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都心の職住近接が企業競争力を高める

都市の集積が新しいアイデアの源泉

[速水健朗]編集者、ライター

ライターとして、大都市や郊外、地方都市の動きに興味を持って取材や執筆を続けてきました。一方、メディアの依頼を受けてIT企業やベンチャー企業を中心にオフィスを訪問して社長へインタビューをする機会も多くあります。

興味深いことに、企業取材で聞く話、つまりオフィスデザインや組織のあり方といったマネジメントのコンセプトと、郊外や地方都市で起きている事象とで矛盾する結果が出てきているんです。具体的にいうと、地方の期待と裏腹に、企業に都市回帰の傾向が見られるということ。言い換えれば、ワーカーが分散してネットワークでつながって仕事をする形から、企業がワーカーをオフィスに集める形へと、働き方のトレンドが変化しているのです。

在宅勤務が可能な会社ほどオフィスに人を集約している

ここ10年で情報テクノロジーや通信テクノロジーが飛躍的に発達し、オフィスに限らず、どこでも仕事することができるようになりました。テキストはもちろん、写真も動画も瞬時に送ることができるようになったし、電子会議システムも充実して在宅勤務もできる。交通テクノロジーも発展して、都市の交通渋滞はずいぶん解消されましたし、鉄道の輸送力も格段に進化しました。

こうした社会基盤の底上げによって、人はどこでも働けるようになると多くの研究者が指摘して、それが郊外や地方都市の可能性と結び付くと思われてきたわけです。実際、1990年代は多くのIT企業が郊外にオフィスを構える動きが目立ちました。マイクロソフトがシアトル郊外の広大な敷地に本社を置き、豊かな自然の中で社員がゆったりと仕事に取り組んでいたのは、まさに時代の象徴だったと思います。

けれども、ここ10年で流れは完全に逆転しました。ツイッター社はシリコンバレーからサンフランシスコ市内に本社を移したし、米ヤフーは2013年に社員の在宅勤務を禁止して話題になりました。日本ではヤフージャパンが赤坂から紀尾井町へ移転を発表(2016年5月から順次移転)、楽天は品川から世田谷区・二子玉川へ移転しました。グーグルジャパンは緑の豊かさやスペースの広さより都心にあることを重視しているのでしょう、六本木ヒルズを間借りしてオフィスを構えています。

情報テクノロジーによって在宅勤務が可能な会社ほど、ワーカーを分散させるのではなく、オフィスに集めているわけです。それも東京、少なくとも首都圏に集中しているという動きは確かにあるように思います。

重視すべきはワーカー同士の物理的な距離の近さ

現に企業取材を進めていると、テレワークや在宅勤務では社内のコミュニケーションが不足して思うような成果があげられないという話しか伝わってきません。それで彼らは実践としてオフィスに社員を呼び戻している。もっと言えば、会社の近くに社員をつなぎとめておこうとしています。

例えばサイバーエージェントが実施する「2駅ルール」は、勤務しているオフィスの最寄駅から各線2駅圏内に住んでいる社員に家賃補助をするというものです。僕はここ5年くらいで30社以上のITベンチャー企業の取材をしていますけど、その半数以上がこうした施策で社員を会社の近くに住まわせています。

もちろん在宅勤務やモバイルワークに対する許容度も上げている会社があるんですけど、うまくいっている事例はあまり見ませんね。オフィスのパーテーションを取り払ったり、喫煙室を減らして代わりに「クリエイティブスペース」や「おやつルーム」の名目でコミュニケーションの場を作る動きも顕著ですけど、これも狙い通りの効果が出ているとは言いがたい。海外の事業所を閉鎖する動きもあります。

ひとつ結論として言えるのは、うまく行っている会社ほど、ワーカーの距離の近さを重視しているということです。社員が住む場所やオフィス内のデスクの配置もそうですし、役員室の撤去あるいはオープン化といった取り組みもその延長線上にあるでしょう。

情報テクノロジーが発展すれば、場所に縛られずにどこでも仕事ができると考えられてきたけれども、その予測は外れている。むしろ物理的な距離が重要な時代になって、人と人との距離を重要視している会社が多いし、そういう会社ほどうまく行っています。これは足で知った事実なんです。


『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』消費のあり方が都市の姿を変えることに言及、その変遷と未来の姿を描いている。(KADOKAWA/角川書店)

帝国データバンクの調査によると、ここ10年で東京への転入企業が増加、都心回帰の現象が進んでいることが明らかになっている。 2005~2014年に他の道府県から東京へ転入した企業は5674件、東京から他道府県に転出した企業は7773件あったが、東京からの転出先は神奈川、埼玉、千葉が7割超を占め、首都圏への集中がうかがえる。

人が都心に行くのはそこに仕事があり、
可能性に満ちているから

都市の変遷の歴史を振り返ってみると、1970年代までは大都市の荒廃の時代なんです。モータリゼーション、移民や貧困層の増加で世界的にも大都市の中心部が荒廃していった。

それが1980年代以降、荒廃した地域を整備したり環境問題をクリアしたりして、商業施設やオフィス、タウンマンションに変貌していく。それによって人が集積し始めます。東京もまさにそうですよね。人が集まるから産業ができて、飲食や商業が潤って、都市が発展していく。人の集積が都市の価値を生むわけです。

ただ、日本の都市計画は微妙な線を行っていると感じます。例えば1970年代には田中角栄の“日本列島改造”で、せっかく都市に集中してきた人口を、集中がよくないからと補助金や地方交付税を使って無理やり地方に分散させた。もっとも、それは低成長期に入ったいわゆるオイルショックの時代だったので、一定の効果はあったかもしれません。

ともあれ、その後1980年代のバブル期にまた集積が始まるわけです。今の2010年代は都市への一極集中が確かな流れとなっている。そしてこの流れを改めようと、行政が今度は“地方創生”を掲げてもう一度分散させようとしている。都市と地方のあまりにも大きい格差を何とかしようという試みなんでしょうけど、個人的には疑問を感じる政策です。

というのも、都市化というのはあくまで自然現象だからです。行政はよく街の中心にハコモノを造って、そこをコミュニティの拠点にしようと考えたりするけれども、そういうものはあまりうまく機能していないと思いますね。人が都心に行くのはそこに仕事があり、新しい可能性があるからです。だからイノベーションも生まれてくる。そこを見誤っては地方の街づくりはうまくいかないのではないでしょうか。

アイデアしかお金を生まない時代だからこそ、都市に企業が集まる

高度成長期などモノづくりが盛んだったころは、製造の効率化を進めるために部品工場や組み立て工場、流通拠点などを近隣に集めていました。いわゆる産業集積ですね。現代版の産業集積は都心部で起こっていると思います。というのは、現代でお金を生むものはアイデアだけになりつつあるから。モノからアイデアへ、事業で扱うものがシフトしている。ではどうすれば良質なアイデアを生むことができるかといえば、働く人たちの距離を近くすることしかないと思っています。

仕事の合間の休憩でも、仕事を終えてから食事や飲み会に繰り出すにしても、社内外の人とコミュニケーションすることが刺激となってアイデアが誘発されるんですよね。いろんな人の意見を聞くことで新たな視点を獲得することもあるし、実際にサービスを利用してみることで新しいサービスやアイデアを思いつくこともある。僕自身そうですし、これは多くの人が実感することではないでしょうか。

例えば六本木ヒルズはオフィス棟の中に喫煙スペースがないので、喫煙者はみんな外でたばこを吸います。結果的に喫煙スペースが異業種交流の場になっている。自分と違う情報を持った人たちとの接触から面白いアイデアが生まれます。あるアイデアを別のシーンで水平展開すること自体、新しい可能性につながりますよね。都市の良さってそれなんですよ。みんなが近いところで働くというだけではなくて、他の知識体系を持った人と接触する可能性がある、そこでクリエイティビティが磨かれるということです。それこそが都市の集積の本質的な価値だと思います。

メーカーでもコモディティではもう戦えないと言われる中で、他社と違うものを作るとなればアイデア勝負になります。資料に向かって得る知識よりも、街に出て思いついたり、人と話したりすることで思いつくアイデアの方が価値がある。そして、その環境を作るには、他の企業、他のビジネスパーソンが多く集まっている都心にオフィスを構える方が合理的です。アイデアしかお金を生まない時代だからこそ、人と人の距離が近い都市に企業が集まってくる。今の都心回帰の現象からはそうした背景も読み取れるのではないでしょうか。

職住近接のさまざまなメリット

都市は地価が高いから富裕層しか住めないと考えがちですが、逆なんですよ。少々高い家賃を払っても、それ以上の価値を生み出すことができて、より豊かな生活を送ることができるから人は都心に住むんです。

かつては独身時代は都心のワンルーム、結婚して少し郊外の広いマンション、子どもができたらさらに会社から離れた場所の一戸建てに住むというようなライフスタイルが主流でしたけど、40歳以下の世代、団塊ジュニア以下の世代ではこういう発想は薄いと感じます。どちらかというと会社に近い都心に住み、休日も会社の近くで遊ぶという職住近接が当たり前になっている。

取材した企業では、終業後にみんなでそのまま飲みに行って、お開きになると徒歩や自転車で家に帰っていく、そういうことも少なくありません。心理的な垣根が低いからこそ、個々の部署ごとの情報伝達、技術伝達も進むし、今こういうものが面白くて、こういうものがビジネスアイデアになるという建設的なディスカッションにもなる。

つまり職住近接は会社としてもメリットがあるし、社会としても経済成長が見込めます。個人としても家賃補助をもらって都心に住めば通勤ラッシュで消耗することもなければ、仲間との一体感をより強く感じることもできるわけです。もう1つ、人が都心に集まって住んだ方がエネルギーロスが少ないので環境負荷も低減できるのも利点です。

地方でも強さ、産業、個性があるところは生き残る

そういう意味では、企業も住宅も都市部にまとまった方が、さまざまな面においてメリットがあると言えるんですけど、世間的には一極集中は好意的に受け止められていません。交通渋滞がひどいとか治安が悪いとか思われがちですよね。

でも先ほども少し触れたように、1980年代と比べて朝の鉄道の交通ラッシュはずいぶん改善されているし、道路の渋滞も減っています。治安にしても世界の都市と比べると東京は安全に暮らせるし、1人あたりの公園面積も東京都下より都心の方が広いケースが少なくありません。都心に住むメリットは大きいけれども、現実とは違うバイアスがかかっている。そのあたりが今の矛盾なのかなという気がします。

それから、今言ったようなメリットとは別にして、今の若者は「地元が好き」「地方でまったりしたい」と傾向が強い。それを受けて、そういう人は地方に残ればいいかといえば、そんなことはないと思うんですよ。地方には産業もないし就職先もない。地元に残りたい人でも働く場所がないから都心に出ざるを得ない状況があるんです。都市に産業があって地方が衰退していくということは、経済状況的に止められない現象でもあります。

政府が提唱する地方創生にしても、計画経済的に行政が介入することが果たしていいことなのかどうか。地方でも強さ、産業、個性があるところは当然生き残っていきます。それをいかにソフトランディングの形で自治体の側から実行していくかを考えなければいけない状況にあると思います。

WEB限定コンテンツ
(2015.8.10 コクヨ エコライブオフィス品川にて取材)

内閣府の世論調査で地方から東京への集中について尋ねたところ、「望ましくない」が48.3%、「現状程度が望ましい」が15.7%,「さらに集中するのが望ましい」が2.3%、「いずれでもよい」が31.2%という結果になった。(「人口、経済社会等の日本の将来像に関する世論調査」(平成26年8月調査)より)

速水健朗(はやみず・けんろう)

1973年、石川県生まれ。編集者・フリーライター。パソコン雑誌の編集を経て、2001年よりフリーランスとして、雑誌や書籍の企画、編集、執筆などを行う。主な分野は、メディア論、20世紀消費社会研究、都市論、ポピュラー音楽など。著書に『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』(KADOKAWA/角川書店)、『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新聞出版)、『1995年』(筑摩書房)、『ラーメンと愛国』(講談社)など。

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