このエントリーをはてなブックマークに追加
innovator_20200525_fukae_2_main

性や愛に関してクローズドな日本。批判も含めて、オープンな議論を

ポリアモリー批判に見る同調圧力の高さ

[深海菊絵]国立民族学博物館 外来研究員

アメリカでポリアモリー(複数愛)という概念が生まれたのは1990年代ですけれども、複数のパートナーによる性愛関係が実践されたり、複数の性愛関係から成る家族が出てきたりといった動きは、1960~70年代の性革命にも見られます。

ただこのときは、カウンターカルチャーの色合いが濃くて、規範を壊すために複数の人と性関係を持つという人が多く、パートナーへの誠実さや関係の持続性といったことは二の次だったようです。実際、そうした複数愛のあり方に傷ついた人もいましたし、振り回された子どもたちもいました。

その反省もあり、ポリアモリーでは1960~70年代の複数愛の実践からも学びつつ、かつ、自分たちは壊すだけでなく、責任をもって関係を構築していこうという意識を強く持つことになったわけです。

社会的な認知が徐々に広がっていった

1990年代はポリアモリーを実践する人も少なく、メディアで取り上げることもほとんどなく、あったとしても「奇妙なもの」として扱われていました。2000年代に入り、徐々にポリアモリーグループが増え、ポリアモリーの組織化が進み、社会的な認知も広がっていきます。このような変化には、インターネットを介して、ポリアモリスト自身が情報発信していく機会が増えたことも大きいと思います。

最近ではテレビのリアリティ番組に出演しているポリアモリストもいますし、メディアでも単に批判するだけではなく、ポリアモリストはどのように関係を築いているのか、ジェラシーはどうしているのか、一夫一婦制に生きる人がポリアモリーの人たちから何を学べるかという具合に、ポリアモリーを愛のかたちの1つの手本とする記事も出てきています。

ポリアモリーの社会的な認知が広がったからといって、ポリアモリーに対する偏見や差別がなくなるわけではありません。アメリカはキリスト教社会で性愛倫理に厳しい風土もありますから、現在でも依然としてポリアモリーと聞くと眉をひそめる人は大勢います。

ポリアモリーに対する差別や偏見の中でも、職場や子どもの問題が特に深刻化しています。ポリアモリストと知られて解雇されるケースやハラスメントを受けることもありますし、ポリアモリスト同士が離婚し、一方だけがポリアモリーを継続している場合に、子どもの親権がモノガミーの親に取られることもあります。


国立民族学博物館(通称「みんぱく」)は、文化人類学・民族学に関する調査・研究、民族資料の収集・公開などを行っている。大学共同利用機関でもあり、中核的な学術研究の拠点としても機能している。1974年創設。
https://www.minpaku.ac.jp/

高校生のカップルが「どうする、ポリアモリーにする?」

ポリアモリーに関する統計調査の多くは、白人の中産階級が極めて高いことを示しています。アメリカで私が接しているポリアモリストも白人の中層階級が多いのですが、他の調査と比べるとアジア人の比率が高くなっています*。それは調査者である私がアジア人だったということや、紹介を通じてポリアモリストの人脈を広げていく調査方法が関係していると思います。

職種もバラバラです。専門職、公務員、教員もいれば、音楽家、消防士、アーティスト、ジムトレーナなどもいました。多様な職種の方々が実践しているということからも、ポリアモリーの裾野が広がってきていることがうかがえると思います。

年齢的には、2010~2011年にロサンゼルスで出会ったポリアモリストは30~50代が多かったのですが、最近は若い人にもポリアモリーという言葉が認知され始めているのを感じます。

高校生の間では誰かと付き合うとき、「どうする、ポリアモリーにする?」と確認することもあるとか。それが一般的かどうかは分かりませんけど、ネットフリックスなどでポリアモリーの形態のドラマも放送されているので、実際にそういうやりとりがされている可能性はあるでしょう。メディアでの露出は若年層への認知度向上に一役買っているといえそうです。

* ロサンゼルスのフィールドワークで深海氏が接触したポリアモリスト68人をエスニシティ別に見ると、白人が77.9パーセント、アジア人が10.3パーセント、黒人が5.9パーセント。ヒスパニックが4.4パーセントだったという。

仲間ができた、孤独を解消できたという人も

日本ではフィールドワークを行っていないので、日本のポリアモリーについてはそれほど詳しくありませんが、それでも日本でもポリアモリーという言葉を見聞きすることは増えました。特にネットを使っている人たちを中心に認知度が高まっているという印象です。

認知が広がることで、意識していなかったけれども、自分とパートナーの関係はポリアモリーの一種ではないかと考える人が出てきたり、複数のパートナーを持つ人ならではの悩みを共有できる人がいなくて孤独を感じていた人に仲間ができた、孤独を解消できたといった声も聞いています。ただ、もともと合意の上で複数のパートナーがいる人が、「ポリアモリー」という言葉で自分の愛を表現するかどうかは、それぞれです。

ポリファミリーのようなかたちで家庭を作っている人は、アメリカに比べると少ないですね。特に、一人の女性が複数の男性をパートナーにして家庭を築いているケースは少ない気がします。

批判から「規範を外れてはけない」という価値観が垣間見える

日本社会でポリアモリーが受容されていくのは、難しい面があるかもしれせん。

日本は、同じであること、あるいは均一性といったことに価値を置く部分があるので、出る杭は打たれますし、人と違った生き方をしている人は批判や中傷の的になりやすい。

ポリアモリーについても「自分勝手だ」「“普通”の家庭で育ててもらえない子どもがかわいそう」といった批判を聞きます。そうした発言からも、「みんなと同じでなければいけない」「規範を外れてはけない」といった価値観が垣間見えるのではないでしょうか。

ポリアモリーを知ることが
性愛や家族を考えるきっかけになればいい

アメリカでもポリアモリーへの偏見や差別があることは述べましたが、それでもアメリカは建国当時から最小限の政府と個人主義、政治的平等といったことが構成要素としてあるので、個人の生き方に他人が干渉しないという風土があります。

また、アメリカでは性的保守の人と性的リベラルの人の激しい対立がありますが、両者には共通して、性について真剣に考えるという姿勢が見られます。私の尊敬するアメリカ文化研究者である亀井俊介先生は、これを「性を直視する伝統」といっています。性をめぐる意見を公の場で戦わせて、きちんと考えていこうとする態度があります。

片や日本は、性や愛に関することを公の場で議論する機会がいままで少なかったと思います。ですからポリアモリーに対する反対意見や批判があったとしても、まずはそういう議論がオープンになされること自体はいいことではないかと個人的にはとらえています。

ポリアモリーというものを知ることで、性、愛、家族といったものが自分にとってどういう価値を持つかを考えるきっかけになればいいし、なおかつ、自分が考えたこと、感じたことを公の場で話し合っていけるようになればいいですよね。

他者への関心を失うことは問題

もう1つ付け加えるならば、これはアメリカでも日本でも同じですけれども、ダイバーシティの重要性が叫ばれる中で、他者への無関心に基づいた他者への寛容が出てきてしまうことは問題ではないかと感じています。

多様性を認めるときに、人は人、自分は自分という意識が強くなり過ぎると、結果として他人に注意を向けなくなってしまう。「自分は勝手にするから、あの人たちも勝手にすればいい」「あなたたちの問題はあなたたちだけで考えなさい」という思考になってしまって、例えば法律を変えていこうとか、社会を動かそうといった話をするときに、みんなで共有する力が弱くなってしまうと思うんですね。

何か大きいものを変えていくときには、当事者たちの力だけでなく、社会全体が関わっていかなければなりません。とても基本的なことではありますが、自分は独りでは生きられない、自分には他者が必要だし、他者も自分を必要としている、ということを常に覚えておくことが大事だと思います。

ヨーロッパやアジアなど国際的にも広がりを見せている

今後のポリアモリーの動向は、なかなか読めないところではあるものの、認知が広まっているのは確かです。

アメリカのポリアモリーのコミュニティは全米規模で都市部を中心に人数が増え続けていますし、ヨーロッパやアジアなど国際的にも広がりを見せています。私の著作『ポリアモリー 複数の愛を生きる』は韓国で翻訳・出版されていますし、中国メディアのインタビューを受けたこともあります。儒教が根付いている韓国で出版されたことは興味深かったですね。

2016年にポリアモリーを題材とした演劇** を監修したのですが、その戯曲を使ったリーディングが台湾やマレーシアで行われました。アジア圏にもポリアモリーに関心を持つ人が増えてきているのかなと思います。

アメリカの高校生の話じゃないですけど、パートナーシップの1つの選択肢として認められる日は遠からず来るのではないかと思っています。

WEB限定コンテンツ
(2020.2.25 深海氏の自宅にて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Rikiya Nakamura

** 「THE GAME OF POLYAMORY LIFE」。2016年1月、演劇ユニット「趣向」によりKAAT神奈川芸術劇場で上演された。

深海菊絵(ふかみ・きくえ)

1980年、札幌生まれ。国立民族学博物館、外来研究員。一橋大学大学院社会学研究科単位取得退学。博士(社会学)。専門は社会人類学。著書に『ポリアモリー 複数の愛を生きる』(平凡社新書)。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

RELATIVE 関連する記事

複数パートナーとの合意ある恋愛「ポリアモリー」とは?

[深海菊絵]国立民族学博物館 外来研究員

RECOMMENDEDおすすめの記事

TOPPAGE