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若き技術者のライフスタイルを
熟知したコリビング

[Abaca]San Francisco, USA

アバカはサンフランシスコに根を下ろすコリビング。大部屋を複数人でシェアするタイプの集合住宅だ。キッチンやカフェ、ワークスペース、自転車整備ラボ、屋上など、リッチな共用スペースも売りの1つ。O+Aの担当は、その共用スペースと全体のブランディングである。「ビルの中を通り過ぎた時、人々に『ここに住みたい。私のライフスタイルに合うブランドだ』と感じてほしかったのです」(アバカを設立したAGIアバントのヘッセ・ヘルツォーク氏)

ヘルツォーク氏はアバカ以前にも住宅づくりでO+Aに依頼したことがある。結果は上々。更新時期に契約の継続を選ぶ住人の割合(リテンション・レート)が高く出た。それだけコミュニティに愛着を感じ「長く住みたい」と願う住人が多かったということだ。リテンション・レートが高い物件を手がけるプレーヤーと評価されれば、銀行融資も下りやすくなるという。

アバカも同様の成功を収めている。住人は20代半ばから40代半ばの若い技術者が想定されている。実際、テック系の企業に勤める住人が大半だ。ここは海沿いの活気あふれる再開発地域ドッグパッチ。シリコンバレーまで電車で30分という利便性も相まって、若いテック系人材を集めるには絶好のロケーションだ。


建物外観。ここサンフランシスコのドッグパッチはもともと海沿いの倉庫街。現在は再開発が進み、クリエイターや起業家たちが集まるヒップなエリアに。
※現在は「ウィンザー・アット・ドッグパッチ(Windsor at Dogpatch)」と名称を変更している

  • シェフを呼んでパーティを開催することができるスペース「The Galley」。設えは本物のレストランさながら。日常はワークスペースやハングアウトに利用される。

  • O+Aが手がけたのは建物の共用部分。ここは開放的なエントランス兼ワークラウンジ。来客対応や個人ワークの場として活用される。デザインは港をイメージした爽やかなもの。

  • 設備としては通常の郵便受けだが、壁面のインスタレーションと天井のシャンデリアが印象的。『ウォール・ストリート・ジャーナル』が「非常に美しい」と評したスペース。

  • エントランス・ロビーに隣接するジム。通常のジムならばジム器具の会社にデザインを依頼するところ、アバカのテイストにフィットするよう、O+Aにデザインを委ねた。ホテルのような洗面台が印象的。

  • 「16 Crowns」と呼ばれるバー。ここは伝統的に港湾労働者が多いエリアだが、現在はテックのパイオニアたちが次のフロンティアを探している。そんな物語を描いた。

  • ルーフバルコニー。クリエイティブ・ディストリクトとなっている近隣の倉庫街、サンフランシスコの海を一望できる。日差しの強い夏の日には、ここはピクニックやパーティの会場に変わる。

  • バーの一角、海を扱った書物にインスパイアされた壁面。ヘミングウェイ『老人と海』だけでなく、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』などのページを破り、壁紙として貼りつけてある。

船着き場としての歴史を持つエリアに
相応しいブランディング

しかしそれだけでは足りない。ヘルツォーク氏によれば、ビルを建てるには第一に素晴らしいレストランやバーがある地域であること。第二には、そのコミュニティの歴史を反映するような見た目であることが重要だという。

ここドッグパッチは船着き場としての歴史を持つエリア。港湾労働者の街なのだ。アバカの名からして船に使うマニラ麻製のロープから取られたもの。空間の中にも海や船のエッセンスをちりばめた。象徴的なのは「16 Crowns」と名づけられたバー。壁面にはモールス符号で『白鯨(ザ・ホワイト・ホエール)』と書き、アーネスト・ヘミングウェイ『老人と海』などの文章を貼りつけた。「O+Aの特別な点は、インテリアデザインをするだけではなく、ブランディングのコアな部分まで、じっくり引き出したこと。私たちのアイデンティティや、書体、名前などをつくることも手伝ってくれました」

残念ながら今のところ住宅スペースはO+Aによるものではない。「正直に言うと、人々がコモン・エリアを通るとデザインのクオリティの高さに心を奪われるのですが、実際に住戸のユニットに入ってみるとデザインは普通なので、がっかりするのです」。いずれは住宅部分もO+Aに依頼するのが理想だとは言いながら、共用スペースから着手できたことをヘルツォーク氏は「スムーズな第一歩」として評価している。「住宅の世界でこのビルは、マルチ・ファミリー・アパートメント・ビルディング・デザインと呼ばれています。たいていこの手のタイプはいつも同じデザイナーで、似通っていてつまらないと考えたのです」。O+Aがそこに新しい風を吹き込んでくれた、というわけだ。

「開発面でリスクを取るのはいつも不安です。もしレジデンシャルのデザインの経験がないデザイナーを雇えば、銀行は心配します。しかし共同エリアにフォーカスして着手すると、O+Aの経験と実力が奏功し、素晴らしい出だしとなりました。これは始まりなのです」

text: Yusuke Higashi
photo: Satoshi Minakawa

WORKSIGHT SPECIAL EDITION【Studio O+A】(2019.7)より

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