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サーカディアンリズムに則ったワークスタイルとは

LED液晶ディスプレイが心身にもたらす2つの危機

[坪田一男]慶應義塾大学医学部眼科学教室教授、同大学SFC研究所ヘルスサイエンス・ラボ共同代表

前編で座りっぱなしの生活「セデンタリー・ライフスタイル」がもたらす悪影響について説明しましたが、オフィス空間では他にも課題があります。その1つがブルーライトです。

ブルーライトは太陽の光に含まれる、波長380~495nm(ナノメートル)の青色光です。可視光線の中でも最も波長が短く、強いエネルギーを持っていて、角膜や水晶体で吸収されずに網膜まで到達します。網膜には光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)という光受容体があって、ここで強く明るい光をキャッチすると、脳の視床下部にある視交叉上核(しこうさじょうかく)へ信号を送ります。すると脳は「明るい」「朝だ」と認識して、眠りを誘うホルモンであるメラトニンの分泌を抑えて覚醒モードになります。夕方になって暗くなるとメラトニンの分泌が活発になって眠くなる。

つまり網膜は人間の体内時計につながっているということです。体温や心拍、血圧、血糖値なども覚醒と睡眠のリズムに合わせて変化しています。光を目に受けることでサーカディアンリズム(1日24時間周期の体内リズム)が作られるのです。

夜間にブルーライトを浴びると体内時計や目に影響が

問題は、最近ではブルーライトがオフィスや生活空間にあふれていること。ブルーライトは青色LED(発光ダイオード)から発せられますが、低消費電力、長寿命であることからLED照明が増えています。

さらに、パソコン、スマートフォン、タブレット端末など、LEDをバックライトに採用した液晶ディスプレイも仕事に欠かせません。夜遅くまで残業したり、深夜までパソコンやスマホに触れたりすることは、ブルーライトを昼夜問わず浴び続けるということで、つまり朝のように明るい光を夜も浴びているのと同じこと。これを続けていると、主に2つの問題を招きます。

1つはサーカディアンリズムの乱れによる健康被害です。睡眠障害、うつ状態、肥満、糖尿病、高血圧といったメタボリックシンドロームやがんのリスクを高めることが報告されており、必要以上にエイジング(老化)を早めてしまいかねません。

米国フレッド・ハッチンソンがん研究センターによると、「メラトニンの分泌量がピークになる深夜1~2時に起きている人」「明るい寝室で眠っている人」は夜間勤務の経験の有無にかかわらず、がんのリスクが高まることが分かっています。体内時計が崩れやすい航空機の乗務員や看護師は乳がんの発生率が2倍以上、国際線の乗務員では乳がん発生率は70パーセントも上昇するほか、交代勤務の仕事に3年以上就いた50歳以上の女性は乳がん発生リスクが4.3倍になるというデータもあります。今は身体の不調を感じていない人でも注意が必要です。

問題のもう1つは目への影響です。ブルーライトは太陽光に含まれる光の中で紫外線に最も近い。これを長時間浴びることのダメージが懸念されます。また、加齢黄斑変性* などの眼病への影響も研究中です。

就寝前のメールチェックはエスプレッソ2杯に匹敵

やみくもにブルーライトを避けるべきというわけではありません。浴びるタイミングと量に注意してほしいということです。

朝や日中はブルーライトを含めた太陽の光をしっかり浴びる。一方、夜はできるだけ強い光を浴びないこと。これが基本といえるでしょう。

オフィスの照明は覚醒を促したり集中力を高めるために、あえてLEDを使うケースもあります。朝8時から夜6時ごろまでは、光のあるところで働いた方が仕事もはかどります。でも、夕方6時になったら少し暗めの照明に切り替える。そうすることでサーカディアンリズムを崩さないようにするわけです。

もちろん夜はパソコンやスマホの画面を長時間見つめないように。メールチェックは就寝2〜3時間前には済ませたいですね。英国エディンバラ睡眠センターの研究では、就寝1時間前のメールチェックはエスプレッソコーヒー2杯分の覚せい作用があるそうです。特に注意したいのが子どもで、お子さんのいる家庭では子どもがベッドの中でスマホやケータイに触れることのないよう指導が必要です。

私自身も以前は就寝前にメールをチェックしていましたが、これを極力やめるようにしたら朝目覚めた時の爽快感が違います。体調が良くなって自分でも驚いています。

もちろん、全ての人がサーカディアンリズムに従って仕事することはできません。コンビニで働く人もいれば、トラックやタクシーの運転手もいます。消防士や警察官、医師や看護師も深夜勤務があります。夜勤のある人はその分、食事に気を付けたり運動したりと、健康にプラスのライフスタイルを取り入れましょう。

全ての人が健康的に働けるように職場環境の整備が望まれますが、同時にワーカー自身もブルーライトと上手に付き合うことの大切さを認識して、夜は暗く、朝は太陽を浴びる生活を努力して作っていくことが重要です。食事については、毎日おいしいものを食べ過ぎてはいけないとか、みなさん知識をお持ちですよね。同じように、ブルーライトの影響をまず知ることが、より健康な生活を送るための第一歩となります。


慶應義塾大学SFC研究所ヘルスサイエンス・ラボは健康維持・増進、病気予防、すなわちヘルスサイエンスをテーマとした研究機関。食事、運動、心のあり方を3本柱として研究と教育を展開している。2011年10月設立。
http://health-science-labo.com/

* 加齢黄斑変性
加齢に伴って目の網膜の中心にある黄斑部が酸化・変性する眼病。ものが歪んで見えたり、視野の中心部分が書けて見えるようになったりする。失明に至ることもある。

LED液晶ディスプレイを見るときは、ブルーライトカットメガネをかけるのも有効だ。その1つ、「JINS PC」は株式会社ジェイアイエヌと坪田氏が世話人代表を務めるブルーライト研究会が共同開発したもの。「私も愛用していて、仕事中や外出先ではブルーライトを30パーセントカットするタイプ、夜自宅で過ごすときは50パーセントカットタイプと、使い分けています」(坪田氏)。


坪田氏の著書『ブルーライト 体内時計への脅威』(集英社新書)。豊富なデータを交えながら、ブルーライトが人体にもたらす影響について解説している。

長生きだから幸せなのではなく、
幸せだから長生きする

私は健康を重視していますけど、それが全てではありません。それより大事なのは、自分の「ごきげん」を維持すること。私は「ごきげん至上主義」で、それは健康の維持にもつながります。

ごきげんで幸せを感じている人ほど病気になるリスクが少なく寿命が長いという研究結果が国内外で報告されています。例えば厚生労働省の研究で、「生活を楽しんでいる」という人は脳卒中や心血管疾患による死亡リスクが低いことが明らかになりました。

これには科学的裏付けがあります。ストレス対抗ホルモンであるコルチゾールは、ストレスを和らげたり感情を穏やかにする働きがありますが、長期的・継続的なストレスで慢性的にコルチゾールの濃度が高い状態が続くと高血圧や高血糖になりやすく、また免疫力が低下して感染症にかかりやすくなります。このコルチゾールの値を調べると、幸せだと感じている人ほど1日の平均値が低いという調査結果があります。

2011年2月、科学誌「サイエンス」では「Happy People Live Longer(幸せな人は長生きする)」という総説を出しました。実際、先進国での研究では、幸せを感じている人は7.5~10年も寿命が長いことが示されています。長生きだから幸せになる、ごきげんになると考えがちですが、実際は逆なんです。幸せだから長生きするんですね。

「幸せを感じる力」を鍛えることも大事

今、逆境から立ち直る力、心の回復力ともいうべき「レジリエンス」が注目されています。レジリエンスは心理学用語で、「精神的回復力」「復元力」などという意味で使われる言葉です。

辛いことがあったり、失敗したり、ストレスがかかったあとで、立ち直る力はどこから生まれるのか? どうしたらレジリエンスを鍛えられるか? そんな研究が進んできています。不幸だと落ち込むのではなく、それを乗り越えて幸せになるためにはどうすればいいか? そのためには、一喜一憂せずに、「今はだめでもいつかうまくいく」と楽観的にとらえる気持ちや、失敗にばかり目を向けない思考の柔軟性が大切であることがわかってきました。鉄のような頑強な心を鍛えるのではなく、柳のようにしなやかな心をつくることが大切というわけです。

また、僕の持論としては、「ごきげんは自分の意志で選択するもの」だと思っています。結果に左右されるごきげんは、自分が「自動選択機」になっているということです。それでは、周りに自分の心も人生も決められてしまいます。そこには自分の意志が存在しません。それではもったいない。自分の人生は自分で選択する。何があっても常に「ごきげん」でいることを自分が選べばいいのです。

これは一見、強い意志のように思えますが、実は柔軟性なのです。今日、お財布を落として3万円も損してしまった。そこにこだわったら不幸です。でも、3万円損しただけで事故にあわなくてよかった。そんなふうに広い視点を持つことで考えも気分も変わります。風邪をひいて最悪な日。でもこれで免疫力がつくぞ! 上司に怒られたけど、この経験を生かして成長できる! そんなふうに、別の視点で考えられることは、思考の柔軟性です。

フランスの哲学者アランは「悲観主義は気分だが、楽天主義は意志である」と言いました。ごきげんも不きげんも、自然に湧き上がってくる感情だと思いがちですが、ごきげんを選択するのも不きげんを選択するのも自分次第です。ごきげんでいればパフォーマンスも上がるし、健康も維持できる。ぜひ多くの方にごきげんの効用を知っていただきたいと思います。

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(2014.9.19 新宿区の慶應義塾大学にて取材)

現実を直視したうえで、逆境を乗り越えるために心の中のプラスの部分に注目するという考え方はポジティブ心理学に由来している。
ポジティブ心理学は、1998年、当時の米国心理学会会長だったペンシルベニア大学心理学部のマーティン・セリグマン教授が創設した。セリグマン教授らは米国陸軍130万人を対象とする「レジリエンス(精神的回復力)教育」というプロジェクトも立ち上げており、軍役後のPTSDなどが問題になる兵士への教育としてもポジティブ心理学は活用されている。

坪田一男(つぼた・かずお)

1955年東京生まれ。慶應義塾大学医学部眼科教授。慶應義塾大学SFC研究所ヘルスサイエンス・ラボ共同代表。日本抗加齢医学会理事長。80年慶應義塾大学医学部卒業後、日米の医師免許を取得。85年米国ハーバード大学留学、87年角膜クリニカルフェロー修了。高齢化社会の視力の問題にも視野を広げ、日本におけるアンチエイジング医学の研究と導入に本格的に取り組む。
http://www.tsubota.ne.jp/

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