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遊び心あるオフィスから究極の顧客満足を生み出す

サービス業を目指す気鋭のネット通販会社

[Zappos]Las Vegas, Nevada, USA

  • ワーカーが個性と能力を発揮できる会社を実現する
  • 参加型のオフィス、遊び心ある場を自分たちでつくる
  • 社員は主体性を発揮。熱狂的なファンも増えた

ここにきてから、自分が自分でいることができるようになった――ザッポスの社員は口々にそう語る。私たちが取材に訪れた日は、2週間前にグループ替えがあったばかりで、社員たちが新たな手作りの飾り付け(=パーソナライズ)に取り組んでいた。

ザッポスでは自分のデスクだけでなく、チームの共有部分、会議室なども自由にデコレートできる。チームごとにテーマを決めて、楽しみながら競い合う。各チームエリアの入り口に作られたゲート、座席のネームプレート、天井から吊された風船や横断幕、ビニールテープなどはさながら学園祭の賑やかさだ。このオフィスでは遊びと仕事が同居している。

この根底にあるのが、「社員が本来の自分でいられるときに一番自分の力が発揮される」という考え方だ。「ちょっと変であること、突飛であること」をザッポスでは歓迎している。そのうえで、職場のほかの仲間たちと楽しく過ごせることを心がけていれば、誰とでも相乗効果を発揮できるし、自分たちの仕事により熱心に取り組めるようになれる――ザッポスではそう考えている。

パーソナリティを表現すると主体的になれる

オフィスの外での付き合いも楽しめるような人だけを、ザッポスでは社員として採用する。このラスベガスのオフィスへ移転した当初は、文字通り、寝ている時間以外のほとんどを一緒に働き、プライベートも一緒に過ごしたという。

CEOのトニー・シェイさんは最高の仕事ができるときの条件を「情熱的になる、個人的な話をする、あるがままでいる」と定義している。公私に分け隔てがなく、自然体でいること、自分たちの多様性やひとりひとりの個性を受け入れられる状態こそが、クリエイティブな仕事が生まれる前提ということだろう。

ときには一貫性がないとも受け止められる職場のパーソナライズは、社員に最高のパフォーマンスを出してもらうための重要なしかけになっている。そこから生まれるのが「WOW(すごい)を届ける」という姿勢だ。コールセンターで実際にこんなことがあった。「自宅の鍵とケータイを会社に忘れてきた男性が、パソコンからザッポスのライブチャットに入ってきて、『家の中にいる娘さんに表玄関の鍵を開けるように電話してほしい』と頼んできた。それですぐに対応したんだ。すごく喜んでもらえたよ」。

この型破りなコンタクトを通じて、その顧客はザッポスの熱心なファンになったという。このように問い合わせをしてくる顧客は、「コールセンターの人」ではなく、「ジョン」や「リサ」といった顔のみえる個人と話をしていると感じるし、それは社員も同じだ。社員が自分らしくいられる空間だからこそ、一風変わった判断も生まれるし、それを責任感をもってやりきれるのだろう。

CEOトニー・シェイさんら経営陣の席がある、通称モンキー・ロー(モンキー通り)。オフィスには何を飾っても良いが、1つだけ条件がある。「周囲の人を楽しませる」こと。これを満たせば何をしてもよい。

同社オフィスの最大の特徴は、過剰なまでのパーソナライズだ。ワーカーのデスクには風船や横断幕、おもちゃ、フィギュアなどところ狭しと並ぶ。

リテールソフトウエアシステムを担当する部署の看板。デコレートは個人ごと、あるいはチームごとに行われる。その費用はすべて会社から支給され、勤務時間内に飾り付け作業をしてもよいことになっている。

ラウンジ風に飾り付けられたスタッフ共有スペース。中国風にカスタマイズされている。

コールセンターの様子。社員が自ら楽しみながら仕事場の環境づくりに参加する背景には、「常に顧客の期待を超えるサービスを提供する」というザッポスの理念がある。

カルチャーが浸透しているから
“自由”でもブレない

同社のコールセンターには毎日、数百件単位で問い合わせやクレームの電話が掛かってくる。しかしザッポスには「顧客対応のマニュアルがない」という。では、問い合わせやクレームが来たときには、どのように対応しているのだろうか。

同センターのデュランさんは次のように語る。「あるとき、『姪の誕生日に贈った靴が、その日に届かなかった』と女性のお客様から連絡がありました。僕は悲しくなり『靴の代金は要りません。100ドルの商品券を贈らせてください』と提案しました。後日、『姪御が”ザッポスからプレゼントをもらった”と喜んでいた』とお礼の電話がありました」。

遅配のお詫びとして商品券を渡す。商品を返送してもらい、返金する。あるいは、別の商品を無料でお届けする……。こうした顧客対応は、すべて社員ひとりひとりの判断に委ねられているのだ。個々人が自由に振る舞っても、会社全体としてブレない秘密。それは、社内にカルチャーが浸透しているからだ。

「すべての社員が無意識のうちに”10のコアバリュー”通りに判断をしています。まるで”自分の言葉”のように感じていますよ。だから社員に大きな裁量を与えても問題ないんです」(ジョンさん)

会社の隅々まで浸透しているカルチャー。それは、たとえば以下のようなしくみが基盤となっているという。

経営チームの近くにある一番大きな会議室の1つ。上から自転車がつり下げられ、大きな机上は写真による装飾が施されている。

パープルを基調としたエレベーターホール。ゼブラ柄ソファーに人体模型が置かれていたり、壁にポストが備え付けられているなど、遊び心が満載だ。

01 10のコアバリュー

1 サービスを通じてWOW体験を届ける
2 変化を受け入れ、押し進める
3 楽しさとちょっと変なモノをつくり出す
4 冒険好き、創造的、オープンマインドでいる
5 成長と学びを追求する
6 コミュニケーションを通じてオープンで誠実な人間関係を築く
7 ポジティブなチームとファミリー精神を築く
8 少ないところからでも大きなことをやる
9 情熱的かつ決然とした態度でいる
10 謙虚になること

2005年に生まれた「10のコアバリュー」。顧客への対応から意思決定、採用まで、この価値観に基づいて実行されている。

02 CEOのトニー・シェイ

ザッポスが目指すのは、社員が一生涯働ける会社だ。そのために社長自ら「楽しいこと」を率先している。トレードマークの坊主頭は、年1回の『公開坊主頭の日』に社員にバリカンで髪の毛を刈ってもらっているという。「なぜ坊主頭の日かって? 意味なんてないよ。面白いからやっているだけさ」(トニーさん)

03 社内のイベントが多い

独立記念日やハロウィン、サイトのリニューアルといった行事ごとにバーベキューパーティや仮装コンテストが行われている。社員からは「イベントを通じて、Zappos Familyとしての一体感を持てるのがよい」といった意見も多く聞かれる。

写真提供:Zappos.com ?2011 Zappos.com, Inc. or its affiliates

04 カルチャーブック

「ザッポスの文化とは何か」「自分たちはどう捉えているか」といった意見や会社への要望を一冊にまとめた本。編集や検閲をせず生の声をそのまま掲載し、顧客や社員に無料配布している。制作はCEOが自ら担当。毎年300ページを超える本になるという。

05 無料で食べられる食堂

同社の社員食堂は、食事・飲み物・お菓子などはほぼすべて無料。食堂スペースは、カラオケ大会や詩の朗読会にも使われることが多い。この日は、眼鏡やコンタクトレンズのケアをする業者が来社。希望者は無料で診察を受けることができた。

06 最も優れた説明文

靴のネット販売企業であるため、同社が最初に顧客に接するのは、ウェブサイト。そこで毎月、「最も魅力的な説明文」を選出、展示している。”魅力的”の基準は「読んで楽しいかどうか」だ。技術的な説明は評価基準に含まれないことになっている。

07 たくさんの福利厚生

ザッポスの特徴の1つに、手厚い福利厚生が挙げられる。生命保険への加入代行から40%の従業員割引、有給ボランティア休暇、授乳室・仮眠室の24時間利用、ペット保険まで多岐にわたる。写真は、エントランスに設置されたパネル。「Benefits are Hot!」と書かれた温度計の横に、同社が保障する福利厚生が書き込まれている。

08 ザッポス・ツアー

自社の魅力を伝えるために最も力を入れているのが、ザッポス・ツアーだ。Zappos Insightsという別会社を設立、専門ガイドが社内を案内しながら、どんな取り組みをしているのかを解説していく。ツアー当日は、シャトル・バスがホテルや駅、空港まで迎えにきてくれる。

  • 会社の慈善事業で食料を寄付するにあたって、空き缶を使ったジオラマコンテストが行われた。写真は優勝作品。当時のニュースだった英国のロイヤル・ウェディングをモチーフにした城だ。優勝者には副賞として、ツナ缶10個が贈られたという。

  • 廊下には大きな白い布が貼られている。新しいサービスのアイデアや経営陣への要望、企業文化に対する意見を自由に書き込むためのものだ。四半期に1度のオールハンズ・ミーティング(全社会議)で、経営陣が実現するアイデアを決める。

  • バイヤー部門では、3カ月ごとに表彰が行われる。成績優秀者にはゴールドディスク型やTシャツ型、似顔絵入りの賞状など、ちょっと変わったトロフィーが渡される。その後、トロフィーは廊下の壁などに飾られる。評価基準は売り上げだけでなく、顧客からのレスポンスや同僚の評価など多角的。近年は、メーカーと組んでオリジナル商品を共同開発するケースも増えているという。

  • 情報はイントラネットやメール、廊下での立ち話で共有される。特別なシステムではないが、「How can I help you?(顧客のために何ができるか)」という価値観の浸透が、情報交換を円滑にしている。

  • エントランスにはザッポス・コンシェルジュという受付がある。Z-CONという愛称で親しまれ、来客への対応やシャトル・バスの手配のほかに、スーツのクリーニング・洗車といった社員の頼み事にも応じてくれるという。

「サービスを通じて
WOW体験を届ける」

「10のコアバリュー」の最初に挙げられているのが「サービスを通じてWOW体験を届ける」だ。社員たちは顧客の期待を超えることに常に挑戦している。ネット企業としては異例の人間味あふれる接客はそこに根ざしている。「10のコアバリュー」の中には「謙虚になる」という項目もある。社員が「こんなすごいことをやった!」と満足するのではなく、「こんなことができて私たちはなんて幸せなんだろう」と思うことが大事なのだという。ザッポスでの人事評価はユニークで、「学習」と「自己改善」の2点から向上する姿勢が問われる。同時に教育チームが次の職務ステップを学べるクラスも開いてくれる。評価は「仕事を終わらせたか」ではなく「何を学んでいるか」「次へ飛躍することができるか」にあるのだ。近年は靴に限らず、洋服やカバン、化粧品の販売も始めた。社員たちは単に顧客満足を高めるだけでなく、新しいビジネス展開についても自然に考えている。それを導くカギも「WOW体験」へのこだわりにある。

WORKSIGHT 01(2011.10)より

 

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