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異なるカルチャーを結合するオープンなプロセス

4地域の組織文化を統合した新しい学びの場

[博多小学校]福岡市, 福岡, 日本

  • 4地域の異なる文化を統合した学校をつくる
  • 当事者同士を積極的に交ぜる
  • 地域住民も巻き込んだオープンスクールを実現

組織や会社の統廃合は日常茶飯事となったが、異なる文化やルールを新しい組織に移し替えるのは並大抵のことではない。最近、都市の空洞化により学校統廃合の問題がよく話題にのぼるが、公立の小学校は地域との結びつきも強く、企業より問題は複雑だ。この高いハードルを越え、統合から10年経った博多小学校を訪れた。

同校が位置するのは、伝統的で大規模な祭りである博多祇園山笠や博多どんたくが行われる古くからの商人の町。自治の最小単位である4つの校区は、お互いにライバル意識、自治意識が強く、競い合うことで文化を築いてきた。そのため、統廃合に対する抵抗感は根強かった。しかし、この福岡都心部の少子高齢化は止まらず、小学校の統廃合も待ったなしとなっていた。

「ライバル意識が旺盛な4つの地域をぎりぎりのところでまとめたのは、”日本一の小学校をつくろう”という高いビジョンでした」。そう当時を振り返るのは、西祐治校長だ。日本一の小学校をつくるために、福岡市はプロポーザル・コンペ形式でアイデアを公募し、そこに応募した一人が建築家の工藤和美氏だった。新しい小学校に対する期待と課題に、学校建築の新たな可能性を感じた工藤氏は、「学校はまち、まちは学校」というコンセプトで、新たな小学校を提案する。学校を閉じた空間にせず、広く地域を巻き込もうというアイデアは、満場一致で採択され、工藤案をベースにプロジェクトが始動した。

プロセスをオープンにすることで互いの理解を得る

4校に関係する地域住民は、初めから同じ方向を向いていたわけではない。そこで、プロジェクトの進行にあたって強く意識したのが、プロセスをオープンにして事業計画と具現化プランを練っていくことだった。例えば、地域との協議の席では、新しい小学校ではどんなことが実現できるのかについて、先進事例をスライドで見せたり、50分の1スケール、畳2畳ほどの大きさの模型で説明していった。そして意見やアイデアを広く募り、ワークショップを開催することで、関わった人たちの当事者意識を高めていく。

結果、教師や生徒だけでなく、地域住民も当事者として、積極的に新しい小学校を支えるサポーターとなっていった。基本計画の段階から地域に情報を開示した効果は大きく、案が公開されるごとに計画は前進した。心配する前に、まずやってみようという空気が醸成され、誰も見たことのないような新しい学びの場が博多に誕生する。

行政、地域住民、教育委員会など多くのステークホルダーが存在する中、模型を使って具体的に議論を進めていった。

地域住民からは1700にも及ぶ意見が寄せられた。課題をまとめていくために付箋を使って整理していく。

寄せられた意見は、公開ミーティングの場で整理、さらに議論を重ねて実際のプランに落とし込んでいった。

実物大模型のシミュレーションには子どもたちにも参加してもらい、検証や修正を重ねた。

廊下と教室を隔てる壁がないため、自由なレイアウトが可能。複数の教師で子どもたちを見守ることができる。白いテーブルはフリースペース。テスト時間中などには、教師がここで作業をすることもある。

360°View

廊下と教室を隔てる壁がないため、自由なレイアウトが可能。複数の教師で子どもたちを見守ることができる。白いテーブルはフリースペース。テスト時間中などには、教師がここで作業をすることもある。

※画像をタップすると360°スライド表示が見られます

オープンスクールを採用し、
教師や生徒の発想を広げていく

学校のプランニングに際し、工藤氏が取り入れたのが、「オープンスクール」という考え方だった。日本の多くの校舎は、国による標準設計書に準じて、北側に廊下があり南側に教室が並ぶという画一的な設計になっている。これに対しオープンスクールは、教室の境界である壁をなくして学級の枠を越えた多様な学びの場を提供できる。建築の面では、敷地面積を大きくとることができない博多小学校にとって、最高の環境をつくるための切り札となる発想でもある。

しかしオープンスクールという言葉を聞いて、その具体的な姿を把握できる保護者や地域の人はほぼ皆無だ。実際にどんな学びの場ができるのか、子どもや地域の人々を巻き込みながらシミュレーションし、議論しながらプランを固めていくプロセスを経ていった。

頭で考えているだけでは、規則や慣習を超えられない。実際にやってみることで、想像以上に子どもたちの自由さ、自主性が発揮され、当初の心配は払拭された。「オープンスクールでは、子ども自身が参加して、チームで授業をしているという感覚になるので、子どもはその場の雰囲気に入れこみやすいのではないでしょうか。机の配置も、発表を見るときには発表者を取り囲むコの字型になり、テストを受けるときは周りと干渉しにくい配置になる。子どもたちは設計者の予想を超えて自由に動いています」と工藤氏。

教師の意識も変わり、マネジメントも見える化

現場教師の意識も変わっていく。「赴任当初は、隣のクラスに聞こえるので、教師が話す声を調整しなければならないなど、オープンスクールという従来と異なる環境に若干の戸惑いはありました。しかし、今ではオープンスクールという空間を上手く使ってやろう、という意欲が湧いています」と話すのは、赴任1年目ながら教師歴30年という博多小学校教諭の高村泰子氏だ。また”マネジメントの見える化”、つまり教師同士の指導方針がオープンにされることで、適度な緊張感を生み出し、さらには異なる指導方針を融合させるなど様々な相乗効果が発揮される形となった。そして校舎完成後以来、教師たちが考案したオープンスペース活用術は、博多小学校に新しく赴任する教師に綿々と受け継がれているという。

「立って授業を受ける子ども、座って授業を受ける子どもが共存するスタイルが、すでに北欧を中心に一般的になり、私もカウンター式ラーニングスペースを取り入れた学校の設計を手掛けています。子どもは本能で自分がいちばん気持ちのいい場所を選びます。スタイルも様々、動き方も様々というラーニングスタイルの考え方はオフィスでもきっと応用できるはず」と工藤氏は語る。

オープンスクールによって得られたもう一つのメリットは、クラスや学年を問わず教師全員で生徒たちを見守れること。「教員スペースにも壁がなく、廊下のはじからはじまで見通せる構造となっています。そのため多くの目で生徒たちの面倒を見ることができるのです」と西祐治校長。さらに休み時間などでは上級生が下級生らの手を引いて遊ぶ姿も目立つ。

子どもたちは狭いところが大好き。自由学習時間ともなれば「アルコープ」は生徒たちでいっぱいになる。

図書館とコンピューター室を融合することで大きな面積を確保できたメディアセンター。子どもにとって人気の高い場所である。

地域文化の担い手を育む、
外に開かれた施設づくり

博多小学校の1階から2階に広がる「表現の舞台」はステージと階段型の客席を持ったユニークな空間だ。子どもたちが様々な表現の実習を行うだけでなく、地域住民が、祭りの練習などでも利用する。地域文化に子どもたちがいつの間にか親しめる仕掛けだ。学校外からもよく見えるこのスペースは、外部にも開かれた博多小学校のシンボルとも言える施設だ。

博多小学校は公民館や幼稚園と言った市の施設が乗り入れる形となっている。そういった面からも様々な形で地域住民と交流が進んでいる。現在の博多小学校を語る上で欠くことができないのが、地域住民らステークホルダーの存在だと西祐治校長は語る。

「博多小学校は、山笠やどんたくなど、地域の伝統行事を児童に受け継ぐ役目を担っており、休日に教師が駆り出されるシーズンもありますが、こちらが地域活動に積極的に参加することで住民の支援や理解を多く得ることができました」。

ステークホルダーを呼び込み、壁のない校風をつくりあげる

ほかにも在校児童の親兄弟に関係なく、地域の重鎮を中心としたメンバーによって、学校運営を話し合う場「サポーター会議」が定期的に開催されている。そこでは現状の課題について話し合い、第三者的な評価を加え、今後自分たちでどのようなサポートを行うのかが議論される。

さらには地域の住民や文化人の有志がゲストティーチャーとなって、児童に山笠や日本舞踊、茶道や囲碁将棋などのクラブ活動を指導することもある。土日は表現の舞台をはじめ、被服室や理科室、声楽室などが地域解放されるが、これもステークホルダーのボランティアが運営を担当している。

文化や伝統を教わることで生徒たちの視野は広がり、同時に第三者と接点を持つことで社会性も備わってゆく。困難な統廃合をオープンなプロセスのもと実現したステークホルダーたちは、新しいカルチャーを支える重要なサポーターとなったと言える。

使い手を刺激する環境と、その環境が生み出した新しい教育のありよう。こうして生まれた新しい小学校は、話題となり、校舎完成後10年経った今も、教育や建築の関係者などが、ひっきりなしに訪れる。統合前は482名(平成9年度)だった生徒数も、現在では620名(平成20年度)にまで伸びている。新しい学校建設と言えば名前の挙がる有数の場だ。日本一の学校になるというコンセプトは見事に実現したと言えよう。

WORKIGHT創刊準備号(2010.11)より

博多小学校の敷地内には公民館や幼稚園が併設されている。すべての施設をつなぐデッキは、子どもや学校関係者、地域住民が交流する空間でもある。

教室と教室の間には教師向けのワークスペース。病院のナースステーションをヒントにつくられた。教師同士のコミュニケーションの場としても活用されている。

「博多どんたく」の練習風景。地域の伝統行事の練習場所としても活用されることも多く、地域文化継承の拠点にもなっている。

西祐治(にし・ゆうじ)

福岡市立博多小学校校長。福岡教育大学卒業後、1981年より福岡市立堤小学校へ赴任。2004年より教頭として西高宮小学校へ。2009年より福岡市立北崎小学校へ校長として赴任。2010年より現職。

工藤和美(くどう・かずみ)

建築家。東洋大学教授。福岡市出身。横浜国立大学建築学科卒業。東京大学大学院博士課程修了。1986年に現シーラカンスK&Hを設立。建設業協会賞、日本建築学会賞、福岡市博多小学校で文部科学大臣奨励賞を受賞。著書に『学校を変えよう―再賛嘆の学校建築・教育現場を探せ!!』(エクスナレッジムック)などがある。

 

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