールラボ。会員が研究開発中の機材を持ち込み、他の会員や地域住民に使ってもらいながら商品開発のアイデアを得るための場。

  • アウトドアサロン。多摩川の景観を楽しみながら会員同士がリラックスした雰囲気で語り合うための場。

  • ミーティングルーム。会員はGoogleカレンダーを使って予約をすれば、いつでも使える。

  • コラボレーションオフィス。会員制のシェアオフィスで、ブースタイプ/シェアタイプ/ノンレジデンスの3種類がある。

クリエイター向け
シェアードスペース『co-lab』

バウンダリーオフィスの可能性を探るとき、非日常的にそこを活用する組織ばかりでなく、常時そこにいる組織や個人がいることが重要だといわれる。彼らが媒介となってインフォーマルなコラボレーションが起こることも期待できるからだ。

このコラボレーションオフィスは、インディペンデントに活動するデザイナーや建築家、アーティストなど異業種のクリエイターのためのシェアードスペースを展開しているco-labと共同運営している。一般企業だけでなく、こうしたクリエイターたちを巻き込むことで、より従来の枠を超えたイノベーションの機会が生まれる。

このようにカタリストBAではオープンイノベーションを「ソーシャルイノベーション」と「ビジネスイノベーション」の両輪でとらえている。二子玉川のような、生活と仕事と遊びがゆるやかに混在する田園都市が持続的に成長するためには、どれだけ多様な価値観、アプローチを用意できるかがカギ。セクターの壁を越えて交流することの重要性は旧来からいわれてきたことだが、今ほどそれが切実な課題となっている時代はない。そして、それがスローガンに終わらず、プロセスとしても持続可能なものであるためには、このカタリストBAのようなバウンダリーオフィスの存在が不可欠といえるだろう。

WORKSIGHT 01(2011.10)より

カタリストBAはさまざまなコラボレーションに使われ、初年度は110のイベント・プログラムが開催され、3つの社会実験プロジェクトが生まれた。上の写真は、画像を自在に編集できるコラボレーションツールの実験の様子。

 

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