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大手金融機関が見せる
サーキュラー・エコノミーへのリーダーシップ

[CIRCL]Amsterdam, The Netherlands

リニアな経済成長を目指す資本主義の象徴ともいうべき銀行が、持続可能な社会の中で自らの存在意義を模索している。「利益のためではなく、社会にいい影響を与えるため」(CIRCL[サークル]のディレクターを務めるメリン・ファン・デン・バーグ氏)、ABNアムロ銀行は欧州における持続可能なサーキュラー・エコノミー(循環型経済)のリーダーになろうと動き出しているのだ。

きっかけは偶然だった。CIRCLのプロジェクトチームが動き始めたとき、ちょうど、ミーティングルームの不足に対処するためにABN本社オフィスを拡張する計画が既に進んでいたのだ。その結果が世界最高水準の持続可能レベルを達成することを目的とするビル、CIRCLだ。ABNの行員だけでなく外部の関係者も利用できる10室のミーティングルームを備えているほか、ワークショップ、レストラン、ギャラリーなどが一般公開され、地元の市民が集う。

環境負荷を最小限にするため、大半の資材は別の建物で利用されたものをリサイクル。天井の防音・断熱材は1万6,000着の使用済みジーンズやペットボトルを細かく刻んだものだ。置かれている家具はヴィンテージを扱うパートナーから提供された。

さらに、すべての建築部材には固有IDとデータベースで情報が管理され、解体後の再利用まで視野に入れている。CIRCLのインテリア面で助言を行ったカルトーニ・デザインのファウンダー、マリン・ミューラー氏も「無毒の接着剤を使用するので、いつでも分解し、再利用できます」と話す。

レストランも語るべきことが多い。食材はすべて地元の農家から提供されたものを使用。季節折々の食材を前に、シェフは毎日メニューづくりに知恵を絞ることになる。「私たち自身で蜂を飼っており、蜂蜜を自作しています。ここにはたくさんの花があるため、とても上質な蜂蜜がつくれるんですよ。レストランで発生した食材のゴミは庭の土に還して肥料に変えている。すべてが円(サークル)になってつながっているんです」(バーグ氏)

のみならず、ゴミを最小限にする「Zero Waste」ポリシーを掲げており、ゴミが出ないようにシェフは工夫を凝らして材料を使い切る。「野菜がメインですが、シェフに何が提供されるかによって肉や魚も使います。繁殖しすぎたために政府に処分された鹿の肉などを提供することもあります」(バーグ氏)。そして食材の保存には油や酢で漬け込むことで常温保管。ここでは冷蔵庫を必要としていないのだ。


外観。アムステルダムのビジネス地区、ザイダスに位置する。後ろにそびえるのがABNアムロ銀行の本社ビル。ここを本拠地とする大手銀行だ。

  • ギャラリー。GF(地上階)にはギャラリーのほか、ワークラウンジ、ショップ、レストランが入っている。

  • フロア全景。写真右側にはサステナビリティに配慮されたグッズを販売するショップ、奥が廃棄物ゼロを目指すレストラン。左がワークラウンジの一部。空間の大半はリサイクル資材を使用している。

  • 地下。ミーティングやワークショップの部屋が並ぶ。ABNのワーカーのほか、市民や外部団体が利用することも。サステナブルな未来の都市像を模索する大規模イベント「We Make The City」のメイン会場としても使われた。

  • 地下のミーティングスペース。取材時には、行員にサーキュラー・エコノミーの価値観を伝えるサークル・アカデミーのワークショップが行われていた。

  • 地下のカフェスタンド。イベント中のブレイクに、クライアントとのカジュアルなミーティングにと多用途に使われる。

  • 地下のイベントスペース。もともと銀行にあった金庫や私書箱などを持ち込み、木質の意匠を施しインテリアとして生まれ変わらせた。

  • 環境負荷を考慮し、冷蔵庫はできるだけ使わない。食材は特別なケースを使って油や酢に漬け込むなどして常温のまま保存されている。

  • 1F(日本でいう2Fに該当)にあるバー。自分たちでつくった地ビール、地元のラムやジン、茶にこだわっている。施設で頻繁にイベントが開催されるため、そのレセプションでも活用される。

  • 1Fのバーから、ガーデンへ。レストランの生ゴミは肥料として使用。すべてオランダの植物で、季節ごとに異なる表情を見せる。

  • CIRCLの裏手。通りに面した階段状のシアタースペースは市民の憩いの場として親しまれている。

  • レストラン。ゴミを最小限にする「Zero Waste」を実践しており、フードマイルの少ない地元から仕入れた食材を徹底的に使い切る。健康面でもケアしており、ヴィーガン・メニューも豊富。

新たに生じた「循環」が
行員を変え、ビジネスを変えていく

CIRCLはABNアムロのワーカーからクライアント、地元住民ら、誰もが立ち寄れる場所だが、ワーカーにサーキュラー・エコノミーを教育する場でもある。「サークル・アカデミー」がそれだ。1年で3,000人もの行員がプログラムを受けるほど活発に展開している。ゆくゆくは外部にもアカデミーを公開する予定だ。アカデミーの参加者は、将来何をすれば社会がよくなるかを考えている。どうすれば自分の家も持続可能になるか、どうすればビジネスも持続可能になるか。

ワーカーたちの反応はどうだろう。

「やらなくてはいけないということをみんなが知っています。当社にはアカデミーがあり、知識を持った先輩行員も多くいます。新しいスタッフがサーキュラー・エコノミーを理解するための環境はとても整っていると言えます」(バーグ氏)

彼自身、以前は持続可能性のことを全く知らなかったという。たとえゆっくりでもワーカーを教育することの大切さを説いてくれた。「そうすれば自身の家で意識することもできます。クライアントと話すときも、できるだけ持続できるモデルを考えようと努力するでしょう。強要はしませんが提案はします。我々の知識を、クライアントのために役立てたいのです」(バーグ氏)

サーキュラー・エコノミーのリーダーになるとのスタンスはCIRCLを通じて世に提示され、好意的に受け入れられた。新たに生じた多様なステークホルダーとの「循環」は行員を変え、彼らのビジネスそのものを変えるだろう。それこそCIRCLの本当の価値だと彼らは信じている。


サークル
ディレクター
メリン・ファン・デン・バーグ


カルトーニ・デザイン
ファウンダー
マリン・ミューラー

  • CIRCLの建築にあたって設計されたバリューチェーン。各プレーヤーが従来以上の役割を果たすことで、環境負荷の小さな循環経済を構築することができる。
    (C)Circle Economy, Architekten Cie and Circl

  • CIRCLの建物にはさまざまな環境技術が投下されており、この図はそれを示したもの。設計と運用にあたっては、可能な限りCIRCLの持つビジネスモデルが使用されたという。
    (C)Circle Economy, Architekten Cie and Circl

text: Yusuke Higashi
photo: Rikiya Nakamura

WORKSIGHT 15(2020.3)より

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