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スタートアップとともに
世界的なデジタルカンパニーへ

[Axel Springer Plug & Play Accelerator]Berlin, Germany

アクセル・シュプリンガー。創業者の名を冠するこの会社を一大メディア企業に押し上げたのは、1952年創刊のタブロイド誌『ビルト』である。一時は500万部以上を発行し、ヨーロッパで最も読まれる新聞となった。

アクセル・シュプリンガー プラグ&プレイ アクセラレータ(以下、アクセラレータ)は、デジタル出版社への脱皮を図る同社が世界的なイノベーションプラットフォームであるプラグ&プレイと共に立ち上げたベンチャーキャピタルだ。アーリーステージにあるテクノロジー・スタートアップを選抜し、100日間の支援プログラムによって成長をプッシュする。投資額は1社につき2万5000ユーロ。アクセラレータは5%のシェアをとり、自らの成長の糧とする。

この建物1階(日本の2階に該当)がプログラムに参加するスタートアップが入居するエリア。プログラム終了後も残りたい企業には、2階スペースを安価で貸し出す。同社CEOのヨルク・ラインボルト氏は言う。

「私たちはできるだけスタートアップに対してフレンドリーであろうとしています。プログラムが終わった後も、私たちの近くでコンタクトをとりやすく、ガイダンスが得られ、他のスタートアップといつでも情報交換できる場を用意したい。ベルリンのコワーキングスペースに比べれば、料金設定も柔軟です」

オフィスはアクセル・シュプリンガーが持つ新聞『ビルト』がかつて速報の発信に使っていたスペース。壁面全体をアーティストに提供し、刺激的なメッセージで埋め尽くした。

  • 1F(日本の2Fに該当)ワークスペース横のブレイクアウトエリア。入居者同士のインフォーマルコミュニケーションはもちろん、ピッチイベントなどの際には観客席として使われる。

  • 6Fにあるペントハウス。ここはミーティングやプレゼンテーションを行うイベントスペース。200名の投資家を集めてのピッチイベント「デモデイ」もここで開かれた。

  • 1Fのワークスペース。「島」ごとに異なるスタートアップが座る。デスクとパーティションだけが並べられたシンプルな空間。なるべく簡素に、フレキシブルにするのがモットーだ。

スタートアップのために
様々なサポート制度を準備

プログラムがスタートアップに提供するものは「物事を実行すること、学習すること、ファイナンスの機会を得ること」の3点だ。「実行」するための環境として仕事に集中できるワークスペースを用意する。

「学習」は週2度のワークショップが担い、グーグルやフェイスブックから講師がやってくることも。起業経験のあるメンター50人を招いて知見をシェアする「メンターデイ」がプログラム中に2回。スタートアップの要望に応じメンターを紹介するインフォーマルな制度もある。そしてファイナンス。アクセル・シュプリンガーのネットワークを紹介しつつ、200名の投資家を集めてピッチイベントを開催する。

「その前にはピッチトレーニングを行います。タフな質問を投げかけられて、きちんと回答できなければ恥ずかしいですから。TEDスピーカーをトレーニングしていた人物がコーチを務めます」

アクセル・シュプリンガーとアクセラレータは、ほどよい距離を保っている。アクセル・シュプリンガーとスタートアップがパートナーシップを組む可能性もあるが、これは強制されるものではない。これまで育成した91社のスタートアップのうち、アクセル・シュプリンガーと協業したのは10社である。大企業とスタートアップの関係性は常に変化するものだ。ハンズオフが最適だと判断される場合もあれば、協業するのがよい場合もある。こうした変化を許容するための距離感だ。

  • ペントハウス内にあるキッチンスペース。ワイン箱を重ねて棚にしている。置かれているドリンクもスタートアップがつくるものを中心に揃えるなど工夫している。

  • ペントハウス横のテラス。アマゾンやRocket Internetなどテクノロジー関連の企業が集まるフリードリヒスハイン=クロイツベルク区の街並みを見下ろすことができる。

  • 2Fのワークスペース。アクセラレータ・プログラムを卒業した企業が入居している。例えばストリートアートの売買ができるマーケットプレイスをつくる企業などが入居。

  • 過去のプログラムに参加したスタートアップの名刺が一覧で貼り出されていた。入居者同士のコラボレーションを刺激することもアクセラレータの役割のひとつ。

通常の買収と異なり
ともにコンテンツを作る文化

それでも、スタートアップとアクセル・シュプリンガーのインタラクションは豊富だ。アクセル・シュプリンガーの社員がたびたび訪れては、スタートアップの仕事に触れている。アクセラレータもまた、本社のあらゆる部署の悩みを聞いて回り、協業の機会を探っているという。

「ここ1年ほどはスナップチャットやインスタグラムといったソーシャルメディアのチャンネルについてよりよく理解したいという声を聞きました。そこで私たちは欧州中を探し、それらの分析ツールを開発している2社を見つけて投資しました。このときはアクセル・シュプリンガーの最大メディアである『ビルト』が話を希望し、すぐ協業が始まりました」

何においても、アクセル・シュプリンガーが強制することはない。ヨルク氏はここに「会社のカルチャーが色濃く反映されている」と見る。アクセル・シュプリンガーがデジタルイノベーションに着手したのは2006年のこと。印刷メディアでは国内トップ、反面、デジタルメディアでは後れをとっていた。そこでトップのデジタルメディアを買収、しかし通常の買収とは異なり「ともにコンテンツをつくる」カルチャーを保った。これまで買収したどの企業も以前のままのブランドでコンテンツを作り続けており、もともとのファウンダーが残る。

こうしたカルチャーもまた、国内外のスタートアップを惹き付ける要因なのだろう。参加企業の44%はドイツ国外から。定期的に東欧やバルト三国、イスラエルのスタートアップの参加も呼びかけている。また現在はアーリーステージ投資に特化しているが、より成熟した企業も含めて広く参加企業を募っていく。彼らのネットワークから得られるメリットはステージが進んだ企業にとっても大きい。

「ロケーションも良い。ベルリンは間違いなく、もっとも活気のあるスタートアップ都市のひとつです。歴史的に見て、ベルリンは常に特別な『島』のような場所でした。2時間もかけなければハンブルクやポーランドなど他の大都市にはたどり着けません。もともと自然が溢れ、落ち着けて、何にも邪魔されない場所。そして全てが安い(笑)。だからみんながベルリンに集まるのでしょうね」

コンサルティング(ワークスタイル): 非公開
インテリア設計:非公開
建築設計:非公開

text: Yusuke Higashi
photo: Tamami Iinuma

WORKSIGHT 11(2017.4)より


CEO
ヨルク・ラインボルト

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[稲垣聡]株式会社ヤッホーブルーイング よなよなエールプロダクション/マーケティングディレクター

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