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マネジメント層は「Jリーグ化」せよ

現場のあがきを察知する意思決定ボードの作り方

[藤本隆宏]東京大学大学院経済学研究科 教授

前回は、大企業系の経営者が起こしがちな人災として、大局的な資本主義のプレッシャーに押されて短期の数字に基づく経営判断を下した結果、国内のものづくりの現場を潰してしまうこともいある、というお話をしました。政府の成長戦略も、大きな方向性はさほど間違っていないと思いますが、やや投資減税と規制緩和に終始する傾向があり、現場をどう元気にしていくか、という視点からの施策は希薄と言わざるをえません。しかし、日本の経済成長のエンジンは、まさしく現場にあります。

実際、社長室と現場がすぐ近くにあって向上に余念がない、国内に優良現場を持つ中小企業は、自らの生き残りと雇用の確保をかけて、日夜努力を続けています。生産性を2倍、3倍にするような現場の「流れ」の改善はもちろん、草の根レベルの小さなイノベーションを巧みにすくい上げ、それを別の分野に応用して新しい用途を提案し、販路を開拓したり、あるいは、もっと泥臭い営業活動などを地道に続けています。

中小企業の危機感と“じたばた”に学べ

全国の中小企業の多くは、新しい市場を見越して事業を展開していたわけではなくて、「この先、どうやって社員を食べさせていったらいいのか?」という危機感を経営陣が持ち、それに応えるかたちで現場が一体となっていろいろじたばたしていたら、やがて道が開けてきた、というのが実際のところだと思います。彼らの主要な課題は、とにかくまず地域で生き残ること。大企業のように、「賃金が安いから」という理由でこちらの生産拠点を引き払ってあちらに移す、といったことは簡単にはできませんから。

利益は“そこそこ”でも構わない。でも、銀行からお金を借りられなくなったら中小企業はおしまいです。信用保証協会や制度融資など一定の支援はあるものの、大企業の例にあるように、社会的影響が大きいからと返済を待ってもらったり、負債を減額してもらったり、公的資金を注入して延命してもらえるなんてことは望めません。また、雇用は地元で確保しなければならないため、人件費の抑制にも限度があります。そういう生き残りをかけた努力の中から、生産体制の改善や有効需要の創造が生まれてくるわけです。

実際、全国の中小企業が一斉に“じたばた”して、小さな草の根的イノベーションや生産革新がたくさん生まれてきたことによって、日本の産業の活力や雇用は、かなりの部分が維持されてきたのだと思いますよ。「失われた20年」の間に格差がかなり拡大したと言われましたが、大企業が現場の雇用形態をシフトさせたことに起因する部分が大きいでしょう。それでも例えば2009年の失業率は、5%程度にとどまった。中小企業の資金繰り対策を緩和するために成立した「中小企業金融円滑化法」が今年の3月に期限が切れるというので、「これから中小企業がバタバタ潰れる」と心配する声もありましたが、そういう状況にはなっていない。中小企業への融資も概ね続く一方で、現場も能力構築の努力を続け、多くが生き残っているんです。

こうした「良い現場」の生き残り努力を正面から支援するような政策が必要です。例えば、ものづくり現場の「流れ改善」を指導できる指導者(ものづくりインストラクター*)を全国で育成するような地域活性化活動への支援です。東京大学大学院経済学研究科では、2005年度に始まった経済産業省の「産学連携型中核人材育成事業」の一環として、私がコーディネーターとなり「ものづくりインストラクター養成スクール」を実施しています。

政府もさまざまな成長戦略を提示していますが、こうした「良い現場の存続」を具体的にダイレクトに支援する、という視点が不足しているうちは、まだ本物ではないな、と私は思っています。

*ものづくりインストラクター
経済産業省の「産学連携製造中核人材育成事業」として、東京大学大学院経済学研究科ではものづくりインストラクターが2005年度より始まった。同事業は、製造現場の中核人材を育成するために、人材育成システム構築を産業界と大学教育機関が連携して支援するもの。現場のベテラン人材が蓄積している暗黙知を共有化する仕組み作りに役立つ。
http://merc.e.u-tokyo.ac.jp/chukaku/default.html

「空気を読まない人」こそ
マネジメント層には必要

現場が自らの生き残りのために能力構築、生産革新、草の根イノベーション、顧客創造などを粘り強くやっていったとしても、本社や金融機関に現場を正しく評価する能力が欠けていれば、良い現場も良い産業も残れません。つまり、大企業にとって何より重要なことは、本社の意思決定の質を高めることだといえます。

例えば、役員会など意思決定ボードのダイバーシティを高めること。外国人幹部、外資出身者、女性、若手抜擢者など、意思決定において空気を必ずしも「読まない」(「読めない」のではなく)異質人材を一定割合、意思決定ボードにおいて確保しておくが重要です。

以前、ある製造業の企業で、外国人が経営の指揮を執るようになって外国人の従業員も増えたため、「外国人が多すぎてやりづらくなった」という経営幹部と会ったことがあります。声が大きいから、というのがその理由ですが、実際に比率で調べてみたら、その職場には2〜3%しか外国人はいませんでした。つまり、2〜3%の人たちがそれよりずっと大きな存在感を感じるくらい、意思決定の場で発言をしていた。それが「空気を読まない」人たちなんです。

意思決定ボードが互いに空気を読みすぎると、結局、かつて丸山真男が指摘した「無責任」体質が定着してしまい、大失敗をする危険が高まります。逆に、異質な人材を入れておいた方が、議論の多様性と緊張感が増進し、意思決定の幅や柔軟性が高まるでしょう。トヨタの奥田碩氏、キヤノンの御手洗冨士夫氏、TDKの上釜健宏氏、タケダの長谷川閑史氏など、海外での経験が長い人がトップに就任するケースも増えています。

本社組織を「Jリーグ化」して鍛える

経営ボードのダイバーシティを高めよ、とは、例えるなら、本社組織の「Jリーグ化」を進めよ、ということです。日本の産業に元気がなくなったこの20年の間に強くなったものといえば、日本サッカーです。ならば、そこには何か、ヒントがあるはずです。

日本のサッカーは、外国人選手をどんどん現場に送り込んで成長してきました。強くて実績のある外国人プレーヤーを招聘し、チームに投入する。すると、最初は彼らの当たりの強さやテクニックに翻弄されていた日本人プレイヤーも、徐々に慣れ、世界レベルのサッカーを肌で感じて強くなっていった。選手達は、国内で試合を重ねてレベルアップしていったんです。やがて、海外のトップ・リーグに入れるような若いプレーヤーが出てくると、彼らがまた日本に戻り、国内のチームが鍛えられていく。まさにダイバーシティが、組織を鍛えた好例といえるでしょう。

少数派なのに、こちらが慣れ親しんだやり方ではない振る舞いで果敢に周りに影響を及ぼすような人材。自分の意見に対して「お言葉ですが……」と必ず疑義を申し立てる人材がどれだけ周りにいるでしょうか。「会社は好き。だけど言いたいことは言う」といった、異質な人達が集まれば、それぞれが「こいつを説得しないと前に進まない」と思い合って、仕事に緊張感が生まれます。意思決定の質も高くなり、現場に対する観察力も鋭くなるはずです。

日本のものづくり活性化のポイントはひと言でいえば、「現場は連帯せよ、本社は覚醒せよ」ということに尽きると思います。

WEB限定コンテンツ
(2013.10.30 東京大学の研究室にて取材)

藤本隆宏(ふじもと・たかひろ)

1979年、東京大学経済学部経済学科を卒業し、1989年6月、ハーバード大学ビジネススクール博士課程修了。東京大学経済学部助教授、同 大学院経済学研究科助教授を経て、1998年より同教授。現場というミクロのレベルで、産業競争力を高める設計構想(アーキテクチャ)とものづくりの組織能力のあり方を実証的に研究している。

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