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社外交流もさかんな人間関係が感性に訴えかける広告表現を生み出す

独創的な手法で広告業界をリードするクリエイティブ企業

[DDB Stockholm]Torsgatan, Stockholm, Sweden

  • 人の本質に訴える広告を作る
  • 「公私混同」で交流し、発想の幅を広げる
  • 独自のインサイトで知られるエージェントへ

ガン・レポートが行った『世界のインタラクティブ広告代理店』(2011年)の調査で、DDBストックホルムは第1位に選ばれた。従来の広告形態にこだわらず、狭義のカテゴリーを超えたアートプロジェクトのような手法で注目を集めている。インスタレーションや実験的な映像など、それだけで作品になるような広告表現を生み出してきた。

「今や世界中どこを見ても、ブランドと、ブランドから発信されるメッセージで溢れている。だが、自分のことばかり話すブランドに消費者は興味を持つだろうか」–社内にはそんな強い課題意識がある。

「行動は言葉より雄弁に語る」という古いことわざがあるように、言葉だけでなく行動を起こすこと、たとえば、メディアの広告スペースを買う代わりに、クライアントに出資を依頼して、若者のスポーツ団体を支援し、その姿勢を広告の一部とするなど、広告には新たな選択肢が必要だと考えている。

全員の話を聞くことでプロジェクト全体が向上する

既存の枠組みを超えた発想をするために、社内ではインフォーマルな交流を推進している。専門部署の垣根を取り払い、ワンフロアにデスクをオープンに配置。ストラテジスト、クリエイティブ、デザイナー、プログラマー、プランナーなど、様々な職種が集い、全員でディスカッションをする。同じフロアで仕事をすることで、職種に関係なく会話が生まれる。

誰が何をしているか、何が得意か、という情報はスマートフォンのアプリからも検索できる。イントラネット上に社員のプロフィールページがあって、仕事に関する情報を共有できる。毎週金曜日にキッチンで開かれる「フライデーミーティング」では、飲み物や軽食をとりながら、ブレストベースで気軽にアイデアを出し合う。

この背景には、全員の話を聞くことでプロジェクト全体が向上するという強い確信がある。フラットで自由な関係性の中でのソーシャルクリエイティビティを目指している。

「消費者」「生活者」としての共感を広げていく

勤務時間はスウェーデンの標準的な週40時間よりもさらに少ない、週35時間に設定されている。9時から16時までのフレックスタイムで、それぞれのライフスタイルに合わせて仕事を進めることができる。夕方になると半数くらいの社員たちは退社する。

社員は170人を超える規模だが、ほぼ全員が顔見知りという親密さだ。仕事が終わると、スタッフ同士でよく飲みに行く。スキー旅行などの社員イベントも頻繁に企画されている。フェイスブックを使って趣味や関心のある話題をやりとりする社員も多い。プライベートでも交流を持つことで、「消費者」「生活者」としての共感が広がり、文脈の共有をはかれる。

それぞれの社員が社外に築いてきた、豊富な人脈を紹介しあうことで、自然にコネクションも広がっている。仕事とプライベートが、絶妙のバランスで重なるところに、イノベーティブな発想が生まれている。

DDBストックホルムは、北欧のデジタル・クリエイティブを牽引するエージェンシーだ。DDBの作品には、従来の広告形態に拘らないアート・プロジェクトが多く、それが高い評価を得ている。「クライアントのビジネスとまったく関係ないCMの提案をすることもあります。『あの会社が、なぜこのCMを?』といった感じですね。意外な組み合わせの広告のほうが、かえってクライアントのイメージ向上につながるし、スタッフはクリエティビティを刺激されて、モチベーションも上がるんです」(スヴェンソン氏)
開業:1949年
売上高:20億2200万ドル(2009年)
従業員数:1万4000人以上
拠点:世界100カ国200支社
http://ddb.se/

ストックホルムの地下鉄出口に「ピアノ階段」を設置。階段を上ると音が鳴る仕掛けで「健康のためにエスカレーターではなく階段を使おう」というメッセージを送った。地下鉄ではなく、自動車メーカー・フォルクスワーゲンのCM。

スウェーデン軍の勧誘キャンペーン。ホームページにアクセスすると、能力適性テストを受けることができる。軍隊の募集CMは「ぜひ参加を!」というテイストのものが多いが、あえて「あなたには士官の資質がある」という勧誘方式にした。
http://team.forsvarsmakten.se/english/

  • 共用スペースでは、頻繁にディスカッションが行われている。「なるべく、すべての人に意見を聞くようにしています。誰も思いつかなかったアイデアを出す人は、必ずいますから」とエグゼクティブ・プロデューサーのヨハン・スヴェンソン氏。

  • キッチンの様子。全社ミーティングや撮影スタジオとしても使われる。

  • 同じフロアに机を並べるだけで、気軽に話ができる環境になる。仕事後にスタッフ同士で飲みにいくのは日常茶飯事だという。

  • デスクはすべて高さを変えられるタイプ。中には立ったまま仕事をしている人もいる。

気心の知れた社内メンバーで
企画から製作まで一気に進める

クライアントに対してユニークな提案ができる背景には、「広告ではなくクリエイティブなビジネスソリューションを提供する」という会社の理念がある。DDBストックホルムにとって、クリエイティビティとは問題の解決であり、イノベーションそのものを指す。

組織に上下関係はほとんどなく、役職や肩書きはあっても、肩書きで呼び合ったりはしない。担当する仕事は年齢や経験ではなく、チーム全体への影響力で決められる。副社長は入社3年目の28歳で、もっとも才能あるストラテジストということから抜擢された。

よい仕事をすれば、会社は正当に評価し、よりよい仕事ができる環境を提供する。このしくみにより、人材の流動性の激しい業界にあって、才能のある人材と長期的にいい関係を保てる。

外注を減らして撮影・編集まで内製する

DDBストックホルムが優れたクリエイティブを持つ理由の一つに、インハウスの制作体制があげられる。社内は、トライバルDDB(国際的なデジタルスペシャリスト)、DDBメイク(デザイン)、DDBルック(ファッション)、DDBフィルムの4つの部門に分かれている。

たとえば、映像部門があることで、通常は外注に頼むところを、撮影・編集まで内製できる。実験的なアイデアを試しやすいし、コストの面でも時間の面でも効率的だ。「明日までに作ってほしい」という急ぎの依頼があっても対応できるうえ、ディテールの調整を社内で粘れる。CMの最終承認もクライアントを呼んで社内で行える。

同様に、デザイン部門を社内に持つメリットも大きい。ロイヤルオペラハウスの広告でシャワーソープを作ったときは、「ソープオペラ(メロドラマの英語表現)」に絡めたアイデアを、このデザイン部門がさらに発展させて、オペラのタイトルを商品名にした限定版のシャワーソープを作った。それをチケットとしてスウェーデン国内のデパートで販売した。

こうした社内のコラボレーションも、全員でディスカッションするというカルチャーから生まれている。

WORKSIGHT 02(2012.6)より

映像部門の編集室。映像コンテンツを外注ではなく社内で制作できるのが同社の強みだ。

DDB Stockholmが獲得したトロフィー。

 

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