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中高生と企業が一体となって
イノベーションの種を生み出す

オープンを軸としたもの作りを実践するMozilla Factory

[一般社団法人Mozilla Japan]港区、東京、日本

  • オープンを軸としたもの作りを学び、実践する
  • 外部に開かれた空間を構築
  • コミュニティの活性化、参加者の学びの深化

Mozilla Japan(以下、Mozilla)のオフィスは、六本木・東京ミッドタウンから徒歩5分という好立地にある。表通りから1本入った路地沿い、背後に新国立美術館の庭木を望む落ち着きのあるたたずまいだ。エントランス部分と、そこから入って右手側とが一面ガラス張りというオープンな造りで、採光は申し分ない。

「開放的な空間にいると思考や発想も開かれていく。大きなガラス張りの空間に、強く感じるものがあった」と、Mozilla代表理事の瀧田佐登子氏は語る。

Mozillaがこのオフィスに移転してきたのは2013年3月。それまでのオフィスはグレーのカーペットやパーティションで囲まれ、窓の大きさも一般的、いかにも事務所然としていた。アメリカのIT企業で執務経験を持ち、グローバルのMozilla Foundationの広々とした海外拠点も知る瀧田氏には、そうしたオフィスは閉鎖的に感じられた。

「我々は世界に散らばるコミュニティや専門家とともに、オープンソースによるソフトウエア開発を続けてきた。オープンな技術やプロセス、コミュニティを基盤にしたモノづくりのノウハウを学びやデザインにも持ち込んでいきたい。その舞台として、この開放的な場所はうってつけだった」

移転にあたり、オフィスデザインもオープンソースの理念に基づいて行われた。ゆるやかに空間を仕切る半透明のパーティション、デスクや棚、ランプシェードを構成する金型、床面に設置した物流パレットなどは、いずれも一般に流通している製品を使用。“Open Source Furniture”としてオフィスの図面やモジュールの設計図も公開し、誰でも機能的なオフィスを手軽に構築できるよう配慮した。

デジタルネイティブ世代の発想をもの作りに生かす

ここまでオープンであることにこだわったのには理由がある。オフィス移転に先立つ1年前の2012年春、Mozillaは“オープンを軸としたもの作りを学び、実践する場”として「Mozilla Factory」を立ち上げた。中高生を中心としたプレイヤー、高校生・大学生を中心としたチューター、各方面の専門家で構成されるメンター、さらに企業が一体となってもの作りを行うことで気付きや学びを得て、そこからイノベーションの種を生み出そうという枠組みだ。

「Mozilla Foundationの活動の根底にはすべての人にウェブを届けたいという思いがある。そこでは次世代のクリエイターの育成も重要な課題。すべてがウェブにつながろうとしている中で、デジタルネイティブな世代のアイデアをもの作りに取り入れていくことの意味は大きい」

新オフィスはFactoryの面々が集う場でもある。活動主体である中高生が日常的に出入りするのに加え、年齢や立場を問わず興味のある人なら誰でも参加可能だ。オープンなもの作りというミッションをより強固にするためにも、開放感を肌で感じられる空間作りに力を注いだというわけだ。

窓ガラスも当初はデコレーションする案が出たものの、できるだけ入りやすく、何をしているのか外から見えるように、あえてそのままにした。狙い通りというべきか、Mozillaのファンという通りがかりの人が窓越しにいきなり挨拶してきて、スタッフを驚かせたこともあったという。人を自然と引き付ける雰囲気作りが成功している証といえるだろう。

一方で、この場所の半分はMozillaのオフィスでもある。仕事に取り組むスタッフが集中できる空間を確保しなければならない。そこで半透明で軽量のポリカーボネート製パネルをパーティションとして用い、天井に吊り下げたフックで簡単に取り外しができるようにした。スペースを効率よく使うため、パーティションにはホワイトボードとしての機能も持たせている。また、移転を機にフリーアドレスを採用し、オープンオフィスに弾みをつけた。

オフィスとFactoryスペースの区切りがゆるやかになったことで、外部の人とのコミュニケーションはよりオープンになった。社内のコミュニケーションも活性化し、職能を超えて1つの課題に取り組む空気が自然と強まってきたという。

Mozilla Japan は、Mozilla プロジェクトを代表する米国 Mozilla Foundation の日本支部。2004 年発足の非営利組織だ。FirefoxやThunderbirdなどのMozilla 製品の日本語版提供や国際化に取り組むと同時に、Mozillaの理念、製品および関連技術の普及啓蒙、マーケティング、コミュニティ支援などを行っている。
http://www.mozilla.jp/

ランプの傘に使用している金型。パーティションや物流パレットなども含めて、全体のオフィスデザインはNOSIGNERの太刀川英輔氏が手がけた。“Open Source Furniture”の図面や設計図はインターネット上で無償配布されている。

Mozilla Factory
http://ja.mozillafactory.org/

床面にコンセントや電話線の差し込み口などを収納。サインはドットで構成され、ディスプレイ上で見る文字のピクセル感を演出している。

エンジニアが良かれと思って作るものに
本当に価値はあるのか

Mozilla Factory設立の背景には、エンジニアが良かれと思って作ったものが本当に価値あるものだったかという反省があるという。

Mozilla Foundationの歴史をひもとくと、1998年にNetscape Communications社がブラウザ「Netscape Navigator」のオープンソース化に向けて Mozilla プロジェクトを設立したことにさかのぼる。MicrosoftのInternet Explorerとの開発競争で劣勢に立たされたNetscapeが、挽回のための起爆剤としてソースコード公開に踏み切ったのだ。ところが、思うようにイノベーションは起きなかった。「なぜかというとエンジニアだけで考えていたから。ソフトウエアは多機能でなければならないという概念にとらわれていた」(瀧田氏)。

ブラウザをいくら多機能化しても、そのすべてを使いこなすコンシューマは少ないし、それどころか無用の長物となることも少なくない。Mozilla Foundationはそうした世間の声に耳を傾け、機能がシンプルで動作の速いブラウザを新たに開発した。それが2004年にリリースされたFirefox 1.0 である。登場以来、コンシューマの支持を集め、Microsoftのブラウザ独占状態に風穴を開けたのは周知の通りだ。

イノベーションをしようと思うとイノベーションは起きない

Firefoxの開発は大きな転換点となったものの、Mozilla Foundationでは大々的にイノベーションを目指したわけではなかったという。エンジニア以外の多くの人々のアイデアを取り入れたからこそ、結果的に新機軸を打ち出すことができたのだ。瀧田氏はこの教訓をFactoryにも反映させている。「イノベーションしようと思っているとイノベーションは起きない。肩の力を抜いて、ゆるい感じで多くの人と交流し、そこから気づきを得ることがまずは重要だ」。

企業もまたオープン化に期待を寄せている。だが、オープンなもの作りにはリスクもある。プロセスが透明化されることで競合を有利にするかもしれないし、協働した人々のクレジットを明示する必要もある。Factoryは若い世代の可能性や才能を引き出す場であると同時に、企業にとってオープンなもの作りを学ぶ場でもあるのだ。

「ここでは大人も子どもも、学生も企業の人も、みんな同格でフラットな立場にある。互いに刺激を与え合って、学びを深めていく場として多くの人に活用していただきたい」(瀧田氏)

  • 半透明のパーティションで、オフィスとFactoryスペースをゆるやかに区切っている。

  • 取材時は、Mozillaと慶應義塾大学SFCの共同授業の成果展「OPEN! Mouse Exhibition」が開催されており、筋力トレーニングできるマウスや、手の甲を包み込むマウスなどを展示していた。「オープンな発想でマウスにも新たな機能が付けられる。考えを止めないことがイノベーションにつながる」と瀧田氏。

  • 取り外しの容易なパーティション。ホワイトボードとしても活用できる。

  • 体験型ワークショップや移動可能な防災拠点として活用される「Mozilla Bus」、通称「MozBus」。(写真提供:Mozilla Japan)

糸電話と携帯電話の融合、
ウェブサイトのカクテル……

実際にFactoryでは既成概念にとらわれない自由な発想が次々に飛び出している。進行中のプロジェクトはどれもユニークだ。

例えば、自分たちがほしい携帯電話を開発しようという「ぶっとびケータイ」プロジェクトでは、手始めに歴代の携帯電話を分解した。技術の進歩やメンテナンスの難しさを実感したうえで、原点に回帰してみようと糸電話に着目。聞こえの原理も追求して、糸電話と携帯電話を融合させるアイデアを導き出した。研究の結果、コップ型の受話器は高齢者にも聞こえやすいといった発見が得られているという。

また、携帯電話の機能を物理的にガジェット化し、必要に応じて着脱するというアイデアも出ている。「状況によって電話の形が変わる。販売はガチャガチャで、ほしい機能が出るまで買い続けるとか、そんなことまでプレイヤーたちは考えている(笑)」と瀧田氏。

ウェブとハードウェアを結ぶ「Mecha-Mozilla(メカモジラ)」プロジェクトでは、ウェブサイトから送られるCookieなどのデータをリキュールに割り当てて調合、カクテルを作る「weburette(ウェブレット)」などが作られている。

「ウェブといえば情報収集やコミュニケーションでの活用が一般的だし、その機能もかなり洗練されているが、まだ体験できていないことがある。そこを探ることで見えてくるものがある。思い込みを取り外さないと、新しいものは創造できない」と瀧田氏は見ている。

いつでも・どこでも・どんなときでもWebを届けるMozBus

オープンな理念によるコラボレーションのさらなる発展形として、2013年秋にFactoryで新プロジェクトが立ち上がった。IT機器やネットワーク設備、電源を備えた「Mozilla Bus」、通称「MozBus(モズバス)」の開発だ。

キャンピングカーを改造し、IPSTAR社の衛星ブロードバンド車載局を搭載。ネットワーク機器はシスコシステムズ、衛星アンテナのモデムや送受信機の一部は国立天文台の提供によるもの。「いつでも・どこでも・どんなときでもWebを届ける」をテーマに、ネットワークや電気のない環境に出向く。

「無線網を当たり前に使っている今の子どもたちにネットワークの仕組みを教えたい。ネット回線をどこからどう引くか、ケーブルを作るところから体験してもらいたい」と瀧田氏。Factoryに来られない地域に住む子どもたちに体験型ワークショップの場を提供している。

また、東日本大震災の際、被災地でネットワークが不全となったことを踏まえ、非常時にはこのバスをネットワークや情報のセンターとして提供する予定だ。すなわち移動可能な防災拠点としても機能するわけだ。このケースでもすでに出動事例がある。2013年10月には宮城県南三陸町でのOpenStreetMapの地図作りワークショップ開催にあたり、衛星ブロードバンドインターネット環境を提供。同月、岩手県では日本災害医療ロジスティックス研修に参加し、ネットワークを提供した。

床面パネルの下に物流パレットを敷いて内部にケーブル類を通し、OAフロアとして機能させている。
床面パネルは、山の再生と間伐材を利用したもの作りを行う岡山・西粟倉「森の学校」の製品。
ブラウザの1社独占状態をピュアな形に取り戻す活動をしてきたMozillaのストーリーに重なるということで採用された。

MozBus内部の様子。(写真提供:Mozilla Japan)

学ぶ立場から教える立場へ。
子どもたちの成長は続く

Factoryの活動を通して、プレイヤーやチューターも成長している。プログラムが書けるようになる、電子機器の扱いがうまくなるといった技術面はもちろん、最初は様子見をしていた子どもが積極的に意見を言うようになる、分からない子に自発的に教えるようになるなど、精神面でも変化していくという。何かを学んだら、今度は新しく来た子どもに教える側になる。それによって子どもたちがさらに学びを深めるわけだ。

大学生や大人と話ができることも楽しみの1つで、プロジェクトの枠を超えて雑談が始まることもしばしば。その雑談がブレーンストーミングや研究の相談へと移行することも珍しくない。プレイヤーが「今度こんなものを造ろうと思っている」と打ち明ければ、「よし、一緒にやろう」と応じられる関係が自然とできあがっていく。そうして立ち上がるプロジェクトも増えてきたという。

企業人からも、この場にいることで刺激を受けるという声が上がっている。子どもたちの純粋なアイデアに触れられるうえ、勉強会でMozillaの新しいテクノロジーを学ぶこともできる。開放的な居心地の良さに長居する人もいるという。

年齢や立場、さらには地域を超えたコラボレーションを通じて、新たな価値を生み出していくMozilla Factory。Firefoxの成功のように、意図せず生まれたイノベーションが大きく開花する日はそう遠くないかもしれない。

WEB限定コンテンツ
(2014.2.14 六本木 Mozilla Japanにて取材)

瀧田佐登子(たきた・さとこ)
Mozilla Japan代表理事

日本ネットスケープ・コミュニケーションズ、米AOL/Netscapeなどを経て、2004年Mozilla Japan設立、理事に就任。

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