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SNSで真のハイ・シナジーは実現するか?

IoEで人体や脳もネットにつながっていく

[中野明]ノンフィクション作家

未来学者のレイ・カーツワイルは、コンピュータが人間の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)が2045年に到来すると主張しています。人間の脳の情報をコンピュータにアップロードして、AIが地球上でもっとも賢く有能な存在になるという見立てですね。医療技術も進化して、人間は不死の存在になるとまでカーツワイルは言っています。

脳とコンピュータをつないで機械学習を繰り返すというようなことは、確かにいずれ技術的に可能になるでしょう。ただ、人間の知能を丸ごとコンピュータに置き換え、AIが人格や感情までカバーするというのはちょっと信じられない気がします。むしろ、今後のテクノロジーの進展により、人間の知能とは別の知能、いわばアナザー・インテリジェンス(AI)が実現されていくのではないでしょうか。

人間の不合理性をコンピュータは備えることができるか

仮にAIが人格や感情をカバーしたとしても、一連の処理をコンピュータがしているならば、それはもはや自分ではないと思います。自我までアップロードすることはできないし、新しい情報を吸収したときにどう反応するかというところまではAIは対応できないように思います。

AIは過去のデータを統計的に分析して、そこから最適解を導き出すという帰納* 的な判断手法を採っています。膨大な情報の中から特徴をつかんだり、決まった要素で検索したりといった作業はAIは極めて得意です。そのあたりの正確さとスピードは人間はかなわない。

でも、人間の判断は帰納的なだけではないし、時に不合理な決断だってしますからね。衝動や見栄や目先の利益で意思決定することもあるし、何となくこれがいいと決めることだってある。人間のそういう不合理性をコンピュータは持てるのか。大体、その不合理なことをコンピュータが持つと都合が悪いわけですよ。そもそも間違ったらいけないとうことでつくられた存在がコンピュータなんですから。

そう考えると、合理性を超えたところにある、感情やセンス、哲学というようなものまでAIが備えるのは難しいと思うし、従ってシンギュラリティの到来は現実味が薄いような気が個人的にはしています。繰り返しになりますが、実現されていくのはアナザー・インテリジェンスなのではないでしょうか。

AIが万能とは限らないし、依存しきってしまうのは考えもの

AIは間違えないともいうけれど、人間の運用次第で嘘をつくAIだって開発できるでしょうね。いい加減な情報や恣意的な情報を基に機械学習を続けさせていたら、偏った知能を持つAIができかねません。

企業からすると、AIが発信する情報が広告になり得るように判断基準を調整することもできるはず。聞いた話では、アメリカの場合ですけど、Amazon EchoでAlexaに乾電池を注文するとAmazonのプライベートブランドの乾電池が届くとか。真偽はともかく、企業がそういう機能を仕込むことはできるでしょう。

テクノロジーが身近になればなるほど客観視しづらくなるので、ユーザーとしてはそこに取り込まれてしまう可能性を意識しておかないといけないかもしれません。

それから、AIは未曽有の事態にどこまで対処できるかという問題もあります。自然災害、テロ、原子力事故など、最近は万が一にも起こらないと思われていたことが実際に起きています。そういうとき、過去のデータに基づくAIは判断を誤る可能性があるかもしれない。

AIが万能とは限らないし、依存しきってしまうのは考えものです。AIも人間と同じように、信頼性には限界があると見なすべきではないでしょうか。

豊かな社会とは、シナジーの仕組みがインストールされた社会

テクノロジーを活用することでメリットを得ていると思ったのに、実はデメリットになっているかもしれないということは、AIのみならずSNSやネット環境についても言えると思います。

例えば、シナジーという概念があります。相乗効果とよく訳されますが、元々は『菊と刀』を書いた文化人類学者のルース・ベネディクトが言い出したもので、個人や組織の利己主義が他人や社会の利益につながり、他者を助けようとする利他主義が個人や組織に利益をもたらす状況を指します。コミュニティのシナジーの度合いが高い、つまりハイ・シナジーだと親和的、逆に低い、つまりロー・シナジーだと閉鎖的であるとベネディクトは考えました。

分かりやすく説明すると、私が子どもにイチゴを買って帰るとき、「子どもを喜ばせたい」「子どもに好かれたい」という考えに基づいていたら、どちらかというと利己的な動機ですよね。でも、実際に子どもが喜んでくれたら利他的な行為になる。一方で、「子どもが喜ぶからおみやげにしよう」という動機でイチゴを買ったら、それは利他的な行為だけれども、子どもが喜んで食べてくれたら自分はうれしいので、つまりは利己的な行為ともいえる。

こんなふうに利己主義と利他主義の二分法を超越したものがシナジーであり、この仕組みがうまくインストールされる社会が豊かな社会であるというのがベネディクトの指摘なんです。


中野氏は情報通信、経済経営、歴史民俗などをテーマに執筆するノンフィクション作家。自身のウェブサイトでは出版した書籍やメディアに寄稿した記事などを紹介している。
http://www.pcatwork.com/

有料メールマガジン『中野明のストリートで哲学を語ってみた』も配信中。
https://www.mag2.com/m/0001687975.html

* 帰納
個別の事例から一般的な法則や規則を抽出して、論理的に結論を導き出すこと。

シナジーの基盤を寡占的に加工しているGAFA

いまのGAFAのビジネスはシナジーを実現していると見せかけて、それでお金をもうけているという面があります。

SNSはその最たる例でしょう。私がインスタグラムに写真を投稿するとき、「いいね」の数をたくさん獲得して有名になろうと考えたら、それは利己的な話じゃないですか。ただ、「いいね」ボタンを押してもらおうと思ったら、人の心を動かすいい写真を提供しなければならない。となると、私が利己的にした行為は、ある意味で利他的な行為だったかもしれない。

その一方で、私がいい写真をアップロードしてみんなに楽しんでもらおうという目的があれば、それは利他的な話なんですが、それによって「いいね」が多く得られたら私の利益になる。そういう意味で、SNSは極めてハイ・シナジーな仕組みを持っているんです。

ただ、そのハイ・シナジーな仕組みを用いて誰が本当の利益を受けているのかというと、それは運営会社なんですよね。一見ハイ・シナジーに見えるんだけれども、そこで生まれる豊かさを総取りしているロー・シナジーな構造、それがいまのSNSの社会のように思えます。

要はハイ・シナジーな場を提供しているようなふりをして、そこから得られる情報で自社の利益をばんばん上げているということなので、実は全くハイ・シナジーじゃない。それがいまのネットを取り巻く状況じゃないかなあと思うんです。

SNSの炎上騒動は、いわばシナジーの失敗ですよね。「いいね」を増やしたい投稿者の利己的な欲求がありつつ、そこに何かしらネガティブな要素があると、同調圧力もあって批判が一気に押し寄せる。自分ではシナジーの構造を作ろうと考えたんだけれども、それに失敗したということだと思います。

中野氏は新著『[超図解]世界最強4大企業GAFA――「強さの秘密」が1時間でわかる本』(学研プラス、2019年11月1日発行)で、GAFAの特徴を多角的に分析している。(画像提供:中野氏)

あらゆる情報がインターネットにつながる
IoE(インターネット・オブ・エブリシング)へ

いまはモノをインターネットにつなぐIoTや、モノから得られる大量の未使用情報であるビッグデータに関心が集まっています。ただ、今後は人間の外部にある情報だけでなく、内部にある情報も活用されることになるでしょう。

モノや人、あるいは動物や植物も含めて、あらゆる情報がインターネットにつながっていくということで、IoTならぬIoE(インターネット・オブ・エブリシング)が発展していくのではないかと思います。

例えば私は植物が好きで、いろんなものを育てているんですけど、水やりは勘なんですね。土の表面の乾き具合や葉や茎の勢いなどを見ながらあげている。でも、仮にチップ付きの植木鉢ができて、土や植物内部の水分量をウォッチしてくれるようになったら、水のあげどきやあげる量が分かりますよね。植物からの「お水ちょうだい」という連絡がスマホに飛んでくるイメージです(笑)。

いままで未使用だった情報を使える状態になるということ。それがIoTなりIoEなりがやろうとしていることだと思います。

膨大なビッグデータからAIが有用な情報を吸い上げていく

例えば、人間の肌や血管にセンサーを取り付けて、血圧や心拍数、ホルモンなどの量を測定し、体調や精神状態をリアルタイムで把握することができますが、いまはまだそういうシステムは広く一般には使われていません。まずはIoTを使って、そういうデータを採取することが第一歩で、そこへ向けてデバイスやアプリの開発が進められているのが現状です。

そうやって得たデータの積み重ねでビッグデータが形成されますが、しかしそのままでは有効活用は難しい。膨大な量の生データから、有用な情報を得るのがAIということになります。AIが有用な情報を得たら、それを人間社会にフィードバックして活用するようにするというのが、いまできあがりつつある社会ということなんでしょう。

とはいえ、そういう社会が成立するには、個人情報の扱い方をはじめ、さまざまなルールを徹底しなければいけません。Facebookが発行を予定しているデジタル通貨「リブラ(Libra)」のように、民間の通貨もいろいろ登場してくることでしょう。通貨の発行権が国だけに限られていた時代から、また大きく変貌していくかもしれない。いまはその過渡期で、社会的なルールづくりが急がれます。

サブスクリプションは“サービスコミュニティにおける税金”かも

ネットショップもお金もそうですけど、現実の世界にあるものがインターネットの世界でもどんどんできあがっていくことでしょう。いまのところ国家はできていないけれども、バーチャルな店ができるのと同じようなノリで、いつかネット上に国ができるということもあり得そうな話です。実際GAFAの時価総額は300兆円を超えており、これは世界5位にランクするイギリスの名目GDPを超える額です。

Facebookは約24億人のユーザーがいて、そこへさらに通貨も発行するとなると国家に近い形になることが予想されます。国をつくるには大規模な人数が必要なので、いま国をつくれる企業といえばGAFAを中心とした企業群ということになります。そこが仮にユーザーに対して一定額を払わないとサービスを使わせないということになれば、それは限りなく税金に近いですよね。サブスクリプションも、“そのサービスコミュニティにおける税金”の別の呼び方と言えるかもしれない。

Amazonなんてプライムの料金が上がっているけれども、便利で手放せないサービスなので値上げも受け入れざるを得ない。実は我々の知らないうちにAmazon国が成立していて、そこの税金が上がっているという見方もできるかもしれません(笑)。

18世紀の腕木通信から現在のIT技術までを振り返ると、世界規模でいくつものイノベーションがあったわけですが、これからさらにすごい世界になりそうな気がします。この流れは止まらないんじゃないですかね。もはや我々の生活はテクノロジー抜きでは成り立ちませんから。

そこでカギになるのがシナジーの概念だと思います。情報技術が個々人の生活に密着しているからこそ、ユーザー一人ひとりがシナジーを意識することの価値は大きい。そう思えてなりません。

WEB限定コンテンツ
(2019.7.22 千代田区のレンタルスペース「余白」にて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Rikiya Nakamura

中野明(なかの・あきら)

1962年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。同志社大学理工学部情報システムデザイン学科非常勤講師。1996年に『日経MAC』誌上に短期連載した記事を『マック企画大全』(日経BP社)として出版した後、歴史・経済経営・情報の三分野で幅広く執筆する。主な著作に『世界漫遊家が歩いた明治ニッポン』(ちくま文庫)、『超図解「21世紀の哲学」がわかる本』(学研プラス)、『腕木通信──ナポレオンが見たインターネットの夜明け』(朝日選書)、『サムライ、ITに遭う──幕末通信事始』(NTT出版)、『ドラッカー流 最強の勉強法』『東京大学第二工学部』『戦後日本の首相』(以上祥伝社新書)など。‎‎

 

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