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「グループウェアで世界一になる」すべての制度はその理想のためにある

先進的な制度をうまく機能させるために必要なこと

[青野慶久]サイボウズ株式会社 代表取締役社長

最新の取り組みである「ウルトラワーク」はまだ実験段階であり、ようやく社員からの反響が集まり始めているところです。しかし、おおむね好評で、アンケートに回答してきた社員の8割は「使いたい、使った」と答えています。通勤時間を削減できた、ケガをして出勤できないが自宅で仕事ができた、東京の社員が「一度行ってみたかった」といって松山のオフィスで働いた、といった報告もあります(笑)。

利用していない社員もいます。いくら時間と場所を制限せず働いていいといっても、個別の事情がありますから。アンケートでは「情報漏洩が心配」「会社のほうが集中できる」「家では自分をコントロールする自信がない」といった声が寄せられました。もちろん、どんな判断をしようと社員の自由です。

目の前にいる社員は十分に多様性を持っている

ウルトラワークに代表されるように、これまでサイボウズは、多様な働き方を実現する制度を実施してきました。でも、会社が何かしたら社員の多様性が増す、クリエイティブになるといった考えは、私にはありません。多くの企業が取り組んでいるダイバーシティは国籍や世代、性別といった概念を突然、導入しがちです。だけど、本当はいまそこに居る社員に目を向けると十分、多様性に富んでいることがわかります。もともと社員は多様性を持っており、クリエイティビティは高い。会社はそれをうまく引き出してあげればいいのです。

目の前にいる社員たちは、十分に多様なんです。制度をつくるにしても、彼らを見ていれば必要な制度が導き出されるという考え方。事実、サイボウズの制度はそんなふうにして生まれたものばかりです。社員たちの話を聞いて、みんなでああしたいこうしたいと議論した上で制度にしているのであって、僕の意見なんて特にないんです。

そもそもサイボウズでは、欲しい制度があれば社員たちが自ら言い出さないといけないというのが前提です。人事部や社長が作ってくれるものではないと彼らは理解しています。みんな欲しい制度があったらちゃんとそう言いますよ。在宅勤務制度もそうやって生まれました。育休から復帰した女性社員が「サイボウズは在宅勤務制度ないんですか」と言うから、みんなで議論しあって草案をつくったんです。

あらゆる制度は福利厚生ではなく生産性向上のため

私が唯一、社員たちに強要しているのは、ウルトラワークについては「生産性を上げる使い方をしなさい」ということです。ウルトラワークもそう。福利厚生ではなく、生産性向上のための制度だと言い切っています。

サイボウズはグループウェアで世界一になることを目指している会社です。その理想を実現させるためには、生産性を上げないといけない。だから、どんな制度も、生産性を上げるために使ってください。と、こういうことなんです。だから会社の利益が出ていないときは、平気で制度を廃止すると社員たちにも言っている。

ウルトラワークにしても、社員にお願いしているんです。働く場所や時間が自由になった結果、もっと生産性が上がる、そんな使い方をしてほしい。だから、「この日はオフィスに集まろう」と言っているのに、一人だけ在宅勤務というのでは困るわけです。そこは社員みな理解してくれていると思いますね。

会社が掲げる理想を社員が共有してこそ制度が機能する

どんな制度も、こうした理想を社員が共有して、理想を実現するための使い方をしてこそ、ワークするものだと思います。

制度はルールとも言い換えられます。ルールは必ず何かを実現するための手段です。たとえば「赤信号では止まりなさい」というルールは、交通事故のない社会という理想を実現するためのものです。その理想についてコンセンサスが取れていれば、ほんとはルールなんて無くてもうまくいくんです。でもルールがあると、もっとうまくいく。ルール、制度とはそういうものだと思います。

当社でも、ですから制度を運用する上で心がけていることといえば「グループウェアで世界一になる」「そのために生産性が向上するよう制度を活用してほしい」「どんな制度も目的は生産性の向上にある」と社員にくり返し語ることなんです。そこに共感しないのであれば会社から出ていってほしいと私は思っているし、そう発言している。ほかに細かく指導することはありません。それで十分、うまくいっている。逆にいえば、会社が目指しているものを社員が共有しない限り、どんな制度を導入しても、うまく機能しないのではないでしょうか。

国内シェアNo.1の中小企業向けグループウェア「サイボウズOffice」は、スケジュールや掲示板など組織内の情報共有に欠かせない機能をワンパッケージで提供する。
http://cybozu.co.jp

「どこでも働ける」時代に
オフィスには何が求められるか

これだけITが進歩すると、会社に出勤しなくても、どこにいても仕事ができるわけです。よく言われるように、これまでのようなオフィス、つまりリアルな空間の意味がなくなってきているのは確か。空間が必要になる作業もありますが、それをどうしたらバーチャルな空間に移せるのか考えることが、私たちのようなグループウェアを扱う会社の仕事でしょう。

人が顔を合わせて話をするときに生じる親密な空気、一見すると離れたところにいる者同士では無理のようですが、テレビ会議を利用すれば実現できるかもしれませんよね。実現できないのなら、どうすれば実現できるのか、そもそもどうして親密な空気が必要になのか、を考えたい。

リアルなオフィスを残すか否かは社員の判断に委ねたい

とはいえリアルな空間が好きな社員もいます。以前は私も、最終的にはオフィスがなくなってみんな好きなところで仕事をするのが理想だと思っていました。賃料の高いオフィスを借りるぐらいなら、そのお金を分配したほうが社員もうれしいんじゃないか、とか。でもやっぱり、同じ職場にみんなで集まることのうれしさがある。コンサートもテレビで観るより生で聴いたほうがいいというのと同じ感覚ですね。

結局は、リアルなオフィスも残っていくんだろうなと思っています。じゃあサイボウズはこれからどうするのかと問われると、私自身ははっきりとした意見はなくて。みんなが好きにやったらいいんです。オフィスにいたい人はいたらいいし、そうでない人は好きなところで働いたらよろしい。

私の考え方がおかしいなと思ったら、社員にはそう言ってほしい。さっきも言いましたが、欲しい制度があれば社員たちが自ら言い出さないといけない、というのがサイボウズの哲学ですから。

会社に残っている社員=頑張っている社員という思い込み

他社の働き方がどうなっているか、私にはよくわからないのですが、1つ言えるのは、残業文化はよくないですね。会社にいつまでも残っている社員=頑張っている社員という思い込みをはやく捨てないといけない。そうしないと、時間と場所が自由になる働き方も広がらないですし、ワークライフバランスも実現できません。

株式会社ワークライフバランスの代表をされている小室淑恵さんが主張していますが、一度残業をばっさり切ったら彼らの価値観も変わると思います。いかにダラダラ働いていたか、残業しない働き方にどんな価値があるか、わかるでしょうから。私自身、いまは育児をしているので、平日の仕事時間が相当減りました。だけども、それで生産性が下がったかというと、実はそうでもないんです。むしろ、昔よりいい社長になったと思いますよ。

残業が減らない原因については、僕は「おっさんが悪い」説を挙げています(笑)。若い世代は家庭を重んじますが、上の世代は家庭を顧みない人ほど出世しているので、なかなか「家庭が大切だ」という考え方にはならない。あと20年ぐらい経てば、彼らがみんな現役を退くので、放っておいても残業文化はなくなるでしょう。

その20年を前倒しにするとしたら、今年の流行語大賞の候補にも挙がっている「育G」ですね。つまりじいちゃん世代に育児をさせる。そうしたら彼らも気づくと思うんです、人間に大事なのはこれなのかと。彼らは人口ピラミッドを見ても数が多く、大きな影響力があります。彼らさえ変われば、完全に世論が逆転する。そうしたら、残業文化もなくなる。育Gには期待していますよ。

2012年12月10日、渋谷ヒカリエ8/COURTで行われた講演の様子。クラウドやSNSが一般的になった現代において、オフィスや働き方をどのように考えていくべきかを中心に語っていただいた。

WEB限定コンテンツ
(2012.11.9 飯田橋の同社オフィスにて取材)

青野慶久(あおの・よしひさ)

1971年愛媛県生まれ。大阪大学工学部卒業後、松下電工株式会社に入社。1993年、愛媛県松山市で高須賀宣氏、畑慎也氏とサイボウズ株式会社を設立、取締役副社長に就任。マーケティング担当としてWebグループウェアという新市場を開拓した。その後、新商品のプロダクトマネージャーなどを経て2005年より現職。

 

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