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デザイン思考を実践できるイノベーターが育つ

スタンフォード大学の教育機関

[D.SCHOOL]Palo Alto, California, USA

  • デザイン思考を自然に身に付けた人材の育成
  • 創造性や自律性、批判精神を高める空間をプロデュース
  • 実験的なアイデアやコラボレーション活動が活発化

スタンフォード大学にある教育機関ディー・スクール。工学、医学、ビジネス、法律、など様々な領域の学生や教員が集まり、複雑な社会課題を解決できるイノベーターの育成を目的としている。

教育アプローチの基本はプロジェクトベース。つねに流動的であり、個々人がプロジェクトの状況に応じて「デザイン思考」を実行できるかに焦点が当たっている。デザイン思考とは不確実性の高い将来の課題に対し、トライアンドエラーを繰り返し、問題解決を目指す実践的手法だ。

デザインを考える空間が学生の創造性や批判的思考を喚起

デザイン思考には、前提となる7つの心構えがあるという。「言うのではなく見せる」「人々の価値観に焦点を当てる」「素早く形にする」「行動第一」「徹底的な協働」「過程に注意」「明快な仕事」─この考え方を自然に浸透させ、学生が変化に対応できる自律性を引き出すためには何が必要か。

現在のディー・スクールの空間を作るにあたり、「空間はその場所を使う人々の行動を変える。優れた建築は無意識に人間の行動に結びつく」とデザインに関わったスコット・ウィットホフト氏は語る。

ディー・スクールの教員はチームでクラスを受け持つ。ティーチングチームを持つことで、学生は多面的な視点に触れ、その視点を自分の視点で意味付ける。「誰かの後を踏襲するのではなく、自分が何をしたいのかはっきりさせること。これは創造性や批判的思考に大切なこと」とスコット・ドゥアリー氏。

初期のディー・スクールの校舎はごく小さなものだった。だが3度の移転を経て、現在は3つの古い建物をまとめた独創的なスペースになっている。この場所そのものが、「学生が学ぶのに最適な空間、チームとして学生がどう働くべきか」を考え抜いた大きなプロトタイプになっている。
創設:2004年
生徒数:毎年700名程度
受講資格:スタンフォード大学・大学院の学生もしくは卒業生であること

スコット・ドゥアリー
Scott Doorley/左
スコット・ウィットホフト
Scott Witthoft/右
ウィットホフト氏は教鞭をとるかたわら、コラボレーション・ディレクターとして環境作りに携わっている。ドゥアリー氏は創業期から関わる初期メンバーの一人だ。

  • 学生が24時間使用できる空間。テーブルやパーティションは学生が自由に動かして思い思いの空間を作れるようになっている。

  • プロトタイプを作るための作業場。プロトタイプは廃棄材料などを使い、数分で作れるものにするのがコツだという。

  • スタッフの部屋。学生と同じようにプロジェクトに参加し、教員と柔軟な協力体制をとっている。

  • 校内のホワイトボードには様々な学生のアイデアが並んでいる。

教室は舞台セット
授業によって空間をアレンジ

授業内容はそのつど臨機応変に変えていくため、ティーチングチームはどう教室をセットアップするか考える必要がある。「何を学ぶか、どう相互作用しあうか、空間のアレンジによって人々の行動は変わる。教室は舞台やセットのようなもの。小道具のパレットでどんどん変化する」。

チームでプロジェクトに取り組む「スタジオ」を見ると、デスク、スツール、ホワイトボードなどは、目的によって自由なレイアウトに変えられる。ホワイトボードは梁に巡らされたレールにどこでもアタッチできるので、キャンプのように瞬時に空間を構築でき、共同の空間や個人専用の場ともなる。

スタジオと併設された個室「イニシアティブルーム」は、通常の授業よりも長いプロジェクトに利用されている。限られたスペースに、情報をビジュアライズすることに重点がおかれ、壁やドアの上に、写真や資料、メモなどが所狭しと貼ってある。視覚に訴えることで、現在のチーム内の状況を共有し、相互コミュニケーションを促す。また、チーム外の人も新しいプロジェクトに気軽に触れるキッカケを作ることができる。

姿勢はチームの行動に大きな影響を与えると考えている。この四角いテーブルは通常よりも高い位置に来るよう設計されており、同様に高さのある背もたれのないイスとセットになっている。低いイスにもたれかかって仕事をするよりも、身体的にもよりインタラクティブに打ち込めることがわかっている。

2階まで吹き抜けのエントランスは、学生が集まる共有スペース。飾り付けは生徒やスタッフの手で行われる。エントランスに飾られた「make」という文字は「作る、得る、原因になるなど様々な意味を持つ深い言葉。ディー・スクールの象徴であると気付き、ここに飾ってあります」(ウィットホフト氏)。

360°View

2階まで吹き抜けのエントランスは、学生が集まる共有スペース。飾り付けは生徒やスタッフの手で行われる。エントランスに飾られた「make」という文字は「作る、得る、原因になるなど様々な意味を持つ深い言葉。ディー・スクールの象徴であると気付き、ここに飾ってあります」(ウィットホフト氏)。

※画像をタップすると360°スライド表示が見られます

想像を超えた活動から生まれる
実験的コラボレーション

このように随所に工夫が盛り込まれているディー・スクールだが、使い手が作り手の想像を超える使い方をすることもしばしばだという。どんな環境を作れば、人の行動にいい影響を与えられるかが常に探られ、ブラッシュアップを続けている。正にデザイン思考の実験場だ。

ディー・スクールでのプロジェクトは、社員の自律性を高め、様々なシーンにおいてチームのコラボレーションを活性化させるときのヒントになる。実際にシリコンバレーの気鋭のベンチャー企業には、ディー・スクールの卒業生が多く存在する。ここで学んだ、空間が人に与える影響について、自分たちのオフィス作りにも、その考え方をよく採用するという。そのことが西海岸のワークスペースの水準を高め、イノベーションを生みだすことに一役買っている。

WORKSIGHT 03(2012.11)より

以前の建物は正方形の空間で、そこでいくつものチームが作業をしていたが、いつも部屋の角で作業を行うチームの成績が良かった。そこで、自由に角のある部屋を作れる仕切りとして考えたのが、このT字型のホワイトボードだ。試行錯誤の結果、約30?の幅があれば「角」だと認識できることがわかった。

 

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