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今日、初めて会った人と仕事をシェアできますか

シチュエーションの違いでコミュニケーションの敷居は低くなる

[佐谷恭]Paxi House東京/Pax Coworking代表

東京・世田谷区の経堂に、コワーキングスペース「PAX Coworking」を立ち上げたのは、2010年8月です。独立事業者や起業前後の事業者のためのオフィスですが、単に場所をシェアするだけではありません。業種や考え方の異なる事業者同士で1つのコミュニティを作り、コラボレーションを促進しよう。単に場所をシェアするだけでなく、そこから生まれる成果をもシェアしていこう、というのが、僕のコワーキングスペースの理念です。

オフィスの入り口には「パーティーするように仕事する!」という言葉が掲げられています。日本の典型的な会議スタイルってアイデアが出にくいと思うんです。会議室に何人も集まって真面目に企画会議を開いてもいいアイデアなんて出ない。だったら自分の席で、1人で考えたほうがマシなんじゃないかと思います。

たとえば、ブレインストーミング。アイデアや課題を抽出するときは、「何を言ってもいい」「否定してはいけない」といったルールがありますよね。それをきちんとできるのは、じつは会議室ではなく飲み会という場なのかもしれない。会議室ではダメだったけど、仕事後の飲み会のほうがいいアイデアが出るのはよくありますよね。

ただ、飲み会で出たアイデアって「飲みの席の話だから」で終わってしまうことも多い。でも、ちゃんと仕事をしている人って、オンとオフを区別することなく、いつも仕事のことを考えていて、飲みの場でのアイデアもきちんと仕事に生かしていたりするんですよね。

知らない人と交流して仕事を膨らます

パーティーするように仕事する、といっても、酒を飲みながら仕事しようというわけではありません。酒は手段のひとつですが、いつも飲んでもしょうがない。自分とは違う世界をもった人と話をして刺激を受ける状況を、意図的に作り出そうよ、というのが僕の思いです。

今、すでにカフェで仕事をする人っていますよね。カフェみたいにいろんな人がいて、ちょっとザワついていて、そういう場所のほうがアイデアが出るというのが体験的にあるから、わざわざカフェに行って仕事をする。そんなカフェの雰囲気を維持しながらも、より安全に快適に仕事ができる場所を目指しています。

コワーキングスペースの最大の特徴は、コミュニケーションがあること。なんとなく仕事をしているうちに、隣に座った見知らぬ人と自然なコミュニケーションが発生するんです。「今日、初めてですか」とか「使い方、分かりますか」とか「何の仕事してるんですか?」とか。そんな質問からスタートして、気付いたら一緒に事業を立ち上げていた、なんてことはよくあります。

たいていの人は人見知りですよね。僕もそうです。駅の改札で知らない人に「元気?」なんて声をかける勇気はとてもありません。そんなことしたら、おかしい人だと思われますしね。でも、改札での立ち話はおかしいけれど、コワーキングスペースだと大丈夫。シチュエーションの違いで人間関係の敷居は低くなるんです。

PAX Coworkingは利用する人の状況に応じてさまざまな入居プランがあります。毎日スペースを利用するフルタイムサービスの利用料は月2万2000円で、現在19人がこのサービスを利用しています。「ドロップイン」という1回利用のサービスもあって、その場合の利用料は1回1000円。ドロップインでよく来る人は20人くらいいます。

レギュラーメンバーは起業家やフリーランスが多く、業種はIT系、デザイナーなど。僕が子育て中だからか育児関連の事業をしている人もいます。地方にある織物会社の営業マンが営業拠点として活用している例もあります。

仕事をしているのにすごく楽しそうな写真

もともと僕は経堂で「パクチーハウス東京」というレストランを経営していました。ハーブの1種であるパクチー(香菜)を使った料理を提供する店で、別名は「交流する飲食店」。ディナータイムは「パーティータイム」です。相席やパーティー営業で知らないお客さん同士のつながりが生まれ、それが一時的な楽しさや友情だけでなく、ビジネスや社会を変えようとする動きにまで発展していくさまを見て、こんな雰囲気で仕事ができるオフィスを作りたいな、と思うようになりました。

でも、漠然とオフィス事業をやりたいと思い始めてから「コワーキング」という概念に出会うまで、8ヶ月もかかったんですよ。ある日、知り合いのブログで1枚の写真を見たんです。いろんな人がいて、ノートパソコンがあって、仕事をしているんだけどすごく楽しそうな写真だった。場所はロンドンだったと思います。ブログの内容を読んだら、コワーキングスペースと書いてあった。すでにそういう場所があって、そういう言葉があるなら、僕もやろう、と。それから2カ月と少しで、PAX Coworkingを立ち上げました。

小田急線経堂駅から徒歩5分のビルにあるコワーキングスペース「PAX Coworking」のWebサイト。起業家やフリーランスのエンジニア、デザイナーなど約40人の会員が在籍している。会員登録(有料)すれば、ワークスペースや打ち合わせスペースを自由に利用できる。ワークスペースの共有だけでなく、異業種交流のイベントや起業支援サービスも豊富だ。
http://pax.coworking.jp/

コワーキング
2000年ごろから欧米の独立事業者が始めた新しい働き方。ワークスペースや会議室などを共有しながら、様々な業種の人がオープンスペースで仕事をする。レンタルオフィスやシェアオフィスと異なるのは、所属するワーカー同士のコミュニティが育まれる点。アイデアに行き詰まったとき、1人では手に負えそうもない事業に取り組むときなどに、メンバー同士で事業領域を補完・人的ネットワークを共有しながら問題解決できるのが大きな特徴だ。近年、イノベーションの促進に役立つことから、独立事業者だけでなく、企業などの事業体からも注目されている。

PAX Coworkingの下のフロアには、世界初のパクチー専門レストラン「Paxi House東京」がある。パクチーは地中海や東南アジアの料理に使われる香草。店名のPaxiは、ラテン語のPax(平和)とi(旅人の象形文字)を組み合わせた佐谷さんの造語だ。Pax Coworkingのイベントは、Paxi Houseで行われることもある。
http://paxihouse.com/

仕事を楽しくするビジネスは
これから需要がある

僕はこれまでに、3つの会社で働いてきました。大手電気メーカーの富士通、ベンチャー企業のライブドア、リサイクルワンと、業種や沿革、社風などそれぞれ異なる会社で働きましたが、どの会社にも「仕事が楽しくない」という人はいました。自分の仕事に必要でない拘束の時間があったり、自由に意見やアイデアを出せない、出しても採用される空気にないというのが不満である場合が多いんですね。

すこし前まで、多くの企業には上司や先輩より早く帰ってはいけないという不文律があったと思います。僕自身も以前の職場では、「前任者は1年間の残業時間が1200時間だった。がんばれ」と言われたりして。

でも、僕は「この仕事は必要ない」とか「こうしたほうが、もっと楽しくなる」と、提案せずにいられないタイプ。そのつど、「確かにそうかもしれないけど、やっておいて」と怒られていました。

今考えると、若造のくせに生意気な社員でした。でも、なかには理解してくれる上司の人もいて、「おもしろい。もっとやれ」と応援してもらったんですね。そういう原体験もあって、今でもつい「こうしたらもっと仕事が楽しくなるはずだ」と考えちゃうんです。

日本のサラリーマンは、仕事に対してネガティブな印象をもっている人が多い気がします。社会人でうつ病になる人も増えているし、30代の働き盛りに「人生こんなもんだよ」なんて言う人もいる。課長といった役職についていても、自分の仕事をデザインできていないという意味では、新入社員と変わらない人も見かけます。

仕事は生活のためと割り切って受身で働き、土日は子どもたちにサッカーを教えたり、好きなことをしたりして過ごすのも1つの手です。でも、1日のうちで一番長く費やすのは睡眠と働く時間。だったら働く時間をもっと楽しくしたい、というのが僕の考えです。

昔は会社に言われるまま黙って働いていれば、ある程度のキャリアと給料を手に入れられたかもしれない。でも、今はそうはいかない。より良いキャリアや給料を手に入れるにはどうすればいいかを考え、自分の人生における仕事の位置づけを考えねばならない。自分の働き方と真剣に向き合わなければならない時代に、仕事をおもしろくするビジネスは需要があると思うんです。

コワーキングで世界とつながる可能性

とはいえ、コワーキングスペースを作った当初は、本当に日本に根付くのか不安でした。コワーキングという言葉は、最近ではメディアで目にするようになりましたが、僕が立ち上げたころはほとんど知られていない言葉でした。

コワーキングと関連する言葉で「ジェリー」というのもあります。「ジェリー」とは、欧米では浸透してきている言葉なのですが、カラフルなジェリービーンズみたいに、いろんな仕事をしている人たちが、1ヶ所に集まって一緒に仕事をしよう、というイベントです。

Pax Coworkingでも立ち上げ当初からジェリーを開催しています。イベントといっても基本的にはコワーキングスペースで自分の仕事をするだけです。ただ、コワーキングはコミュニケーションが大切なので、時折1人3分程度のライトニングトーク(自分の仕事や課題意識をショートプレゼンすること)をしてもらったり、農業や被災地支援といったテーマを設けてディスカッションの時間を作ったりしています。非日常的な環境で仕事をすると、それだけで新しい刺激やブレークスルーのきっかけを得られたりするんです。

ジェリーは始めた当初からすごく面白くて、これは日本でもある程度は流行るな、という手ごたえはありました。でも、言葉はまだまだ知られていない。ジェリーという言葉を根付かせるために、「ジェリーやろう!」「ジェリー、どう?」なんて、意識して使っていますね。最初は自分で言うのも恥ずかしかったですけど、今は、頼まれて講演をしたときなど、最後に必ず「ジェリー最高!」と叫ぶのをお約束にしています。

コワーキングやジェリーといった言葉をあえて日本語にせず、そのまま使っているのは、コワーキングスペースでの仕事が瞬時に世界と繋がる可能性があるからです。去年の1月には「ヨーロッパジェリーウィーク」というイベントにPAX Coworkingとして欧州以外で唯一参加しました。

今年1月には、さらに規模を拡大して「ワールドワイドジェリーウィーク」がヨーロッパで開催されて、僕はアジアで最初のアンバサダーに指名されました。アジアのコワーキングスペースを率いて行くような存在になりたいですね。

コワーキングには、「コワーキングビザ」というすばらしい発想があります。これは、あるコワーキングスペースに属している人は、世界中どこでも、他のコワーキングスペースを自由に使っていいよ、という取り決めです。知らないコワーカーがやってきて、「オレは○○にあるコワーキングスペースから来た」といわれたら、もろ手を挙げて歓迎しよう、という呼びかけが、以前にネットであって、世界中のコワーカーがメーリングリストで「いいね!」「いいね!」と面白がっているのを目の当たりにしたとき、自分もそういう人たちの1員でありたいと強く願いました。

提携しているわけでも、資本関係にあるわけでもなく、コワーキングスペースという概念を支持する人同士が、国を越えて信頼関係を結ぶ。同じ空間をシェアして、一緒に楽しく働く。楽しく仕事をすることで、知らない人と通じ合えるのって最高! と思いますね。

WEB限定コンテンツ
(2012.3.6 世田谷区経堂のPax Coworkingにて取材)

共有の打ち合わせスペース。主にメンバー同士の会議や打ち合わせに利用される。取引先やクライアントなど、他社との打ち合わせに使ってもよい(1時間程度)。

佐谷さんの誕生日にメンバーから贈られた書。「Jelly 最高!!」とは、佐谷さんが開催しているイベント「Jelly」の打ち上げで、みんなで叫ぶ合言葉だ。

Jelly(ジェリー)
アメリカでコワーキングをしていた人たちが考案した、コワーキング体験イベントのこと。独立事業者だけでなく、企業に所属している人などを呼び、日常とは異なる環境での仕事を体験してもらう。様々な業種・職種の人が一か所に集まる様子を、お菓子のジェリービーンズにたとえて、「Jelly」と呼ばれている。

佐谷 恭(さたに・きょう)

株式会社旅と平和代表取締役社長。1975年生まれ。京都大学総合人間学部卒業後、富士通株式会社に入社。関西の新卒採用の責任者などを勤める。その後、株式会社リサイクルワンの創業期に参画。株式会社ライブドアの報道部門立ち上げなどを経て、2007年株式会社旅と平和を創立。”交流する飲食店”というコンセプトで「paxi house tokyo」をオープン。2010年にコワーキングスペース「Pax Coworking」を設立し、現在に至る。主な著書に『ぱくぱく! パクチー』など。現在コワーキングに関する日本初の書籍を共同執筆中。

 

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