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ライフスタイルやワークスタイルにもっと「遊び」を持たせる

江戸時代の粋の概念に学ぶ

[石田秀輝]東北大学大学院 環境科学研究科教授

――仕事とプライベートは別物、と割り切って働くワークスタイルに疑問を抱く人が増えています。とくに企業が価値観や思想性を打ち出して、ライフスタイルに基づいた商品やサービスを提案するのが当たり前になりつつある中、ワーカーはどんなスタンスで働けばいいでしょうか。また、企業の経営者たちはワーカーにどんな関わりを期待すればいいのでしょうか。

企業がお客様のためだと思って売っているものが、実はテクノロジーのためだったということが多々あります。テクノロジーがテクノロジーのために進化して、それを一生懸命企業が支えているという非常に滑稽な姿が、こういう地球環境がシビアな状態になると見えてきます。

企業がバックキャストで考えたライフスタイルを売るのであれば、そこで働く人たちはそのライフスタイルの素敵さを共有していなければなりません。企業が提唱するライフスタイルとそこで働く人のライフスタイルが全く同じである必要はありませんが、切れていてはいけない。精神的につながっていないと。自分なりのライフスタイル観を持ち、会社が提案するライフスタイルと葛藤しながらお互いによりレベルの高いものにしていくのが社員の役割でしょう。

本来、ワークスタイルは個人のライフスタイルの上に立脚するもの。なのに今は、ワークスタイルとライフスタイルは別ものという人が多い。ワークから戻ったらやっと解放されたみたいな、おかしなことになっている。冗談じゃないですよね。

そういうことになるのは「遊び」が足りないからじゃないでしょうか。そもそも遊びのファクター抜きにライフスタイルなんか考えられない。人間というのは悲しくなったら死ぬ動物なんですよ。だからライフスタイルもワークスタイルも楽しくなきゃいけない。

ちょっとした無駄が人間の心と生活を豊かにする

――ライフスタイルにもワークスタイルにも、もっと「遊び」が必要だと?

僕はいつも「遊べ、遊べ、もっと遊べ」と言っています。そういう遊びの中で、お客様にもっと喜んでいただける商材は何かを考える。徹底的に楽しんで自分自身を醸成し、ブラッシュアップしていく。ライフスタイルとワークスタイルというのはそういう関係でなければなりません。

企業がお客様の暮らしを豊かにしようというけれど、遊びの心がないと豊かになりえないんですよ。ちょっとした無駄が人を豊かにするんですから。無駄をはぶいちゃダメなんです。そういうライフスタイルを社員も実践していれば、当然楽しいんですよ。それをベースにして、さらに高次の概念を作ろうとトップダウンで降りてきたら、楽しいに決まっているじゃないですか。

ただ生みの苦しみはあるわけです。七転八倒しながら芸を磨いていく。働いている人たちは、いわば踊り子です。踊り子が舞台の上で上手な踊りをしようと思ったら、しっかり練習しなきゃいけないし、自分自身を磨かなきゃいけない。どこで磨くかというと、ライフスタイルの中で磨くんです。会社ではみんな役割が決まってるから、基本的に定型の踊りしかできない。でも定型の踊りをする中にも、その人の内なるものがにじみ出てくれば、その形はどんどん進化していきます。歌舞伎が同じことを踏襲していても進化していくのと同じです。

それで観客が「すごい、さすが!」と言ってくれたらうれしいんですよ。これは分析結果でも出てきているけれども、会社に貢献したい、ほめられたいというのはみんな強く持っている。だから、どんどんほめてあげればいいんです。

ワーク・ライフ・バランス
2007年、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」「仕事と生活の調和推進のための行動指針」が策定。正社員の労働時間削減や、共働き世帯の子育て支援などを実現するべく、官民一体の取り組みが始まった。「私たちの多くは、1日の約1/3(8時間)以上を職場で過ごします。ならば、仕事と生活を切り離すのではなく、生活の中で大きなウェイトを占める仕事を充実させる方法を考えるべき。そもそも仕事は生活の一部。働く時間が充実すれば、毎日の生活も充実していくはずなんです」(石田氏)

遊びのある製品・サービスは
他の消費者に伝染していく

――ワークスタイルやライフスタイルだけでなく、製品にも「遊び」は必要でしょうか。

企業が出す商材もちょっとした無駄や不自由さ、不便さがあってもいい。その無駄を使いこなすところにユーザーの価値観が出るから。なんでキャブレターのエンジンが付いた車が最近売れるのか。どうして手巻きの時計が売れるのか。みんなその無駄をお金に換算して高いものにしているわけです。

手巻きの時計は自分が巻いてやらないと死んでしまう。ペットを飼っているようなものなんですよ。それを続けていると愛着、情が移る。一生大事にする。そして人に自慢する。人に自慢をすると、その企業の時計はブランドが上がります。見事な循環ですね。

遊びというのは結果として循環します。伝染しにくいポジティブを商材と一緒に伝染させていくからです。だから、それは必ずつながり、循環していくんです。

――「遊び」という概念はすごく深いですね。

「遊び」という言葉で分かりにくければ、江戸時代の「粋」の概念だと思ってください。粋というのは4つの構造を持っています。「内なるものに和合する」、「発散しない」、「敗者をつくらない」、そして「見立て」です。見立てというのは、たとえば森を買うお金があっても森を買わないで盆栽を森と見立てるとか、あるいは白い砂を積んで富士山に見立てる、茶室を宇宙に見立てるといったことです。

そういう概念を持っているのが遊びの原点。だからそう考えると、日本人の価値観には善悪というのが希薄なんですよね。欧米的な善と悪という価値観は日本の粋の概念からすると、華か見苦しいかとなる。もともと敗者をつくらない文化なのに、みんな成績をつけようとするから日本人は悩むわけです。管理職は胃が痛くなる。日本人には敗者の概念はないんですよ。敗者だっていつでも復活できるわけですから。

未来像をイメージしてから、現在の問題に立ち返る

――一方で震災以降、ある種の遊びや無駄を受け入れる余裕がなくなってきたようにも感じます。

僕は今回お話ししたようなことを昨年の震災以降ずっと考えてきました。結局、今まで進歩していると信じていた文明が目の前でガラガラと崩れていった。でも、それですべてを失って絶望的になったかというとそうではない。避難所を回っていると、何もかも失っているはずの被災者の中に元気な人たちがいっぱいいるわけですよ。僕は彼らをキラキラ輝いている人たちと呼んでいるんですけれど。

その人たちは、実は粋の概念とか、その本質的なものを失っていないわけです。たとえば自然をいなすだとか、家族に役割があるだとか。そういう我々が日本人として失ってはいけないものを当たり前のように持っている。そういうトレーニングを受けている人たちの避難所はものすごく明るい。逆にサラリーマンばかりがいるような避難所はめちゃめちゃ暗い。その差は何かと言ったら、要するに暮らすという本質を子供のときから教えられているかどうかだけなんです。だから、僕はそういうことを大事にしていきたい。

この本質は本当にキラキラ輝いているものだいうのが見えてきたんで、僕はこのライフスタイルという概念を徹底的に作り上げていきたいと思っています。何百というライフスタイルを机の上に並べて、これに必要なテクノロジーやシステム、サービスは何かと考えていく。

それから、今まではバックキャストの暮らし方、働き方が見えにくかった。だから、そういうものを具体的な形に落としてあげることも大事だと思っています。みんながバックキャストをできるわけではないので、それをフォアキャストで見えるようにしてあげなければいけない。フォアキャストで見るとこうなんですよということを、みんなと一緒に考えること。それがおそらく、今年からの僕の一番大きな仕事になるでしょう。

――本日はありがとうございました。

WEB限定コンテンツ
(2011.12.19 コクヨ株式会社 エコライブオフィス品川にて取材)

「ここで言う無駄とは、自分が関与することによって楽しみに変えられるような余裕のこと。たとえば、仕事が忙しくてつらいときに、敢えて楽しそうにしていると、いつしか本当に楽しい気持ちになる。こういう自己暗示が遊びの概念です。でも、そのためには心に余裕がないとできない。だから、ある程度の余裕が必要なんです」

『未来の働き方をデザインしよう –2030年のエコワークスタイルブック』
石田秀樹、古川柳蔵、コクヨ(株)RDIセンター 著
日刊工業新聞社 刊
環境問題などの制約があるなかで、将来企業はどうあるべきか、またワーカーはどんな働き方をしているのかを予測、50のワークスタイルを提案する一冊。

石田秀輝(いしだ・ひでき)

東北大学大学院環境科学研究科教授。博士(工学)。1953年生まれ。1978年、伊奈製陶株式会社(現INAX/LIXIL)入社。技術戦略会議・環境戦略会議兼任議長、取締役CTOを経て、2004年より現職。専門は地質・鉱物学をベースとした材料科学。ものづくりと暮らし方のパラダイムシフトに向けて国内外で多くの発信を続けている。著書に『未来の働き方をデザインしよう』(共著、日刊工業新聞社)、『自然に学ぶ!ネイチャー・テクノロジー』(学研)など多数。

 

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