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会社の闘い方に合ったワークプレイスを創造する

鎌倉から独自の面白さを提供する

[柳澤大輔]面白法人カヤック 代表取締役

会社のあり方を考えるとき、地理的な要素は欠かせません。やっぱり働く場所、住む場所にはこだわりたい。そのベースになっているのは「24時間遊び24時間働く」というカヤックのコンセプトです。

8年前から「旅する支社」という取り組みを通じて、世界各地で働いてきました。イタリアに始まり、ハワイ、ベトナムなど、興味のある場所で2~3ヶ月だけ支社を開設します。幸い、IT業界の仕事はネットがつながれば場所に縛られない。だから、いろんな可能性を試せるのです。

ビジネス上での業務効率だけを考えれば、東京にオフィスを構えるのが近道でしょう。でも、鎌倉にオフィスを置くことは自分たちのオリジナリティの表現でもあります。仕事には便利でも、遊ぶ場所や暮らしが窮屈になっていけば、失うものが出てくるはず。2002年にこの鎌倉に来て以来、東京との適度な距離感は、自分たちの働き方を忘れないためのいい前提条件になっています。よく京都の企業は本社を移転せずに京都に居続けるといいますが、その感覚はわかる気がします。

業種や闘い方に合った空間であることが大事

もう少しミクロの視点で、オフィス空間から「働く環境」を考えた場合は、オフィスが自分たちの業種や闘い方に合った空間であることが大事だと思っています。何をやっている会社なのか、どのような闘い方をしている会社なのかによって、どういうオフィスに設計するかというところで個性を出していく必要がある。

たとえば、チームワークを重視している会社と個人プレーを重視している会社がありますよね。サッカーでいうと、日本型とブラジル型みたいな。そこは会社の指向性があって、本来はそれによってオフィスの設計が変わってくるはず。仲間と一緒にワイワイやるのか、ひとりで個室に入って集中して働くのか、それぞれ持っている思想が違うので、その思想に合わせた設計になっていくと思います。

これは、チームワーク型、個人プレー型のどちらが正しいということではなくて、闘い方の違いです。「こういうオフィスが最良」という解はないですよね。その会社に合ったオフィスが最良なのです。だからオーダーメイドにする必要がある。規格品のオフィスではなく、その会社に合ったオフィスのほうが生産性が高くなりますから。ただ、どういうオフィスにすると生産性が上がるのかというのは会社によって違うので、共通した解はないということだと思います。

ワンフロアを一目で見渡せるチームワーク型オフィス

当社の場合は、もともと同級生3人で始めた会社ということもあり、チームワークを大切にした会社を目指しています。だから、オフィス設計もチームワーク型。みんながつながっているオフィスがいい。基本的に、ワンフロアで一目で見渡せるような設計にしています。

ただ、もちろんオフィスをチームワーク型にすればそれだけでチームワークがよくなるということではありません。オフィス設計はあくまで「働く環境」の土台作りです。チームワークをよくするためのフレームワークなど「仕組み化」の部分には、さらに力を注いでいます。

チームワークをよくする最大の秘訣はブレーンストーミング(ブレスト)だと思っています。ブレストは、立場や肩書き、関係性を超えた、お互いを肯定しあう会議とも言えます。しかも人事異動が頻繁にあるので、即席チームでもすぐにチームワークが機能するように、日頃からそれを想定したブレストを行っています。いくつかあるオフィスごとにブレストの回数を集計した結果、やはりブレストを多くやっているオフィスのほうがチームワークがいいという傾向も出ています。

カヤックのホームページ。一見、何の変哲もないホームページに見えるが、画像などにマウス・ポインタを合わせると背景が変わったり、ふきだしのセリフが出てきたりと、随所に特殊効果が隠されている。面白法人という社名が示す通り、遊び心に満ちたサイトだ。
http://www.kayac.com/

2008年にはグッドデザイン賞を受賞した鎌倉本社の様子。一段高いところはふかふかのカーペットになっており、ここでミーティングが行われることもある。同社は鎌倉本社のほかに、鎌倉駅前、恵比寿、由比ヶ浜、京都の4拠点に支社をもつ。

鎌倉本社。一段高い畳敷きや掘りごたつのスペースを囲むように、ワーキングデスクが配置されている。作業中、畳の上に人がいても、まったく気にならないという。

何でも数値化することで
ワークスタイルを加速させる

ブレストは会議室で行うだけではありません。何人かでご飯を食べに行くと、自然とブレストが始まります。近所のレストランやカフェで、「よくカヤックの人たちがこちらで会議していますよ」と言われるんですが、別に会議をしたくてしているわけじゃなくて、自然とそうなっちゃう。そういうカルチャーなんです。鎌倉にはこういう人たちが働いている会社があまりないので、近所の人はカヤックの社員が来たってすぐに分かるみたいですよ(笑)。

毎回のブレストはきちんとデータを取っています。どういうブレストが週に何回行われた、誰が何回出た、どこのオフィスで行われた、などです。今月一番多くブレストに参加した人のランキングも出しています。だからどうということではないのですが、数字で「見える化」するだけで、より積極的にブレストに参加する人が増えるという効果があります。

僕自身も自分の活動を数値化しています。会社のなかで僕の役割は大きく3つあります。プレイヤーとして「モノをつくる」、社長として「会社のマネジメントをする」「会社全体のビジョンをつくる」。この3つに対して均等に時間と頭を使うのが理想だけど、どうもうまくいかないんですね。

そこで秘書に時間配分のレポートをつくってもらっています。そのつど「どの打ち合わせがどれに入るか」「この時間を何に使ったか」を聞いてもらって、あとでレポートとして送ってもらうんです。本質的には均等配分でなくてもいいかもしれない。だけど、それが理想なんじゃないかという仮説でやっている感じです。

人間って不思議なもので、数字があると、数字を多くしたい、偏りをなくしたいっていう気持ちが出てきます。「ダイエットで何キロやせた」というのと同じで、「先週、ブレストに何回出た」という数字が見えるだけで、ある程度やる気がある人はブレストの参加回数が増えてくるんです。数字というのはそういう強制力のあるツールなんですよ。点数を多く取るとか、タイムを速くするとか、小さいころからずっとすりこまれているからかもしれませんね。だから「週に何回ブレストに出なければならない」といったノルマは一切不要。数字で「見える化」するだけで、各自が勝手に目標を立ててくれるのです。

硬直化しないようにチームを常に入れ替える

社員数が増えるとチームワーキングが難しくなるのではないかとよく言われるんですが、全然そんなことはありません。社員数10人のときに発生する問題と、100人のときに出てくる問題は実はあまり変わらない。10人のときに1つ起きる問題が100人になったから10起きているだけ。人間が織り成す人間関係みたいなものは10人でも100人でも同じなんです。だから、チームワークをよくするには小分けにしていく発想でいい。そして硬直化しないようにチームを常に入れ替えていくことです。

ただ会社の舵取りという意味では、10人の会社と100人の会社では違ってきます。10人なら10日後にこっちの方向に行こうと言っても大丈夫だったのが、100人規模になるとそうはいかない。もう少し先まで見て、たくさんシミュレーションをした上で、「では、3カ月後にこうしよう」という話になってくる。人数が増えて大変になるところはそこだと思うんですよ。

100人の会社で判断ミスをするとなかなか舵を切り直せない。舵取りがある程度未熟だと沈没してしまいますから。まあ、結局はどの会社も沈没するまで大きくしようとするんですけどね。会社とはそもそもそういうもの。特にベンチャー企業はそうじゃないでしょうか。今どれだけ成長していても、未来永劫成長し続けるということはない。どこかで必ずこける。それまで、会社はチャレンジし続けていくものだと思っています。

WEB限定コンテンツ
(2011.12.15 同社・鎌倉駅前オフィスにて取材)

上の写真は2011年にできた鎌倉駅前オフィスの様子。デスクにはキャスターがついており、レイアウト変更が容易なつくりになっている。設計はトラフ建築設計事務所。

鎌倉駅前オフィスのエントランス。インターフォン・パネルでは、アニメキャラクターの受付嬢が案内してくれる。「PUSH」ボタンではなく、女性の胸を触ると、キャラクターに怒られてしまう。

駅前オフィスではソーシャルゲーム事業の担当チームが働いている。写真はオフィスの一角にあるミーティングスペース。新サービスのアイデア出しなど、頻繁にブレストが行われている。

柳澤大輔(やなさわ・だいすけ)

面白法人カヤック代表取締役。1974年香港生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。1998年、学生時代の友人とともに面白法人カヤックを設立。著書に『面白法人カヤック会社案内』(プレジデント社)、『アイデアは考えるな。』(日経BP社)、『空飛ぶ思考法』(サンマーク出版)など。http://www.kayac.com/

 

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