Workplace
Oct. 7, 2019
縦横無尽に駆け回るトラックは
O+Aの「思考の糧」
[Food for Thought Truck]San Francisco, USA
O+Aは設計事務所でありながら、自主的なプロジェクトを通じて実験を繰り返している。「food for thought(思考の糧)」の名を冠したこのトラックもその1つだ。プロジェクトを統括するのは、プリモ・オルピラ氏と並びO+Aの共同創業者であるヴェルダ・アレクサンダー氏。当初のコンセプトは「モバイル・オフィス」だった。コワーキング・スペースをトラックに載せて移動するというものだ。
アレクサンダー氏はこう考えた。その日、通勤したくない人がいるならば、オフィスのほうが車で近づけばいい。あるいは、小さな会社がトラックを1週間ほどレンタルする、というのもあり得る。アレクサンダー氏はこれをロンドン・デザイン・フェスティバルに出店する計画を立てた。
しかし実験的プロジェクトゆえに、スタートからしてつまずいた。デザイン・フェスティバルまでに完成に至らなかったのである。また、数年後にはモバイル・オフィスというアイデア自体、珍しいものではなくなった。
そこでアレクサンダー氏は考え直した。もしもトラックが、O+Aのスタジオだったら? デザインのノウハウを知らない場所、良質なデザインへのアクセスがない人々のもとへO+Aから出向いていき、デザインによって課題を解決するというのはどうだろうか、というアイデアである。
「ただ車輪がついたオフィスではなく、車輪がついたデザイン・スタジオにと、アイデアは進化しました」(O+Aでフード・フォー・ソート・トラックにも携わるアル・マッキー氏)
フード・フォー・ソート・トラックの制作物の1つ。彼らの活動をPRするステッカーだ。ほか、スペースの設計やディスプレイなど、アイデアを提案している。
この活動を続ける理由の一つは
自身がイノベーティブであり続けるため
このアイデアを実践するにあたって、彼女たちはさまざまなコミュニティに声をかけた。今回取材したのは、そのうちの1つである、サンノゼの「Moment」。スモール・ビジネスやポップアップの小売店を対象にしたコミュニティ・スペースだ。
彼らの店舗は一様に質素なものであり、快適な設備は揃っていない。O+Aは、彼らへのインタビューから課題を吸い上げ、デザインによって解決しようとしている。例えば、商品を保管するストレージ、看板のデザイン、道行く人の目を引くディスプレイ……。
フード・フォー・ソート・トラックに携わるメンバーは、いわゆるプロボノだ。この活動を通して自身が収入を得ることはない。
それでもメンバーがこの活動を続けている理由の1つは、イノベーティブであり続けるため。実験的なプロジェクトは、設計事務所として安定的な地位を確立したO+Aに、新しいアイデアを吹き込むだろう。
プロジェクトがなければ接点を持つことのなかった小さなコミュニティとの交流も、O+Aにとっては有用なものだ。「テック会社にデザインを提供する以上のことを手がけたい」とアレクサンダー氏は言う。
O+Aのメンバーにとって、このプロジェクトには「解放」の意味がある。普段は大小のテック系企業のオフィス設計が中心。だが小さな設計事務所である彼らにとって、それは時にストレスのもとだ。一方、こちらは地域密着のマイクロ・プロジェクト。ディテールがどうの、予算がどうの、といった面倒な交渉事は基本的に発生しない。
「(メンバーには)何が問題なのか、考えないようにしましょうと言っています。デザインだけをして楽しみましょうと。クライアントはいません、あなたは何でもできるのです」(アレクサンダー氏)
text:Yusuke Higashi
photo:Satoshi Minakawa
WORKSIGHT SPECIAL EDITION【Studio O+A】(2019.7)より