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金融からTMTの街へ——。
ビルの39階がカナリー・ワーフを変える

[Level39]London, UK

レベル39は不動産デベロッパーのカナリー・ワーフ・グループが運営するインキュベーション・スペース。超高層ビルのワン・カナダ・スクエア39階でスタートしたことが「レベル39」の名の由来だ。

ロンドン東部のカナリー・ワーフは過去20年にわたってロンドンの新金融都心として機能してきた。ここに拠点を置く企業や銀行の市場価値は合計2兆5000億ドル以上だ。だがカナリー・ワーフ・グループのジョージ・ラコベスクCEOが2012年から「テック系企業を誘致する」という方針を掲げて以来、街の性格はテクノロジー寄りにシフト。今ではTMT(Technology、Media、Telecom)をはじめ、アカウント系、法律系などさまざまな企業がオフィスを構える。レベル39はこうした戦略をサポートするために開設された。当初の入居者は6つの小さな企業のみ。現在では24階と42階にも拡張し、合計3フロアに192の企業が入居するまでに成長した。

レベル39は入居者に投資せず、場を通じて成長をどう育むかという立場を取る。そのため入居者が求めるのは何よりも「働きやすいスペース」だ。入居者には4つのメリットがある。1つはHSBC、Citibankなど、優良カスタマーへのアクセス。2つ目は優秀な人材へのアクセス。ビルの下の階にはUCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)のマネジメント・スクールが入居しており、大学と企業とのシナジー効果も生まれつつある。レベル39のエコシステム開発部門の責任者であるエイミー・フレンチ氏は言う。「すでにアイデアをビジネスに発展させつつある学生もいます。また3フロアで約1000人が働くため、コラボレーションが起き、友情が芽生える可能性は計り知れません。単なるコワーキングではなく、コミュニティを育み、成長を促すエコシステムなのです」。3つ目は、ビルやインターネットなど、中心部よりもクオリティの高いインフラへのアクセス。4つ目は200名に及ぶメンターやパートナーのサポートだ。法律関係、銀行関係など幅広い分野の専門家がメンバーにアドバイスをしており、その全員がボランティアだという。「彼ら自身がさまざまなチャレンジを経てきたので、それを若い起業家に還元したいのが理由の一つ。また、ここのメンバーが開発する最新テクノロジーやイノベーションに興味があるからだと思います」(フレンチ氏)

レベル39が入居するワン・カナダ・スクエアは、カナリー・ワーフの中心的存在で最も高いビルだ。

レベル39
コンテンツ部門 責任者
アシフ・ファルケ

  • 金融関係者のために作られたラウンジルーム。こうした落ち着いたトーンで会話ができる空間があるのも、コワーキングスペースとしてはユニークだ。

  • 新しく設置されたカフェテリア。起業家や投資家、大企業のワーカーなどが集まる。インキュベーション施設でありながらスーツ姿の来訪者が多いのがレベル39らしいところ。

  • カフェテリアの窓際には、フォーカス・スペースが数多く設置されている。ロンドン市内を一望できる。

  • カフェで提供される本格的なコーヒーは、1ポンド前後の格安価格で購入可能。

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新しい優秀な人材や企業が来ることで
レベル39のエコシステムは広がる

空間デザインのクオリティは申し分なく、かつフレキシブルなものだ。フリースペース、固定席、個室など複数のワークスペースが用意され、入居者は自社の成長に合わせて自由に選択できる。39階の一部は最近、人々を交流させ共創プロセスが強化されるよう改装された。「デザイン会社のゲンスラーにデザインを委託しました」とコンテンツ部門責任者のアシフ・ファルケ氏。「フェイスブックのような感じです。ここにあるラウンジはメンバー同士、カスタマー、クライアント、インベスターなどがカジュアルに交流するスペース。新しいビジネスのためにコネクションを促進し、イベントも行われています」

24階と42階はHigh Growth Spaceと呼ばれ、成長軌道にある企業の個別のオフィスがある。大半は39階からスタートした企業だ。そのうちの一つ、デジタルシャドウは、レベル39創業時から入居しているサイバーセキュリティのイノベーター。7人の会社が今では92人にまで成長し、サンフランシスコやダラスにもオフィスを構える。彼らのようにレベル39のメンバーになるには、審査を通過する必要がある。「どんな会社なのか、何を開発しているのか、どんな問題解決に貢献するか、資金はどうかなど、私たちが理解する必要があります。紹介や推薦が多いですね。新しい優秀な人材や企業が来ることで、エコシステムは広がります」(フレンチ氏)


レベル39
エコシステム開発部門 責任者
エイミー・フレンチ

  • スタートアップが利用しているコワーキングエリア。ブレイクアップ・スペースがコミュニケーションのハブとして機能している。15時にはベルが鳴り、ティー&ビスケットタイムが始まる。

  • レベル39には、大企業がスタートアップとの接点を求める動きも見られる。大手金融機関UBSのブロック・チェーン・ラボもここに拠点を置いている。

  • テクノロジーを強く印象づけるような直線的なデザインモチーフが多用されている。

  • 企業の成長に合わせて、フリースペース、固定席、個室と使い分けることができる。

  • デジタルシャドウは、成長するにつれて39階から42階へと巣立っていった企業の一つ。この施設のオーナーがデベロッパーということもあり、スペースの調達には事欠かない。

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規模の大小にかかわらず
優れた企業がレベル39から巣立っていく

外部企業や組織が主催するアクセラレーター・プログラムも多彩だ。これまでアクセンチュア、アーンスト・アンド・ヤング、イギリスの大手百貨店ジョン・ルイスなどによるプログラムが開催された。こうした施策が奏効し、レベル39から新しい企業が巣立っていく。もっとも「ビジネスの成功を図るものは、そのサイズだけではない」とファルケ氏は言う。

「役立つものを開発したかどうかに注目してほしい。例えばBankableは大手銀行でも使われるようになったテクノロジーを開発しています。大企業とのコラボレーションも生まれました。HSBCのテック・アドバイザーが2人、レベル39に入居するTokenとRippleという業界注目のフィンテック企業から引き抜かれています。HSBCのような大企業は、新しいイノベーションへのアプローチの際、どこから手をつけたらいいかわからない部分があるのでしょう。そこで気鋭のイノベーターから話を聞こうというわけですね。TokenとRippleのような企業が入居していることでも、レベル39の定評は揺るぎないものになっています。小さいビジネスと大きなビジネスのコラボレーションで、カナリー・ワーフはこれからもまだ変わっていきますよ」

コンサルティング(ワークスタイル):非公開
インテリア設計:Gensler
建築設計:César Pelli

text: Yusuke Higashi
photo: Taiji Yamazaki

WORKSIGHT 12(2017.12)より

 

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