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「FAMILY」の価値観を土台に
次世代の文化を築いていく

[Gamania Group]Taipei, Taiwan

台北版シリコンバレーとも呼ばれる內湖地区に、台湾で最も成功しているゲーム会社、ガマニア・グループ(以下、ガマニア)の新本社がある。ガマニアの「ガマ」とは台湾語で「みかん」を意味する言葉。オフィスのそこかしこにみかんをモチーフにした仕掛けが施されているのは、ゲーム会社らしい遊び心だ。

もっとも、ゲーム以外にも電子決済に通販、メディア、デジタル・ソリューションと、総合インターネットカンパニーとして業務拡大の一途をたどる同社である。グループの子会社は15社にまで増え、投資先の企業を含めることで巨大なエコシステムを構築するに至った。

2年前にこの新本社を立ち上げた狙いもそこにある。新本社のもとに関連会社を集約・再統合し、強力なガマニアブランドを作り上げること。そして各社のコラボレーションにより新しい価値を生み出すことだ。オフィス構築をグループのブランディング部門が担当したのは、その意気込みの表れだと言えるだろう。

一見すると、広大なオープンスペースに関連会社を詰め込んだという体裁である。建物の1階は「社員同士が出会う空間」というコンセプト。各社が持つ独自の文化は時に会社全体としてのコラボレーションを妨げる壁となる。その壁を打ち破るため全社が1つのチームになろうとした。管理職と一般社員の座席の間にも壁は存在しない。ブランディング・ディレクターを務める陳乗良(チャン・ビンリャン)氏はこう言う。「2人でも200人でも、一緒に仕事ができるよう設計されています」


オフィス外観。一棟すべてガマニアが入居している。以前は台湾を代表する旅行代理店ライオントラベルの本社が入っていた。目の前には大きな公園があり、ガマニアの社員たちも運動やリフレッシュに利用している。

  • ブランディングの部門。社内外のビジュアルすべてに関わる。今回のオフィス構築でも全体のとりまとめを担当した。企業カルチャーの中心的存在だ。

  • 1Fの社員食堂「Gama Island」。すべての関連会社の従業員が食事や仕事をともにする。ガマニアの「FAMILY」という価値観を象徴する空間。カフェ運営、決済システムなどもすべて自社で実装することでビジネスの実験場としても機能する。

  • デザイン部門のライブラリ。日本の書籍や雑誌などが多い。海外を飛び回るスタッフが各国で買ったお土産やグッズなども並ぶ。

  • ブランディング部門の会議室。

  • デザイン部門のディスカッションスペース。段ボールで作った簡素な空間だ。

  • ギャラリー。エントランス左側に位置する。台湾初のゲームサーバーなど、ガマニアの歴史や未来のイメージを展示し、来訪者との相互理解を深めるための場だ。

  • カフェテリアのゴミ箱のサイン。使いにくいという意見があるたびに何パターンも試し、現在の形に落ち着いた。ファシリティにもアップデートを高頻度で繰り返すITサービスと同じ考え方が採用されている。

  • 会社で唯一の、専属のプロモデラー。ハンドメイドを大切にするガマニアならではの存在で、「彼はこの会社の魂」とのこと。キャラクターのモデリングや、ミニチュア作りに腕を振るう。

  • カフェテリアの中にあるギャラリースペース「ミニスペース17」。取材当日は、新たにデザインされたガマニアのTシャツを着た社員の写真が展示中だった。カフェテリアの利用を促すため、社員には会社から毎日電子マネーが自動配布される。

ルールを作って縛るのではなく、
1つの価値観のもとに行動するよう促す

だが空間さえ1つにすればコラボレーションが進むというわけにはいかない。中には電子決済など「お固い」イメージの子会社もあるのだ。そこで同社は独自の「FAMILY」という文化で、彼らを包み込もうとした。

「FAMILY」とは、「Fun」「Adventure」「Mind-inspiring」「Innovation」「Laurel」「Youth」の頭文字をつなげたもの。ルールを作って縛るのではなく、1つのカルチャー、1つの価値観のもと行動するよう促すところに新本社の真意がある。

たとえば製造業には量産するにあたって相応しい仕事の進め方があり、一定のルールのもとで製品を作ることが重視される。いわばそれは「ルールが先にある」世界だ。しかしゲーム業界は、「人がルールに先行する」。同社にとって最大の資産は人であり、社員にクリエイティブを発揮してもらうことを最優先とするべき。台湾初のゲーム会社にして、創業23年目を迎える同社は、そのことを熟知している。

「ルールは彼らを縛るもの。時間も使い方もそうです。普通の会社には『この時間は仕事をしなさい。それ以外のことはしてはいけない』といった決まりがあります。でも私たちは違う。好きな時に好きなことをやっていいのです。オフィスも24時間体制で開いています。いつまでも仕事をしていて構いませんし、ジムに行きたければ行けばいい。モットーは『Work hard Play hard(真剣に仕事をして、真剣に遊ぶ)』ですから。Play hardだけではいけませんが(笑)」(陳氏)

空間には想像力を刺激する要素がふんだんに盛り込まれた。「ミニスペース17」は展示や講座を行うショールーム。スタートアップ企業がセミナーを行う「アンダーライン」というイベントも定期開催する。ワインクラブ、ヨガクラブなど、社員が立ち上げたクラブには会社から資金を援助するという。

休暇の取り方にも彼らの文化が表れている。休暇日数に上限なし。また基本的に「勝手に休んでいい」ものとした。彼らはこう考えるのだ。普通の会社はキャリアを積むに従って有給が増えるが、キャリアで休みが決まるのはおかしい。仕事の効率で決めるべきだ。休みたい時に有給を使い切ったとしても、仕事をやりさえすれば、ご自由にどうぞ。


Gamania Group
[橘子集團]
品牌中心總監
陳秉良

  • 各フロアの共用部は大きく取られ、関連企業間のコラボレーション促進を意図した通路兼コミュニケーションエリアが広がる。

  • コミュニケーションエリアの一例。フロアごとに特色があるが、通路天井に照明のラインが1本通っており、どことなく未来的な雰囲気。

  • ドローンなど、テック系の部門のコミュニケーションエリア。

  • コミュニケーションエリアの一例。こちらはギャラリーとして使用中だった。

  • ミーティングの風景。基本的にはオープンコミュニケーションを重視しているため、個室の数は少ない。

  • グループ企業の1つが入居するオフィス。建物内にさまざまな会社が同居する。会社間のコラボレーションが本社移転の主目的であるため、壁がなくてオープン。什器も統一されている。

  • リッチな施設を揃えたジム。健康的な職場として表彰も受けている。なお、すべての施設名はGAMA(台湾語で「みかん」)にちなんだ名前になっている。

新しい会社には、
新しい文化が必要だ

特筆すべきはグランドツアー休暇だ。これは「自分に挑戦するための休み」。「『台湾を一周する』『チベットに行く』といった冒険を社員に勧めています」。期間は最長1カ月。審査を通りさえすれば、会社が所有する財団が資金を提供するというから、驚きだ。冒険後はレポートを義務づけている。ブランド部門がカメラを持って同行し、冒険の模様を社内報に掲載した例もあるという。

このようにガマニアにおいては、私生活とキャリア、遊びと仕事の切れ目が希薄だ。こうした価値観は、台湾の中でもガマニア独自のものだという。

「私たちがゲーム会社を始める前は、台湾にはゲーム産業がありませんでした。新しい会社には、新しい文化が必要だったのです」

とはいえ、新本社に入居するにあたっては繊細なチェンジマネジメントを要した。かつては台北中心部にあった本部を郊外に移すには、代償が伴う。遠くまで通勤したくない、自宅近隣で働きたいという若手社員も多いのだ。人材のために引っ越そうとしているのに、引っ越しで人材を失っては本末転倒ということになる。彼らをケアするため、引っ越し当初は旧本社から新本社へのシャトルバスを用意した。また事前に新本社の外観や周囲のランチスポット、オフィス内部の様子などをウェブ上にまとめ、社員に紹介した。また、子会社のニーズを反映するために、数百万台湾ドルをかけてオフィスのプロトタイプを作ってさえいる。「文化を変えるには、細やかなオペレーションとコミュニケーションが欠かせない」と陳氏は強調する。

「AからBに変化するにも、必ず話し合わないといけません。今回の変化には設計事務所の力が必要なので、7社にプレゼンしてもらいましたが、100%私たちのニーズに応えてくれそうな会社は見当たりませんでした。そこで私たちは考え方を変え、私たち自身が、架け橋のような役割を果たそうと思ったのです。つまり、子会社と設計事務所の間に私たちが入り、両者を統合する、ということです。会社の文化を大事にするなら、簡単に発注だけして作ってもらうという方法では無理。コ・クリエーションのプロセスとプロトタイプが大事です」

コンサルティング(ワークスタイル):Gamania Brand Center
インテリア設計:L & L Interiors
建築設計:LKP Architecture

text:Yoshie Kaneko
photo:Kazuhiro Shiraishi

WORKSIGHT 14(2019.1)より

授乳室。託児所を近隣に設置するなど育児世代のサポートに積極的。

備品一つひとつに至るまで自分たちでデザインしている。これは自社オリジナルの壁掛け時計。

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