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新領域での更なる成長のために
自社のカルチャーを再共有する

グローバルでコンテンツビジネスを展開

[Rovio Entertainment]Espoo, Finland

  • 持続的な成長のためゲーム以外のマーケットを探る
  • オープンで自由なカルチャーを共有できる場づくり
  • キャラクタービジネスや新しい課金制度のアイデアを得る

ヘルシンキ郊外にあるRovio Entertainment(以下、ロビオ)のオフィスには、同社の開発するモバイルゲーム「Angry Birds」のカラフルでポップな世界が広がっている。「モチーフは鳥の巣で、ゲームキャラクターの鳥をあちこちにデザインしました。社員はその中で暮らす鳥というコンセプトです」と、オフィスデザインマネジャーのヨハンナ・セパラ氏は明かす。

Angry Birdsの世界的ヒットに安住することなく、ロビオはぬいぐるみやTシャツなどのライセンスビジネス、出版、広告、映画などマルチメディアでビジネスを展開、持続的な成長の柱を着々と築いてきた。移転当初80人ほどだった社員は560人にまで膨らみ、フィンランドを代表するベンチャー企業に急成長している。

スピーディな事業拡大は、ともするとスタッフ間のコンセプトワークにズレをもたらし、制作するコンテンツのイメージや世界観を揺るがしかねない。そこでロビオは、オフィスデザインを内製化して統一した価値観を作り上げた。

「童心を忘れず、仕事は楽しくなければいけません。また、人間も鳥も自然界で生きているので自然も大切にしたい。ロビオではこうした発想を重視していますし、それをみんなで共有したいのです」(セパラ氏)

チームの自主性を活かすカスタマイズのオフィス

オフィスには執務スペースやミーティングルーム、キッチンの他、多くのメンバーで鑑賞できるシアタールームを完備。クツを脱いで歩けるようカーペット敷きのスペースも多い。社員の服装はいたってラフで、カジュアルで自然な雰囲気で働ける。こうした環境整備によって、スタッフの誰もがロビオのストーリーを理解し、価値観を共有できるようになった。

とはいえ、オフィスデザインは画一化されているわけではない。オフィスは四つのタワーからなるビルに分散している。1年半で社員が7倍に増えるという成長スピードにオフィスの確保が追いつかず、空いているフロアへ部署単位で入居しているからだ。セパラ氏はこの状態を逆手にとって、フロアごとにグリーンやイエローなどテーマカラーを取り入れ、雰囲気の差別化を図っている。

また、オフィスには各部門の好みも色濃く反映されている。セパラ氏の考えた基本デザインを元に、各チームが自分たちのテーマを考えて空間をカスタマイズしていくのである。

例えば、ゲームスタジオにはゲーム専用の部屋やビリヤードルーム、アニメーションスタジオには絵を描けるクリエイティブなスペース、書籍チームの部屋には大きな書斎がある。もともとアーティストやグラフィックのスタッフが多いことも功を奏し、カスタマイズの自由度を高めたことが各チームの満足度向上につながっている。社員が急増していることもあって、毎月のようにどこかで増床・移動・席替えをしている状態だという。

2009年に『Angry Birds』をリリースし、これが世界中で大ヒット。2011年、キャラクタービジネスを含めた多彩なエンターテインメント企業への脱皮を目指して社名を現在の「ロビオ・エンターテインメント」に変更した。

創業: 2003年
売上高: 7540万ユーロ(2011)
経常利益: 4800万ユーロ(2011)
従業員数: 560人(2013)
http://www.rovio.com/ja/

アニメーションスタジオ/ゲーム映像やオリジナルアニメ映画を制作している部門。

“Zen”ルーム/「禅」をモチーフにした畳敷きのミーティングルーム。仮眠をとるなどの使い方もある。

  • マーケティングや法務、PRチームのフロア。社内をキックボードで移動する人もいる。

  • 休憩エリア。家具は自然を意識したリサイクルの木材を使ったオーダーメイドが多いという。

  • シネマルームでは、ミーティングをしたり、終業後に映画上映会を行うこともあるという。

  • 出版部門のオフィス。黄色を基調としたフロアで、ゆったりとしたスペースの使い方をしている。

ベストセラーのゲームを軸に
マルチメディア展開

“巣”の快適さを追求する一方で、ラディカルなアイデアは外部の知見を貪欲に活用するのもロビオ流だ。アソシエイトプロデューサーのヴィサ・ユルハイネン氏は「まず必要なのはアイデアです。アイデアは誰もが生み出す能力を持っています。試す価値のあるものはどんどん採用しますよ」と語る。

社内のプログラマー、デザイナー、ユーザビリティ専門家などが部門を超えて協働しているのはもちろん、ME310(P11)というプログラムを通して国内外の大学や研究所とも連携、研究・開発を進めている。これには人手不足をカバーする狙いもある。

「クライアントなど外部の人も来社3日目にはネクタイを外します」とセパラ氏が笑うように、事業に関わる全ての人がオープンで自由なカルチャーを共有できるようになり、ビジネスにドライブがかかった。

ロビオ・ジャパン代表のアンティ・ソンニネン氏は、「ぬいぐるみのライセンスビジネスを始めたとき、他のゲーム会社からは開発に集中したほうがいいと忠告されました。でも私たちにはエンターテインメントを革新させたいという強い志があります。誰もやっていないことこそチャンスなのです」と語る。

見どころがあれば学生でも積極的に採用していく

当時、社内にライセンスビジネスやマーチャンダイジングの経験者はいなかったが、世界で一番早くこの分野の知識やノウハウを身につけようと、業界の人材を指導役として採用、社員は勉強に励んだ。もともとデザインシンキングに慣れた社員は多かったが、チャレンジを奨励する社風がその意欲をさらに引き出していったのである。

経験者だけでなく、見どころのある学生を積極的に採用して社内で育てていくことも多い。ビジネスを広げる機会が多い割に社内の人数が足りていないので、様々な機会をとらえて人材拡充に努めているのである。

「他の会社で1カ月くらいかかることも、ロビオなら1週間でできます。ここではすべてが速い」とセパラ氏は語る。こうしてロビオは他社に先駆けて勇気ある一歩を、社員が一丸となって踏み出していった。これが急成長の原動力となり、今やゲーム制作会社から多彩なコンテンツを企画・開発する総合エンターテインメント企業へと脱皮を遂げつつある。

ロビオのブランド力も格段にアップした。以前は接待をからめた提案型の営業が必要だったが、「今は外部から提案が入ってくるので、伝統的な営業をわざわざしなくても、どれかいいものを採用すればいい」(ソンニネン氏)。

結果として、キャラクタービジネスや新しい課金制度のアイデアを得やすくなった。それがさらに企業のブランド力強化につながっていく。部門を超え、会社の枠を超えたイノベーションが、ロビオのビジネスに良い循環をもたらしている。

WORKSIGHT 04(2013.6)より

ゲームスタジオ/フロアにはゲーム専用の部屋やビリヤード台などが置いてある。

書斎で働いている雰囲気が欲しかったため、同じフロアに大きな書斎を作った。休憩や簡単な打ち合わせに使うという。

Angry Birdsのキャラクターを使ったオリジナルグッズ。2013年2月には、本社1Fでグッズショップを開店した。

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