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都市の単位が1となって
新しいワークスタイルが見えてきた

2002年のワールドカップがもたらした変化とは

[速水健朗]編集者、ライター

最近僕が興味を持っているものの1つに、「都市の単位」という概念があります。

例えば、ファミリーレストランは家族向けなので基本が4人席なんですね。居酒屋はもうちょっと広くて、6人掛けくらい。会社帰りのサラリーマンが行く場所として作られているので、6+6で12になったりもします。喫茶店だとカップル利用が多いので2ですね。

いずれにしても、これまでは4とか6、2といった複数のユーザーの利用が想定されていたわけです。ところが最近はこの基本単位が1になっていると感じます。

フリーアドレスからノマドへ。新たなワークスタイルの模索の時期

最たるものはスターバックスのコミューナルテーブル(相席テーブル)でしょう。基本的に1人掛けの利用として考えられているもので、電源も取れるようにしてモバイルで仕事もできる。外に向かって黙々と仕事をする人たちが並ぶカフェの光景は、2000年ごろからスターバックスが普及して見られるようになったものだと思います。

スターバックスに限らず、バルやカウンターがあるところだったり、1人で利用するようなことを前提とした空間作りが増えています。都心部であるほど単位が1になりつつある。都市のコミュニティの距離感を示すものとして、この変化は興味深いです。オフィスに各人の固定席があったものがフリーアドレスに変化し、さらに次の段階に行くとノマドのような形と融合している感じがします。

ちなみに、ワークスタイルやイノベーションはオープン化が進んでいるのに、セキュリティの面からみるとオフィスが閉鎖性を高めているのも事実です。僕みたいなフリーランスの人間にとって、特に新しいオフィスは入館チェックが厳しくて出入りしづらい場所になってきました。

前編で説明したように、都市の集積とか距離の近さが新しい面白いものを生んでいくのに、それがオフィスの設計によって疎外されている。社内のオープン化の促進と反する形で、外とのセキュリティの断絶が大きくなり、その矛盾は何かしらクリエイティブなものの疎外をしている気がします。まあ、これは余談ですけどね。

都市ではソフトウェアに対応してハードウェアが変化する

話を戻すと、個々のお店の席の単位みたいなもので都市の変化は決まってくるように思われます。そういう意味ではここ10年で見て、東京の一番の転機になったのは2002年のワールドカップではないかと思うんですね。

あれは外国人が大勢やってきた初めての機会ですよね。街中にわんさか人が繰り出して大騒ぎをする。あのとき「アイルランド人てこういう遊び方をするのか」とか「バーにテレビを置いてみんなでサッカー観戦するんだ」とか、いろんな発見があった。それ以降、外を練り歩く人たちやスポーツイベントに興じる人たちへのサービスが拡充されて、オープンカフェとかスポーツバー、さらにはパブリックビューイングが浸透していったように思います。

それは結果として、飲食店のあり方そのものを根底から変える力になりました。ここ10年、1人で利用できるバルが増えて、一方でチェーン居酒屋の業績は悪化しています。外と内を分けて仲間だけで酒を飲む居酒屋的文化から、軒先に椅子やテーブルを置いて内と外の境界をあいまいにした欧米のバル的文化へ、飲食店のトレンドが変わってきているということなんでしょう。これはソフトウェアに対応したハードウェアの変化です。ランドマークとかハコモノよりも、人がそこでどのように過ごすかというソフトの変化の方が都市のあり方に大きな影響を与えていると思います。

これは先ほどのオフィスの話にも結びつくことで、外と内をはっきり分けるのが日本のオフィス文化であり、働き方だったんですけど、それがどんどんオープンになってきた。しかし一方でセキュリティを強化せざるを得ない現実もある。この状況でいかにフリーランスワーカーやサービス利用者との垣根を崩すかは、苦心すべき大事なコアな部分になっているという気がします。

もう1つ、都市の飲食店の変化からは前編で触れた職住近接型のライフスタイルへの変化も見て取れると思います。かつては郊外に住宅を持ち、都心の仕事場に通って、さらに非日常を感じる気取った遊び場をどこかに見つけていたわけですね。つまり「住宅」「仕事場」「遊び場」の三角形が比較的広範囲に及んでいた。それが今は仕事場の近くに住んで、その近くに日常の延長線上に立てる気楽な遊び場を持つというスタイルに移行してきている。三角形がギュッと小さくなっているんです。


『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』消費のあり方が都市の姿を変えることに言及、その変遷と未来の姿を描いている。(KADOKAWA/角川書店)

かつての日本的な家族的経営で
コミュニケーションの活性化を図る

仕事と日常の境目がなくなってくると、会社がワーカーのライフステージをサポートしていく可能性も出てくるでしょう。会社が保育施設や学校、病院まで作ってワーカーの生活を支える、すなわち企業城下町を形成するわけです。

かつてそれは大企業がやっていたことです。アメリカではフォード、日本ではトヨタが、街全体を工場にして社員とその家族を丸抱えしていた。そういう大規模なものとはおそらく違う形で行われることになるでしょうけど、例えば社内の運動会とか社員旅行を復活させる動きは見られます。

こうしたイベントは昭和期にあった家族的経営時代の名残だと嫌われたこともありましたが、社内のコミュニティの重要性がかつてと違う形で見直されている今、改めて注目を浴びているということなんでしょう。育児中のワーカーを支援するために託児所を設ける会社は今や珍しくありませんし、社内のサークル活動に補助金を出している企業もあります。

この10~20年で、うつに悩む社員が増えました。これは取材テーマとして追いかけていたことがあるんですけど、いろんな会社でメンタルヘルスの問題で会社に来られなくなった人たちが増えて、社内の壁をなくそう、社員同士のコミュニケーションを活性化しようという流れが出来上がっていった。それが今のコミュニティ重視の傾向に関係しているものと思われます。

空きスペースを自転車置き場にしてみたら

昭和的な日本型雇用形態の復活の兆しは、終身雇用を望む人たちの増加にも見て取れます。企業にとってもこれだけ人手不足になると、ある程度終身雇用的な制度を取り入れて人を集めざるを得ないという事情がある。

IT企業はそういうものから遠いかと思いきや、一時期人材の流動性が激しくなって多くの社員が辞めていった、給料を上げただけでは全然対応できないという苦い経験から積極的に終身雇用的な仕組みを打ち出していたりします。長く安定的に働いてもらうための苦肉の策ということだと思います。

取材した中で、企業側の工夫が功を奏している例では、空きスペースを自転車置き場にしたケースが挙げられるでしょうか。恵比寿にある会社なんですけど、自転車置き場を設けたらみんなが自転車で通勤するようになった。中には遠方に住んでいたけれども会社の近くに引っ越してきた人もいたそうです。

これは働き方というよりも社員のライフスタイル自体を変えたということ。会社のメリットとしては、みんなが近くに住むことでコミュニケーションの密度が上がり、全体的に情報や技術の伝達のスピードが上がったことがあります。社員は社員で、自転車で通える距離の通勤が可能になった。電車を使うより健康にもよさそうです。

距離の近さをいかに自然にキープしていけるか

「社内のコミュニケーションを深めたい」「定着率を向上させたい」「業績向上につながるアイデアを引き出したい」といったことはほとんどすべての会社が考えていて、試行錯誤もしているはずなんですが実現は難しい。でも意外なところにヒントがあるという好例だと思います。クリエイティブルームと銘打ってカフェスペースを作るより、自転車置き場にした方がよっぽどクリエイティブだということです。

また、打ち合わせスペースをオープン化することも効果があるようです。ミーティングの内容は外部に漏れないように普通は密室で行うものですけど、会議自体をオープンに、それこそ顧客がいるすぐそばでやることにしたらコミュニケーションが改善したという例を見聞きします。

あるいは土日も社員に会社を開放するようにしたら、みんなが遊びに来るようになったケースもあります。仕事をするわけではなくゲームとかしているそうですけど、コミュニケーションは賦活化しているはずです。

人と人の物理的な距離の近さが価値を生んでいるのは、もう否定しがたい事実だと思います。それをクリエイティブという名で意図的に醸成しようとして、その結果失敗するケースが多いのはもったいない。距離が近い状況をいかに自然にオフィス内外にキープしていけるか、まずはその課題意識を持つことが必要なんでしょうね。

WEB限定コンテンツ
(2015.8.10 コクヨ エコライブオフィス品川にて取材)

日経ビジネスの「職場のメンタルヘルスに関する調査」によれば、仕事が原因でうつになる人は6人に1人の割合に上るという。(2015年4月調査)

速水健朗(はやみず・けんろう)

1973年、石川県生まれ。編集者・フリーライター。パソコン雑誌の編集を経て、2001年よりフリーランスとして、雑誌や書籍の企画、編集、執筆などを行う。主な分野は、メディア論、20世紀消費社会研究、都市論、ポピュラー音楽など。著書に『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』(KADOKAWA/角川書店)、『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新聞出版)、『1995年』(筑摩書房)、『ラーメンと愛国』(講談社)など。

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