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何もやらずに「できない」と言うほど
質の悪いNOはない

3Dモデリング技術で創作の不純物を取り除く

[藤本有輝]マッドスネイル代表、第七創個株式会社 代表取締役

「マッドスネイル(MUDSNAIL)」では3Dプリンターや3D CADなどの先端デジタル技術と、丁寧な手仕事や高度な経験知を融合したモノづくりを行っています。

オリジナルのレディスシューズやアクセサリーを制作しているほか、「アンリアレイジ」* 「ケイスケカンダ」** といったアパレルブランドから依頼を受けて、プロダクトの企画・製造、ショーや店舗のインテリアなどを手掛けています。

2次元のデザインを3次元に広げる

2014年の展示会のテーマは「サーフェスダイブ(Surface Dive)」でした。これには、平面のデザインに奥行きを与える、2次元のデザインを3次元に広げるという意味を込めています。

例えば、パンプスのヒール部分は、横方向からペイズリーやチェックの柄を透過させています。真横から見ると、ぶれずにペイズリーやチェックの柄になる。透かし具合や側面のカーブを周到に計算しているわけです。

「マッドスネイル」は空間デザイン、プロダクトデザインを手掛けるクリエイティブチーム。2006年、藤本氏が中心となって設立。デザインから原型製作、小ロット生産まで展開するメーカー「第七創個」より発足している。
http://www.mudsnail.jp/

* アンリアレイジ(ANREALAGE)
2003年、デザイナーの森永邦彦氏が設立。A REAL(日常)、UN REAL(非日常)、AGE(時代)をコンセプトに、色鮮やかで細かいパッチワークや独創的なフォルムを特徴とするブランド。2005年、米国ニューヨーク開催の「GEN ART 2005」でアバンギャルド大賞受賞。2014年、パリコレクションデビュー。

** ケイスケカンダ(keisuke kanda)
2004年、デザイナーの神田恵介氏が設立。2005年、アンリアレイジと東京タワーでコレクションを発表。少女性をロマンティックに表現し、10~20代女性に人気のファッションブランド。

これはモデリングソフトでデザインして、3Dプリンターで出力して作っています。素材の価格が落ちてきたこともあって、現実的な価格で量産できるようになってきました。この靴もそうですが、一点物のアート作品ではなくて現実的に生産、販売できるものになったことに意味を感じます。

ただ、プロダクトによっては地道な手作業で制作を進めることもあります。3Dプリンターも使うけれども、あくまでツールの1つであって、先端であることに重きを置いているわけではありません。デザインをまず考えて、その出力がたまたまプリンターになったりハンドメイドになったり、またその他の方法かという違いだけなんです。

プロダクト・空間デザインの延長線上のファッションアイテム作り

中学時代からアパレルやファッションに興味があって、「デザイン」という言葉に惹かれて高等専門学校のデザイン工学科へ進学しました。ところが授業は工業デザインがメインで、服作りとは縁遠い世界。勘違いした僕が悪かったんですけど、そんなわけで学業にはあまり身が入らなかったですね。すぐに原宿の古着屋でアルバイトを始めて、学校が終わったら直行する毎日でした。

そんなときに出合ったのが「エヌジーエイピー(NGAP)」や「エムアンドエム(M&M)」といった、インテリアデザインやプロダクトデザインをしながら服作りも手掛けるブランドです。センスの良さはもちろん、幅広いモノづくりのバックグラウンドを持つスタイルがかっこよかった。プロダクトや空間のデザインの延長線上の服作りというものを示された気がして、服飾に学のない僕でもブランドが持てるんじゃないかとテンションが上がりました。

そこで、自分でもモノづくりをしてみようと思い立ったんです。売るでもなく、見せるでもなく、とにかくいろんなものを作って自分のレベルを上げようと。そしてゆくゆくは自分のブランドを立ち上げて、「すごいブランドが現れた」と、デビュー当初からいきなりリスペクトされようと。完全に若気の至りですよね(笑)。

親しい友人たちに「かっこいいブランドを作ろう」と声をかけて、一緒にマッドスネイルを立ち上げました。2006年、22歳のことです。

全てを賭けた空間デザインが転機を生んだ

そういうモノづくりを続けてしばらく経ったころ、友人のブランドが渋谷で展示会をするということで会場施工のオファーを受けました。これは転機だと僕は舞い上がっちゃって、ありえないくらいの熱量を注ぎ込みました。

会場のスタジオ一面に落ち葉を敷き詰めて、2階建ての大きなウォークインクローゼットを建てたんです。同時にCADソフトや3Dプリンターも買いました。セレクトショップを開くつもりで貯めていた300万円をはたいて、それでも足りなかったので祖父母に資金協力を仰ぎつつ、デザイン、設計、施工と、徹夜もしながら1カ月かけて会場を作り上げたんです。

ところが、展示会にはほとんどお客さんが来なかった。誰もいない会場で途方に暮れましたね。だけど数少ない来場者の中に、アンリアレイジの森永邦彦さんやケイスケカンダの神田恵介さんがいたんです。おふたりに会場の造りを評価していただいて、少しずつ仕事の依頼を受けるようになりました。

神田さんからは2008年にリボン型プラモデル「女子用プラモ りぼんの戦士」*** の制作を請け負いました。

森永さんからも小物の制作依頼をいただきつつ、例えばアンリアレイジの「wideshortslimlong」コレクション(2012年)では縦長に伸ばしたマネキンと、上からつぶしたマネキンを制作するなど、コレクションライン以外のプロダクト開発にも携わるようになりました。りぼんの戦士もマネキンも3Dプリンターで原型を作っています。

サーフェスダイブというコレクションテーマでのペイズリーパンプス。(写真提供:マッドスネイル)


モノづくりを始めてすぐのころに作った灰皿。米軍の食糧配給品の空き箱を樹脂に漬け、木枠で固めた。

*** 女子用プラモ りぼんの戦士
神田恵介氏が企画プロデュース。プラスチックのパーツを組み立てて作るリボン型アクセサリーで、ボタン、髪飾り、指輪などとしても楽しむことができる。

  • アンリアレイジの依頼で作った特殊マネキン。素材はFRP(繊維強化プラスチック)。パリのセレクトショップ「レクレルール」が同型のものを購入、店頭に置いている。

  • マッドスネイルでデザイン、制作したパンプス。左3点がオリジナルのラインナップ、右はアンリアレイジの「LOW(低解像度)」をテーマにした2010年コレクションのパンプス。ヒール部分でドットを表現している。

  • アンリアレイジ直営店のインテリア。「TIME」をテーマにした2012年秋冬シーズン。空間デザインをマッドスネルが担当、デスクとチェアのオブジェ、壁と一体化した半身マネキンなども制作した。(写真提供:マッドスネイル)

  • 前項写真の木製チェアを一部拡大したもの。多くのパーツの集合体と分かる。(写真提供:マッドスネイル)

「できる」と言ってから考える。
その繰り返しが糧になっている

仕事は少しずつ増えていったけれども、経営者としては全然ダメでしたね。貯金は底をついているのに、何か案件が1つ来ただけで50万円くらいの機械を買ってしまう。

例えば、ある会社から「何か圧縮して目先の変わった材料を作りたい」と相談を受けて、最初は万力で圧縮してみたんですけど満足のいく出来にならないんです。それで「これは油圧プレス機じゃないとできない制作なんだ」と考えて購入するわけです。でも結局その案件が終われば機械は寝たまま。そんなことが往々にしてありました。

「できない」って言ったら終わりだと思ったんですね。収益の面では散々なんだけど、でもそのフットワークの軽さがあったからこそ、打ち合わせでさらりと「じゃあ、これちょっと圧縮してみます」とか言えるわけですよ。相手は驚きますよね。とりあえず言ってみて、その後、形にしてみる。

その繰り返しが糧になっているし、「マッドスネイルって何でもできるらしい」というイメージの獲得にもつながっていると思います。

強制的に育っていくモノづくり

アンリアレイジのパンプス(2010年)も、そうやって生まれました。アンリアレイジからはそれまでアクセサリーの企画・製造を請け負っていたんですけど、ある日の打ち合わせで森永さんに「靴作れる?」といきなり聞かれたんです。「靴!?」と思いながらも「できますよ」と即答。

デザインを考えることになって、そのときのコレクションのテーマが「LOW(低解像度)」だったので、ヒール部分にキューブをあしらって粗いピクセル感を表現してみたんです。究極的に解像度を低くすると1つのキューブになるんですけど、その手前の、人が想像しやすい粗さにして、さらに光の反射による色味の違いも付け加えてモザイク感を出した。物理や理科の発想がデザインをこじつけている感じですね。

デザイン画を出してみたら、気に入ってもらえたので実際に作っていくわけですが、もちろん一筋縄でいくはずもない。しかもショーサンプルというのはとにかく時間がありません。企画、デザイン、サンプルアップまでで3週間なんていうのもざらです。それでもやってみると言う。何もやらずにできないと言ってしまうことほど質の悪いNOはないと思うからです。

でも、そうやって挑戦し続けることで確実に僕らはクリエイターとして成長できました。強制的に育っていくモノづくりというのもあるんですよね。いろいろなチャンスを与えられて、環境には恵まれていると思います。

300個のパーツを組み立てる緻密なクラフトワーク

プロダクト以外に、アンリアレイジ直営店の什器やインテリアも毎シーズン手掛けています。2012年秋冬シーズンのテーマは「TIME」。1秒前の世界を留めるというもので、触れる時間をイメージして椅子と机、照明などを製作しました。

デザインプロセスとしては、まずベースとなる椅子や机を設計、それをパソコン上で重ねていくという単純なものでした。そうすると、現在が一瞬過去をバラバラに分断していくことになって、細かいパーツに分かれるわけですが、これが、それぞれに固有の形状と角度をコンマ台の数値で持っていて、それがパズルのように組み合って形ができています。

もちろんデジタルで出力すれば、データ上の寸法そのままで作りやすかった。でもこのプロダクトは絶対に木の風合いを活かしたものにしたかったんです。0.1度のカットミスが大きく響くため手でやるしかないんですが、緻密に計算し、ハンドで丁寧に調整し、仕上げた結果、それでも出る極小のズレ。これが、300ピース重なり合って生まれる迫力が見てみたかったんです。

3D技術を使えば、コストや時間の制約が省かれます。そういう不純物を極力排除できるという意味で3Dは価値がある。でも、デジタルではたどり着けないところがあるのも事実です。先端技術と手仕事をうまく使い分けながら、より純粋なクリエイションを追求することが僕にとっては大事なんです。

WEB限定コンテンツ
(2014.12.2 文京区のマッドスネイル アトリエにて取材)

藤本有輝(ふじもと・ゆうき)

マッドスネイル代表、第七創個株式会社 代表取締役。1984年東京都生まれ。高等専門学校卒業後、2006年マッドスネイルを設立。2011年第七創個を創立。(左写真提供:マッドスネイル)
http://www.mudsnail.jp/

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