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ネット×家電の組み合わせでイノベーションを生むアキバ発ベンチャー

これからのモノ作りでは多品種・小ロットこそがチャンス

[岩佐琢磨]株式会社Cerevo 代表取締役CEO

セレボの「LiveShell」はビデオカメラに繋ぐとそのまま映像をネット配信できる機器。「SmartTrigger」はスマホと連携して一眼レフカメラのシャッターを離れた場所から切る機器です。「CEREVO CAM」はもう製造終了していますが、単体でUSTREAM配信ができるデジタルビデオカメラ。僕たちがやっているのはずっと同じことなんですね。つまり、ネットと家電を組み合わせて生活をもっと便利に豊かにする。

興味を持ったのは家電の前にネットなんです。ただ、僕が就職活動をしていた2002年というのはドットコムバブルが過ぎたころで。ネットサービス系、ソフト系のビジネスについてはキープレイヤーが決まっていました。じゃあネットと何を組み合わせるか。最初はネット×自動車というのを考えたんですが、自動車は商品化まで5年10年かかると聞いて、ネットが進化するスピードに合わないなと。

その点、ネット×家電は「よちよち歩き」を始めてこれから成長しようという分野でした。これなら自分も業界をひっかき回すことができるかもしれない、業界をリードできるかもしれない。そう思ってパナソニックに就職して5年間、ネット家電の商品開発をしました。関わったのは、カメラの「LUMIX」やレコーダーの「DIGA」などのブランドです。

パナソニックを退職してセレボを創業したのが2008年です。理由はシンプルで「よりニッチなものを作りたくなった」から。時代がその方向に振れていくだろうという読みです。台数は出ないかもしれないが消費者のかゆいところに手が届く製品をそろえる「多品種・少量生産」の時代がやってくる。会社は従来からの「少品種・大量生産」にこだわりがありましたから、これはお互いに進みたい方向が違うぞと。

ニッチで、安価で、グローバルなモノ作り

家電ベンチャーを始めるための環境が整ったのがその頃だという言い方もできます。セレボは工場を持たない「ファブレス*」という業態をとっています。商品企画とソフトだけを持ち、ハードの開発は電子機器の量産を請け負うEMS**を経由して海外工場に委託する。2004年頃から2008年にかけて、こうしたビジネスに必要なピースが揃ったんです。

具体的には、オープンソースを使えるようになって開発用ソフトにかけるコストがゼロになった。開発ボードが数万円で手に入るようになった。小ロットで製造を請け負うEMS業者が表れた。そしてECの普及で世界を相手に直販できるようになった。要は、小規模に、安価に、グローバルなモノ作りができるようになったということです。

製品1つ1つの売れゆきは大手メーカーに敵いません。でも開発コスト、物流コスト、流通コストを抑えたらどうなるか。ユーザーは僕らのサイトに直接やってきて直接クレジットカードで決済しますから、手数料なんてカードの手数料4%と、物流コストが数百円/台ぐらいです。大手メーカーが流通マージンを何割もとられて量販店で売るのに比べて、カメラ1台あたりで数倍は稼いでいるかもしれません。これなら、大手メーカーの10分の1の売れ行きであっても立派なビジネスになります。

正確にいえば、今も環境が整っていく途上にあります。横ばいではなくこれからどんどん良くなっていくというタイミングが2008年でした。実際、ある年には工場の最小ロットが1万個だったのが、翌年には5000個になり、翌々年には3000個になった。これなら家電ベンチャーを始められる。しかもこれからどんどん楽にビジネスができるようになる。それならば、というのが起業の決め手になりました。今、最小ロットがどうなっているかというと、数百個まできているんですよ。

「家電を革命する」、つまりConsumer ElectronicsをREVOlutionでCerevo(セレボ)。2008年に誕生し、PC不要でインターネットに映像が配信できるLive Shellシリーズや、スマホと連携して離れた位置からデジタル一眼レフのシャッターが切れるSmartTriggerなど、ニッチなニーズを形にした商品で業績を伸ばしている。
http://www.cerevo.com/

無線LANの環境を利用して、カメラ単体でUSTREAMのライブ配信ができる世界初のデジタルビデオカメラ。電波状況が良好なら2時間の配信が可能だ(販売は終了)。

*ファブレス Fabless
自社内に生産工場を持たず、生産を外部に委託するメーカーのこと。大きな資産 や人員を確保する必要がなく、タイムリーに生産を行えるため、小規模メーカー の形態として近年、注目されている。

**EMS
EMS電子機器の生産を請け負うサービスのこと。Electronics Manufacturing Serviceの略。

超少品種・超大量生産と
多品種・少量生産に二極化

これからは「多品種・少量生産」の時代がやってくると予想して、実際はどうなったか。「多品種・少量生産」のメーカーと「超少品種・超大量生産」のメーカーに二極化しているのが現状だと思います。僕たちみたいな多品種・少量生産を目指す家電ベンチャーが増える一方で、超少品種・超大量生産のアップルみたいな会社がある。アップルは商品数を思い切り絞り込み、かつ1つ1つが1000万台を超えるようなボリュームです。ちなみに不況に苦しんでいる日本の大手家電メーカーはどちらでもなく「それなりの多品種それなりの大量生産」ですね。

ユーザー目線でいえば、超少品種・超大量生産のメリットは、本来なら手間も原価もかかる製品を手軽な価格で購入できること。例えばヴィトンのバッグを同じ素材、同じデザインで3000円にしたらものすごく売れて、世の中を席巻するでしょう。多品種・少量生産は本当に自分が欲しいものが手に入る世界。世の中がおおむねこの方向に進んでいるのは洋服を見ればわかります。フロアを見渡すと誰1人同じ服を着ていない。そのぐらい人の趣味嗜好が多様化した時代のなかでは、多品種・少量生産を目指すメーカーが増え、ユーザーに評価されるのは自然なことだと思います。

では日本の大手家電メーカーの製品はというと、値段はさらに安く半額で買えるかもしれないが、画一的で面白くない。「だったらもっとお金を出すから自分の好きなものを手に入れたい」。彼らの不調は、そういうユーザーが増えていることから来ているのではないでしょうか。

ベンチャーがアップルを蹴落とす可能性も

当面は、この二極化が続くのかなと思っています。超少品種・超大量生産のアップルのような少数の大企業があり、一方で多品種・少量生産を目指す小さなプレイヤーたちがずらっと控えている状態です。

ただし2つの極の間で入れ替わりが起こるでしょうね。家電ベンチャーがニッチな商品、トガった商品をバンバンつくり、そのなかの1つがイノベーションを起こして超少品種・超大量生産を行う大企業へとジャンプする。かつてのアップルはこのパターンでした。逆に現在のアップルがとって代わられる日がくるかもしれません。iPhoneの最新モデルにしても「より薄く」「より綺麗に」なる正常進化は遂げていますが、イノベーションと呼べるようなものはそこには見あたらない。

大企業がイノベーションを生み出せなくなるのはいわゆる「大企業病」であって、これという解を思いつきません。ですがグーグルはうまくやっているように見えます。検索エンジンについてのイノベーションは無理でも、若い会社に投資してニッチなもの、トガッたものを作らせている。彼ら本体は超少品種・超大量生産でも、そうやって多品種・少量生産の試みを続けていくことで、イノベーションへと繋げようとしている。そんなふうに見えるんです。

日本の家電業界の未来は暗くない

「家電業界の未来は暗い」と誰もがいいます。でも僕はそう思わない。大企業はタンカー船みたいなもので、世の中の流れに合わせて舵を切ってから、実際に船の向きが変わるまで何年もかかります。今はそこに手間取っているだけなのかなと。逆に、ネットがこれだけの速度で変化している状況はチャンスです。ネットを使うPC自体は斜陽でも、スマホやタブレット市場の活況を見る限り「ネットで生活を便利にしよう、豊かにしよう」という方面には光があるじゃないですか。

確かに今、大手企業は苦しいかもしれない。でもそれは一瞬海に溺れかけているだけで、海の上はすごい光が満ちあふれている。そんな状況ではないでしょうか。ですから、浮かび上がりさえすれば勝ちともいえます。僕らベンチャーだけが元気で前向きなんじゃないんです。大手企業含めて、日本の家電業界の未来は、全然暗くないですよ。

WEB限定コンテンツ
(2012.12.25 秋葉原の同社オフィスにて取材)

「大きな会社のブランドは信頼感もありますが、責任も大きい。多品種・小ロットでトライしたかった僕には、起業して、小さな会社で自由で軽快に動けたほうが、メリットとしては大きく思えました」。

岩佐琢磨(いわさ・たくま)

1978年生まれ。立命館大学理工学研究科を卒業し、2003年から松下電器産業株式会社(現・パナソニック)にてネット家電の商品企画に5年ほど従事。2008年、ネットと家電を融合した製品を開発・企画するスタートアップ企業として株式会社Cerevoを立ち上げ、代表取締役CEOに就任。

 

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