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社会貢献の視点で新たなビジネスの芽を見出す

「社会的企業」の台頭の背景とその可能性

[谷本寛治]早稲田大学商学学術院 商学部 教授

環境、貧困、障害者、少子高齢化、女性、教育……国の垣根を越えて様々な問題が社会に突き付けられています。こうした課題の解決にビジネスとして取り組むソーシャル・エンタープライズ、ソーシャル・ビジネスが世界的に増えてきています。

背景にあるのは既存の枠組みの限界でしょう。従来なら、社会的な課題を解決するのは、まず政府や国際機関の役目とされてきました。しかし政府が扱うには大きすぎるグローバルな問題があると同時に、反対に小さすぎるローカルでマイナーな問題も増加しています。価値観も現象も複雑化していく中で、政府では地域や個人に特化した問題に対応しきれないという事態が起きてきました。

ボランティアから「事業」を意識した社会的企業へ

そういった問題に市民がボランティアや寄付によって活動を展開するNPO/NGOが立ち上がりました。政府でも市場でもない、第三のやり方ですね。伝統的な慈善型のNPOといわれるケースでは、寄付やボランティアを集めて災害を受けた人々を支援したり、ホームレスのために炊き出しをしたりする。そうやって地域で困っている人を救うわけです。こうした活動の意義は今も今後も失われません。そのさらにこのようなスタイルとは異なり、ビジネスとしてホームレス問題に取り組み、彼らに就労の機会を継続的に提供して自立を手助けしていく動きも最近広がっています。それは政府による支援でも、ボランティアによる支援でもない。

こうして注目を集めるようになったのが社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)です。障害者支援でいえば、例えば神戸のプロップ・ステーション*という社会福祉法人は、ITを学ぶ場を作り、障害者に就労の機会を提供する。障害者を納税者にしよう、福祉を受けるだけの立場から脱皮しようというキャッチフレーズで様々な事業展開しています。もちろん、社会的な課題をビジネスとして取り組むことは簡単なことではありません。事業として成り立たせるには、資金などの資源獲得から、事業運営に関し、まわりの人々の理解と協力が必要です。その上で、これまでにない仕組み、取り組みを生み出していくことが必要です。

社会的課題の解決をコアのミッションで立ち上げたソーシャル・ベンチャーだけでなく、既存の企業がその事業の一部にソーシャルな取り組みを組み入れるようになってきています。障害者雇用の促進や、環境配慮型商品の開発、フェアトレードの導入などです。例えば、ヤマト運輸は、メール便(クロネコメール便**)の配達に障害者を積極的に採用するようになっています。ヤマトでは、全国各地の障害者団体と協力し、個人契約ではなく団体と契約することによって、障害ある人たちが働きやすい仕組みを作り、取り組んでいます。

深みを増すCSRの意味

従来、資本主義市場で資本主義的な企業が経営活動をしてきたわけですが、かつての市場イメージ、企業イメージとは明らかに変化しています。様々な社会的問題が社会に存在しており、その解決を求めて企業への期待が高まり、企業家がその声に応えていく流れが生まれつつあります。消費者、投資家、地域の人、働く人などが関係して、ビジネスに求められる役割、期待、責任は、この20年ほどで大きく様変わりしたといえます。

日本でもとくに2000年前後から変化が現れています。大企業を筆頭にCSRに取り組むようになりましたし、CSRという言葉自体も、登場した当初は社会貢献活動という理解も少なくありませんでしたが、今は企業経営のあり方を問うものという理解が定着しつつあります。社会や環境に関わる多様な問題を企業がきちんと対応しないと評価が落ちるし、優秀な人材も集まらないという危機感が出てきているといえます。

ものづくりにおいても、変化が見られます。最近増えているのは、例えば、グリーンプロダクト=環境配慮型商品(仕入、生産、流通、販売、処分などで環境負荷の低減を図った商品)があります。環境を配慮したものづくりは注目されており、生産から廃棄まで、製品のライフサイクルを通して、CO2の削減を管理していることが支持されるような動きも広がっています。エコロジーを重視する消費者が増えることで市場での評価が高まる、企業イメージがアップして次の展開がしやすくなる、社員の意識が高まるといった具合に、企業ブランドの視点からも無視できません。例えば、サントリーのように、水にこだわり、水源の管理まで進めることで、消費者からの支持も高まっています。

また、池内タオル***という中小会社は、風力発電の電気を利用することで、「風で織るタオル」というブランドを売り出し、安全面での配慮と合わせて、国内外で高く評価されています。本業を通して、社会に貢献するという視点で事業をとらえなおせば、新たなビジネスチャンスの芽を見出すこともできるわけです。

*社会福祉法人 プロップ・ステーション
1991年5月に設立された障害者の自立支援組織。ICTを活用して就労促進や雇用創出を行うほか、フォーラム・シンポジウムやパソコンセミナーなども実施。「for the challengedからby the challengedへ」の発想で、障害者が誇りある納税者になれるような社会作りを目指して活動している。
(the challengedは、挑戦という使命やチャンスを与えられた人の意で、障害者を表す新しい米語)
http://www.prop.or.jp/

**クロネコメール便
2004年10月、財団法人ヤマト福祉財団は、「障がい者のクロネコメール便配送事業」をスタート。施設や作業所の責任者が契約主体者となって、ヤマト運輸と個別契約を結び、メール便を配達する委託業務を斡旋している。配送業務の内容や配達委託単価(賃金)は、一般の配達員と同等に設定されている。
http://www.yamato-fukushi.jp/works/delivery/

***池内タオル
愛媛県今治市にあるタオル、マフラー、カーテン、アパレル素材等の製造・販売会社(従業員数30名)。2002年、風力発電100%の工場稼働を開始し、翌年「風で織るタオル」ブランドを立ち上げ。電力は、秋田県の能代風力発電所から購入してまかなっている。バスタオル1枚につき、約437gのCO2削減効果になるという。
http://ikeuchitowel.com/

CSRと収益性の相関性は
市場の成熟にかかっている

ただ、CSRに先進的に取り組んでいる企業が、収益性が高いかというと、これまでは、まだはっきりした相関性を示すことはできません。CSRを頑張っているから収益性があるのか、余裕があるからCSRができるのかは、今のところ市場との関係性では明確なことがいえないということ。市場における消費者・投資家のマインドがまだ成熟しておらず、その市場行動を変えるまでには至っていないからなんですね。

ただ不祥事を起こすことがあれば、株価が下がったり消費者に敬遠されたりと市場ははっきり反応します。ところが、よくやっているから株価が上がるかというと、現時点ではそこまでは明確な動きはありません。

CSRと収益性の相関を深めるうえで、「市場の成熟」は重要なキーワードです。ソーシャル・コンシューマー/グリーン・コンシューマー(企業の社会活動や環境活動を評価し消費行動に反映する消費者)のようなコアな人たちばかりではなく、「環境にいいことのほうが何となくいいよね」というフォロワーが多く出てこないといけない。鍵を握るのはわれわれ消費者なんです。まずはわたしたち自身が社会に貢献する会社をどう評価するかで、市場は変わっていくと思います。

「社会の役に立ちたい」潮流が新しい働きがいを生む

CSRという潮流の中で、既存の大企業が自分たちの持っている技術やブランド力を使って社会変革に取り組むケースもあれば、中小企業が事業で培ったノウハウや地域のネットワークを活用して新しいソーシャル・ビジネスに踏み出すケースもあります。企業規模、組織形態、業態、対象とするものも極めて多様です。したがって定義がしにくのですが、この裾野の広がりこそが今のソーシャル・ビジネス、ソーシャル・エンタープライズへの人々の関心の深さを示しています。

社会的なことへの関心は日本ではもともと高いとは言えませんでした。政府への依存が高かった。一つの転機は、1970年代のオイルショックです。それまで会社のために一生懸命働いて高度成長を果たしたものの、石油危機で働き方や会社のあり方が根底から揺さぶられたわけです。「これまでの働き方でいいんだろうか」「真の豊かさって何だろう」「会社って何だろうか」と問う風潮が80年代に強まり、社会や地域のことに関心をもつ人も増えていきました。

さらに、その後のバブル経済の崩壊、1995年の阪神淡路大震災を契機にボランティア活動をする人が急増。先の東日本大震災も自分が何ができるか、という問いかけに拍車をかけたと思います。企業活動を見ても寄付付き商品、フェアトレード商品、オーガニック商品など、ソーシャル・プロダクツが多く登場しています。

昨年の内閣府の調査****では、社会に何か役立ちたいと思っている人は67.4パーセントにのぼっています。7割近い人が何らかの形で社会に役立ちたいと思っている。思うけれども、具体的にどうしていいかわからない人もいる。ボランティアが増えているとはいえ、時間に余裕がないといった理由で二の足を踏む人も少なくないでしょう。そこで企業が後押しをするプログラムも出てきました。

でも特別な活動をするということではなく、日々の仕事を通して、自分たちの手がけた商品やサービスが世の中に役立っているという実感を得ることはできます。そしてそれは必ずしもソーシャル・エンタープライズでしかできない、ということではありません。環境問題や社会問題の解決に取り組み、持続可能な社会づくりに貢献するビジネスのあり方を考えていく。これまでの経営のあり方、ものづくりのあり方を問い直す。そこにいろんな可能性があると思います。また、ソーシャル・エンタープライズやNGOと協働して、新しい取り組みを行うということもあるでしょう。

企業だからこそできることがあるはずです。既存の業務から社会とのつながりを見いだし、社会に貢献するビジネス、新しいやりがいを現場にもたらすことも十分可能だと思います。

WEB限定コンテンツ
(2013.7.22 早稲田大学構内の研究室にて取材)

****内閣府「社会意識に関する世論調査」より(平成23年度版/平成24年1月調査)

谷本寛治(たにもと・かんじ)

早稲田大学商学学術院商学部教授。1955年生まれ。大阪市立大学商学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。1989年経営学博士。和歌山大学経済学部教授などを経て、1997年一橋大学商学部教授。2000年一橋大学大学院商学研究科教授。2012年より現職。2005-09年特定非営利活動法人ソーシャル・イノベーション・ジャパン代表理事。2009-12年社会・経済システム学会会長。2010年ベルリン自由大学客員教授。2011年企業と社会フォーラム(JFBS)会長。著書に『責任ある競争力』『ソーシャル・イノベーションの創出と普及』(いずれもNTT出版、2013年)などがある。

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