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洗練されたビジネス・テイストに
家のような温もりを

[Blend]San Francisco, USA

 住宅ローンの審査を簡素にするサービスを金融機関に提供しているブレンド。事業の急成長に伴いオフィスが手狭になった彼らは、2ブロック先に新しいオフィスを構えた。この地区のテック系スタートアップが多く集まるサウス・オブ・マーケット地区(SoMa)ではなく、金融街の一角を選んだところが、フィンテック企業のブランディングの妙である。

 彼らは新オフィスに移転するにあたり、こう考えた。オフィスを訪れるクライアントは、アメリカ最大手の銀行をはじめとする、金融機関のエグゼクティブたちだ。彼らを迎えるオフィスには、カジュアルさよりも格調高さを求めたい。インテリアも、そうした富裕層に見合ったエレガントなものに。若きスタートアップでありながら「顧客が当社と我々の仕事に対する好感を持ってくれるよう、ある一定の優雅さは保ちたかった」(デザイン部門長を務めるトネス・ポーター氏)のだ。その一方で、「家」のような温もりと親密感を共存させなければならない。なぜならブレンドの事業の核には、家がある。そして経営哲学は「住宅ローンを申し込むことを、素晴らしい経験に変えること」。家の温もりとオフィスを、切り離すべきではない。

 驚くべきことに、O+Aは最初のミーティング、最初の会話で、ブレンドがやりたいことのすべてを探り当てた。ブレンドがどんな人間の集まりか、ブレンドが何を意味するか、ブレンドが向かう未来などについて知ろうとした。そうして、「格調高さと温もり」という2つを絶妙のバランスでオフィスに落とし込んだのである。

 「すべてのプロセスが喜ばしいものでした」とポーター氏は当時を述懐する。実現不可能に思える突飛なアイデアがO+Aから提示されることもあったが、それすら、ブレンドの意向に沿うものだった。例えば、それは大胆にデコレートされた窓だ。唐草模様を彩った縁で窓を装飾する。すると、外を歩く人からは、オフィスが絵画の中の風景のように見えるだろう。「すごくいい案だと思いました。つくりたかったのですが、ビルの許可が下りませんでした」(ポーター氏)


オフィス外観。金融街の中心にあるテナントビルを一棟借りしている。アメリカ最大手の金融機関であるバンク・オブ・アメリカやウェルズ・ファーゴのビルにもほど近い。屋上が公園になっている点も彼らは気に入っている。

  • シアターを思わせる階段状の座席があるエリア。従業員を集めてのオールハンズ・ミーティングも行われる。

  • 階段にはラグを敷いたようなグラフィックが施されており、温かみがある。

  • オフィス中央に設けられた階段横の壁には、会社の成功を記念する写真が飾られている。典型的なアメリカの戸建住宅に見られるスペースを表現しており、壁紙の素材感、テクスチャーを含めて、「家」を思わせるディテールの1つだ。

  • 映像などをプロジェクターで投影する壁。主に住宅に使われるモールディングを使用している。ほかにもレンガやガラスなど住宅用のマテリアルをふんだんに取り入れたオフィスである。

  • 案内板までが家を模している。遊び心がありながら、シンプルでモダン。大切なのは、ビジネスの邪魔をしないこと。このバランスの妙にO+Aらしさがある。

  • ワークスペースは「暖炉のあるリビング」のイメージ。「機能的ではありませんが『私たちはデザインをケアする』というシグナルの意味があります」(ポーター氏)

  • 従業員がランチをとるカフェテリア。小さいながらケータリングのエリアもある。スクリーンを設置して、オールハンズ・ミーティングが行われることも。

  • ワークスペース。高さを調整できるシット・スタンド・デスクが好評。ドッグ・フレンドリーなオフィスであり、従業員の足元には犬が寝そべっている。

モチベーション向上につながるオフィスで
離職率は4%以下をキープ

 オフィスの特徴の多くは、つい見逃してしまいそうなディテールに宿る。壁紙やモールディングには、オフィス用ではなく住宅用のものを使用。階段脇に飾られた写真にしても、会社の業績を称える内容であるはずが、まるで仲のよい家族写真のようだ。ワークスペース横には暖炉が設置された。機能はさして高くないが、雰囲気をつくり出すのに一役買っている。中央に配した大階段の周辺にコミュニケーションゾーンを集約し、リビングのような賑わいをつくり出している。またすべての会議室には、アメリカの著名な家からとった名前がつけられた。

 さらに、従業員が連れてきた犬が駆け回り、足元で寝そべるドッグ・フレンドリーなオフィスでもある。「前のオフィスでは、犬が多くなりすぎて、もう犬は一緒に出社できないかも、というところまできたことがありました。でも我が社のカルチャーに犬は大切です。温かみがあり素晴らしいエネルギーをつくり出してくれます」

 そしてO+Aは、若い従業員のニーズに応えるのもうまかった。クライアントを喜ばせる一方、従業員のモチベーションをもかきたてることに成功した。

 「我が社には若い人が多く働いているので、楽しく親近感が湧くような雰囲気を出したかったのです」。その期待は裏切られなかったのである。現在、建物の3階分を占めるワークエリアには300人程度が働いている。彼らを見ながら、素晴らしいオフィスには素晴らしい人材が集まるものだと、ポーター氏は実感している。

 もとより「住宅ローンを申し込むことを、素晴らしい経験に変えること」という哲学に共感する若者が、使命感を持ってやってくる会社だ。それでもオフィス移転後は、より一層のプライドを持って働くようになり、「居心地がいい」と口を揃える。従業員の離職率も、4%以下という低水準をキープしているという。またコミュニケーションスペースが豊富であることが奏功し、従業員同士のコラボレーションの機会が増えてもいるようだ。

 「この新しいビルは、弊社の、会社としての誇りを物語っています。我が社は、小さいアイデアから成長して、今ではサンフランシスコの金融街にビルをまるごと1棟持つまでになった。このビルは私たちの達成感とプライドを反映しています。仕上げとディテールが私たちの努力を物語っているのです」(ポーター氏)


ブレンド
デザイン部門長
トネス・ポーター

  • 階段上に位置するデザイン・スタジオ。内部のデザイン・チームがここを利用する。階段を利用する従業員に対しデザインの重要性を知らせる意図もある。壁一面のホワイトボードを前に、ブレインストーミングとデザインの批評に勤しむ。

  • 通常のオフィスにあるような重厚さを感じさせないエントランス。自宅のように親密で穏やかな雰囲気の中で訪問者を出迎えられるようにとデザインされた。

  • すべての会議室はアメリカの著名な家から名前がつけられている。例えば「Panted Ladies」は、ドラマ『フルハウス』のロケ地にもなった、ビクトリア様式の住宅群。

  • 各階にはテーマが設けられており、タウン・ホール、ソラリウム、ライブラリーと異なる役割を持つが、各階には必ずキッチンスペースを設置するようにした。

text: Yusuke Higashi
photo: Satoshi Minakawa

WORKSIGHT SPECIAL EDITION【Studio O+A】(2019.7)より

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