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美しい自然への愛を表現した
「パシフィック・クレスト・トレイル」

[Slack]San Francisco, USA

ローンチからわずか5年、ビジネス用チャット・ツール「Slack(スラック)」は世界を席巻した。この事業拡大に伴い、ビルを一棟借り上げ、2019年12月の完成に向けて急ピッチで新グローバル本社の整備が進んでいる。O+Aの手による新オフィスは、同社のファウンダーでCEOスチュワート・バターフィールド氏のアウトドア志向を色濃く反映している。トレイルのエチケット「必要なのは必要なものだけだ」をもとにO+Aが提案したコンセプト「パシフィック・クレスト・トレイル」とは、メキシコに始まり太平洋岸を巡ってカナダまでアメリカ西海岸を縦走する自然歩道を指す。結果、スラックの新オフィスは、テクノロジー企業らしからぬ「自然への愛」が溢れたものになった。

 例えば、2階はメキシコの砂漠のイメージ。1フロアごとに北上していき、10階は美しいカナダの氷河に見立てた。コンセプトも明快ならば、作業スピードも異例に早かった。他の建築家がタイトなスケジュールを理由に断る中、O+Aは快諾。わずか60日間でフロアの全デザインを終わらせた。スラックのファシリティを統括するリンダ・ショー氏はそのスピードの理由にO+Aの経験値を挙げ、賞賛した。曰く、「ワークスペース」と「美しいスペース」を両立できるのはO+Aだけ。「O+Aは、パーフェクトな2つの強み、コンビネーションを持っていたのです」。タイトな時間の中で、意匠のクオリティはもちろん、働きやすさまで考慮されたワークスペースを仕上げた。

 スラックの自然志向は、ワークスタイルにも顕著に表れている。「ミレニアル世代のみならず、全世代にとって居心地のよい環境を」がポリシーだ。バターフィールド氏はデザイン・プロセスの中で、ユタ州のホテル「アマンギリ」について言及しており、「職場はこのホテルのようにリラックスできる、スパのような場所であるべき」とも発言している。そのため、ある世代のテック系スタートアップが好むような卓球台やビデオゲーム、テーブルサッカーなどはどこにも見当たらない。


オフィス外観。ビルを一棟借りしている。新しい都市交通のハブであるサンフランシスコ・トランスベイ・トランジット・センターに隣接しており、通勤の利便性が高いことはもちろん、巨大な空中庭園などもワーカーに喜ばれている。

  • 5階「Mountain Lakes」のミーティングスペース。雰囲気はオープンでフレンドリー。サンフランシスコ・トランスベイ・トランジット・センター・アンド・セールスフォース・パークの美しい眺めが見える。

  • どのフロアも、トレイルに沿った体験をテーマにしている。2階のテーマは「Rocky Desert(岩石砂漠)」。ラウンジエリアは、特別に描かれた銀河と星の降る夜をイメージした照明に照らされている。

  • 8階のキッチンスペース。もっともスラックでは、社内で食事をするより、地域経済をサポートするために外でランチをとるよう推奨されている。

  • 6階「Waterfalls and Streams」のミーティングスペース。1,300人を収容できる大きなオフィスだが、こうしたプライベートで落ち着ける空間が従業員たちのお気に入り。

  • 7階の「Forest」。「妖精のリング」と呼ばれるシーティングエリアが人気。デスクに座らず、一日中ここで働いている従業員もいる。

  • 2階「Rocky Desert」のコラボレーション・エリア。砂漠の夜のような暗闇と星に見立てたコントラストが印象的。リラックスのために使われる。

  • 5階「Mountain Lakes」のコラボレーション・エリア。橋のような骨組みが、やや囲われ感がありつつセミオープンな空間を生み出している。

  • 7階「Forest」のフロア全景。フローリングが敷かれ、木に囲われた森のようなミーティングスペースなどもある。カスタムデザインのデスクは各個人に割り当てられている。

  • 6階「Waterfalls and Streams」、床上げしたミーティングルーム。ガラス張りではありながら高低差をつけプライバシーにも配慮している。生み出されたベンチスペースは気軽なコミュニケーションを支えている。

  • 同じく6階。水とガラスを印象づけるフロア。ショー氏は、最初にO+Aからデザインを見せられたときは自信がなかったが、自らが承認したO+Aのデザインを信頼することに。現在では、オフィスの中でもここが従業員に最も好まれる空間になったと感じている。

携わる仕事やプロジェクトを
パーソナルなものとして感じられるオフィス

 食事についても同様だ。会社が食事を無料で提供するトレンドに背を向け、週に1回朝食と昼食を提供するのみ。バターフィールド氏は「彼らにはそれなりの賃金を払っている。経済をサポートするために外でランチを」と促している。

 「多くのテックカンパニーは『ここに無料の食べ物が、ここにもフリーのものがありますよ』といろいろなものを提供しています。でも一日中そんなことをしていたら仕事がはかどらず、気がついたら9時、10時になってしまいます」(ショー氏)。要するに、スラックが言いたいのはこういうことだ。出社したらハードに働け。仕事を終えたら、人生をエンジョイしろ。

 ロケーション選びにおいては、フロアの広さが条件となった。通常、サンフランシスコでこの大きさのビルを見つけるのは至難の業だという。次に新しいトランジット・センターの隣であること。通勤時間が短縮できれば、従業員の人生はよりシンプルになる。ここにもスラックらしいポリシーがある。O+Aに依頼したのはサンフランシスコというロケーションも理由の1つだった。地域のコミュニティから建築家を指名するのがスラックの通例。ちなみに2017年に設立されたばかりの日本オフィスのデザインはサポーズデザインオフィスが担当している。

 最大1,300人を収容する大きなオフィス。だが身を置いた印象は意外にもパーソナルで、親密なものだ。2〜3人の小さなチームが膝を突き合わせ、丁寧にコミュニケーションをとる姿が印象的だった。

 「多くの大きい会社では迷ってしまったような感覚になります。もし社内に親密なフィーリングがあるなら、携わる仕事やプロジェクトを、会社のためではなくパーソナルに感じている証拠でしょう。こぢんまりとした雰囲気を感じてもらえてうれしいです」(ショー氏)

text: Yusuke Higashi
photo: Garrett Rowland

WORKSIGHT SPECIAL EDITION【Studio O+A】(2019.7)より

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