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80歳まで働く時代に大企業は何をすべきか

日本は高齢化社会のイノベーター

[リンダ・グラットン]ロンドンビジネススクール教授

前回の記事では、大企業は自社の資源を使って外部のコミュニティに貢献してほしいという話をしました。けれども、やみくもに個々に対する配慮を高めればいいというものでもありません。企業がローカル性に対して敏感になりすぎると、分散化して中核を失ってしまいます。つまり、その企業の持ち味や文化が損なわれてしまうということです。

日本を例にとってみましょう。日本の大企業の明らかな特色として、女性が高いポジションに就任にくいという状況が挙げられます*。マルチナショナル企業が日本に支社を作る際、これを逆手にとって優秀な女性を登用しているというのが現状です。日本の習慣を取り入れると、女性を昇格することができないわけですから。でも、女性がシニアポジションに就く機会を与えられていないということは、才能ある人間の50パーセントが有効活用されていないということで、非常にもったいない話だと言わざるを得ません。

大企業としてはある地域でうまく行っていることがあれば、それを世界規模で実践すべきである一方、個々の文化に対して敏感になりすぎない方がいいとも言えますね。日本に進出する外資系企業が、高学歴で優秀な女性をどんどん雇用しているという事実もありますよね。

物事を深く学習していく姿勢が重要

女性の登用に限らず、日本はいろいろなところに特殊性が見て取れる国だと思います。

例えば東京で地下鉄に乗ると、たいていの場合、その車両には私の他に外国人がいません。これはロンドンではあり得ない光景です。ロンドンは非常に多様性のある国で、ロンドンに住む生粋のロンドンっ子よりフランス人の方が多いとも言われているほど。フランス人の国会議員もいるくらいですからね。電車に乗れば世界中の人がそれぞれの言語で話をしているのが当たり前なんです。

東京大学で講演した時にも、学生の英語力の欠如が印象に残りました。世界クラスの大学で英語のできる学生がここまで少ないというのは、他に見当たらないのではないでしょうか。その点においても日本は特殊だと感じました。

そういう日本がこれまでイノベーションの中核であり続けてきたのは興味深いことです。近年の韓国もイノベーションの中心となってきていますが、やはり画一的な社会です。個人が個性や特徴を押し出すことなく、全体に同化していく傾向を持つこの2つの国が、非常にクオリティの高いイノベーションを起こしている。ということはつまり、人種的なダイバーシティがなければイノベーションが機能しないとは言い切れないということでしょう。

重要なのは、物事を深く学習していく姿勢なのだと思います。学習ということに関して、日本は非常に真摯に取り組みますし、またその結果として優れた成果も挙げています。スペシャライゼーション(専門化)にも長けていて、それに基づいた経済発展を遂げてきたのは、みなさんもよくよくご承知のはず。ネットワーキングにしてもしかりです。日本には地域社会に根ざした、強いコミュニティ意識がありますよね。

何かを探求してその結果をもの作りに昇華することの喜びや、身近な人との交流に充足感を抱くというのは、お金で買うことのできない「経験」です。私は著書『ワークシフト』で、「消費」より「経験」に価値を置く生き方にシフトすることの重要性を述べていますが、日本は「経験」を伝統的に大切にしているからこそ、この本が共感を得ることができたのではないかと思っています。

新規ビジネスの4分の1は55歳以上の人が立ち上げている

日本の文化は、「和」を重んじる共同体という意味でもユニークです。人間関係に強い絆があり、それによって世界的に見ても高い水準の社会共同体を保っています。この特質を大切にすることが、新しい価値を作っていくうえでも強みになると思います。

例えば、高齢者の雇用を増やすことは重要です。高齢者が若い人に負けるとか、高齢者を雇用することで企業の競争力が低下するといった証拠はありません。脳の機能が衰え始めるのは、亡くなる5年前くらいと言われています。高齢者の学習能力が若い世代に比べて低いという事実は、データとして証明されたわけではないんです。

現在、欧米社会において25パーセントの新規ビジネスが55歳以上の人によって立ち上げられています。起業家は若い世代だけに限られているわけではありません。

いわゆる年齢差別というのは根強く、例えばヨーロッパの製薬業界は55歳での退職を奨励しています。ちょうどベビーブームにあたる世代ですよね。しかも、何年もかけて培ってきた知識と経験を持った人たちです。長年の経験を必要とする専門職の人々を、まだ若いうちに大量に早期退職させている。これは大変な過ちだと思います。企業は高齢者に対する考え方を改めなくてはなりません。

ロンドンビジネススクールは世界で最高位のビジネススクールであり、MBAプログラムや金融実務経験者を対象としたマスターズ・イン・ファイナンス(MiF)プログラムは世界トップレベルと評価されている。
http://www.london.edu/

* 管理職における女性の割合
『2013年版 男女共同参画白書』(内閣府)における世界12カ国の女性管理職の割合比較では、日本は11.1%と韓国の9.4%に次ぐ低さとなっている。割合の高い国は、フィリピン52.7%、アメリカ43.0%、フランス38.7%、オーストラリア36.7%、イギリス35.7%など。

これからの大企業のあり方についてレジリエンス(復元力・弾力)が重要だと指摘したグラットン氏の著書『The Key』は、日本では2014年秋頃にプレジデント社より刊行予定。

柔軟なキャリアモデルを構築することで
幅広い年齢層の優れた人材を保有できる

高齢者の能力を生かしているグローバルカンパニーとしては、アメリカのスチール加工会社、ヴィタ・ニードル** があります。

さまざまな世代の人材が活躍できる場を確保することがビジネス上有益と考える同社は、金属加工に熟達した高齢労働者の採用を熱心に行い、他社で定年を迎えたけれども、まだ働きたいと考える熟練者の雇用に成功しています。

ヴィタ・ニードルの労働者の平均年齢は65歳で、半分はパートタイム雇用です。最近辞めた従業員は同社最年長のリタ•フィネガンさんで、お年は何と100歳です。私は現在執筆中の本で、「100歳までの仕事(100 years of working life)」をテーマにしていますけど、彼女はまさにこの体現者ですよね。ちなみに彼女が退職したのは健康上の理由ではなく、引越しで通勤が困難になったから。状況が許せば、まだまだ仕事をしてくれたと思いますよ!

ヴィタ・ニードルは、高齢労働者の雇用について3つの重要な点を見出しています。

第一に、主にパートタイム雇用であること。これによって人件費や福利厚生費を抑えられるわけです。

第二に、コスト削減に加えて、経験と専門知識を持つスペシャリストを確保できること。例えば、同社で働く76歳のビル•オマラさんは、イェール大学卒のケミカル・エンジニアです。原子力発電所の建設に関わったこともある優秀な人材で、経済的に困っているわけではないけれども、社会との関わりを求めてヴィタ・ニードルで働き始めたといいます。

第三に、成熟した労働者と若年の労働者がお互いに補完する傾向があること。若い従業員はチャレンジングで、より速くタスクを切り替えることができますし、年配のチームメンバーは管理・監督をそれほど必要とせず、着実に物事を進めていきます。

柔軟なキャリアモデルを構築することのできる組織は、幅広い年齢層で最高の人材を保有できるという事実を、ヴィタ・ニードルは強く示唆しています。これを1つのロールモデルとして、企業は熟練労働者のニーズを汲み取り、通常の定年を迎えた後はパートタイムやフリーランスとして働き続けることができるよう考慮する必要があるでしょう。それを実践できる企業が、労働力と経験豊富な専門知識を維持していけるのです。

長く働くには、しっかり休暇を取ること

高齢者に長くパフォーマンスを発揮してもらうには、生涯学習の環境を整えることも重要です。最近はオンラインのeラーニングプログラムがとても充実してきていますよね。素晴らしい方法だと思います。対面型のグループ学習と組み合わせるとより大きな効果が期待できるので、このコンビネーションの必要性は今後高まっていくでしょう。

それから、これも執筆中の本の中で提案していることですけど、長く働くには休暇を取ること。80歳まで働き詰めの生活というのは、単純に考えても不可能です。企業は有給、無給を含めて長期休暇制度を整える必要があります。ストレスマネジメントで最も重要なのは回復時間をとること。ストレスそのものではなく、ストレスからのリカバリー時間がないことが問題なんです。休養時間をリズムとして生活に取り入れていかなければ、ストレスや疲れは蓄積していくばかりです。

ヴィタ・ニードルで働くビルさんのように、社会との関わりややりがいだけを求めて仕事を続けられたら幸せですけど、そういう高齢者ばかりではないことを私たちは知っておかなければなりません。年金だけで暮らしていくのが難しいこともあれば、病気で医療費の支払いに苦しむこともあるかもしれない。高齢者本人も大変ですけど、しわ寄せを受ける若年層も不満を抱えることになります。

どの国でも高齢者が増えると医療費や年金の問題が発生します。上の世代にかかるお金を誰が負担するのか、この問題は日本ですでに深刻化していますし、今後は世界にも波及していくでしょう。私の見立てでは、最低でも80歳まで働かなくてはならない時代がやってきます。生きていくために働かざるを得ないという状況に立たされる可能性があるということです。個人も企業も国も、心して取りかからないといけない問題です。

日本は先進国における高齢化社会の先駆けであり、ケアロボットの開発などを考えても高齢化社会のイノベーターになりつつあるといえるでしょう。日本がその独自性を生かしつつ、どんな技術と知恵で局面を打開していくのか、この点に関してはまさに世界が注目しています。

WEB限定コンテンツ
(2014.2.5 英国・ロンドン サマセット・ハウスにて取材)

** ヴィタ・ニードル
低コストのステンレス・スチール管や部品を製造する会社。米国ボストン郊外に本社を置く。設立は1932年。

リンダ・グラットン(Lynda Gratton)

ロンドンビジネススクール教授。経営組織論の世界的権威で、英タイムズ紙の選ぶ「世界のトップビジネス思想家15人」のひとり。英ファイナンシャルタイムズ紙では「今後10年で未来に最もインパクトを与えるビジネス理論家」と称され、英エコノミスト誌の「仕事の未来を予測する識者トップ200人」にも名を連ねる。組織におけるイノベーションを促進するホットスポットムーブメントの創始者。『HotSpots』『Glow』『Living Strategy』など7冊の著作は、計20カ国語以上に翻訳されている。

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