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異業種が共生する「アトリエ」でクリエイティブを刺激しあう

デジタルをコアにCMからゲームアプリまで担う制作会社

[Acne Production]Gamla stan, Stockholm, Sweden

  • エッジの効いた制作力を持つ
  • 異業種が一つ屋根のアトリエで切磋琢磨する
  • 他社と一線を画すプロダクツが生まれる

ストックホルムの旧市街(ガムラ・スタン)にあるアクネ・プロダクションのオフィスは、歴史的な建造物を改装したものだ。趣のある落ち着いた空間に、アクネ・グループの各社が同居している。元銀行だった重厚なエントランスを抜けると、1階部分はファッションを扱う中核会社のアクネが、映像とウエブを扱うアクネ・プロダクションは4階部分に入っている。

もともとアクネ・グループは、イラストレーターとファッションデザイナー、そして2人の広告マン(うち1人はディレクター)という4人の創業者 が、「一緒に組むと面白そうだからやってみよう」という感覚でスタートした業態。気軽なコラボレーションの精神がそのまま社風になっている。

ゆるやかな連携・共生が基本コンセプト

建物内は、全体に照明を抑えめにしてあり、複数の会社が入っているオフィスというより、古い建物内に芸術家のアトリエがいくつも入っているイメージだ。建物内には小さな部屋がたくさんあり、木の質感を生かした上品なインテリアが置かれている。

グループ内のコラボレーションは、アイデアレベルでの意見交換や、場を共有する中での刺激・創発を目指したもので、実際にビジネスを一緒に行うことは少ないという。ゆるやかな連携・共生が基本コンセプトとなっている。

アクネ・プロダクションの主な業務はCM製作だ。ホンダ、ボルボ、イケア、サーブ、H&Mなど、スウェーデンを代表する企業のCMを手がけている。一般的な30~45秒のテレビCMのほか、ウエブを使ったキャンペーンの動画なども作る。クリエイティブのスタイルは、遊び心を持ち、アナログなタッチを加えること。クライアントワークだけでなく、最近ではゲームを多く手がけている。3DのiPhoneアプリもリリースするなど、プロダクトの幅を積極的に広げている。

ジーンズやジャケットで有名なアパレル。広告制作を行うエージェンシー。ウェブ・映像制作のクリエイティブ・プロダクション。アクネ・グループは、まったく異なる3つの事業で構成されている。もともと異業種の4人が立ち上げた会社であるため「いろいろやってみよう」というのが社風。現在は独立採算制をとっているが、常にお互いに刺激を与えあって成長している。元銀行を改装した同社のオフィスエントランス。分野の異なる3社が集まるクリエイティブの館だ。
開業:1996年
売上高:非公開
純利益:非公開
従業員数:非公開
http://www.acneproduction.com/

  • 広告エージェンシー部門アクネ・アドバタイジングのオフィス。

  • ストックホルムの旧市街にあるオフィス。同社の革新的なデザインやサービスは、この情緒ある歴史的建物のなかで生まれている。

  • ウェブ・映像制作を行うアクネ・プロダクションのオフィス。独立した部屋が多く、工房のような雰囲気になっている。

バックグラウンドの違う社員同士
躊躇せずにお互いの意見を話す

最新のIT技術を駆使したビジネスを展開する一方で、アクネ・プロダクションの社内でのコミュニケーションスタイルは、人間的でアナログ感覚だ。社内SNSやイントラネットは使わず、フェイス・トゥ・フェイスのやりとりが中心。週1、月1のペースでミーティングがあり、毎月1回金曜日の飲み会もある。

対面重視の姿勢はむしろ「伝統的」にさえ映る。これは社員が80名ほどの組織であること、全員が同じフロアにいて頻繁に顔を合わせること、という理由だけではない。コクリエイション(協創)を推進するクリエイティブ立国・スウェーデンならではの創造と効率を両立させるスタイルだ。週2本のペースでCMを作るスピード感が同社の強みだ。チームやプロジェクトごとにデジタルツールでの情報共有も行うが、ツールとしてソフトウエアを使っているに過ぎない。

共感が増えると自然に周りを巻き込んでプロジェクトに発展

小部屋に分かれたデスクスペースは、部門別ではなく、静かなところが好きな人はここを選ぶ、といった具合に各自が選択しているうちに、自然に決まったもの。プロデューサーやディレクターの席も同様で、いわゆる上下関係による管理は行っていない。

個の尊重と共に皆で一つのものを創りあげる意識が強く、社員は、自分の意見を述べることに躊躇しない。ディスカッションに関わる人が増えすぎて、アイデアがまとまらないこともしばしばだが、それも、ファッション、広告、ウエブ、映画、おもちゃなど、様々な経験を積んだ人が集まっている豊かさから来るものだと考えている。誰かが「芝居を作りたい」と提案したら、全員で「じゃあ、やってみよう」というノリの良さもある。

会社として、どんな企画にもお金を出すというわけではないが、話し合いの中で共感が増えていけば、必ず自然に周りを巻き込んでプロジェクトに発展するのだ。

WORKSIGHT 02(2012.6)より

壁にはたくさんの写真や絵画。社員はそれぞれお気に入りの場所を見つけて仕事をしている。

3社共通のキッチンでは、気軽な立ち話でアイデアが交換されることも。

 

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