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台北市民に深く愛される
「文創」スピリットの発信基地

[華山1914 文化創意園區]Taipei, Taiwan

象徴的な赤レンガの建物が立ち並ぶ、巨大なアート・イベント空間。これは台湾のクリエイターたちによる、クリエイターのための場所だ。用途は「会・展・演・店」の4つ。「会」は会議を指し、各種イベントが催される。「展」は展覧会。過去には映画監督の宮崎駿氏の展示が盛況を博した。「演」は映画館や音楽ホールでのパフォーマンスを指す。「店」は店舗。カフェや書店、雑貨店などがある。付け加えるなら、敷地内の大きな芝生は、台北市民にとって貴重な憩いの場だ。クリエイターたちによるワークショップやストリートパフォーマンスも、台北市民を惹きつけている。

華山1914 文化創意園區(ホアシャン1914 クリエイティブ・パーク/以下、華山1914)の運営にあたる王沛然(ワン・ペイジェン)氏によれば、クリエイターから届く提案書は年間2000件以上。そのうち、台湾の「文創」のスピリットに合うもの、華山1914を訪れる一般客に新しい価値を提供できるものを選定するという。

クリエイターが華山1914に集まる理由を、王氏は「現代と歴史のギャップから来るインスピレーション」だと考えている。もとはといえば、日本統治時代に建てられた酒工場やカンフル(樟脳)生産工場の跡地だ。「華山1914」という施設名も、酒工場の初商品が1914年に出荷されたことに因む。1946年に日本統治が終わったあとは台湾政府に経営権が移ったが、やがて工場機能は移転、1980年代には廃れた。役割を失い放置されたまま、およそ20年。そんな土地に目をつけたのが台湾のクリエイターたちだ。彼らにとっては赤レンガの壁もがらんとした工場内部も、格好のキャンパスであり、パフォーマンスの舞台だった。華山1914での公演後に不法侵入の罪に問われた劇団が抗議し、工場跡を「クリエイターが集まる場所」にするべきだと主張した。多くの支持を得た彼らの声についに合意した政府は、後に今の文創政策となるものを起草したのである。2005年に始まったリノベーションにあたっても、できるだけ当時の面影を残すよう配慮された。

「台北には今、この雰囲気のスペースはほとんど残っていません。雰囲気が変われば、そこにいるクリエイターが感じることも、考えることも変わりますよね」


華山1914 文化創意園區の全景。もともとは酒やカンフルを作っていた工場。1980年代までに役割を終えた後は、アーティストたちがパフォーマンスの舞台として密かに活用していた。

  • 年間約250万人が展示やショップを訪れる。歴史と現代が交錯する空間は、家族連れやカップルなど、多くの市民に愛されている。

  • 左側が展示場や劇場があるエリア。右側はショップが入居するエリア。

  • 台湾を代表するセレクトショップ「VVG」。一店ごとにコンセプトが異なることで有名だが、華山1914では雑貨、書籍、レストランによる複合施設となっている。

  • 台北でも珍しく、レンガ造りのスペースが多く残る。

  • 壁と一体化する生命力あふれる木の幹。

  • 日本発のクリエイティブエージェンシー、ロフトワークが手がけるファブカフェ。ワークスペースとしての利用者も多い。

  • 小さなショップが並ぶ一室。台湾のクリエイターの作品を中心に販売している。施設内には大きなテナントが17店舗、小さなテナントが10〜15店舗入居している。

  • 華山1914をメインに、5つの会場で行われた展示会「一座高山博物館 -Body-Knowing」。「登山」をテーマにしたさまざまな作品が展示された。

  • 華山1914の運営にあたる財団のオフィス。畳敷きのスペースもある。

  • 「青鳥書店」。人文系の書籍中心の棚作り。カフェを併設し、コンサートなどのイベントも開催する。

運営を民間に委ねた結果、
「新しいこと」が起こり続ける場に

華山1914の所有権を持つのは政府の文化部だが、運営は民間に委ねられた。入札には商業施設の経営者ら資産家が多く参加した。廃墟と化してはいても台北市の一等地、不動産価値は高い。だが入札に勝利したのは意外にも、彼らとは趣を異にする人間。王氏の所属する台湾文創発展株式会社のCEOである王榮文(ワン・ユンブン)氏は、出版社の出身だった。

「彼は出版業界でキャリアを積み上げた人物で人間中心にものごとを考えるタイプ。華山1914はきらびやかな場所ではありませんが、素晴らしいヒト、モノ、コトを探して人々が集まります。私たちが大事にしたいのは、ここに来るたびに新鮮な感覚を得られること。また海外から来たお客様にもおもしろさを感じられるようにと考えています」

運営にあたるのは、王沛然氏を含むおよそ50人のチームだ。バックグラウンドはさまざまだが、肝心なのは「新しいことに喜んでチャレンジできるかどうか」だという。「ここでは毎日たくさんのことが起こります。出会いも豊富。eコマースに自動車業界、公益団体、政府、学者など、さまざまな業界の関係者とコミュニケーションする力、まとめる力も大事です」

彼らは、華山1914で成し遂げたことを誇りにしている。例えばそれは、年間1000件以上の展覧会やイベントを開催したこと。その一つひとつが繋がり、影響し合い、新たなクリエイティブが生まれてゆく。創業から11周年を迎えた現在、これまでの成果を華山1914以外の場所でも再現しようと、議論を重ねているところだ。

  • 温暖な気候により、植物も青々と生い茂る。

  • 台劇場「烏梅劇院」。

  • 財団が持つVIPスペース。日本の建築家・建築史家である藤森照信による茶室。敷地内にはもう1つ藤森作品がある。

運華山1914での経験や成功例をもとに
台湾のクリエイターを世界へ

もっとも「華山1914での経験と成功例はコピーしにくい」と王氏は教えてくれた。台湾各地あるいは海外から「ノウハウを学んで持ち帰りたい」という見学者が後を絶たないが、揃って難儀するという。「なぜかというと、華山の成功は、時・人・場所など、さまざまな条件に恵まれているからです」。それでも王氏らは、華山1914で得た知見を外部に持ち出してもらいたいと願っている。今、彼らが政府に提出しようとしているレポートにも、数々の量的データをまとめた。「このデータで、クリエイターやスタートアップ企業を励ますことができたら」

彼らはしばしば、「出会うべき人たちを出会わせる」と口にする。クリエイターを始めとするリソースが限られた人が情報を発信し、自分を好きになってくれる人と出会い、オーダーをもらえるまでの関係を結ぶためのプラットフォームになること。「これからは海外との連携も進めて、台湾のクリエイターを世界に送り出したい。私たちが華山1914に期待するものは、大きいのです」

text: Yusuke Higashi
photo: Kazuhiro Shiraishi

WORKSIGHT 14(2019.1)より

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