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個人に寄り添う
柔らかなスマートビル

[Edge Olympic Amsterdam] Amsterdam, The Netherlands

同じアムステルダム、同じ開発・運営元。「エッジ・オリンピック・アムステルダム」と「ジ・エッジ」は、いわば双子のような関係にある。しかし、ジ・エッジがスマートビルのパイオニアならば、エッジ・オリンピックはスマートビルの最前線だと言えるだろう。

各種のテクノロジーには共通する部分も多い。照明や空調、会議室の予約などの機能を1つのプラットフォーム上に統合。コーヒーマシンの1つに至るまでIoT化し、建物内のデータを収集。ダッシュボードには建物のエネルギー消費や二酸化炭素排出量、音量、光量などが表示される。「今日は94.4%です」と、エッジCTOのエリック・ウベル氏は読み上げた。その日、ワーカーがどれだけ生産的になれるかを示す数字だ。当然、断言できるものではないが、建物自体がパラメーターを提示すれば、ワーカーも生産性を意識せずにいられないはずだ。これら最新のシステムを整えながら、エッジ・オリンピックは新築ではなく、古いビルを改修してつくられたテナントビル。潤沢な資金を持つ大企業でなくともスマートビルを手に入れられると示した事例でもある。

このビルを運営するのは、以前OVGとして知られていたエッジ。エッジ・オリンピックは当初からかなりの注目を集めていた。人がより生産的に、創造的に、幸福に働くために建物はどのようにあるべきか。その最新の答えが示されるものと、人々は期待したのである。


エッジ・オリンピック・アムステルダム外観。1928年アムステルダム・オリンピックのスタジアム近くに位置する。都心の喧騒から離れた落ち着いたエリアだ。既存ビルに木造の2フロアが増設されているのがわかる。


エッジ
CTO
エリック・ウベル

  • ビル中央のアトリウム。コワーキング、スタジオ、サブテナントの専用フロア、デベロッパーであるエッジなどが入居する。中央の内部階段はユーザー同士がつながり、予期しない相互作用が生まれる1つのエコシステムだ。給水ポイントが設置されているのもサステナビリティ意識の高いオランダらしい。

  • GF(地上階)の共用ワークラウンジ。インスピレーション、リラクゼーション、コラボレーションと、求める機能に合わせてスペースを選ぶことができる。

  • 3Fのコワーキングスペース。天井裏には空調のための水冷式銅製パイプが通る。夏場は地下深くから汲み上げた冷水を流し、建物の熱を吸収している。

  • こちらもコワーキング。アトリウムに面した打ち合わせスペース。建物内はバイオフィリックで緑が多く、テクノロジーの存在をうまく隠している。ホワイトノイズなど音のコントロールもされている。

  • コワーキング内の会議室。音声アシスタントを通じてコーヒーなどをオーダーしたり会議環境をセットアップすることができる。

  • ウェルビーイングの一環として、健康的な食事を提供するレストラン。ライブ感あふれるオープンキッチンで食欲をそそる。

  • デベロッパーのエッジが入居しているフロア(2〜5も同フロア)。既存ビルに木造架構の2フロアを増設した。ホームライクな家具の印象と相まって健康的な雰囲気を感じ取ることができる。

  • レセプション。テクノロジーが発達することで仰々しいレセプションが不要となることを示す好例だ。

  • 会議室。ここでも音声アシスタントが常駐しており、話しかければオンライン会議をセットアップしてくれたりする。

  • シックで清潔なトイレ。男女兼用、全個室としたのは、男女別トイレに戸惑うことがあるLGBTQなどセクシュアル・マイノリティへの配慮から。
    写真提供:Edge Olympic Amsterdam

  • フロアでは案内ロボットが走り回っていた。

  • カフェコーナー。コーヒーマシンにもセンサーが取り付けられている。何杯出たか、ミルクやコーヒー豆の補充は十分か、壊れていないか。問題なければメンテナンスも省ける。
    写真提供:Edge Olympic Amsterdam

ビル自身が学習し、
ビル自身が実行する段階へ

結果はこうだ。エッジ・オリンピックは人間が空間をコントロールするのではなく「空間自身が人間に寄り添う」段階に達している。ウベル氏曰く、スマートビルには4つの段階があるという。

第1段階はデータの透明化だ。建物内のあらゆるデータを収集してダッシュボード上に表示したこと、1つのアプリを起点に室温や照明などの環境をコントロールできるようにしたことが、これにあたる。

第2段階は、データ同士のつながりを把握すること。例えば、重要なクライアントとの面会時間がわかれば、クライアントを優先的にエレベーターに案内することができるかもしれない。あるいは、会議室の運用状況と各種のデータの相関を見ることで、人気の会議室とそうでない会議室の違いを発見できるかもしれない。「この会議室はいつも暑い、ここはとてもうるさい、角の会議室はいつも寒い。どうしてこれを変えようとしないのか不思議です。ビルのためにお金を払っているのに不便を受け入れてしまっている。私たちはそれを変えたい」(ウベル氏)。データの透明性がなかった時代は、暑い証拠、うるさい証拠を特定できず、改善を諦めなければならなかったところである。

第3段階は使用状況の把握だ。何人がどのようにその部屋を使っているのか、わかっている状態を指す。一見単純そうに思えるが、実は難しい。センサーの判断は「空いている席」でも、人間が見れば「荷物が置いてあるから、使用中」と判断されることもままあるからだ。実際には体温を感知するセンサーやカメラを通じて判断するという。その際、個人を特定しないような配慮がなされていることは必須だ。

そして第4段階がマシンラーニングだ。第3段階までに蓄積させたデータを統合し、アルゴリズムを発見する。エッジ・オリンピックはこの第4段階にある。ジ・エッジと同様、システムを支えているのは天井や家具に設置されたセンサーだ。だがその数はセンサー10種類が合計6万5,000個とジ・エッジの2倍以上。これがありとあらゆるデータを拾い上げる。続いて、データをもとに仮想空間上のデジタルツインでシミュレーションを行い、その結果をリアル世界にフィードバック。こうして、ワーカーの行動、エネルギー消費やメンテナンス、清掃などの最適解をビルが自律的に導くのだ。人に寄り添う空間のあり方をビル自身が学び、ビル自身が実行してくれるという、スマートビルの最前線。現在世界各地で「エッジ」ブランドのプロジェクトが進行中だ。スマートビルの代名詞となる日もそう遠くない。


一定の時間内に、オフィス内でどれだけのワーカーがどれだけの場所を使ったかを示すデータ。よく使われる場所、使われない場所がひと目でわかる。

  • GF(地上階)のロビー。ビル全体の共用部としてミーティングスペース、タッチダウン・デスクなどが置かれている。バイオフィリックな環境がリラックスした雰囲気を感じさせる。

  • エントランス。ビルに入った瞬間に小さなレセプションとカフェが来訪者に迎え入れる印象を与える。スマートテクノロジーによってレセプションは門番からコンシェルジュのような役割に。

  • GF、階段状のシアターエリアがビル全体の共用部としてある。外部にイベントとして貸し出されることもあり、取材時は大学のプログラムが行われていた。

  • ビルに入居するEpicenter(エピセンター)のレセプション。Epicenterは欧州中心にスタートアップ育成に定評のあるコワーキングブランドだ。

  • ビル内のロッカーはアプリで検索、解錠を行うことができる。

text: Yusuke Higashi
photo: Rikiya Nakamura

WORKSIGHT 15(2020.3)より

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