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常識から完全に自由に。
バルミューダの着想の原点とは

消費者に「センス」を提供する東京発の家電メーカー

[寺尾玄]バルミューダ株式会社 代表取締役社長

バルミューダは2003年の設立当初からずっと、コンピュータやデスク周りのアクセサリ、照明器具などの開発・販売を手がけてきましたが、途中から家電分野に舵を切り、現在は家電メーカーとして成長を続けています。

転機となったのが、2010年に発売した扇風機「GreenFan」*です。開発の直接のきっかけは、リーマンショックで会社の業績が悪化したこと。ほとんど倒産寸前にまで追い込まれて、どうせ倒れるなら最後はやりたいことをやって前に倒れようと思ったんですね。

速度の異なる二種類の風で気流を変化させた

扇風機は毎年使っていたけど、それまで満足のいく扇風機に出合ったことがありませんでした。おそらくメーカーは、扇風機は風を送り出す機械だと思っているけど、そうじゃないんですよ。私たちは風を浴びたいんじゃなくて、涼しくなりたいから扇風機を使うんです。風と涼しさって近い関係にありますけど、イコールじゃない。今までの扇風機はそこが分かっていないと、ずっと不満に思っていました。

風を送り出そうとすればスクリューを回して空気の旋回流を起こせばいいけど、涼しく感じるためにはそれじゃ不十分なんです。自然の風のように面として移動する風を起こさないといけない。外に出て歩いたときの風を再現して、心地よい涼しさを得られる扇風機を作れないかというのがGreenFanの開発の第一歩でした。

もちろん消費者としての不満だけでなく、扇風機という家電そのもののニーズも見込みがありました。温暖化と化石燃料の枯渇が地球規模で進む中、できるだけ少ないエネルギーで「暑い、寒い」を解決できるプロダクトの需要は高まっていくはず。その点、扇風機はエアコンより消費電力が少ないから、勝算がないわけではなかったんです。

そうはいっても状況は崖っぷちで、しかも家電製品を作るとなれば相当なイニシャルコストがかかります。現実的なことを考えていたら開発には乗り出せなかったでしょうね。そこはエンジニアの血が騒いだというのか、衝動に突き動かされた面もあった。最後に最高の扇風機を作ってやろうと無我夢中で開発に突っ走りました。

そうしてたどりついたのが二重構造の羽根です。速度の異なる二種類の風を作って気流を変化させることで、面で移動する風を生み出し、自然に近い風を再現させることに成功しました。3万円超という高めの価格設定でしたが、お客様の支持を得てヒットし、シリーズ化もされるほどのロングラン商品になっています。

常識を信じないから、他の会社よりイノベーションを起こしやすい

風の質に着目したことはGreenFanの成功の鍵の1つだったと思います。それからもう1つ、コモディティ化された市場に対して、新しい価値を提供できたことも大きいと思いますね。

どのプロダクトでもそうなんですが、我々のすべての企画は「常識を疑う」ところから始まります。これは創業者である自分の性格が強く出ています。

そもそも常識って、みんな仲良く、なるべくトラブルが起きないように共同体を維持しようという価値観で成立しているものだと思う。それはもちろん大事だけれども、多くはそれに縛られすぎているんじゃないでしょうか。

無理だと思われても、やってみたら意外とうまくいくことって多いですよ。バルミューダの起業からして、業界の方にいわせれば「常識外れ」でした。経験のない人間がもの作りなんてできるわけがないと、みんなに言われてね。でも自分でも勉強を重ねたり、町工場の方々にいろいろ教えられたりして、なんとかここまで来れた。GreenFanの価格にしても、そんな高い扇風機が売れるわけないと最初は言われたんです。でも結果、売れました。人生のいろんな地点で常識を疑って、何かにトライして、意外とうまくいった例が実際にあるんですよ。

だから、完成された市場と一般に見られていても、本当に完成されているのかな、だいたいマーケットが完成することなんてあるのかなと、まず疑ってみるんです。そうやって自由な発想で新しい価値を生み出して、お客さまに利益をもたらして、その利益に見合った対価をいただくというのが企業におけるイノベーションだと思うんですよね。

常識を信じていないからこそ、他の会社よりイノベーションを起こしやすい。バルミューダはそういう会社だと思います。

自分の人生を起点に、そこで使う理想の道具を考える

常識を疑うということは、市場を疑うということだけでなく、既存の製品そのものを見直すということでもあります。

いろんな家電製品が世にあふれていますけど、ほとんどのものに違和感があるんですよね。不格好だったり、必要以上に大きかったり、何を目的としているのか分からなかったりで、正直なところ家に置きたくないものが多い。この違和感って結局は文化的なセンスから始まってると思います。はさみとか黒電話なんかは、造形に無駄がないし手にしっくり馴染んで親近感がありますけどね。

要は、精密機械としての家電はよく練られていないのではないか。家電が生まれて100年経ってないですから未熟さがあるのは当然です。人間の道具の中で、まだまだ駆け出しのジャンルだと思います。

言い換えれば、既存の家電の姿が決して正解ではないということです。そのものがどうあるべきなのか、もっと言えば自分の人生があって、そこで道具を使うならどんなものがいいかということを考えていく。それが私たちの発想の原点です。

バルミューダ株式会社は2003年3月に東京で設立された家電メーカー。「最小で最大を」を理念としたプロダクト開発で、数々のデザイン賞を受賞している。2014年4月現在、社員数は45名。
http://www.balmuda.com/jp/

*GreenFan
2010年に発売された初代の希望小売価格は33,800円。その後、GreenFan2+、GreenFan mini、GreenFan Cirqなど後継機を含むシリーズが発売され、いずれも好調な売れ行きを見せている。
写真はGreenFan2+(提供:バルミューダ)。

オフィスの一角は同社製品の展示スペースとなっている。音楽活動の経験を持つ寺尾氏らしく、片隅にはギターも。

その製品が本当に必要かどうか、
根本的な問いから企画が始まる

加湿器の「Rain」** も、「加湿器って必要かな?」「本当に要る?」という問いから企画が始まりました。話し合ってみたら、みんな持ってるし、やっぱり要るんだよなって。だって空気が乾くの嫌だもんね、と。じゃあ要るとして、加湿器って人にとってどうあるべきなのかということを次に考え始めます。

そこで基軸になるのは、ユーザとしての既存製品への不満だったり、生活者としての実感だったりする。つまりはセンスですよね。だいたい自分たちが開発した加湿器が世に出るまで、私加湿器で満足したことないですから。見た目からして武骨でスマートじゃないし、給水タンクもいちいち取り出して水を入れるのは重いし、不便極まりないですよ。

加湿についても、それほどすごい効果は期待されていないと思うんですよ。洗濯物を干しても湿度は得られますからね。となれば、あの存在感を部屋に置いておくのが嫌だし、なおかつ、さほど期待していないその効果のためにタンクを毎日持ち運ぶのはあり得ない。もっと便利で、そこにあるだけで気持ちのいい空気を作ってくれる、エレガントな存在。そんな加湿器を作りたいと思いました。

それで、我々の加湿器は壺型になったんです。しかもタンクなしで、そのままやかんで水を注ぐことができる。水を入れる道具として壺は何千年もの歴史があるし、そこに水を注ぐ行為はすごく自然ですよね。加湿に対して私たちがやれることって水やりくらいですよ(笑)。それ以上はやりたくないし、そのシンプルさこそが価値だと思う。それで名前も水を連想するRainとしました。

「いい性能」でなく「いい感覚」を提供したい

企画にあたってマーケティングやリサーチはしませんし、手持ちの技術を生かそうという技術先行型の開発もしない。あくまで自分たちの人生でほしい製品を作るということが立脚点です。

だから、ひょっとするとプロダクトが市場に全く受け入れられないリスクもあるわけですが、それはそれで仕方ない。結局のところセンスなんですよね。常識を信じてないからフレッシュな考えが生まれるし、新しいチャレンジができるんだけれども、そのチャレンジの質、ひいては勝率を左右するものはセンスだと思います。

社会の要素は、大きく人文科学と自然科学、すなわち文化と数字に分けられます。我々が作るものは家電という道具であり機械でもあるわけで、その意味では数字に近いものだけど、あくまで人の暮らしに心地よく溶け込むものでなければならない。

掃除機をかけたとき、ほこりが部屋の中にいくつ残っているかは誰も測らないし、測っても意味がないでしょ? 「ああ、なんかさっぱりした」っていう感覚が大事ですよね。だから数値化できる性能や効率より、人文科学の要素、文化的要素の方が重要なんです。デザイン的な見た目の良さとか音の静かさとか、五感で感じる価値が家電が提供するものでもっとも重要な価値だと思います。

他の家電メーカーは機能や性能を追求しているので、おそらく目指しているものが違うということ。我々はお客様に感覚を提供したいんです。それも、「いい感覚」であって、「いい性能」ではない。使ってさっぱりする、気持ちいい、うれしい、優しい、そういう感覚の部分が大事だし、最終的に心に残るのはそういうものだと思う。だからこそ我々は人文科学の方を重視するんです。アイデアを形にする技術力という意味では自然科学も大事だけど、我々が提供する核の部分は文化的な価値、センスにあると考えています。

文化的要素を理解できるようになると開発者として強くなれる

開発チームを見ていても、技術的スキルにプラスして、文化的要素を理解できるようになると開発者として強くなっていきますね。機械のことだけじゃなくて、効果のことも考え始める。それは最終的に売れる商品作りにつながっていきます。

じゃあ、そのセンスをどう養えばいいのかという話になるけど、それは文化的な修業を積むしかないと思います。自分でも心がけていますけど、デザインや技術のスタッフにも、美術館に行く、本を読む、映画を見るといった機会をできるだけ作って、良質のソフトに多く触れるように言っています。

本拠地を都心ではなくて、郊外の武蔵野市に置いているのもそこに通じるでしょう。23区内は便利かもしれないけど、狭いし緑も少ないから嫌なんです。普段いる場所とか、何を気持ちいいと感じるかってセンスに関係しますよね。心は環境に映し出されると思うので、自分たちらしい文化感がにじみ出ているオフィスがいい。必ずしも最先端じゃなくていいと思っています。

WEB限定コンテンツ
(2014.1.31 武蔵野市のバルミューダ本社にて取材)

**Rain
2013年11月に発売された加湿器。(写真提供:バルミューダ)

寺尾氏の執務スペースには参考資料のほか、美しいインテリアも並ぶ。

寺尾 玄(てらお・げん)

バルミューダ株式会社代表取締役社長。1973年生まれ。高校中退後、スペイン、イタリア、モロッコなどを放浪。帰国後、音楽活動を経て、もの作りの道を志す。独学と工場への飛び込みにより、設計、製造を習得。2003年、有限会社バルミューダデザインを設立(2011年4月、バルミューダ株式会社へ社名変更)。http://www.balmuda.com/jp/

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