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「コワーキング×SNS」で、集う人の専門性を見える化したい

ビルの価値はハード面からソフト面へ移行する

[内田圭祐]株式会社スペイシー 代表取締役/CEO

スペイシーでは貸会議室やレンタルスペースを格安で予約できる「Spacee」(スペイシー)を展開していますが、こうしたサービスが社会的に普及すると、働き方改革の推進にも大きく寄与するのではないかと思っています。

例えば、育児や介護のために自宅でテレワークをする会社員の方は今後増えると見込まれます。そういう方同士が打ち合わせをするとき、わざわざ会社まで行かなくても、近場の貸会議室で落ち合えれば楽ですよね。あるいは、自宅から近い客先を訪問した後、会社に戻ることなく近くの貸会議室で仕事をして、そのまま直帰というケースもあるでしょう。こうしたパターンは今でも実際にありますが、さらに増えていくと思います。

手近なスペースで打ち合わせや仕事ができれば、移動にかかる交通費を削減できるし、本人の負荷が減って集中力が高まり、生産性も向上しますよね。僕らの提供する物件は1時間1000円程度の値段が多いですけど、それくらいのコストを優に上回る価値が生まれると思います。

オフピーク時やアイドルタイムの飲食店をコワーキングスペースに

スペイシーにはコワーキングスペースも50~60件掲載されています。コワーキングスペースというと今のところまだ敷居が高いイメージで、契約者しか入れないところもありますし、オープンな場所でも興味本位で入るのは気後れする人もいるようですが、スペイシーで扱うコワーキングスペースには1時間300円くらいからの値段で、ドロップインで入れるところもあります。

中には、飲食店の日中のアイドルタイムやオフピークの時間帯がスペイシー経由で使われることもあります。例えば、飲食店のHOOTERS(フーターズ)は混み合うのが17時以降で、日中は席に余裕があるので、スペイシーのコワーキングスペースとして掲載していただいています。

こんなふうに、飲食店のオフピーク時間やアイドルタイムをコワーキングスペースとして開放する事例を増やしていきたいと思っています。先ほどの働き方改革に関連した業務時間削減の流れにもフィットしますし、また東京オリンピックを控える今、交通機関や特定エリアの混雑が予想されますから、通勤が難しくなることもあるかもしれません。一方で、自宅では設備や通信回線が不十分かもしれない。そういう場合に、夜型飲食店の日中時間帯を活用できるようになれば合理的です。

すでに、飲食店向けのサービスを展開する株式会社シンクロ・フードと資本業務提携して、飲食店をコワーキングスペースとして活用する事業を進めています。ユーザーに安くコワーキングスペースを提供できるだけでなく、飲食店にとっては遊休スペースを活用して収益向上にも役立つでしょう。


株式会社スペイシーは、スペースマッチングサービス「スペイシー」の企画・開発・運営を行っている。2013年10月設立。2016年4月には、世界最大級のベンチャーキャピタルの日本国内ファンド「500 Startups Japan」による日本第一号の投資先となった。
https://www.spacee.jp/

  • スペイシーに登録されているコワーキング物件の一部。海外からの利用者も多い銀座のホステル「IMANO GINZA HOSTEL」のカフェスペースをワーカーにも開放している。(写真提供:スペイシー、他3点も)

  • 市ヶ谷駅から徒歩2分のコワーキングスペース「DIGIMA BASE」。セミナーや研修でも利用できる。

  • 渋谷駅から徒歩7分のコワーキングスペース「co-ba shibuya」。起業家やクリエイターなどが集い、コラボレーションも行われているという。

  • 飲食店「HOOTERS」の銀座店・渋谷店・大阪店では、日中の時間帯をコワーキングスペースとして利用できる。写真は新橋駅・銀座駅に近いHOOTERS銀座店。

ワークスペイシーでコワーキングスペース利用者への対応を無人化

カフェでパソコンを開いているワーカーをよく見かけますけど、彼らはコーヒーが飲みたいのではなく、外出先で仕事をする必要に迫られて、でも他に場所がないから仕方なくカフェにいるんじゃないでしょうか。場所を使う以上、体裁としてコーヒーを買うけれども、本当の目当ては電源、Wi-Fi、テーブル、チェアといったところでしょう。同じ環境のある飲食店を1時間100円で使えるなら、そちらの方がいいと考える人もいると思うんです。

ただ、その裾野を広げるには、飲食店側の対応の負荷を軽減することが重要です。日中はお客さんがいないとはいえ、仕込みや掃除などの開店に向けた準備で忙しいですから。

そこで、我々はコワーキングスペース利用者向けの無人受付アプリ「ワークスペイシー」を開発しました。タブレットでQRコードや顔認証でチェックインできて、クレジットも登録していればオンライン決済も可能です。もちろん飲食店だけでなく、一般のコワーキングスペースでも使えます。

今のところ4、5店舗に設置していますが、まだシステムに慣れていないお店では従業員がお客さんにタブレットを持っていったりして、あまり無人化の用をなしていないんですけど(笑)、でも我々が管理する新橋のスペースでは店頭に置いたタブレットをユーザーが操作して、決済・入室という流れができている。目論見通りの無人化が実現しているわけです。将来的にはSuicaやPASMOのようなメジャーなICカードでも決済できる機能を付けられたらと思っています。


ワークスペイシーは2018年11月よりリリースしている。
https://www.spacee.jp/workspace/

場の共有とプロフィール共有の掛け合わせが
広くて深い交流を生み出す

コワーキングスペースは今後も増えていくと思います。恐らくビルがあれば、その中のどこかにコワーキングスペースなり貸会議室なり、何かしらの仕事と連動したシェアスペースができていくんじゃないでしょうか。

ビルの入居者からしても、自社の会議室が足りない場合にフレキシブルに使えますし、仕事場を変えて気分転換を図るための選択肢にもなります。そうした入居企業のメリットは、賃貸契約の更新にもつながるでしょうから、ビルオーナーにとっても魅力的だと思います。

で、そうやって拡大していくであろうという見通しの元、ワークスペイシーにもう1つ実装したいと思っている機能があるんです。それがSNSのような仕組みです。

例えば、あるスペースにチェックインすると、その情報とチェックインした本人が開示するプロフィールを連動して、スペイシーのユーザーのスマホ端末に表示するといった具合です。その場にいる人がどこの誰で、どんなバックグラウンドを持っているのかが、他の人に分かるようになるのです。

コワーキングスペースを人脈拡大や問題解決に活用

コワーキングスペースには、多様なバックグラウンドを持つ人たちが集まります。場を共有することと、そこにいる人のプロフィールを共有することの掛け合わせが、広くて深い交流を生み出すのではないかと思うんです。

コワーキングに行っても、普通は誰かに紹介されない限り、横にいる人が何者か分からないですよね。誰もがそれなりに何かのプロフェッショナルだろうけれども、それは聞かないと分からない。ひょっとしたら地元が同じ2人が、その事実を知らないまま黙々と並んで仕事をしているということもあるかもしれない。

つまり、近くにいるのに相手の顔が見えないんですね。そこにコミュニケーションのきっかけをもたらすのがSNS機能であると考えています。チェックインした人の専門性や経歴が自分のスマホを通して分かるので、「いまやってきた人はエンジニアなのか。あの案件で相談できるかメッセージを送ってみよう」とか、「隣にいる人はデザイナーか。ちょっと話を聞いてみよう」といった具合に、コワーキングスペースの交流をより賦活化できると思います。

プロフィール確認はコワーキングスペースの外からでもできるので、「今日はあのコワーキングスペースにエンジニアが多いから、ちょっと行ってみよう」といった使い方もできるでしょう。となるとワークスペイシーは、人が人を呼ぶツール、コワーキングスペースを人脈拡大や問題解決に活用するツールにもなるといえます。

自然創発的に、個人の能力が広い環境で生かされる

企業の枠を超えて人がつながるのは、社外の勉強会やセミナーなどを除くと、今のところハードルが高いですよね。企業が採用したプロフェッショナルは企業の枠の中にいて、それぞれがどんなアイデア、能力、技術を持っているかは外部からほとんど見ることができません。

でも、ワークスペイシーのような機能を使えば、そこにいる人の持っているものが可視化できるようになります。そうなると、今までは企業の箱の中でしか発揮できなかった能力が、もっと自然創発的に広い環境で生かされるんじゃないかと思うんです。

コワーキングスペースが作り出すネットワークは、仕事のあり方を根底から変える可能性を秘めています。今まで仕事は会社の内側に入り込まなければ得られなかったし、人材マーケット市場もいくつかの固定的なルートしかなかったけれども、コワーキングスペースに行けば何か仕事のボールをキャッチできる、そういう状況になるかもしれません。

自然な交流からオープンイノベーションが沸き起こる環境へ

僕らとしてはそれをもっと手軽に、値段の高い会員制コワーキングスペースでなく、日中の居酒屋で実現したい。街なかで思い立ったときに、いつでもどこでも仕事ができて、しかも困ったことがあればそこにいる他のワーカーに相談することもできる。あるいは自分自身が相談されたりして、新たなネットワークが生まれていく。そういう環境を作りたいんです。

最近はAIを活用したネット上のプロフェッショナルマッチングサービスもありますけど、実際に会うとなるといろいろ手続きも必要だし、心理的・時間的な負荷もあります。人と人が会うのって、結構ハードルが高いんですよね。でも、訪れたコワーキングスペースでパッと見渡した中に、お目当てのプロフェッショナルがいれば敷居はぐっと低くなるでしょう。

僕らが特に注目しているのは東京の郊外ですね。例えば、溝の口や立川といったあたり。都心の職場に通うのは少し時間がかかるし、かといって自宅で仕事をするのは難しいという人が飲食店の日中のコワーキングスペースに来て、仕事を済ませて帰る。そうすれば通勤ラッシュも緩和されるし、業務時間も短縮できるし、ネットワークも拡大するしで、多くのメリットが見込めます。

今までビルの価値は、立地、ファシリティ、デザイン性といったハード面にありましたけど、これからは「あの会社が入居しているからうちも」という具合に、人が人を呼ぶようなソフト面が重視されるようになるでしょう。オープンイノベーションにしても、いろいろな企業を集めて上段からフレームを作るのではなく、さまざまな立場の人々の自然な交流の中で創発が沸き起こっていくのではないか――。個人的にそんな未来像を描いていて、その文脈においてコワーキングスペースの果たす役割は大きいと思います。

WEB限定コンテンツ
(2019.3.5 千代田区のスペイシーオフィスにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Ayako Koike

WeWorkにしても、単にコワーキングの場であるだけでなく、新たな出会いや仕事のやりとりが生じる場になっていると内田氏は指摘。「創発を促すネットワークを提供していることも含めて企業価値になっている気がします」。

内田圭祐(うちだ・けいすけ)

1980年生まれ。関西学院大学 総合政策学部卒業。2004年より株式会社リクルートスタッフィングにて法人営業を担当。2009年、株式会社アイデアマンを設立。太陽光発電の見積りサイトを成長させた後に上場企業へ売却。2013年10月に株式会社スペイシーを設立。

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