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隣同士の自給自足も育まれる居心地のよい「長屋」

歴史的建造物を改装したシェアオフィス

[Forward Space]Bath, somerset, UK

フロム駅から徒歩数分の小道にたたずむ、オールド・チャーチ・スクール。1823年築の建物は、名前が示す通り、もとは教会付属の学校として建設された。1985年にオフィスとして改装が行われ、所有者も何度か変わっているが、第1級指定建造物であるため、取り壊しや改装は法によって規制されている。

その歴史を感じさせる外観からは、シェアオフィスであることはまったく想像がつかず、地元の教会と勘違いしてしまいそうだ。フォワードスペース創立者でありオールド・チャーチ・スクールのディレクターを務めるギャビン・エディ氏が「オフィスらしくないデザインにしたくて、この場所を選んだ」と語るとおり、存在感がありつつも、新しい時代を感じさせるワークスペースだ。

一歩足を踏み入れると、石造りの外観とは正反対の明るく開放感あふれる空間が広がる。ガラス張りのパーティションが、「フレンドリーでインクルーシブ、そして自然光が通るオープンな場所」というテーマを体現している。この広々とした明るいデザインは、外観の美しさとならび「クライアントに与える印象が良い」と利用者が口をそろえて絶賛する点でもある。

全館無料無線LAN完備で、会議室や電話、ストレージ、プロジェクターなどの設備はすべてそろっているため、ラップトップを持ち込むだけでよい。2010年9月現在42のビジネスが属しており、オープンプランを利用しているのは36名である。メンバーシップは、月8時間から無制限まであり、月ぎめの契約でフレキシブルな点が特徴だ。

イギリス南西部、ロンドンから電車で2時間ほど離れたフロム駅。フォワードスペースは、そこから徒歩数分のところにある。その外観からは、シェアオフィスであることはまったく想像がつかない。

創立者のギャビン・エリス氏は、ライフスタイルの転換を求めてフロムを訪れた。ロンドンでシェアオフィスを利用した経験から、2007年にフォワードスペースを立ち上げたという。

ミーティングルームはガラス張りになっており、外から中の様子をうかがうことができる。その開放感が部屋全体に明るさと広々とした印象を与えている。

360°View

ミーティングルームはガラス張りになっており、外から中の様子をうかがうことができる。その開放感が部屋全体に明るさと広々とした印象を与えている。

※画像をタップすると360°スライド表示が見られます

オープンスペースの1階、
レジデンスがある2階

1階はシェアオフィスのスペースで、1名の個人事業主やパートナーシップを組む人々など、フルタイムのオフィスを必要としないメンバーによって利用される。本棚やストレージをうまく配置することで、レイアウトにメリハリができ、オープンでありながらプライバシーも確保する工夫もなされている。シェアオフィスの入居者は4名以上になった場合、2階のレジデンススペースに居住できる権利を得られる。

2階の小規模ビジネス向けオフィスは、全部で6部屋。月ぎめの契約で、ファニチャーなしのオフィスのリースとなるが、会議室やラウンジ、キッチンは通常通り利用することができる。どの窓から見ても眼下には緑の田園風景が広がり、個別オフィスでありながらもオープンで明るいつくりになっている。

小規模のシェアオフィスのためメンバー間の交流も活発で、地元に根ざしたコミュニティ感覚や帰属感がしっかりしているのも特徴だ。メンバー同士で仕事の依頼や取引をしたりという「隣同士の自給自足」もごく日常的に行われており、まさに「長屋」という例えがピッタリの空間だ。スタッフとメンバー間のコミュニケーションも密に行われ、問題があればその場で解決。メンバーからの意見も運営に積極的に取り入れられている。ペットや子ども連れでの利用もオーケーで、常時平均5匹の犬が「通勤」している。

2階のレジデンスにある環境コンサルタントのオフィス。働いているのは全員女性で、家庭的なインテリアが特徴だ。

1階には滑車付きのボックスが配置されていて、私物の保管ができるようになっている。貴重品や個人情報などの機密書類の収納のためには、カギのあるロッカーが用意されている。

2階のレジデンスにあるデザイナーのオフィス。ロンドンで広告の仕事をしていたが、田舎の環境を求めてこのオフィスに移ってきたという。たしかなコネクションがあれば都会の仕事をここで続けることもできる。画面で歩いている犬はVOGUE誌の一面を飾ったこともあるそうだ。

生活感とアイデンティティのある
ワークプレイス

小規模ビジネスに携わる人々にとって、帰属感や横のつながりはとても大切だ。ネットワークの一環として、フォワードスペースでは定期的にイベントが開催されている。月1回開催の「Business clinic」は、ビジネスアドバイザーと90分間マンツーマンで相談ができるというもの。予約制で料金は無料。アメリカから始まった自宅通勤者のネットワーキング、「Jelly working」も定期的に行われている。いずれも会員でなくとも参加可能だ。

イベントに参加したのがきっかけで会員になったり、会員のクライアントになったりという効果も十分期待されるという。イベントは毎月1回発行のニュースレターで告知され、会員以外でも購読することができる。ソーシャル系のイベントでは、地元のブリュワリー協賛で月1回木曜日に行われる「地ビールテイスティング」がいちばん人気だ。

他業種が集まるフォワードスペースだが、最も多いのはウェブやグラフィックデザイナー、ライターなどのクリエティブ系。ついで、環境関係やITビジネス、弁護士や会計士などのコンサルタント系が続く。会員の平均年齢は29歳から30歳。チャイルドフレンドリーな環境のため、女性の割合が多い。

「それぞれ自宅で作業をしているとやりとりに時間がかかるが、顔を合わせていることで、アイデアもひらめきやすい」と語るのは、デザイナーの男性だ。開放感とコミュニケーションのとりやすさが、生産性を高めるのだろう。ほぼ全員がもともとホームオフィスで仕事をしていたことからくる、家庭の延長のような自由な空気との相乗効果もある。その場にいることを心から楽しんでいる雰囲気が伝わる、魅力的なワークスペースである。

キッチンの壁に貼られたプロフィール。「好きな動物は」「好きな食べ物は」といったQ&A方式だ。スタッフを含め、コミュニティの交流は非常に活発で、プロフェッショナルでありながらフレンドリーな関係が保たれている。

人が集まるキッチンスペースにはランチを食べるためのカウンターやメッセージボードなどがあり、気軽に気分転換を図ったり情報交換を行える場になっている。

 

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現場主義で最先端の表現を極めたい

[齋藤精一]株式会社ライゾマティクス 代表取締役

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