Innovator
Jan. 19, 2015
アイデアから想いを固める。
それがイノベーションの着火点
組織の強みを発揮するための仕掛けとは
[中台澄之]ビジネスアーティスト、株式会社ナカダイ常務取締役、「モノ:ファクトリー」代表
前編で、鉄のスクラップ業からマテリアルリサイクルやリユースをビジネスとして展開するに至った経緯について説明しました。
私は常務取締役ですが、リマーケティングビジネス事業の方向性はおおよそ自分が決めています。経営の指揮を執っているのは社長・副社長や兄で、意思の疎通はかなりスムーズです。とはいえ、初めてトライすることは当たり前ですがちゃんと目的や勝算を説明します。
想いやビジョンを語る人に解決策を問うのはタブー
新規事業を作ろうとするとき、一般的にまず重要なのは「こうしたい」「こうなりたい」という“想い”を明確にすること。それがきっちり確立していないと、“ビジョン”(事業構想)として人と共有できる形に持っていくことができないし、従って、「こんな企画ができる」「あんなビジネスも見込める」といった具体的な“アイデア”を導き出すことができません。
想い、ビジョンからアイデアを生み出すまでが「イノベーション」で、そのアイデアを商品やサービスの形に落とし込む工程は「クリエイティブ」だと私は思っています。前者の課題は発想にあり、後者の課題は技術や資金にある。課題解決の枠組みが違うわけです。イノベーションというというと、「想いやビジョン」から「アウトプット(具体化)」までの過程をひとくくりにして語られがちですが、「イノベーション」と「クリエイティブ」という2つのフェーズに分けて考えた方がいい。
今、日本企業がもがいているのは発想の部分、すなわちイノベーションのフェーズでしょう。革新的なアイデアが出てこないと焦っている。その視点で、米アップル社がイノベーションを起こしていると言われますが、振り返れば半世紀前のソニーも同じだったはずなんです。明確な想いやビジョンがあって、それに裏打ちされたアイデアがあったからウォークマンを生み出し、ヒットさせることができた。ところが、ここ40〜50年は、アイデアをアウトプットするという小さなループしか回っていません。これが今の日本企業の問題の根幹だと思います。
例えば自動車メーカーが出す新車は、どれも燃費や性能や見た目を売りにしています。それは全て技術の話です。QC(品質管理)を高度化して、持っているものをどう組み替えて造っていくか、そこに没頭してきたことの現れではないでしょうか。
だけれども、世界の中で日本の技術競争力が相対的に低下して、QCだけでは稼げない時代になった。そうなって想い、ビジョン、アイデアといった発想の部分が重視されてきたということではないでしょうか。要は、40〜50年前にも日本企業はイノベーションを実現していたということです。
ただ、だからといって簡単にイノベーションが起こせるわけじゃない。「想いやビジョン」から「アウトプット」の間には、全く性質の違う課題が立ちはだかっているわけです。そこを踏まえないとイノベーションは成り立ちません。
例えば、「飛ぶクルマを作りたい」とアイデアを出した人に実現の手段を問うのはアリなんです。それは技術的な課題に対する質問ですから。飛行機の技術を援用すれば糸口が見つかるでしょう。でも、例えば「私は世の中の人を楽しませたい」「クルマだけで世界一周したい」などと想いを語る人に、「どうすれば実現できるのか」を問うのはタブーです。想いやビジョンは解決策が見出せていないから想いやビジョンに留まっているのであって、解決するにはアイデア出し以外にないんですよ。
アイデアが出せれば、後は技術や資金の課題に置換できます。つまり想いをいかにアイデアに持っていけるかが勝負なのに、想いを語る人に実行の手段を問い詰めてしまう。そこで発想が止まってしまえばアイデアも出てきません。結果として、ブレークスルーをつぶす原因になっていると思います。
イノベーションは本来、日常的にあちこちで起きるもの
一方で、既存の業務では小さなアイデアが日々生まれていますよね。効率化するために仕事の手順を変えてみようとか、別々の部品をつないでちょっとした装置を作るとか、ささやかでもそれはクリエイティブなこと。仕事をよりよくしようという気持ちがあるからこそできることなんだと、アイデアを出した本人を評価して、周りの人にもその価値を伝えてあげないといけない。そうすることで、想いやビジョンを気軽に表現できる土壌が作られます。
既存の業務でこうしよう、ああしようと工夫しながら、いくつもアイデアを出していくと、そういう経験が蓄積されて自分の想いが浮き彫りになっていきます。そのとき初めてイノベーションのスイッチが入るんじゃないでしょうか。
想いやビジョンがまずあって、そこからアイデアを起こすというものが、よく言われるイノベーションですが、モノがあふれるほど充足している時代に、そう簡単にこうなりたいという想いやビジョンはポンポン出てこない。現実的には、最初の一歩は実は逆で、まずはアイデアから想いを固めていくという、この作業が重要だと思います。
全く新しい素晴らしい発想だけではなく、既存の技術や知識の斬新な組み合わせからもイノベーションは起こり得ます。過去の常識にとらわれない、既存のモノ同士の斬新な組み合わせから起こる変化も含めて「イノベーション」と定義することで、新しい事業やサービスが生まれてくる。
それを、私のような経営層だけではなく、一般の社員に日常的に要求し、考えてもらうためには、アイデアから想いを固めていくという今までのイノベーションとは逆の思考も必要です。そういう発想の転換が経営者には迫られていると考えています。
アイデアを出している事実をまず評価して、そこからその人の想いやビジョンを固めさせる。想いがどんどん出てくるようになると、また新たなアイデアが湧いて、それをみんなで知恵を出し合って解決して、アウトプットにする。そしてまた想い、ビジョン、アウトプットというループが繰り返されていく。そう考えると、イノベーションというのは特殊な出来事ではなくて、日常的にあちこちで起きるものだと思うんです。
株式会社ナカダイは産業廃棄物処分業(中間処理)として、廃棄物処理事業、リユース事業、使い方を創造する事業(イベントやワークショップ)、コンサルティング事業を展開している。昭和31年3月設立。
http://www.nakadai.co.jp/
アイデアが出る人というのはチャレンジ精神が強いと中台氏は指摘する。外部からの刺激に対して、どんなものにも興味を持ってみることでキャパシティが広がる。「心がけ次第でアイデアは出せるようになる」(中台氏)。
モノ:ファクトリーが社員の質を向上。
ビジョンを共有する組織は強い
リマーケティングビジネスの象徴として立ち上げた「モノ:ファクトリー」も、社員の質の向上に大きく寄与しています。
事業として環境のことに取り組みたいという意識で入社してくる人間が増えたし、若い女性の志望者も増えてきました。廃棄物処理業は世間的に「怖そう」「閉鎖的」といったイメージを持たれがちですが、次世代の理念を持って私の話を容易に理解してくれそうな人が入ってくるのは、企業にとってすごく大きいことです。
また、長く働いてくれている人に対しても、自分たちが取り組んでいる仕事を誇りに思える機会を提供できるようになりました。モチベーションが高められたことで生産性も上がっています。モノ:ファクトリーが呼び水になって、営業的には30パーセントぐらい売上が上がっていますが、人員数は変わらずにやりこなしてくれているので、効率的に30パーセント以上上がっているんですよ。
処理する廃棄物の中で面白そうなもの、使えそうなものがあったら脇へよけておいてと、面倒なことを頼んでいるにも関わらず、それだけの上げ方をするということは、ビジョンを共有した中で走る組織の強さを示していると思います。
利便性を支える人間の労力を体感しなければいけない
モノ:ファクトリーでは材料として使うためにマテリアルを陳列しているわけですが、それが廃棄物というジャンルの材料として成り立っていることを見せ付けるために作った面はあります。
モノがその形でそこに存在するまでには、生産、廃棄、分別、解体といった人間の手によるプロセスが必ずある。そのプロセスを開示することは、クリック1つで翌日にはモノが届く世界では極めて重要なことだと思うし、同時にそこに経済的価値を持たせたいと思っています。つまり、お金として回収できる形に見せたいということです。
ネットショッピングはインターフェースこそ機械ですけど、裏側で動いているのは人なんですよね。ユーザーが購入決定ボタンを押したら、商品をピックアップしてダンボールに詰めて、トラックに積んで運んで家まで配達するというアナログな流れがある。我々廃棄物処理も同じようにアナログです。現場の連中はフォークリフトで廃棄物を載せたパレットを積み上げて、トラックで運んで、重さを量って分別する。その結果がここにある。
モノが捨てられる世界でも作られる世界でも、自分たちの生活を支えるために人が介在しているシーンを人間は体感しなきゃいけない。この工場見学で体感できる価値を広く提供したい。その手段として分かりやすいのがモノ:ファクトリーです。ディズニーランドに匹敵する面白さがあると思いますよ(笑)。
同業者と結託して、マテリアルリサイクルを全国展開したい
将来的にはモノ:ファクトリーを道の駅のように全国に作れたらと思っています。それはナカダイ1社では難しいので、全国に1万ある廃棄物処理業者と協同したい。我々は群馬を拠点にしているので、遠方の工場から引き合いが来ても、輸送コストで地元の業者には勝てません。つまりこの業界は商圏があるので、コンサルティングでノウハウを全てさらけ出すことができるんです。
各地の廃棄物処理業者がやる気になってくれれば、あちこちにマテリアルライブラリができます。全国的にこういう活動が広がればモノの捨て方が変わるし、モノの流れも変わります。手に入るモノのバラエティも広がるので、コンシューマにも歓迎すべきことだと思いますよ。
人が要らなくなったものを、自分たちの技術やノウハウを使って、最も環境負荷が小さく、最も価値の高い状態でもう1回リリースしてあげる。それが我々が考える廃棄物処理業の本態です。問題は業者のみなさんの意識が変わるかどうか。
これまでの常識では、廃棄物処理業の売上は「処理の量×単価」ですから、大量のモノを効率よく処理することで利益を上げるわけです。排出量を減らすことは自殺行為なんです。その古い意識を刷新して、人件費を上乗せしつつ、廃棄物を減らすという新たな領域に足を踏み出さなければいけない。
難しいところではあるけれども、環境のことを考える若い人材も入ってきているし、変化は見込めます。昔みたいに“ごみ屋”をやっていればいいと思っている人は減っているし、その感覚では企業が付き合ってくれないので生き残っていけません。同業者の背中を後押ししてくれる世相にも期待したいですね。
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(2014.10.22 群馬県前橋市のナカダイオフィス、前橋・粕川工場にて取材)
ナカダイのリサイクル率は約99パーセントを維持している。「この数字も社員のモチベーション向上が影響している」と中台氏は見る。
中台澄之(なかだい・すみゆき)
ビジネスアーティスト、株式会社ナカダイ常務取締役、「モノ:ファクトリー」代表。1972年生まれ。東京理科大学理学部卒。証券会社勤務を経て、ナカダイに入社。“リマーケティングビジネス”を 考案し、“発想はモノから生まれる”をコンセプトに「モノ:ファクトリー」を創設。使い方を創造し、捨て方をデザインするビジネスアーティストとして、さまざまな研修やイベントなどの企画、運営を行っている。
http://www.nakadai.co.jp/