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情報社会のためのオフィス空間を作る建築家

ネット普及以降のオフィスのあり方とは?

[河田将吾]河田将吾一級建築士事務所代表 チームラボオフィス代表

住宅や店舗などの設計を行う建築設計事務所の傍らで、ウルトラテクノロジスト集団チームラボと、デジタルと空間を融合する会社「チームラボオフィス」を運営しています。本日は、オフィスデザインに関するお話しということですので、主に、チームラボオフィスに関するお話しをさせて頂きます。

チームラボオフィスで提案しているのが 「情報社会のためのオフィス空間」です。僕たちは、既存のオフィスはインターネット普及前の空間の作り方をしていると思っています。でも、インターネットが普及したことで、僕たちの働き方は大きく変わっています。

だとしたらオフィス空間のあり方も変える必要があるのではないか。それが、僕たちのオフィス作りの根本にあります。では、インターネットが普及する前後で何が変わったのでしょうか。

情報社会のコミュニケーションのあり方。

例えば、昔は今ほど「オフィス内でのコミュニケーションが重要だ」とは言わなかった気がします。むしろ「雑談するな、もっと集中しろ」という声が強かったぐらいで。

けれども、今では多くの会社が 「コミュニケーションを活発にしたい」「自由に意見をいってほしい」といった課題を抱えています。インターネットが普及する前は、開発部署なら開発部署、デザイン部署ならデザイン部署のように、スキルセットが同じ者同士が固まって仕事をしていました。ほっておいても会話しますし、むしろ作業に専念する必要がありました。

ところが、インターネットが普及した今日の社会では、問題は複雑化され、スペシャリティーがまったく違う人達が、同じ問題を一緒に考えて仕事をする必要があります。その仕事の領域は曖昧で、 区別をすることが難しく、しかも、必要なメンバーは流動的です。

ですから、そのように仕事をするオフィスにおいては、スペシャリティーがまったく違う人達が、一緒に考える場所、コミュニケーションする場所が必要になっているのです。

客観的な意見より主観的な意見が重要

また、消費者から求められるモノ、サービスも変化しています。テレビ全盛の時代は「みんなにとって70 点のもの」を作れば売れました。ですから、まずマーケティングリサーチをかけて「みんな」が好むもの、客観的な意見を探すところから、物づくりがスタートしていました。

けれども、インターネットには、客観的な意見などありません。すべては主観的な意見の集合体だからです。「自分にとって100 点のもの」であることが大切であり、そうでないと消費者の心をつかめないのです。他の人にとって70点かどうかという意見は、どうでもいい。「私はこれが好き」と言えるものを起点として、それが市場にどのぐらい評価されるのかを検証しながら製品化していく必要があるのです。「自分が好きなもの」という主観的な意見がサービスの起点になりえる。そんな時代のオフィスでは、「私はこれが好き」と言える環境をつくる必要があると思います。

河田将吾一級建築士事務所が運営するサイト「ORPPS.com」。これまでに手がけたオフィスなどの事例が紹介されている。
http://www.orpps.com/

チームラボ株式会社
プログラマ・エンジニア、数学者、建築家、CGアニメーター、Webデザイナー、グラフィックデザイナー、絵師、編集者など、情報社会のさまざまなものづくりのスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。
http://www.team-lab.net/

チームラボ内で行われた
コミュニケーション活性化の実験

チームラボのオフィスを例にとって説明します。例えば、チームラボではコミュニケーションを活性化するために、壁を黄色にしています。よくブランドカラーをオフィスに導入していると思われがちなのですが、実は、合理的に黄色を選んでいます。黄色は、長期的な集中には適さない色なのですが、短期的なコミュニケーションが活発化する特徴がある色です。

ですから、長期的に座って作業をする業務空間ではあまり見えないようにして、トイレに行くために立ち上がったり、人に出会う場所の壁では、意識的に黄色が目に入るようにしています。業務から離れたときに出会う人との会話が生まれることを期待しているのです。色にも、合理的な意味があります。色によって、オフィスにいる人の心理状況も変わります。ミーティングルームなど、コミュニケーションを活発化したい場所には黄色やオレンジといった色を、緑色はリラックスできる色なので休憩室に使う。今、僕たちが設計している他のオフィスでも、そのようにして色を活用しています。

ちなみに、最近、チームラボはオフィスを移転したのですが、今のオフィスではさらに発展させ、色と絵を組み合わせています。例えば、緑は森、黄色は花畑のように、絵を使って色を表現しています。それらをドラクエのマップのようにパーツ化して、オフィス全体でひとつの世界をつくることができるようなカーペットとして展開しています。木が集まった森があったり、花が集まった花畑があったり、砂が集まったビーチがあったり、波が集まった海があったり、なりたい気分に応じて、場所が選べるようになっています。

偶然出会える空間

また、コミュニケーションを活性化するために、オフィスの中に偶然出会える場所を意図的にもうけています。決まった議題での話題など、目的がはっきりしていることが多いミーティングルームではなく、目的が違う人が”しょうがなく”集まってしまう場所などです。そういう場所では、手持ち無沙汰から、雑談になります。そして、やはり仕事中は仕事のことを考えているため、雑談も自然と仕事の話しになります。そうした部署を超えた会話の中に、実は思わぬヒントがあったりするものです。

具体的には、例えば、コピー機とコーヒーメーカーが置かれた休憩スペースを、トイレの導線上に配置しています。書類をコピーしに来た人、コーヒーをとりに来た人、コーヒーを飲んでいる人、トイレに行こうとしている人、ただ休んでいる人、それぞれ、目的が違う人が休憩室で出会い、”しょうがなく”一定時過ごすようにしています。すると、進行中のプロジェクトの話題や、部署を超えた意見交換の場になったりします。オフィス設計において、情報の機密を考える方向性もあります。けれども、僕たちのオフィス作りにおいては、情報はとにかく、共有します。共有することで、おもわぬ発見、解決のヒントを期待しているのです。

さらに、チームラボでは、オフィス内で、デジタル情報も共有できるようにしようとしています。例えば、web上にある動画や言葉などの情報を共有しています。インテリジェンスや、クリエイティビティが上がりそうなものをディスプレイで流し、その場で”なんとなく”共有できるようにすることで、目的意識の共有化を目指しています。

チームラボオフィスでデザインしたオフィス空間で、ミーティングルームの壁や床に、赤、オレンジ、黄色など暖色系を使っている事例。

チームラボのオフィス風景。

チームラボ内で行われた
コミュニケーション活性化の実験

オフィスデザインでもっとも重要なことは、その会社を好きになってもらうことだと思っています。例えば、チームラボでは、「Face Touch(フェイスタッチ)」という、受付システムを開発しました。このプロダクトのアイデアは、前のオフィスでの経験から生まれたものです。

前のオフィスでは、社員の顔写真を加工したCDジャケットをエントランスに並べていました。そして、自分の好きな一言をタイトルとして入れていたのです。例えば、『レバ刺し』とか。そうすると、来社されたお客さまが待っている間に、ふと担当者のジャケットをみて、「僕もレバ刺し好きなんですよ」みたいな会話が生まれていました。

お客さまと少しだけ仲良くなる。そんな光景をみて開発したのが「Face Touch(フェイスタッチ)」です。タッチパネルに表示された社員の顔写真を、来訪者がタッチすることで、アポイント相手を呼び出す受付システムなのですが、顔写真のほかにも、テキスト情報としてプロフィールを表示することもできます。待っている間に、アポイント相手や他の社員について知ることができます。初対面の相手であっても「○○が好きなんですね」、「私も○○出身なんです」といった会話のきっかけになる。社員のことを知ってもらえれば、よりいっそう、会社のことを好きになってもらえるかもしれない。

オフィスのエントランスは会社を伝えるための、とても重要な場所だと思います。自分の会社をクライアントにうまく伝えることは、ビジネスをうまくいかせる第一歩だと思うのです。今のオフィスデザインでは、どこにでもあるような豪華さを求める傾向があります。けれども、どこにでもあるような豪華さは、何も伝えていないのと同じです。そういうなんとなくのイメージのリッチさよりは、会社を伝える場所として、会社を伝えるためのリッチさが重要だと思います。そのひとつの方法として、社員をエントランスでプレゼンテーションすることを考えました。”会社”を好きになることは難しくても、”人”を好きになることは簡単だと信じているからです。

「Face Touch(フェイスタッチ)」だけでなく、僕たちが手掛ける「オフィス空間」は、物理的な空間を設計するのと同時に、デジタルをオフィス空間に取り入れています。今後、技術的進歩によって、デジタルのソリューションが物理的な空間に増えていくことは間違いないのではないでしょうか。

デジタル空間とリアル空間を融合させる

オフィスにデジタルを取り入れることで、例えば、ミーティングの方法も変わるかもしれません。物理的な空間においては、時間的な強制、物理的な強制があります。その点、デジタルは、時間も場所も強制されません。参加したい時は参加し、あとから参加したい時は、あとから参加できる。通常のミーティングでは、参加していることに責任が発生しますが、デジタルを使えば、流し見るだけの参加や、コメントを言うだけの参加など、参加方法の幅を広げることができます。そうすることで、物理的なミーティングでは実現が難しいようなミーティング。例えば、ニコニコ動画のようなwebからコメントを寄せて参加するようなミーティング方法など、100人以上の社員から意見をもらうミーティングも可能になります。

もちろん、現段階では、物理的な空間における直接対話の方が共有できる情報量は圧倒的に多い。けれども、メールやメッセンジャーによる情報共有と同様に、 今後はリアル空間の中でも、ネットワークの発展や、テクノロジーの進化によって、直接会って話すのとは別価値の情報のやり取りが生まれる可能性がある。デジタルを取り入れたり、インターネット普及後の現象に基づいたオフィス設計、「情報社会のためのオフィス空間」に今後のオフィスデザインの可能性があると思っています。

WEB限定コンテンツ
(2012.11.14 馬喰町の同社オフィスにて取材)

上の写真はチームラボ株式会社が開発した「Face Touch」。受付に設置されたタッチパネルに全社員の顔写真を表示。タッチすると呼び出せるシステムだ。呼び出しは、PCの専用アプリや携帯電話メールを通して各人に直接通知される。
http://www.team-lab.net/menu/pickup/facetouch.html

チームラボ株式会社が移転する前に会社サインとして入り口に置いていた、社員が登場するCDジャッケト。

河田将吾(かわた・しょうご)

1977年生まれ。京都工芸繊維大学卒業後、2003年ORPPS/河田将吾建築設計事務所設立。個人の邸宅からオフィスデザイン、店舗まで幅広く手掛ける。2009年にチームラボオフィス株式会社を共同設立。2010年河田将吾一級建築士事務所に改称、現在に至る。

 

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