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「インターネットは社会を分断しない」。10万人調査で見えた実態

若年層は穏健化、中高年層は分極化の傾向

[田中辰雄]慶應義塾大学 経済学部 教授

インターネットが生まれた当初、ネットは人々の相互理解を深め、争いごとをなくし、政治をよくするだろうという希望や楽観論が満ちあふれていました。

しかし、1990年代の後半あたりから、「ネットは社会を分断している、世の中に悪影響を与えている」という悲観論が出始めます。ネット上の言論が両極端に分かれている、誹謗や中傷、けんかが横行して、生産的な議論が行われていない、非生産的であるというのがその根拠です。

実際、我々が行ったアンケート調査* では、「ネットで実りある議論をするのは難しいと思う」という人が47パーセントと約半数に達しています。「難しいと思わない」人はたったの7パーセント。ネットでの議論が相互理解に向かわず不毛な言い合いばかりが続いているという認識を持つ人が多くいるわけです。

ネットは社会を分断しない。むしろ穏健化する

確かにネットが言論空間として良質かといえば頷けないところもあります。炎上しているサイトは典型例ですけど、ネットの言説を見ると内容が非常に偏っているものが少なからずあります。偏見もヘイトスピーチもある。ただ相手をやりこめ、糾弾したいだけというものもある。「ネット上ではまともなコミュニケーションはできない」と断言する声も見られます。

でもネットが分断の根源かというと、直感的に違うような気がしたんですね。なぜかというと、ネットに親しんでいる若い人がそれほど極端な思想に走っていないからです。

以前、世間で騒がれるような炎上事件について、自分の専門である計量分析の観点から調べたところ、書き込みをしている人はネットユーザーの0.5パーセントに過ぎないことが分かりました。ほとんどの人たちは炎上に加担してないし、むしろ苦々しく見ているという実態もその分析で明らかになっていました。

果たして本当にネットは社会を分断しているのか。その課題意識を富士通総研の浜屋敏さんと共有したことから、共同で10万人規模のアンケート調査を行い、定量分析を行ったんです。すると意外なことに「ネットは社会を分断しない。むしろ穏健化する」という結論が得られました。

選択的接触が自分の意見を強化し、考え方の偏りを生み出す

人々の意見がリベラルと保守の極端なに方向に分かれる「分断」という現象は、学問的には分極化(ポラリゼーション、polarization)と呼ばれます。正規分布でいえば、中央部分にある中庸層のボリュームが減り、左右の裾野の層が増えるということです。

分極化のネット原因説はいろいろな研究者が指摘していますが、特に大きな要素としては選択的接触(selective exposure)があると思います。

選択的接触とは、人が情報に接するとき、自分の考えに合う情報を選ぶこと。新聞やテレビのニュース番組などのマスメディアでは、多少の偏りはあるにせよ、一応は反対意見と賛成意見が紹介されるので、視聴者は情報のバランスが取れます。しかし、ネットの場合はひとつひとつの記事だけを取り出すことができるので、保守的な人は保守的、リベラルな人はリベラルな情報ばかりを選ぶことができます。

選択的接触は本人の意図だけでなく、企業のデジタルマーケティングでも行われます。本人の興味や関心に基づいて、閲覧しているサイトに広告やレコメンデーション(お勧め商品)を表示するのもその1つですし、検索エンジンにおいて好ましいと思う情報ばかり提示されるフィルターバブルも選択的接触を助長します。

この状態が続くと、自分の考えを強化する意見ばかりが耳に入って、判断や考え方の偏りが増幅される、いわゆるエコーチェンバー現象が起きやすくなります。さらに極端になると、考え方の似た人だけで交流し続けることで意見が強化され、社会の分裂を招くサイバーカスケードをもたらすともいわれます。こうした分断のネット原因説はアメリカの研究者も多く指摘しているところです。


田中氏の専門は計量経済学、情報通信産業およびコンテンツ産業の経済分析。
https://k-ris.keio.ac.jp/html/100000456_ja.html

* 2017年8月実施。ウェブモニター調査会社のモニター1890人対象。


田中氏と浜屋氏の共著『ネットは社会を分断しない』(角川新書)。この記事で田中氏が説明する調査・分析について詳述している。

強烈な意見を持つ人が自説を拡散するために
ネットを使っているのではないか?

ところが我々が日本のネットユーザーを対象に調査** したところ、こうした指摘に大きく反する事実が出てきました。

まず、分極化の原因がネットにあるという説について。これがもし正しいとすれば、ネットを多く使っている若年層ほどその傾向が強く、ネットをあまり使わない中高年層は変化していないはずです。しかし、調査では若い人ほど穏健、中庸で、中高年ほど両極端に走っているという結果が出ました。

一方で「ネットメディアを使う人ほど分極化している」という事実はあります。しかしなおかつ「若年層でなく、中高年で分極化が起きている」という事実が判明したわけです。ということは、原因はネットにあるのではない。ネットを利用した結果分極化するのではなく、分極化した人がネットを利用しているのではないか。もともと強烈な意見を持つ人々がいて、そういう人たちは自説を拡散するためにネットを使っているのではないか。そういう仮説を次に立てました。

穏健化するのは、「20~30代」「女性」「もともと穏健な人」

これを検証するために、同じ人を継続的に追跡していくパネル分析の手法を用いて、ネットの利用を開始する前と後で、意見が右か左かに過激化したかを調べました***。

結果としては、ネットを利用した結果、分極化するという因果関係は見られませんでした。この分析の結果は次の3点に集約できます。

(1)ネットメディアを使い始めると穏健化する人が多い。
(2)穏健化するのは20~30代の人がブログを使い始めたとき、女性がブログを使い始めたとき、もともと穏健だった人がツイッターを使い始めたときである。
(3)ただし、もともと過激だった一部の人がツイッターを使い始めると、さらに過激化する傾向がある。

ネットメディアの利用と政治的な分極化には正の相関があるものの、ネットが原因で分極化がもたらされているのではありません。政治的に強い主張を持つ人が自分の主張を伝えるためにネットを利用していると考えた方が妥当ということです。そして、ネットを使うと人々は穏健化の方向に向かうということも明らかになりました。

保守・リベラルの一方だけの意見に接する人は5パーセント以下

しかし、そうなるとさらに疑問が生まれます。日本でもアメリカでも、ネットが選択的接触を助長するという仮説が広く流布しています。この点について真相がどうなのか、次にそれを調べてみました。

代表的なソーシャルメディアであるツイッターとフェイスブックについて、ネット上でよく話題にされている論客をフォローしているかどうかを聞きました****。

接している論客のうち、自分と逆の意見の持ち主がどれくらいいるか、いわゆるクロス接触率を調べたところ、結果は38.9パーセントという高い数字が出ました。

ということは、接している人の4割弱は自分と政治傾向の異なる人ということです。ランダムに接すればクロス接触率は5割で、そこから1割下がるだけ。この数字には自分でも驚きました。リベラルはリベラルの意見ばかり、保守の人は保守の意見ばかり聞いているような気がしていましたけど、そういう保守・リベラルの一方だけの意見に接する人は5パーセント以下でした。

念のため、一般の新聞やテレビとも比較したところ、自分と反対のメディアを視聴する率は35パーセントでした。むしろネットの方が幅広く自分と反対の意見を見ているということになります。ネットでの選択接触の影響は一般に言われているよりむしろ小さいということです。エコーチェンバーに陥る人は限られていると見られます。

ネット草創期の希望はまだ死んでいない

マスメディアの方が選択的接触が起きやすいことの背景には、ネットはマスメディアのような編集機能がないので多様な生の意見に接しやすい、直接リンクがあるので意図しないクロス接触が生まれる、といったことが挙げられるでしょう。

考えてみると、マスメディアでは反対の意見に触れるためにはコストや手間がかかるんですね。朝日新聞と産経新聞を両方購読する人はあまりいないはず。リアルな世界の方が実は選択的接触が起こりやすいといえるかもしれません。

ネットでは閲覧履歴を参考にしたフィルターが入ることはあるにせよ、好むと好まざるとに関わらず、雑多な情報が入ってきます。ネットを使っている人たちの方が多様な意見に接して中庸化している。ただ、一部の目立つ意見が誇張されて見えるネットの特性が、ネットが分断をもたらしてしまうという誤解を生んでいると考えられます。

いずれにせよ、我々の定量分析では「ネットは社会を分断化しない、むしろ穏健化する」という結論が得られました。ネット草創期の希望はまだ死んでいない。人々は思いのほか賢かったということです。

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(2019.12.20 港区の慶應義塾大学にて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Rikiya Nakamura

** 2017年8月、日本居住者10万人に対して行ったアンケート調査。

*** 2018年2月、1回目の調査の回答者10万人に調査票を送って、5万人から回答を得た。質問項目は1回目と同じ。

**** 2019年5月、2万人を対象に行った補足調査。

田中辰雄(たなか・たつお)

1957年、東京生まれ。東京大学大学院経済学研究科単位取得退学。現在、慶應義塾大学経済学部教授。専攻は計量経済学。著書に『ゲーム産業の経済分析』(共編著・東洋経済新報社)、『ネット炎上の研究』(共著、勁草書房)など。

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