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コミュニケーションを促してチーム力を強化。
クリエイトに直結するオフィスを構築

イラストに特化したグローバルなWebサービスを展開

[ピクシブ株式会社]渋谷区、東京、日本

  • よりクリエイティブな成果に向けて、チームで仕事を進める
  • 社員のコミュニケーションを促進する
  • 多角化を含めた事業拡大を実現

東京都渋谷区。JR千駄ヶ谷駅からほど近いオフィスビルの5階にピクシブ株式会社の本社がある。

エレベーターを降りると、50センチほどの大きな絵馬が目に飛び込んでくる。驚きつつ足を進めると、鳥居を模した赤いフレームと、イラストや文字で彩られた絵馬で埋め尽くされた通路。これを通り抜けた先に広がるのは、カラフルで開放的なオフィスだ。

目標は「一緒に仕事をする」「仲良くなる」

ピクシブでは、イラストの投稿に特化したソーシャル・ネットワーキング・サービス「pixiv(ピクシブ)」や、イラスト漫画文化を主軸としたwebサービス事業やイベント事業を展開している。

代表取締役社長の片桐孝憲氏は、「よりクリエイティブな成果をあげるには、チームで仕事をすることが重要」という。チームワークを深めるにはメンバー間のコミュニケーションが欠かせないが、これを引き出すために片桐氏が重視している点が2つある。

第一に、「一緒に仕事をする」こと。オフィスには壁や個人の執務室を設けず、オープンな造りになっている。全社的に出社時間を統一し、毎朝チームメンバーが顔を合わせてミーティングを行う。社員の席は密集していて、通路を歩けばチェアや所狭しと置かれた私物に体がぶつかりそうなほどだ。オフィスをぐるりと囲む机は波打つように上下左右にカーブする型破りなフォルムで、長さは250メートルにも及ぶ。この机の周りで社員が顔を突き合わせるように作業する様子は、家族主義的な温かみを感じさせる。

片桐氏が重視するポイントの第二は「人を知る・仲良くなる」というものだ。水曜日は全員で一緒にランチを取るほか、オフィスの一角には社員が顔写真付きで自己紹介するプロフィールボードがある。また、会社の近くに住むと住宅手当が出るため、至近距離に住む社員が多い。職住に渡って一体感が醸成されるわけだ。

エレベーターホールの特大絵馬。

pixiv(ピクシブ)は「お絵かきがもっと楽しくなる場所」を理念としたイラストコミュニケーションサービスだ。
http://www.pixiv.net/

ピクシブ株式会社では他にもイラスト漫画文化を主軸としたwebサービス事業やイベント事業を展開している。
http://www.pixiv.co.jp/

毎日11時にはチームのメンバーが集まってミーティングを行っている。

プロフィールボード。顔写真、出身地、入社年月、自分にまつわるキーワードなどが書かれている。こうした情報をタグとしてコミュニケーションが生まれる。

  • 担当するサービスが近いメンバーで席をまとめている。「このごちゃごちゃ感が心を近くする」と片桐氏。オフィスができて半年以上経っても誰がどこにいるのか分からない複雑さだという。

  • 絵馬は来社したゲストやユーザーが記念に描くほか、イベント出展時に来場者に描いてもらうことも。ユーザーと心理的な距離を縮めることに役立っている。

  • 会議や資料参照もできるオープンミーティングスペースは、全社員会議の際にも利用される。(写真提供:ただ(ゆかい))

  • 冷蔵庫や電子レンジ、ドリンクサーバー、テーブルを一か所にまとめ、偶発的な出会いが起こりやすくしている。社員同士で飲食しながら自然な交流を促す。

継続的に改善するオフィスだからこそ
1つのデザイン会社と長く付き合う

ピクシブがこのオフィスに入居したのは2010年9月。その後、2013年5月に増床し、計250坪(800平米)の広さとなった。インテリアデザインは入居時以来、増床の際もチームラボに依頼している。片桐氏が同社のオフィスを訪れた際、ビビッドな色使いや活気あふれる雰囲気にほれ込んだことがきっかけだ。オフィスに求める機能についてベースが共有できていたため、カラフルなオフィスで社員のテンションを高めること、壁をできるだけ設けずにコミュニケーションを促すことなど、片桐氏のコンセプトが深く汲み取られたデザインとなっている。

チームラボアーキテクツ代表の河田将吾氏は、「オフィスデザインでは、他の会社ではNGだけど、その会社ではOKというようなことを形にしたい」と語る。例えば、「整理整頓」のように、どの会社にも当てはまるスローガンでなく、「雑然としていてもいい」というように、その会社だからこそ許されることに個性が現れるという。「雑然の中から、よい雑然を見つけ出し、デザインすることが面白い」。

片桐氏も「オフィス環境は継続的に改善するものなので、同じデザイン会社でバージョンアップしていくのがいい。移転のたびにデザイン会社を変えるのでは、いいコラボレーションができない」と語る。

高低差を入れることで人と人との距離を縮める

片桐氏と河田氏のアイデアが融合したピクシブのオフィスには、さまざまな工夫が凝らされている。

ユニークな形状の机は、『机の森』と題した片桐氏の詩がモチーフとなっているが、河田氏がさらにコミュニケーションを促進する仕掛けを盛り込んだ。一般の業務机は通路を背にするが、この机は社員のスペースが通路に開かれているのだ。「この会社は社員同士の領域があいまい。自分のスペースを飾って通路を歩く人を楽しませ、自然と会話が生まれるようにした」と河田氏は説明する。

オープンミーティングスペースに設置してある階段スペース、通称「スタンド」や、円柱を積み重ねた通称「土俵」も、高低差を入れることで遠くの人との距離を縮めるという目的を持つ。階段の対面にはスクリーンが収納されており、社員が階段に座ってプロジェクターから投影する資料を元にディスカッションすることも可能。土俵は小規模のミーティングにも使えるが、特に用途は決められていない。「いわば余白のスペース。ここは全体を見渡すことのできる、眺めのいい場所。創造性はちょっとした要素で左右されるので、いいアイデアが1つでも生まれたら、それだけでもその空間の価値がある」(河田氏)。

片桐氏(右)と河田氏。片桐氏が抱いているのはピクシブの社員犬・チョビ。

社員が自作した「駄菓子屋」。コインを入れると、おもちゃの猫の手が伸びてコインを回収。後ろの箱から好きな菓子をもらう。社員の自主性はこうした部分にも垣間見られた。

「土俵」と呼ばれるスペース。打ち合わせや気分転換など、さまざまな用途に使える。

オフィスの平面プラン。オフィスの全域に渡って250メートルの机が配置される。(写真提供:ただ(ゆかい))

Panorama View

オフィスの平面プラン。オフィスの全域に渡って250メートルの机が配置される。(写真提供:ただ(ゆかい))

※画像をタップするとパノラマスライド表示が見られます

おしゃれさや奇抜さでなく、
いいクリエイトができる環境かどうか

「重要なのは、おしゃれさや奇抜さでなく、いいクリエイトができる環境かどうか。色をたくさん使ってテンションを高め、壁のない環境で社員同士のコミュニケーションを引き出す。それを成果につなげられれば」と片桐氏はいう。

事実、オフィス移転後の2010年以降、事業は確実に拡大している。特に海外での日本のイラスト文化の熱狂的支持を追い風に、pixivはユーザー数1000万超、月間38億PV、累積作品投稿数4000万超*という巨大サイトに成長。他にも、アーティストの村上隆氏が率いるカイカイキキとの共同ギャラリー「pixiv Zingaro」のオープン、コスプレコミュニティサイト「Cure」の子会社化など、意欲的に多角化を推し進め、いずれも着実な成果を挙げている。

業容拡大と軌を一に、社員数も増加した。2005年の創業時に3名だった社員数は76名*を数えるまでになった。単に人が増えるだけでなく、個々人がそれぞれの能力を発揮してチームに貢献していく。強力なチームワークがあればこそ、世界に通用するビジネスが可能となるのだ。

WEB限定コンテンツ
(2013.12.17 渋谷区のオフィスにて取材)

冷蔵庫には社員の名言が貼られている。この日は新年に向けて社員が発した「6日エンジンスタートからの8日フルスロットル」など。社員同士の何気ない会話も楽しむことでカジュアルな雰囲気が醸し出される。

* 数字はいずれも2014年2月現在。

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