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旧来の銀行を激変させる「リアルタイムワーキング」

「開かれた金融機関」を追求する豪州最大手の銀行

[NAB]Melbourne, Australia

  • 業務の効率性アップとオペレーションモデル改革
  • リアルタイムワーキングの導入と健康的な環境作り
  • 従来の銀行的ワークスタイルを激変させた

金融機関、という言葉から思い浮かべる閉鎖的空間とは裏腹の、「開けた」オフィスである。1階は、一般利用できるカフェとカンファレンスルーム、そして会員企業に貸し出されているコワーキングスペース。上階を仰ぎ見れば、各階の社員が働く姿が露わだ。顧客と社員を隔てる壁は極力取り除かれている。

「当社にとって何より大切なのはお客様」とオフィス構築に携わったロジャー・マクモラン氏は幾度となく口にした。

「顧客が安心して利用できる環境づくりがキーポイントです。目指したのは、『消費者のことをわかっていない』という銀行が持つイメージを打ち破る、開けた空間。当社の内部に入り当社を感じ、理解できる設計としました。これはまた、社員たちがお客様と接近できる設計でもあります。『何のために我々はいるのか。全てはお客様にサービスするためである』。このメッセージを日々、社員は受け取っているのです」

2009年リアルタイムワーキング制を本格的に導入

とはいえ、顧客志向は従来からナショナル・オーストラリア銀行が掲げていたもので、新オフィスによる産物とは言い難いかもしれない。より大きな課題は、効率性追求とオペレーションモデルの変化にこそある。

空間を有効活用し、63000㎡のなかにひしめく約6000人の従業員に自由と開放感をもたらすこと。そして「個人に自由を与えるステージを超え、チームが自由に働けるワークスタイル」(マクモラン氏)を与えることだ。

2009年、同社はリアルタイムワーキング(以下RTW)を本格的に導入。より速い意思決定、カジュアルなミーティング、効率的なコラボレーションを実現させるために集中作業用のブースや、ミーティングスペース等、多様なワークプレイスを各フロアに配した。


NAB社屋の外観。サザンクロス駅から徒歩1分のところにある。敷地形状を模した三角形のモチーフが先端的なイメージを伝える。

創業:1893年
売上高:約192億4800万豪ドル (2014)
純利益:約52億9500万豪ドル(2014)
従業員数:42,853人(2014)
https://www.nab.com.au


ビル中央の吹き抜け部。半島のようにせり出しているオフィス中央のスペース(写真右手)には、セクションを超えたメンバーが集う。

  • 写真中央奥がチームのための「ハブ」スペース。チームミーティング用のソファや、プロジェクトの進捗を共有するための掲示板等が置かれている。

  • 吹き抜け部に面したミーティングスペース。個人利用している社員もいるが、メンバー同士ちょっとした寄り合いの場としても重宝する。

  • 数週間〜数カ月単位で占有できるプロジェクト用スペース。チームが顔を突き合わせて作業したい時に。

  • オフィス全景。天井の仕上げがなく、コンクリートがむき出しの状態。内装はいたって簡素だ。集約移転でスペース削減が行われていることもあり、一般的なオフィスに比べてもかなりのコストダウンが図られている。

  • 1階のカンファレンスルーム。各種イベントに使用される。社外への貸し出しも。

  • 2階の来訪者用ミーティングスペース。個室をランダムに並べることでそれぞれの独立性を保ち、隙間にはアルコーブを設けオープンなミーティングもできるようになっている。

  •     
  • パブリックスペースに設置されたコワーキングスペース「ヴィレッジ」。同銀行の顧客であれば、簡単な審査のみで使用可能。新しい融資の形としてコミュニティとの関係を深めている。

ビジネスの効率を上げる
多様なワークスペース

2013年に複数拠点を集約してできたこの新オフィスでは、各スペースに作業時間の目安を設け、チェンジマネジメントを円滑に進めるための一工夫を凝らした。ロング(3時間以上)、ショート(1〜3時間)、ドロップイン(1時間以内)の3段階のセッティングである。たとえば、キッチン脇で社員たちが談笑するベンチは「1時間以内」の使用が推奨されるという具合。

「わかりやすく表示されているわけではないのですが、働き方と場所がマッチしていない社員がいれば、その都度指導します。新しい環境で働くためには、社員教育は欠かせません。社員たちが、すぐ適応できると想定してはいけない。チェンジマネジメントは常に進行中のトピックです」(マクモラン氏)

特筆すべきは、RTWを導入しながらも、「チームのための空間づくり」が各所で意識されている点だ。

各フロアに全8カ所ある「ハブ」と呼ばれるスペースは、チームが集う場所という位置付け。中心部にあるソファ席でミーティングをし、掲示板でチーム内のプロジェクトの進捗状況を共有する。

また長期にわたるプロジェクトがあれば数週間〜数カ月単位で占有できる部屋を、全フロアに確保した。「オフィスのどこで働いてもよいといっても人は本来、自分の場所が欲しい生き物」とマクモラン氏は見る。意図的に「チームが必要とする場所」を提供することで、個人の自由なワークスタイルを推し進めつつ、チームワークを維持している、というわけだ。


集中ブース。1人こもって仕事をしたい時にはこうしたスペースを利用する。


オフィスの至るところに小さなキッチンスペースが配されている。

  • 最上階のカフェテリアスペース。オフィス内の各所に「三角形」をモチーフとした造形が見られるのは、敷地そのものが三角形であることに由来する。

  • メイン動線の脇に「かまくら」のようにこもれる空間が点在する、2〜3人用のミーティングスペース。

  • 2階受付周辺の、来訪者向けスペース。待ち合わせ場所というより、来訪者が効率的に時間を使うためのラウンジと呼ぶ方が近い。

  • トップライトから日が降り注ぐ最上階。階段を使った上から下への人の流れができるよう、全社員が利用するITのヘルプデスクやカフェテリアなどが配置されている。

  • テラスに面した会議室。自然光と緑に囲まれた気持ちの良い空間。

  • 2階の総合受付。ここにも三角のモチーフが使われている。

健康に悪影響を与えそうな事物は
なるべく排除していく

ウェルビーイング促進においても、同社は先端をいく。自然光と植物をふんだんに取り入れた建物内は、どの空間を切り取ってもフレッシュだ。天井、壁面の仕上げを廃したローコスト空間は「広さ」の演出に貢献する。

「まるでスタジオのように広々としているオフィス」とのマクモラン氏の評は、あながち誇張ではない。チルドビームシステム(冷暖房・空調設備)は世界最大級のものを設置。エネルギー消費量を抑制しながら、静かで新鮮な空気をオフィスに供給し続けている。

ビジネスの中心、サザンクロス駅から100mという好立地も、意図するところは明快だ。

「社員には車の利用を減らし、公共の交通機関を使ってもらいたかったのです。1日3時間も車を走らせて通勤しなければならないとしたら、社員の健康にどれだけの悪影響があるかわからない。駅から歩いて45秒のオフィスを社員に提供できれば、彼らの生活は大きく変わるはずです」(マクモラン氏)

ナショナル・オーストラリア銀行の新オフィスは、銀行特有の硬直的なワークスタイルを激変させるに足るものだった。組織が変化に対して寛容であれば、市場変化に対応できる可能性も増す。マクモラン氏は言う。「新オフィスの成功は『今』ではありません。本当の意味での成功を得られるのは、そう、今から15年後というところでしょうか」

コンサルティング(ワークスタイル):Calder Consultants
インテリア設計:Woods Bagot
建築設計:Woods Bagot


WORKSIGHT 08(2015.10)より

text: Yusuke Higashi
photo: Masahiro Sanbe


2階のエントランスフロアには社員向けの託児所を設置。子連れで出勤するワーカーも多数いる。


カルダー・コンサルタンツ
ロジャー・マクモラ

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